第六話 魔法! これぞファンタジーだ!
今回は少し長くなりすぎました……ちょっとバランスというものを知らない私……どうしてくれようか……。
MPも溜まってきたため、そろそろ魔法も使ってみようと思い、また南の森に向かう。
日はだいぶ傾き始めているが、まあ、まだ夕飯の時間にはなっていない。
あの謎の死亡事件の原因はわからないままだが、奥に行かなければ大丈夫だろう。
狙うはゴブリン。失った分のレベルも取り返さないとな。……やりたいこともあるし。
『グギャ!!』
「っと、早速ゴブリンソルジャーのお出ましか。しかも一匹と来たもんだ。幸先いいな」
この森に入ってからゴブリンしか見てないんだが、他のモンスターはいないのか?
「まずはこれで……『ストーンバレット』!」
『グゲゲ!!』
俺が迫り来るゴブリンソルジャーに右手を突き出し、魔法名を口に出すと、手のひら辺りで少しずつ石が構築され始め、野球ボールサイズになったところで前方に勢いよく発射された。
それはゴブリンの顔面に直撃し、ゴブリンを怯ませた。
「そらっ!」
『ギッ!!』
その隙に俺は走り出し、ゴブリンを真上から叩き切る。
……そういや、こんなグロいことしても吐き気とかないよな。
元から俺がそう言う性質だったのか……それとも精神が抑制されているのか……
どちらにしろゲームをやるのに不利になるわけじゃないし、どうでもいいか。
俺は今入手したアイテムを見る。お、魔石発見。今回は本当に運がいいな。
その後も魔法を使いながら数匹のゴブリンと戦った。
その結果、魔法は使えるということがわかった。
まず、石の弾丸を打ち出す『ストーンバレット』。威力は低いが、石だからか、頭などに当てると低確率で『スタン』という、行動を阻害する状態異常にできるし、状態異常にならなくても必ず怯んでくれる。速度は早く、どのゴブリンも反応はしたが避けることはできなかった。大きさも早さも数も変えられないらしい。レベルが上がれば変わるんだろうか?
そして、石の盾を生み出す『ストーンガード』だが、大きさは直径1メートルほどで、ゴブリンの攻撃くらいなら弾けた。
これはどうやら発動から10秒後に自然消滅するらしく、それより短くても自分の意志で消すことができるようだ、だが、発動したらその場から動かせないという欠点もある。
次に落とし穴を作る『サンドホール』だが……砂で蓋をするから、地面が土の森ではバレバレだ。その上から葉っぱなどをかぶせてようやくアホなゴブリンが引っかかってくれた。
その時は2メートルほど落ちて、もがいていた。しかも魔法で作った穴だから、表面には一切の凹凸がなく、登ってこれないようだ。
まあ、長所も短所も如実な魔法だが、使い様によっては強いだろう。例えば相手が踏み込む瞬間に発動するとか。
使いどころは間違えないようにするとしよう。貴重なMPだからな。
とりあえず土魔法レベルは2に上がった。……そのせいで新しい魔法も覚えたが、そんなのテストしてる余裕はない。
後は剣だけでゴブリンを屠って行くだけの簡単な作業だ。
「……お、もう暗くなってきたな。そろそろ夕飯の支度しないとな」
俺はフレンドリスト(プレイヤーを友人として登録するシステム)から姉妹を呼び出し(タタリはもう抜けていた)、ログアウトした。
「すまんみこし、遅くなった」
「あ、おかえり兄さん。皆夢中だね。僕もすっごく楽しかったよ」
「ああ、そうだな。俺も危うく時間を忘れるところだった」
「ふふ、別にまだやってて良かったのに。今日くらいは僕だけで作ってもいいんだよ?」
「いや、それはダメだろう。弟に家事任せてゲームとか、どんな嫌な兄貴だよ」
「あははっ」
他愛もない冗談を言い合いながら食材を捌いていく。……最早手元を見ずに魚を下ろせるようになった弟が怖い。
今日は鯖の味噌煮にするようだ。弟は作る前に全ての材料を出して置くタイプなので何を作るのかがすぐにわかる。なら、和風で揃えたほうがいいな。
俺は煮物とおひたしでも作りますかね。
「……来ないね」
「……来ないな」
料理ができて30分。予想は出来ていたが奴らが来ない。
「……先に食べちゃおうか」
「ああ、先に食べ「おぉ~、美味しそう!!」「あら、味噌煮? いいわね」……タイミングわりぃな相変わらず」
ようやく姉妹のご帰宅だ。
「次は遅れるなよ」
「はいはーい」
「わかってるわよ。今日は少し気を緩めすぎたみたい」
とにもかくにもようやく夕飯にありつけるわけだ。じゃぁ……
「「「「いただきます」」」」
うん、みこしの作ったご飯は最高に美味い。
「……続きと行こうかね」
夕飯を食べ終わり、俺はもう一度SWOにログインした。
今回はフィールドに出るのではなく、街を散策していた。
まだ始まったばかりなのにプレイヤーが露天を開いていたり、店を出したりしている。
多分店を持っているのはβテスターだった人たちだろう。
「おー、そこのあんちゃん、ウチの武器見てってーなー」
呼び止められたので振り向くと、初期の革鎧にショートソードを付けた、猫耳で狡猾そうな顔つきで黒髪短髪の女性が手を振っていた。
「なんや、失礼なこと言われた気ィすんやけど、まあええわ。剣もちゃんとあるで」
……まあ、新しい武器も欲しいと思っていたことだし、見るくらいならいいか。
「じゃあ、見せてもらおう。一番いい剣はどれだ?」
「やた。うーん、そうやねぇ……これなんてどうや? 東の草原レアモンスターのホーンラビットのドロップアイテム『角兎の角』で作った短剣や。他のフィールドはまだ不人気でな。なかなか素材が集まらんのや。一番強いのはこれやな。あ、あんちゃん短剣使えるか?」
「ああ、『剣術』は短剣も使えるようだ」
関西弁の女性が取り出したのは、片面を鋭く削って柄に嵌めただけのような15センチ程の角だった。
『角兎の短剣:攻撃+2 敏捷+1 耐久力100/100
角を削って作った簡単な短剣。それを持ったものは、まるでウサギになったかのように体が軽くなる』
「……これが一番強いのか?」
初期装備と比べるとそりゃ強いが、攻撃が1と敏捷が上がるくらいじゃないか?
「強いに決まってるやろ! なに、あんちゃんこのゲーム初めてなんか? あんなぁ、こんな序盤にステータスが二種類も上がる武器作れるプレイヤーなんてそうそうおらんで? これを制作したプレイヤーは凄い腕の持ち主や」
「へぇ、そうなのか。……ん? その言い方だと、製作者はあんたじゃないんだな」
「当たり前や。よう見てみぃ。こんな革鎧付けた……何より猫耳の美少女のどこが生産職やねん」
自分で美少女とか……いや、確かに獣人は生産向けじゃなかったな。
「これはウチのフレンドの作品や。ウチとコンビ組んでてな。ウチが素材集めて相方が素材で作る。そういう関係なんや。で、相方が制作に打ち込んでる間、ウチがこうしてアイテムを売ってるんよ」
へえ、そういう関係もあるのか。まあ、合理的だな。作るのは生産職にしかできないが、売るのは誰にでもできるようだし……。
「これが凄いものだってのはわかった。で、いくらだ?」
「13000Eや」
「高っ! 全然足りねえよ!」
「冗談や。1300Eでええで」
「10倍も吹っかけたのか……まあ、それなら買えるな」
1500E持っていたので、即払う。
「ありゃ、もうそんなに持ってるんかいな。このゲーム、始まりの街では全然稼げないことで有名なんやけどな……」
「そうなのか?」
「そうや。一番難易度が高い南の森でもゴブリン一匹で30Eしか稼げんのに。まー、次の街にでも行けばもっと楽に稼げるんやけどな~」
……そういやあそこって最高難易度なんだったな。普通にソロ狩りしてた……。
「元々集団で襲ってくるのが面倒な上、人型やから攻撃するん躊躇う人が多くてなぁ、さらに耐久もそこそこあるから何度も斬らんと死なんから、大抵の人はあの森避けるんよ」
ああ、そう言う意味でも面倒なのか。……あれ、じゃあウチの奴らって結構アグレッシブなんじゃ……。
「まあ、ええわ。金払いのいい客は嫌いやあらへんで。まいどおおきに~。あ、この際やからフレンド登録しいひん? なんなら相方に頼んでオーダーメイドもやったるで」
ほう、確かに生産者と関係を持っておくのはいいかもな。
「ああ、わかった。俺は遊羽だ。よろしく」
「ウチはカシマや。よろしくな。あ、相方はポプラって言うんや。街であったらよろしくしてやってや」
そう言い握手を交わして、俺は短剣を受け取った。……さて、また狩りに行くか。
「……あ、防具も売っとけば良かったかなぁ。自慢の逸品やのに……失敗したわぁ」
「…………」
ザシュッ、ザシュッ……
「……………………」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ……
「……………………………………」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ…………
……ゲシュタルト崩壊を起こしそうだからここらでやめるか。
さて、無言でゴブリンを切り捨てまくったはいいが、中々レベルが上がらない。
まさか同じモンスターを倒し続けると経験値が入りづらいのか? いやいや、すべてのゴブリンは違う種類の扱いのはずだ。……まさかここだけ例外とか? いやまさか。
俺はステータスを見た。
名前
遊羽Lv14
状態
不運(10:07)
性別
種族
偽人族
職業 メイン:遊人Lv4
サブ:職人Lv1
所持金:470E
ステータス
HP:140/140
MP:332
SP:65/65
攻撃:52(+2)
防御:43(+5)
知力:40
精神:40
敏捷:50(+2)
器用:36
運:6(÷2)
SB残り:40
装備
頭:『バンダナ:防御+1』
胴:『ボロ皮の鎧:防御+1』
腕 右:『ただのミサンガ:防御+1』
左:『ただのミサンガ:防御+1』
腰:『麻のズボン:防御+1』
靴:『ボロの靴:敏捷+1』
武器 右:『角兎の短剣:攻撃+2 敏捷+1』
左:なし
ギフトスキル
『衰えぬ体』
スキル
『武器:剣術Lv17』『魔法:土属性Lv2』『錬金Lv1』『調律Lv1』『賭博Lv8』『ステップLv8』『全能力上昇Lv1』
称号
《駆け出し冒険者》《唯一存在》《禁忌の体》
……なんかなってる。
『不運:運半減、ドロップアイテム入手数低下、獲得経験値6割減』
…………え、なにこれ。
えーと、この横の数字は、時間か? 秒毎に減ってる。つまり、後10分はこの状態ってことだよな。一体何が原因で……あ。
『賭博:運を中上昇させる。たまに不運の状態異常になる』
こ・れ・か! つまりあれだな。何かの条件でこれが発動したって事だよな。あー、面倒だな。これからもこの状態異常になることがあるってことだよなぁ……。
まあ、いいや。経験値が貰えないってわけじゃないんだし、やっちまうか。
「あと十分、ペース上げてくぞ!!」
~10分後~
レベルが3上がりました。魔石を9つ手に入れました。……技能石? というものを手に入れました。…………なんか称号が増えました。て、不運でレアドロップとかすごいな俺……。
名前
遊羽Lv17
状態
性別
種族
偽人族
職業 メイン:遊人Lv4
サブ:職人Lv1
所持金:1203E
ステータス
HP:140/140
MP:524
SP:65/65
攻撃:51(+1)
防御:43(+5)
知力:40
精神:40
敏捷:49(+1)
器用:36
運:12
SB残り:70
装備
頭:『バンダナ:防御+1』
胴:『ボロ皮の鎧:防御+1』
腕 右:『ただのミサンガ:防御+1』
左:『ただのミサンガ:防御+1』
腰:『麻のズボン:防御+1』
靴:『ボロの靴:敏捷+1』
武器 右:『ショートソード(粗悪品):攻撃+1』
左:なし
ギフトスキル
『衰えぬ体』
スキル
『武器:剣術Lv19』『魔法:土属性Lv2』『錬金Lv1』『調律Lv1』『賭博Lv10』『ステップLv10』『全能力上昇Lv1』
称号
《駆け出し冒険者》《唯一存在》《禁忌の体》NEW《理解不能な運命》
『不幸の中の悪運:不運状態の時に10個以上レアドロップを出した者に与えられる称号。運を下げられなくする。レベルアップ時に運が1上昇する』
なんか、リアルラックとか言われたんだが……まあその通りだな。っていうか10分でよくここまで出来たな俺。今更ながらどうやったんだ……。
「ま、今は治ってるからいいとして……これでも経験値とドロップ数は変えられないのか……まあ、運が下がらないだけましだな」
なんで運の数値と別にアイテムに対する効果があるんだと思うが、まあ、そこはいいだろう。
今は……魔石ともう一つのレアドロップ……技能石だな。
『技能石:スキルを一つ習得する。※習得可能スキルは、プレイヤーの行動によって変わります。また、ドロップしたモンスターの習得可能スキルも習得できます』
これがスキルを覚える方法の一つ、技能石か。
これは確か、一種類のモンスターにつき一つしかドロップされず、さらにそのドロップ確率は0.1パーセント。1000匹に1個の確率だ。まあ、モンスターの数だけスキルを覚えられると言えば簡単だが、入手率が低く、このゲームではスキルを増やすのも一苦労だとか。
他には珍しいイベントでスキルの記された巻物が入手できるかもというのと、ボスと呼ばれるフィールドで一番強いモンスターを倒すと必ず1つだけ技能石が貰えるというのと、限りなく低い確率で自力で発現できるのと……まあ、スキルを増やす方法は多々あるが、楽なものはあまりない。例え楽なものでも、貰えるスキルはそれなりだ。
まあ、確かにゴブリンばかり倒しすぎた節はあるな、これなら出ても不思議は……うん、きっとないはず。
「とりあえず新しいスキルを覚えるか」
スキルを装備できる上限は10。なら最初から10個寄越せと言いたいが、今はもういい。
しかし、何を覚えるか。
「悩むな……」
結局思いつかないまま、この世界でも1日目が終わった。
次が出るのはもう少し後になってしまうかもしれません。