第二話 ついに始まる! これがセブンスワールドだ!
最強主人公が好きな人ってどれくらいいるんでしょうかね?
夏休み、それは――。
「もうそのくだりいいよ! お昼作るから手伝って!」
「あぁ~、みこし~」
仕方ない。行くか。
「うん、今日もみこしの飯は美味いな!」
「兄さんが手伝ってくれたからだよ。僕なんてまだまだ」
「いやいや、流石は私の賢弟だ」
「うまうま……」
やはり夏はそうめんに限る。っておいさい姉、みこしはお前のじゃないぞ。
「ん、そういや今日だよな。サービス開始」
「ん~? うん。12時だからあと30分だね~」
SWO発売から一週間後の土曜日。夏休みに入り、全員がフリーでこの日を迎えた。
このゲームのスタッフもそれを見越してサービス開始を発売日ではなく今日にしたんだろう。
「ごちそうさま。じゃあそろそろ準備してくるね~」
「私も行くわ」
「あ、僕は洗い物してから行くよ」
「俺も手伝うぞ」
全く、なぜこうもうちの男女は反転してるのやら。
「あはは、仕方ないよ。姉さんは家事ができないし、まつりにやらせたら細かいところとか誤魔化しそうで怖いし」
「ははは。わかる気がする」
「これはもう僕の仕事みたいなものだからね。父さんと母さんが帰るまでは頑張らないと」
「ああ、今はどこにいるのかね」
空から見てる両親(死んでない死んでない。職業がパイロットとキャビンアテンダントなだけだ)が家に帰ってくることはほとんどない。帰ってきたとしても数時間だけだ。でも、俺達を蔑ろにしているわけではなく、暇を無理やり作ってちゃんと帰ってきてくれるので、そこまで苦でもない。
「よし、片付いたし、そろそろ行くか」
半分押し付けられたようなものだが、まあ、兄弟に遅れを取らないくらいには……。
「うん。えへへ、兄さんとゲームなんて久しぶりだなぁ。楽しみだよ」
みこしのこんな顔が見れるのだから全力でトッププレイヤーを目指してもいいかな。
さて、場所は変わって俺の自室。ポスターもフィギュアも何も無い質素な部屋だが、見るところ見れば名の知れた有名な漫画や大人気ゲームとかが所々に積み上げられている。
とりあえず普通の部屋と説明すれば通るだろう。
そんな俺の部屋のベッドの上、俺はSWOを起動するのに必要不可欠なゲーム本体であるヴァーチャルチェンジャー、通称ヴァーチェと呼ばれるバイザー付きのヘッドホンを装着する。上下に動くバイザーを俺の目の位置に調整し、固定したらあとはスイッチを押すだけだ。
俺は仰向けになり、右耳に付いているスイッチをオンにし、目を閉じた。
『セブンス・ワールド・オンラインにようこそ! こちらでは、あなたの操作するアバターを作成してもらいます! まずはあなたの名前を教えて下さい!』
可愛らしく、機械的な少女の声を聞き、俺は目を開ける。
視界に広がっていたのは……白い壁。
「……あれ?」
右見る、左見る、振り返る……全部壁。
「あっれ~?」
これは、ゲームはまだ始まっていないのか? そう思いながらも、ふと視線を落とすと、俺の胸辺りの位置にA4サイズ程の、水色の透き通ったガラス板のような何か。
その中心に白いバーがあり、その上には『名前を教えて下さい』の文字。
……ああ、ここに名前を打ち込めばいいのか。
俺は白いバーにタッチし、出てきたキーボードのようなものを観察する。かな、カナ、ABC……日本語でいいか。あ、漢字もあるのか。名前は普通に『戯』でいいかな?
……何か「ひねりがない!」って理不尽な怒りを受けそうだ。もっと真剣に考えるか。
戯……戯れる……猫じゃらし……猫……ぬこ……可愛い。あれ? なんでこうなった?
もう一度思考を戻そう。
戯……遊び……「ゆう」でいい気がしてきた。
しかし、まだ足りないとか言われそうなので、漢字で遊羽にでもしておこう。変換で何かよさそうなこれが出たし。
んじゃ、名前は決定と。
『種族を選んで下さい!』
今度はバーが消え、ガラス板に人型のモデルグラフィックが映った。スライドで見る種族を変えられるらしい。
最初は普通の人だ。基本種族なのだろう。
『普人族。セブンスワールドでモンスターを除き最も数の多い種族。平均的な能力を持ち、あらゆる適性を持つ。しかし、平均的過ぎて、大体は器用貧乏になりやすいため、上級者向けとなる』
一番扱いやすいだろうと踏んでいたら、まさかの上級者向けか。他のも見てジックリ決めた方がよさそうだな。
『森人族。森の中に里を築き、他の種族とはあまり関わらない閉鎖的な暮らしをしている。自然と生きているため、木属性の適性や精霊との親和性が高く、狩りの種族でもあるので弓の扱いに心得がある。総じて魔力も高く、森人族の殆どは魔法が使える。その代わり、近接攻撃は一切必要ない才能が仇となり、身体能力はかなり低い』
『土人族。山に炭鉱を掘りそこで生活をしている閉鎖的な種族。掘った鉱石は鍛冶に使用しているため採掘や鍛冶ができ、火に強い。そして、酒を作るのに農作も嗜んでいるので、作物生産にも向いており、土属性に適性がある。力も強く、戦闘もこなすが、戦闘用魔法は使えない』
『獣人族。獣の血が混じった人。動物の特性を持つため、身体能力はかなり高く、感知に関しても他の種族とは群を抜いた能力を持つ。種族の中でも何種類かに分類され、それぞれ別の特徴を持つ。戦士職には高い適性を持つが、魔法の才能は一切なく、生産も不向きである』
『妖精族。森人族同様森の住人。普段は隠れて生活していて滅多に人前に姿を現さない。補助や回復魔法が得意。その代わり自ら攻撃するのは不得手で、とても非力。手先は器用。魔法生産(例:錬金術、魔道具技師)が行える数少ない種族』
『偽人族。魔法により生み出された人造の人。人と同じ構造をしているが、自力で魔力を生成できず、モンスターから取れる魔石をエネルギーとしている。魔石がないと魔法は使えないが、身体能力は高く、魔法生物なだけあり魔法職の適性も高い。そして、生産に関しても問題はなく、魔法生産(例:錬金術、魔道具技師)が行える数少ない種族』
『小人族。見た目は普人族と同じだが、成人でも普人族の子供程のサイズしかない小さな人。とても手先が器用で、彫金や織物等の細かい生産や、盗賊などの盗む技術に長けている。動きはとても素早いが、非力。魔法は並』
『魔人族。魔界大陸より来る住人。身体能力も魔力も普人族と比べてかなり高いが、その真価が発揮されるのは太陽の無い闇の内であり、その時間帯以外では大幅に弱体化される。光属性に弱く、闇属性に属する魔法しか使えない。生産はからっきし』
他にもたくさんいるが、全部見切れる気はないからこの中で選ぼう。
「とは言え、ほとんどが一点特化だな。俺の求めるオールマイティタイプは『普人族』『偽人族』『魔人族』……魔人族は生産がダメだったな。あ、そういや生産系って誰もいねえじゃん。戦闘のバランスは良くても、こっちが手薄じゃぁな……」
武士も「刀は魂」と言っているからして、装備の手入れも大事なことだろう。
「あいつらはそんなの視野に入れてもいないだろうし、となると魔人族はパスか」
残りは二つか。
「だが普人族は上級者向けらしいし……偽人族か。魔石ってのは何だ? ……ん? 詳しく読めるのか」
俺は偽人族のグラフィックにタッチしてみる。
『この種族は常時MPを消費し、MPが0になると一切の行動が不能になります。なお、MPの自然回復、MP回復薬による回復は不可能であり、『魔石』というモンスターがドロップするアイテムを消費するか、魔法職の冒険者による魔力譲歩でMPを得られます。一番質の悪い魔石で約30分分のMPを得ることができます。魔法を使う場合も、これと同じMPを使わなければなりません。そして、偽人族にはMPの上限がなく、魔石を消費すればするほどたくさんのMPを得られます』
……なるほどねぇ、コストパフォーマンスは悪いがその分強力な力を持っていると……。
普人族よりは使い勝手はよさそうだな。
「魔石に関しては戦闘すれば問題なさそうだし、これにしとくか」
こういうのは思い切らないと結局決まらないままになりそうだしな。えい、とこれを選択した。
『偽人族に決めますか?』
「はい」
『外見を決めてください!』
そして出てきたのは、頬と腕に機械チックな割れ目? のようなものの付いた人の形をしたグラフィック。これに手を加えろということらしい。
「このヒビ割れは取れないのか。まあ、人造人間らしいといえばらしいが……」
なんかフランケンシュタインみたいだ。いや、あれは縫い目だったか?
そんなことはどうでもいい。とりあえず、体型は今の俺と同じでいいだろう。特にコンプレックスがある訳でもなし……目の色に髪色? 黒でいいよ黒で。
外見はほぼ悩むことなく決め終えた。
『では、職業を決めて下さい!』
職業か……メインとサブの二つ持てるんだったよな。生産をサブに入れたいが……どうするか。これは途中で変えることができないんだったよな。迷う。
『戦士』
『魔法使い』
『職人』
『遊人』
最初は枠毎に一種類ずつしかないんだな。で、ここから新しい職業になっていくと。
ん? 遊人ってなんだ?
『遊人:全ステータスに補正微。全ての武器、防具を装備可能』
なるほど、どこにも当てはまらない『その他』ってやつか。しかし、効果を見ると当てはまらないってより、全てに当てはまるって言った方が正しいような気がするな。
「迷うな」
まず、戦うには戦士は必須か? あと、生産もしたいからな。この二つで…………遊人か……。
名前的に取らないといけない気がするな。名前的に。それに、俺はオールマイティを目指すんだろ? だったら、剣も魔法も両立できる遊人は好都合じゃないか? それと職人を取れば……うむむ……。
『初期スキルを7つ選んで下さい!』
次はスキルか。これもゲームの中で増やせるのだろうが、結構めんどくさいと聞くからな。真剣に選ぼう。
ん? 職業? メイン『遊人』サブ『職人』にしたよ? ……今更ながら何故逆にしなかったのかと後悔しているが、後戻りできない設定らしい。不親切な。
「さて、そんなことは置いといて、そうだな。パッシブとかアクティブとか言ってたっけ? それをバランスよくすればいいんだよな」
なるべく種族や職業に合った物を選びたいところだ。となると……。
『武器:剣術Lv1』『魔法:土属性Lv1』『錬金Lv1』『調律Lv1』『賭博Lv1』『ステップLv1』『全能力上昇Lv1』
『剣術:剣系の装備可能武器を装備中、剣用アーツを使用できる』
『土属性:魔法が使用可能な場合、土属性魔法が使用できる』
『錬金:素材を消費してアイテムが作れる』
『調律:楽器が使用可能になる。演奏に効果を付与』
『賭博:運を中上昇させる。たまに不運の状態異常になる』
『ステップ:足運びを上手くする。回避性能補正』
『全能力上昇;全ステータス補正微』
この7つにした。武器と魔法はこのスキルがないと使えないからな。ちなみにアーツというのは技だな。剣の基本アーツは『スラッシュ』とか言ったか。そのままの技名だな。
魔法を土属性にしたのは、魔法は主力としてではなく、防御や相手の阻害に使いたかったからだ。
『錬金』は、偽人族の特徴を活かせるスキルとして。
『調律』、『賭博』に関しては完全に遊人用のネタだ。
で、『ステップ』は必ず必要と言われたスキルで、『ジャンプ』と迷ったがジャンプのスキルは売っている(スキルは売っているものらしい)ため、こっちにした。
『全能力上昇』は、一個ぐらいは体スキルを入れろと言われていたため入れてみた。
さて、これで全部終わったかな。
俺は見落としがないことを確認し、決定ボタンを押した。
『これでよろしいですか? 偽人族のため、初期MPは三時間分とします』
もう一度はい。
『改めまして、セブンス・ワールド・オンラインにようこそ! 遊羽 様。これよりあなたは第一大陸の神であるセブルナ様から加護を貰い、冒険者としてこの世界に送り届けられるでしょう。あなたに加護あらん事を……』
加護……? ああ、そういやギフトとかいうのが貰えたんだよな。ハズレは嫌だぞ……ハズレは……。
そう祈ってるうちに視界は変わり、狭い部屋から青空が広がった。床は雲のようだ。
『我が名はセブルナ。汝に加護を与えよう』
大人びた女性の声が響き、どこからか現れた手の平サイズの白い光が俺の胸に入り込む。
『汝の目指す先は、栄光か破滅か……』
俺の視界は歪み、真っ暗になった。
主人公は人外ですね。