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短編

雪の少女

作者: RK

http://ncode.syosetu.com/n0313bo/の続きみたいなものです。

 雪が降る。

 絶え間なく振り続ける結晶は大地を白く染め続けている。

 曇りないのない無垢な雪原を踏みしめる者がいた。

 それは暖かそうな外套に身を包んだ少年だった。

「なぜだろう?この景色を見て懐かしく感じる…」

 周りを見回しても雪だけだ。変わり映えのしない景色は雪が降る場所ならばどこでも見られる。

 なのに、僕はこの景色を懐かしく思っていた。

 解き折り僕の頭には歌が響く。その歌は何処か悲しそうで、そして愛おしく感じた。

 歩き続けると村があった。

 流石にこれ以上歩き続けるのは無理そうだったので宿を取ることにした。

 村に一軒しかな宿に入ると店主がカウンター越しに声を掛けてきた。

「ん?みない顔だ。あんたこの時期にこの村に来たのかい?」

「はい」

「こりゃあ驚いた。こんな時期にこの村に来てもなんにもありゃしないじゃないか。辺り一面雪で覆われてるからね」

 そのとおりだと思った。だが、それを言うのも憚られたので曖昧に笑って誤魔化しておく。

「はは!大丈夫だよ。そんなことで気を悪くするようなタマじゃないからね!それよりも、何か理由があんのかい?こんな辺鄙なところに来るなんてよっぽどのことだろ?あ、自殺はやめてくれよな。唯でさえ人が来ないのにこれ以上来なくなったら困る」

「いえ、自殺ではないです。ただ、なんとなく足が向くままに歩いていたらここに着きました」

 隠すようなことでもないので素直に言う。店主はすこし驚いたような顔をしたがすぐに破顔した。

「こりゃすげえや」

 馬鹿にされたような気配は感じなかったので僕も笑った。

「ここよりも先に行きたいんですけど…」

 そう言うと店主は顔を曇らせた。そして顔を近づけてきて言った。

「あんた、知らないのかい?」

「何をですか?」

「そうか、知らないのか…。ここらでは皆知っているんだがね」

 店主はそう言って前置きをする。

「ここから北に行くとね、森があるんだよ。ただの森じゃない。魔性が住んでいる森だ」

「魔性…ですか?」

 そう訊ねると店主は頷いた。

「ああ、歌声で人を魅了する魔性だ。この村にもその歌声は届いている。夜になると毎日だ。ただ、流石に距離があるからかここで聞く分には問題ない。ただ、やっぱり気味悪いからね。どんどん村から人は居なくなっていくし寄り付かない。森に行こうにも魔性が恐ろしくって行けやしない」

「歌声…」

 僕は頭に響く歌と関係するのかもしれないと思った。何かに急かされるように歩き続けて僕はこの村にたどり着いた。

 だが、それは言わない方がいいと思った。僕が魔性に魅入られていると思われてはかなわない。

 店主に礼を言うと僕は部屋に行って身を横にした。

 店主の言う歌声を聴いてみようと耳を澄ましていたが残念ながら歌声が響いてくる前に僕は深い眠りに着いてしまった。

 

 ――僕は夢を見ている。

 ――僕は少女の手を引いて雪の中を歩き続けている。

 ――行くあてもなく、ただ闇雲に歩き続けていた。

 ――少女の顔を見る。その顔はぼやけていてよく見えなかった。


 そこで眼が覚めた。

 まるで本当に経験したことのようにリアルな夢だった。

 だが、まるで身に覚えのない、いや、そうではなかった。思い出してみるとあの光景は見たことあるものではなかったか…?そしてそれはすぐに思い至った。

「この近くだ…」

 朝食を食べて支度をしたら店主が昨日言っていた森の方に言っていようと決めた。

 食堂に行き朝食を取っていると、歌声が風に乗って聞こえてきた。

「昨日の夜には聞こえないと思ったらまさか朝っぱらからかい!」

 店主が慌てていた。

 僕は歌声に聞き入っていた。

 懐かしい歌声。懐かしい歌詞。

 僕は心の衝動に突き動かされるまま宿を飛び出した。

「おい、あんた!どうしたんだい!?」

 店主の叫び声が聞こえたが僕は振り返ることはせずに走りだした。

 普段とちがう出来ごとに足をとめた村人の間をすり抜けながら僕は森に向かって走る。

 雪に足を取られて転びそうになったがそれでも走り続けた。

 心臓が悲鳴を上げていても無視して僕は森を目指す。

 歌声が近くなってきた。

 

 白い息の中で目を覚ます

 凍えた大地に降り立った無垢な結晶は

 痛みを伴う温もりに震える

 静寂の中で響くその歌は

 誰かの心へ語り継がれる

 人はいつか、笑えるだろう

 世界が痛みに染まっても

 忘れないよう、この歌を歌おう

 貴方に捧ぐ、この歌を


 僕の魂に刻まれた歌。

 あの夢で何度も何度も刻みつけた歌だ。

 森に入る。僕の脳裏に浮かぶ少女の姿。

 僕は手を伸ばす。

 そうして掴み取った。

「会いたかった…!」

 僕の胸に飛び込んでくる少女。

 夢の中での姿と寸分変わらぬ姿。

「僕もだよ…!」

 僕は少女の体を抱きしめる。

 少女の体は雪のように冷たかった。

 

 僕は思い出した。

 僕はこの少女を連れだしてここまで連れてきた。

 人ならざる者。僕達は同じ世界を生きる者同士で迫害を続けていた。

 少女は迫害され続けていた。だから僕は連れだしたのだ。

 少女を守るために、少女の心を取り戻す為に。


 

 それ以降、森から歌が聞こえることはなかった。

 村人たちは突然の事に首をかしげつつも胸を撫で下ろした。



 それと同時期、各地でとある吟遊詩人が一躍有名になった。

 若い男女の二人組で仲睦まじい姿と、透き通るような声が人の目と耳を引いた。

 切ない恋慕の気持ちと、再会の感動に胸を打たれた観衆の一人が歌の題を訊ねた。

 吟遊詩人の二人は顔を見合わせて笑いあうと二人同時にこう答えた。

「『奇跡の歌』ですよ」

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