第七話 閃雷VS火炎(中編)
10000PV目前! ……ですが今回は、バトルシーンほぼ皆無で贈らせて頂きます。
本当にすみません!
模擬試合の、おおよそ中盤。
“絶攻雷”が“火炎塔”と“ワイドフレイム”を吹き飛ばした直後、ずっと上空に跳んでいた僕は、やっとのこと地面に着地した。
一瞬、心地良いくらいの静寂か、スタジアム全体を包み込み――、
『ワァァァアアッッ!!!』
――直後、スタジアムのあちこちから爆発的な歓声が起きた。
的確に相手を追い詰める炎と、それを一蹴する雷……観客にとって、興奮しない方がおかしい闘いだったんだろう。
――が正直、僕はそんなことには殆ど興味が無い。
僕は右手をひらひらと振って、適当に観客の声援に応えると、対戦相手であるガオンの方を見る。
「ひぃっ――!」
それに気付いたガオンが、恐怖で引き攣った悲鳴を上げかける。
が、ガオンは何とかそれを堪えると――、
「テ、テメェ! 一体何者だ!?」
大きな声で虚勢を張ろうとする。
ただ、語尾が震えている上、内容が質問のため、虚勢になりえてないが。
僕は、にっこりと笑うとガオンに言った。
「僕? 僕は君のクラスメイトをやってる、ただの“純人”だよ」
前者は真実、後者は大嘘。
「嘘だ! お前がただの“純人”なワケがない!!」
――どうやら、ガオンはそれを見破ったようだ。
と言っても、信じていないという表現の方が正しそうだけど。
「んー、何でそう思うの?」
「お前の魔力の質だ! あれは……並の魔力より、遥かに質が良すぎるんだ!」
「! ……へぇ、分かるんだ?」
ガオンの言葉を聞いた僕は、彼に少し感心する。
魔力の質など、なかなか分かるものじゃないからだ。
純人・亜人・魔人の魔力には、それぞれ特性がある。
簡単に言うと、“純人”は他二種族より魔法技術が高く、“亜人”は他二種族より魔力の質が良く、“魔人”は他二種族より魔力量が多いと言った風に。
だからこそ――、
「――自分より質の良い魔力を持つ僕が、“純人”であるワケが――“亜人”以外であるワケがない、って言いたいの?」
僕のその問いに、ガオンが警戒しながらも首を縦に振った。
「そう……」
それを見た僕は――ゆっくりと笑みを浮かべると、審判をしている男子生徒に聞く。
「ねぇ、審判さん。僕が“亜人”だ、って言ったら、審判さんは信じます?」
「えっ!?」
いきなりの問いに、審判は驚いたような声を出す。が、すぐに首を横に振りながら言った。
「まさか! あなた程の人が、“純人”以外なワケないじゃないですか」
「! そりゃどういうことだ!?」
「どうもこうも……」
審判をしている“純人”の男子生徒は、驚いた表情をしているガオンに言った。
「“絶攻雷”は元々、魔法陣から出した雷をぶつけるだけの魔法なんです。それを、巨槍にして雷に貫通力を与えた上、衝撃を利用して消火をするなんて……信じられない技術力ですよ」
「それは……」
「そう」
驚くガオンに僕は言う。
「彼が言ってるのは、君と殆ど同じこと」
「じゃあ……」
「本人が“純人”って言ってるんだから、そう思っとけばいいんだよ」
「………………」
僕のその言葉を聞いてもまだ、ガオンは疑わしげに僕を見ている。
まぁ、本当に僕が“亜人”だから仕方ないけど。
しかも、前にも言ったと思うが、僕は“何かと常識の埒外にいる存在”である。
僕は、龍の子である“龍人”だから、ずば抜けて質の良い魔力を持っててもある意味当然だし、高い魔法技術も、“聖女”と呼ばれた母の遺伝と言われれば、納得出来ないこともない。
が、僕はそれだけではなく、保持する魔力量も、並の魔人のそれを軽く上回っており、この国の大臣である闇龍バルベルに、
『化け物ですか、あなたは?』
と素で言われたことがあったり。
閑話休題。
「さて、と……」
僕は、睨み付けるようなガオンの視線を、真っ向から受け止めて彼に聞いた。
「ねぇ、次は僕の質問の番でいいよね?」
「は、はぁっ!? ふざけんな!」
その言葉を聞いたガオンが、驚いてそう言い返す。
が――、
『“絶攻雷”……』
「なっ!? ちょっと待て、それは流石に危け――」
『……スタート』
――ドガァァン!!
「もう一度聞く。次は俺の番でいいよな?」
「ハ、ハイ……」
目の前に雷の巨槍が落ちたためか、ガオンはブンブンと首を縦に振る。
それを見た俺は、数瞬の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「お前はこの“決闘”の前に、『魔人だから、駆除する』と言ってたが……お前は魔人を何だと思っている?」
「は?」
「俺は、お前が魔人についてどういうイメージを持ち、どういう感情を抱いているのか聞いているんだ」
「それは……その」
俺がそう問うと、ガオンは怖ず怖ずと答えた。
「魔人は、亜人や純人に戦争を仕掛けて来たトチ狂った奴らで、親父たちが生まれる前から竜人とは仲が悪かったって……」
「……それは、誰から聞いた?」
「み、皆だよ。国王も大臣も……レッドテイルの国民は、皆そう言ってる」
俺の怒りに呑まれてるためか、ガオンは素直に質問に答えていく。
いや、今やガオンだけでなく、観客全員が俺の怒りに呑まれて、スタジアム全体を沈黙が支配されていた。
俺は、ゆっくりと呟いた。
「……唾棄すべき風潮だな」
「……え?」
「忌み嫌い、軽蔑すべき風潮だと言ったんだ」
「んなっ!? そこまで──」
「──言う必要がある」
俺は、喋り出そうとしたガオンを追い越すように言葉を出し、反論を封殺する。
「んな……っ!?」
「その反応には、飽きてきた」
「………………」
反論も絶句も禁止されたガオンは、何とも言えない顔をする。
そんなガオンを見た俺は、静かに言った。
「純人・亜人・魔人……どの種族にも全知という者は存在しない。だから無知を罪とは言わない。だが──、」
──知らなければいけないことを無視し続けるのは、れっきとした罪悪だ
「それは、どういう……」
「──幻世暦四千九百七十九年」
「お、おい? 一体何の話──」
「今から二十年前の春。現グラジオラス魔王国の先王サタン・アーテル・グラジオラスが死去。同年の夏、サタンの息子であったルシフ・アーテル・グラジオラスが即位。そして同年の冬、魔人たちによる純人・亜人への侵略が始まり、その戦争は今なお続いている──」
「だから、お前は何が言いたいんだよ!」
俺がずっと喋り続けていると、ついに我慢が出来なくなったガオンが声を荒げる。
が、俺はそのことを全く意に介さず、何事も無かったかのようにガオンに聞いた。
「お前だって、この位のことは知ってるだろ?」
「だから、何が──」
「じゃあ、お前は戦争が始まるより前のことをどれだけ知っている」
「それは! 竜人と魔人はより仲が悪かったんじゃ……」
「憶測で物を言うな。お前の知る事実を話せ」
「それは……」
ガオンが何かを言おうとして口を開き……そこで固まってしまう。
それを見た俺は言った。
「何も知らないんだな、お前は」
「くっ……」
悔しそうにガオンが唇を噛むが、何も言い返そうとしてこない。
「さっきも言った筈だ。無知は罪じゃないが、知るべきことを無視するのは罪だと」
「………………」
「……戦争が始まる前、“ファンタジア”は平和な世界だった。あらゆる種族が差別なく──それこそ、仲良く過ごしていたんだ。もちろん、竜人と魔人も」
「そん、な……」
「先に言っておくが、嘘じゃないぞ。現に戦争が起こる前は、グラジオラス魔王国で開催されていた武闘大会に、数多くの竜人の選手が出場しその功績を称えられたと、文献に残っている」
「……!?」
ガオンの驚愕の表情を見るに、レッドテイル王国では、その歴史すら消し去られているらしい。
俺は、話を続ける。
「それに、魔人だって全員が全員、純人や亜人と敵対したいとは思っていない。いや、むしろそう思う魔人の方が多いだろう」
「そんなっ……馬鹿なことがあるか!」
俺の言葉を聞いたガオンが、再び反論をしようとする。
が──、
「なら聞くが、お前は何を根拠にそう言う? お前が知っている“皆が言っていたこと”とやらか? それならさっき、間違っていることを指摘したばかりだと思うが」
「……っ!?」
「分からないようなら、何度でも言ってやる。無知は罪ではない。知るべきことを無視し続けるのが罪なんだ。自分が知っている常識だけが世界だと思っているなら、その世界は俺が壊してやる」
ただ淡々と、しかしその一言一言に気持ちを込めて、俺は話し続ける。
「この“決闘”をすることになったきっかけ──お前に胸倉を掴まれた魔人の子のこと分かるか?」
「それは……」
「あの子、名前はハノン・レイトレードって言って、俺の中等部の頃からの友人なんだが……あいつ両親がいないんだよ」
「え……?」
「彼女の父親はレオン・レイトレードって言って、元はグラジオラス魔王国の大臣だった。けど、“魔王”ルシフが始めた戦争に反対して、不敬罪で妻と一緒に処刑されたらしい」
「なっ……!?」
「幸い、彼女の身柄はシュヴァルツシルトが保護することになったが……今でも彼女の一族はグラジオラス魔王国のどこかに幽閉されているらしい」
「そんな……」
「残念な事にこの国に住む魔人は、皆似た様な状況に置かれている。……お前は、そんな彼女たちのことを、まだトチ狂った奴らだなんて言えるのか?」
「そんなの……俺は……」
俺のその言葉を聞き、ガオンはようやく、自分が間違っていたことに気付いたようだ。
「俺……、俺……」
ガオンは、競技用の長剣を握ったまま小刻みに振るえている。心から後悔しているようだ。
それを見た僕は、ゆっくりとガオンに声を掛ける。
「さっきも言ったけど、無知なのが罪じゃなくて、知るべきことを無視し続けるのが罪なんだ。君がそれを後悔しているなら、無視するのをやめたらいいんだよ」
「え……?」
「ここは、シュヴァルツシルト最大の学校──エクシリオン魔導学園だよ。知るべきことは、ちゃんと教えてくれる」
「お前……っ!」
ガオンが驚愕の表情で、僕の方を見る。
僕はそれに微笑みで答えると、話をしている間ずっと待っていてくれた審判に質問をする。
「ごめん、審判さん。試合時間って、後何分?」
「えっ!? あ、あと……十二分です」
「そう、ありがとう」
僕は審判にそう返すと、ガオンの方を見て言った。
「で、君はどうする?」
「どうするって……?」
「いや、僕はこのまま終わっても別にいいんだけど、まだ時間があるから試合出来るし……」
「! 俺と、勝負してくれるのか!?」
「勝負も何も……今はその時間だよ?」
僕がからかうようにそう言うと、ガオンは感激して……大声で叫んだ。
「俺と……勝負をして下さいっ!」
今回は、まさかの説教回になってしまいました。
しかし、次回、“閃雷VS火炎(後編)(仮題)”は、バトルシーン多めの予定ですので、是非お楽しみに!
以上、現野 イビツでした。