第六話 閃雷VS火炎(前編)
7000PV突破しました。
後、今回からやっとバトルパートに入れました!
※改稿しました。
「それでは……試合開始っ!」
審判がそう叫び、真っ赤な旗を振り下ろした時にはもう、ガオンは魔法陣の展開を終えていた。
(はっ! 純人風情が俺様に“決闘”を挑んだこと、たっぷり後悔させてやるぜ!)
ガオンは、そう心の中で呟くと、先手必勝とばかりに、展開済みの魔法陣を発現させた。
『燃やし尽くせ! “火炎波”!』
ガオンのその掛け声と共に、地面に展開された魔法陣から、炎で出来た大波が現れた。
それは、徐々に対戦相手のクローに迫って行き、やがて大きく飲み込んだかのように見えた。
観客席から悲鳴と歓声が上がる。
それを聞いたガオンは、会場をより盛り上がるために、目の前に広がる火の海に向かって、
「おいおい、それは手加減しまくった魔法だぜ? まさか、一発喰らっただけでノックダウンじゃねえよなー?」
と叫ぶ。
ガオンの言った通り、“火炎波”は攻撃範囲こそ広いものの、見かけに反して威力はそんなに高くない。
だからガオンは、クローが火傷の一つや二つは追ってたとしても、戦闘不能にまでは達していないと計算していた。
しかし――、
「いや、別に当たってないんだけど」
「――っ!?」
――その考えは、計算違いも甚だしかった。
ガオンは慌てて、クローの声がした後方に目を向ける。
そこには、火傷どころか、煤一つ体に付けていないクローの姿があった。
「――お、お前、何で無事なんだっ!?」
「さぁ、何でだろ?」
混乱するガオンの問いに、クローは平然と返事をすると――、
「それよりさ――」
――余裕の表情で言った。
「時間が無いし、早く残り九つの魔法、全部見せてよ?」
さて、突然だが、ここで“決闘”のルールを説明しよう。
“決闘”は徹底的に死者を出さないよう、三つの基本ルールが決められている。
まず、六十分という制限時間。
これは、選手や審判団の集中力が低下して不慮の事故が起こる可能性を、極力少なくするために設けられた物である。
もし、時間内に試合の決着が着かなかった場合、延長では無く引き分けとなる。
次に、武器。
エクシリオン魔導学園にも、少なからず剣術や槍術を使う者が在籍しており、そんな生徒には以前言ったように、学園から武器の貸し出しがされる。
この武器は、致命傷を負わないように刃の部分が潰されていると同時に、付加魔法を受け付けない特殊な金属を使用しているため、安全で公正な試合運びが出来る。
そして最後に、魔法。
魔法に関しては、試合前に使用する魔法十個をリストに纏めて審判団に提出し、危険度が基準値以下と判断されない限り、使用許可が下りない。
もし、試合中にリストに載っていない魔法を使用した場合、即刻退学処分が下る程の徹底振りだ。
これ以外にも細かいルールは多々あるが、基本はこの三つのルールによって、選手たちの安全が保障されているワケなのだが──、
「“火炎波”って……僕じゃなかったら火傷確実な魔法なんだよ……?」
僕は小声で呟きながら、非難がましい目で審判の方を見る。
今のは間違いなく基準値スレスレの危険な魔法の筈。
一瞬、審判団の判断がおかしくなったかと思ったが、これがただ単なる性悪“風紀委員長”の意地悪(正確には、嫌がらせ)だということに気付く。
二年先輩の風紀委員長こと“貴人”のガゥェイン・綺天塚・グリューンへクセは、中学時代から何かと僕を目障りに思っているらしく、今日のように“決闘”相手を有利にさせることなど、日常茶飯事である。
──しかし、これにはちょっと困るなぁ、と僕は心の中で呟く。
さっきは余裕ぶって、
「残り九つの魔法、全部見せてよ?」
なんて言ったはいいが、これ以上危険な魔法を使われたら、流石の僕も対応出来ない可能性がある。
何せ、僕は今回、三つの魔法しか使用許可を申請してないし……。
そんな風に僕が考えていると、ガオンがまた地面に魔法陣を展開させる。
「………………」
それを見た僕は、一瞬身構え──それが“火炎波”だと分かった瞬間、力を抜く。
あれ(・・)の攻略は、とっくに済んでいる。
『燃やし尽くせ、“火炎波”!』
ガオンがそう叫ぶと同時、僕も小声で呟くように言う。
『“雷光靴”、スタート』
直後、僕の足元に魔法陣が展開し、そこから現れた雷が、僕の足を中心に、ブーツ状に編み上がっていく。
この“雷光靴”は、体内に電気を流し筋力を強化する力を持ちながら、それ自体にも跳躍力アップの特殊能力を持つ、装備型の雷属性魔法だ。
だからこそ――、
「よいしょ……っと」
――こんな風に、“火炎波”を軽々と飛び越えることが出来たり。
「なぁっ!?」
無事着地すると、視界の端に、驚愕のあまり顎が外れそうになる程口を開いた、ガオンの姿が目に入った。
まぁ、無理は無いか。
今のは、多少“龍人”ならではの運動神経を利用させて貰ったし。
しかし、ガオンはすぐに正気に戻ると、即座に右手に魔法陣を展開させる。
それなりに、実戦慣れしているようだ。
ガオンが、僕の方を見ながら叫んだ。
『燃やし尽くせ、“豪炎球”!』
魔法陣から現れるのは、直径1メートルにもなる、巨大な火炎球。
僕はそれを右に跳んで、難無く避ける。
が、左手に魔法陣を展開したガオンが、すぐに追撃をする。
『燃やし尽くせ、“ワイドフレイム”!』
今度は、扇のように横に広がる火属性魔法。
横には逃げられそうに無いので、上に跳んで逃げる。
が――、
「かかったな、バカめ!」
「え?」
――ガオンがそう言ったかと思うと、“豪炎球”の発現が終わった右手に、新たな魔法陣が展開される。
『……燃やし尽くせ、“火炎塔!』
「――っ!?」
ガオンが叫ぶと同時、扇状に広がる炎の中から、僕目掛けて一本の火柱――いや、火炎の“塔”が伸びてくる。
それを見た僕は、驚きで一瞬息を呑み――すぐに魔法陣が展開された右手を下に向ける。
そして――、
『――“絶攻雷”、スタート!』
その言葉と共に魔法陣から現れた雷が、螺旋を描くように絡まりながら巨槍の形となり、“火炎の塔”を貫く。
「――なっ!?」
直後、地面にぶつかった巨槍が弾け、爆風を持ってしてガオンの作った炎を吹き飛ばした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
バトルパート突入とか言っときながら、戦闘シーンが少なくてすいません。
次回は長くなる上に戦闘シーンも少なくなる予定です。(それじゃ、ダメじゃん……)
それでも、次回“閃雷VS火炎(中編)(仮題)”をお楽しみに!
以上、現野 イビツでした。