第四話 控え室での二人
こんにちは、現野 イビツです。もうそろそろバトルがしたいなぁと思ってますが、本格的なバトルに入るのは二話ほど後になりそうです。けど、その分、頑張って話を進めて行こうと思うので、是非楽しんで下さい。
エクシリオン魔導学園は、塔状の校舎を中心に広大な敷地を有しており、東西南北四つのエリアに別れているのが特徴だ。
校門のある南側には、食堂や魔導具店などが軒を連ねる“学生街エリア”、西には森林、東には湖エリアがあるのだが。
残る北側のエリアだけは他の四つと違い、実戦、それも対人戦闘の為に整備しつくされている――まさに“戦場”。
そう。
この北側こそ、入学式早々“決闘”の舞台となった場所――“バトルエリア”である。
「……いいのですか、クロー様?」
「何が?」
「“決闘”のことです」
ここは、“バトルエリア”内で最大の建造物である“スタジアム”の武器庫。
学園側に模擬試合が許可された僕は、選手控室の代わりにここに連れて来られていた。
ここには、試合が終わるまで選手以外の入室が禁止されており、また、会場整備に時間がかかっているため、鞄ごと連れ込んだアパとお喋りが出来るのである。
アパが鞄から顔だけ出して、先程の話を続ける。
「クロー様。 “黒龍皇の血統”ともあろうお方が、怒りに任せて“決闘”を吹っ掛けるなど……少々短慮過ぎじゃありませんか?」
「そう?」
僕は目の前に並べられた武器を手にとって物色しながら、アパの言葉に生返事をする。
この武器は、模擬試合に危険な特殊能力を持つ武器を使用されると困る学園側が、それの代替品として用意した物だ。
勿論、特殊能力などは一切付加されてないが、長剣から棍棒、鎖鎌やチャクラムなど、様々な種類が用意されていた。
「うーん……、今回は投げナイフにしようかな? ブーメランもありかな?」
「話、聞いてますっ!?」
「んー……、何となく?」
「クロー様っ!」
僕の返事を聞いたアパが、悲鳴じみた声を上げる。
「もー……。何、アパ? 煩いんだけど?」
「煩いんだけど? ……じゃありませんっ! 先程から、ずっと武器ばかりを見て、私の話を一切聞いていらっしゃらないでしょう!」
「うん」
「うん、じゃありませんっ!!! 私はずっと、クロー様に“決闘”は危険な物だと伝えようと──」
鞄の中に入ったまま、アパが説教を続けようとする。
が、僕はそんなアパをじっと見つめると、唐突に口を開いた。
「──ねぇ、アパ?」
「何ですか、クロー様? 私はクロー様が幼少の頃から、人が話をしている時には、口を挟まないようにと何度も教えた筈ですが──」
「そんなことよりもさ、アパ」
まだ続きそうなアパの説教を、口を挟んで無理矢理中断させる。
するとアパは、流石に不審に思ったのか僕の方を見て──目を丸く見開いた。
──何故なら、僕の体から、虚無を思わす漆黒の魔力が溢れていたから。
僕は、絶句するアパの瞳の瞳をじっと覗き込み、ゆっくりと言った。
「僕にとっては、簡単に“決闘”するよりも、馬鹿にされた幼馴染を見捨てる方が恥だし──、」
……自分でも、底冷えするような声で。
「“龍人”である俺が、ただの“竜人”風情に負けると、本気で思っているのか?」
「──っ!?」
アパが咽の奥から、恐怖による呻きを漏らす。
「ク、クロー様……」
アパが恐怖に震えながら、それでもなんとか声を絞り出そうとする。
どうやら、少し八つ当たりが過ぎたようだ。
僕は、この武器庫に充満させていた殺気を消すとからかうようにアパに言う。
「それに、これは竜族の掟で言う所の“番を守る”って行為にならないの、アパ?」
「え!? あ……」
突然の僕の豹変に戸惑ったアパが、一瞬目を白黒させる。
が、すぐに先程までの殺気が僕の八つ当たりだったと気付いたのか──、
「だったら、『幼馴染を見捨てる方が恥』ではなく『俺のヨメを見捨てる方が恥』と言えば良かったのです」
──憎々しげに、爆弾を投下してきた。
「なっ、アパ!? そんな恥ずかしいことを言える訳……っ!?」
「……どんだけ初心なんですか、クロー様。まさか、ここまで効果があるとは思いませんでしたよ」
「う、煩いっ! 苦手な物は苦手なんだから……」
恥ずかしさのあまり、僕は顔を俯かせる。
が、視界の端で、鞄から出たアパがやれやれと首を振っているのが映った。
「まったく……、初等部の一年生だってこのぐらいの耐性はありますよ。と言うか、番は大丈夫なのにヨメが駄目って……、感性が明らかにおかしいですからね?」
「うぅっ……」
アパの、本気の同情の視線が身に突き刺さる。
「………………」
「………………」
自然と、部屋に沈黙が訪れた。
二人(?)とも、一言も喋らないまま一分が過ぎ、二分が過ぎ、三分が過ぎる。
その時になって、ようやく恥ずかしさが吹っ切れた僕は、バッと立ち上がる。
「さて、と……」
「クロー様?」
いつの間にか鞄の中に戻っていたアパが、一瞬声を上げる。
が、僕はその頭に手を乗せると──、力任せに鞄に押し込んだ。
「ふがっ!? ちょっ、クロー様! 痛い痛い痛い痛い……!!」
「アパ、ちょっと静かにしてて」
「一体、何がどうなって……」
鞄の中に押し詰められたアパが、必死に抵抗してなんとか外に出ようする。
が、その時──、
「すいませーん、神刃 クローさん。会場の準備が整いました」
──扉の外から、男子生徒の声が聞こえてきた。
声から察するに、会場の準備に勤しんでいた“風紀委員”の一人だと分かる。
僕は、何とか暴れるアパを押さえ込むと、扉の外にいるその生徒に声をかける。
「あー、すぐに行きます」
「分かりました」
直後、男子生徒の足音が遠ざかっていくのを確認してから、アパを解放する。
流石のアパも、事情が事情なので文句は言って来なかったが、ジト目で僕のことを睨んできた。
僕は、それを意図的に無視して、机に置いてあったナイフを一本手に取る。
「やっぱり、いかれるんですか?」
「心配しないで。本気は出さないから」
「……そこまでのことが言えるなら、全然大丈夫そうですね」
「アパが心配し過ぎなんだよ」
背中越しに、鞄の中のアパと短い会話を交わす。別に振り返る必要は無い。
──何せ、うまれたときからの付き合いだから。
僕は、手に持ったナイフを腰に差すと、武器庫の扉に手を掛けながらアパに言った。
「それじゃあ……、勝ってくるよ」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。気付いたら2500PVを突破していました。感想、アドバイスなどを何でも受け付けてますので、是非書いて下さい。
それでは、恒例となった次回予告。次回、“試合開始(仮題)”をお楽しみに!
以上、現野 イビツでした。