第三話 入学式から波乱の予感!?
もうそろそろ、2000PVに到達しそうです。
お世辞を言い続けることにより、何とか彩那を誤魔化した僕は、ようやく教室の扉に手を掛けることにする。
あまり女性の扱いに慣れていない僕は、こんな辛い事を一年も続けると思うと、ゾッとして堪らない。
「……クロー様が、これまでずっと、異性に興味を持って来られなかったからです」
「煩い」
鞄から小声が聞こえてきたので、肘で小突いて黙らせる。
再び彩那に不思議そうに見られたが、何もなかったかのように無視して、やっとのこと教室に入る。
「……あれ? 僕が一番最後?」
「うん、そうだよ」
入ってみて分かったのだが、HRまでまで十分も時間があるというのに、クラスの席はほぼ埋まっていた。
想像通り知った顔が大半だったが、何人か知らない顔がいる。
最後に入って来たせいか、僕に一斉に視線が注がれる。
それはあまり気にならないのだが、何か男子と女子では視線に温度差があるような……。
「男子からは、彩那様の隣を歩いているために、殺意の視線が注がれております。対して、女子からは、幼少の頃は本気のナンパをされたこともある、クロー様の美ぼ――」
ゴスッ!
「……すみません、黙っておきます」
今度は、鞄に本気のエルボーを叩き込むと、やっとアパが大人しくなった。
人が必死で忘れようとしてることを、思い出させないで欲しい。
小さい頃の僕は、この黒髪を腰下まで伸ばし、また、中性的な顔立ち(断じて女顔じゃない!)だったために、ナンパや逆ナンをよくされたっけ……。
「ど、どうしたの、クロー!? 何か黒いオーラが出てるよ!?」
「はっ!?」
いけないいけない。少しトリップしかけていた。
髪を首の辺りでばっさりと切り落とし、ダサい伊達メガネをかけたおかげか、今はそういうことは無くなったが……あまり思い出したくないものだ。
僕は気を取り戻すと、取り敢えず席に着き、クラスメイトの顔を覚えようと教室内を見渡す。
どうやら、僕と彩那を除くクラスメイトは四十八人いて、純人が十六人、亜人が二十六人、魔人が六人。
種族ごとに数が違ってくるが、どこのクラスもこんなものだ。と言うと、種族で差別をしているように聞こえるかも知れないが、別にそういうワケではない。
元より、“ファンタジア”における純人・亜人・魔人の人口の割合が3:5:2なのだ。
なら、何故全体人口の二割しかいないと魔人と、全体人口の八割である純人・亜人間の戦争が拮抗しているかと言うと、それぞれの魔法の特性故だ。が、この話をすると長くなるので、今は割愛させて頂きたい。何故なら──、
「おい? 魔人風情がこんな所で何してやがる?」
「え?」
──緊急事態が起こったようだ。
見ると、新しく高等部に編入してきた男子生徒が、大人しく教室の端の席に座っていた魔人の女子生徒の胸倉を掴んでいた。
女子生徒の方は何が起こったのか分からずに狼狽するばかり。
こういうのを放って置くワケにはいかない。
「ちょ──」「ちょっと、君!」
僕が思わず声をかけようとする。が、それより先に彩那が声をかけた。
「あン? 誰だ?」
すると、男子生徒が女子生徒を掴んだまま、こちらの方を振り向く。
その緑の瞳から放たれるのは、明らかな恫喝の視線。
しかし、彩那はその視線を真っ向から受け止めると、ポケットから腕章を取り出しながら言った。
「私は“風紀委員”、彩那・アリア・白鏡よ」
「なっ!? “風紀委員”だと!?」
男子生徒は、驚いたように女子生徒から手を離す。
“風紀委員”とは、この学園では最も力を持つ組織で、特定以上の行為を行った生徒には、退学処分すら下せる権力を持っている。
その“風紀委員”である彩那が介入した以上、僕の出番はないはずだ。いつも通りじゃなければ、だけど……。
取り敢えず、ここは彩那に男子生徒を任せて、僕は女子生徒の介抱に向かうことにした。
クローが女子生徒の介抱に行くのを見届けた私──彩那・アリア・白鏡は、再び男子生徒の方に向き直った。
逆立った赤い髪と緑の瞳、そして所々に鱗があることから見て、少年が亜人の中でも攻撃的な種族である“竜人”であることが分かる。
私は、右手から魔法陣を展開し、いつでも魔法を発動出来るようにすると、その男子生徒に話し掛ける。
「君、今何してたの? 私には、あなたがいきなり、女子生徒に掴みかかったように見えたけど? もしそうなら、校則違反で停学処分だけど、イイ?」
私は、畳み掛けるようにそう言う。
こういう相手には、反撃の隙を与えないのが一番だ。
事実、相手の男子生徒は、一瞬怯んだ様子を見せる。
だが、しかし――、
「そう怒るなよ、風紀委員ちゃん。綺麗な顔が台なしだぜ?」
「なっ……!?」
私は、一瞬呆気に取られてしまう。が、すぐに身体の奥から怒りが湧いて来た。
「――ふざけないで。私は、何をしたかって聞いてるの」
私は、左拳を強く握って、何とか気持ちを落ち着かせながら、再び男子生徒に聞く。
しかし、男子生徒はニヤニヤと笑い続けたまま、とんでもないことを言い出した。
「俺は決闘がしたかったんだよ、風紀委員ちゃん」
「決、闘……?」
「そうさ。この学園には模擬試合ってのがあるんだろ?」
模擬試合とは、魔法を使った喧嘩によって怪我をする生徒が出ないよう、学園側が用意した対人戦闘競技である。
この競技は、主に学生間のいざこざを解消するために行われるので、多くの生徒が決闘と呼んでいるのも事実である。
だけど――、
「――それと、女子生徒に暴力を振るったことは関係無いでしょ!」
私は叫ぶように、男子生徒にそういう。
怒りが抑え切れず、語気が荒れてきた。
しかし、男子生徒はそのことにも気付かない。
自分に酔いしれてるせいだ。
そして、男子生徒は――、
「関係大アリだよ、風紀委員ちゃん。そいつはトチ狂った魔人だから、駆除するために決闘吹っ掛けたんだぜ?」
――私の逆鱗に触れた。
クローが介抱されてる女子生徒が、そしてクラス全員が凍り付く中、私はその男子生徒に近付き――、
パァン!
――思い切り頬を叩いた。
「――!?」
突然のことに、男子生徒は混乱した様子を見せる。
けど、私の怒りはそれでも収まらず、
「そんなに決闘がしたいのなら――、」
――私が相手になってやる!
そう言おうとした、その時だった。
私の言葉を遮るかのように、私と男子生徒の間が誰かが立った。
それは、漆黒の髪が特徴の、私の幼馴染。
「ク、クロー!?」
一瞬何でクローが出て来たのか、分からなかった私だが、直後に、自分が重大な過ちを犯そうとしてたことに気付く。
風紀委員の決闘は、校則によって固く禁じられており、もし違反した場合、退学だって有り得る。
私は、そのことを忘れてたことに、とてつもない恥ずかしさを覚える。と同時に、そんな自分を止めてくれたクローに、嬉しさと申し訳なさを感じる。
何度もこういう迷惑をクローに掛けて来た私は、彼が次にどういう行動に出るかが、すぐに分かった。
クローは、未だに混乱している男子生徒の前に立つと――、
「ねぇ、君? そんなに決闘がしたいならさ――」
――怒りを押し殺した声で言った。
「――俺が相手になってやる!」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
感想やアドバイスを、何でも受けつけてます!
次回、“控え室での二人(仮題)”をお楽しみに!
以上、現野 イビツでした。