第二話 エクシリオン魔導学園
こんにちは、現野 イビツです。今回は、予告通りヒロインが一人登場します!
ここは、僕が通うシュヴァルツシルト龍皇国で最大の学術機関――エクシリオン魔導学園。
純人と亜人、そして魔人が分け隔てなく学業を行える、中立国ならではの学校である。
何とか遅刻を免れ、無事に入学式に出席することが出来た僕は、その塔のような校舎の第十階層――高等部第一学年の階にいた。
「………………さて」
僕は、校門横に掲示されてたクラス分けに従って、1−Aの教室の前に来ていたのだが――。
「どうしよう……?」
僕はそこにある教室の扉を開けもせず、思案顔でそこに立っていた。
「入ったらよろしいでしょうに」
アパが、鞄からひょっこりと顔を覗かせて、僕にそう言ってくる。
……一応、人目は気にしていたみたいだから、突然喋り出したことは見逃してあげてもいい。けど、人が真剣に考え事をしてる時に、気の抜けるようなことを言わないで欲しい。
それが出来たら、最初から問題がないのだ。
「……ねぇ、アパ? 僕が何で悩んでいるか、分かってる?」
「華々しい高校デビューに相応しい、一際目立つ挨拶でも考えておられましたか?」
「違うからねっ!?」
このクラスにいる全員が初対面の人間なら、そうするべきなんだろう。しかし、僕は初等部からの九年の間、この魔導学園に通っているので、教室内にいる大半の人間とは顔見知りである。
「じゃあ、知らない人がいるから、悩んでいたワケではないのですね?」
「うん。……と言うか、知り合いがいるから、悩んでたんだけどね」
「はい? それは一体……」
僕の言った言葉の意味が分からなかったのか、アパが聞き返そうとする。が、その時――、
「――誰か外にいるの?」
教室にいた誰かが、扉を開ける気配がした。僕は慌てて、鞄の中にアパを押し込む。そして――、
「あれ、クロー?」
「……え?」
扉を開けた誰かが、僕の名前を呼んだ。
僕は反射的に視線を上げ――硬直してしまう。そこにいたのは、長い黒髪の一房を、蒼い花の髪留めでサイドテールにした美少女。
その少女は、僕の顔を見て何故か頬を赤らめた後、僕に挨拶をしてきた。
「おはよう、クロー」
「お、おはよう、彩那。その……進学おめでとう」
僕は、少々ぎこちなく、その少女――彩那・アリア・白鏡に祝辞を贈る。
「あ……」
彩那は、一瞬驚いた顔をする。が、すぐに顔を綻ばすと、僕に言った。
「ありがとう! クローも、進学おめでとう。また一緒のクラスだね」
彩那の言う通り、僕と彩那は、初等部一年から今年度を含む十年間、ずっと同じクラスに所属している。所謂、幼馴染というやつだ。
今の台詞を聞くのも九回目で、例年通りだったら、普通に返事してた所である。しかし――、
「え、あ……。そ、そうだね」
今回僕は、先程よりぎこちない返事をしてしまう。
しょうがない、と心の中で呟く。
去年までは、彩那のことを、仲のいい兄妹のようなものだと思っていたが、今日からは事情が違うのだ。
「……あ、ナルホド」
僕が狼狽していると、鞄の中からアパの呟く声が聞こえてきた。
バレたら困るので、肘で小突いて静かにさせる。
しかし、それが裏目に出た。その動作を不思議に思った彩那が、僕に聞いてきた。
「どうかしたの、クロー?」
「え!? あ、いや……何でもないよ! そ、それより、やっぱり彩那のような純人の黒髪って、綺麗だよね!」
慌てた僕は、咄嗟に思い付いたお世辞で、何とか誤魔化そうとする。
“ファンタジア”では、純人以外の黒髪を持つ種族が、意外と少ないのだ。
しかし、そのお世辞を言った瞬間、彩那は怪訝そうな顔をした。
「『彩那のような純人』って……クローだって純人じゃない」
「あ」
そうだった。
春休みに“予見”の儀とかをやってたから忘れてたけど、僕はこの学校に、自らを純人と偽って入学している。
それは何故か? 答えは簡単だ。
この国の平和を守るためである。
より正確に言うなら、ここ、シュヴァルツシルト龍皇国が中立でいられるのは、この国を治めている“龍”が、純人・亜人・魔人のどれにも属さない“幻獣”だからである。
なので、もし、このシュヴァルツシルトの皇子である僕が亜人だとバレると、亜人側に力を貸す可能性のある危険分子として、魔人たちの侵攻を受けることになるだろう。
だから、僕は自分が“黒龍皇の血統”だと悟られないように、身分を偽っているのである。
が、彩那はそんな僕の考えも知らずに、核心を突いてくる。
「……クロー、私に何か隠してるでしょ?」
「うっ!?」
いくら幼馴染と言えども、僕の身分を簡単に明かすワケにはいかない。
……何が悲しいかって、僕が彩那に悲しい隠してる事が、一つではないことだ。
「い、いやだなー。そんなワケないじゃない」
が、もちろんその事も、彩那に話すつもりはない。と言うか、恥ずかしくてとても口には出来ない、が正しい。
――君は僕のお嫁さん候補だ、なんて。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
感想やアドバイスを、何でも受け付けてます。まだ一つしかなくて、淋しい限りですが。
それでは、次回“入学式から波乱の予感!?(仮題)”をお楽しみに。
以上、現野 イビツでした。