第零話 “予見”の儀
初めまして、現野 イビツと申します。初投稿作品なので、まだまだ未熟ですが、是非楽しんでください!
『……我、今より血族の掟に従い、祈りの詩を紡ぎ出す』
僅かな光と、漆黒の闇が支配する空間に、一つの声が響いた。
『我、世界を統べる黒龍の皇と、世界を救いし聖女の間に生まれ落ちた子……』
それは、硝子で出来た弦を弾いたかのような、繊細で聞く者全てを魅了する少年の声。
『我が尾、我が角、我が翼。それらが闇色に染まろうと、我が心が永久に純白であることを誓おう』
水晶が覆う洞窟の奥、五頭の龍が囲う祭壇の上で、一つの鏡に向かいながら、少年は朗々と唄い続ける。
『だから、我が血族に代々伝わる秘宝――“魔鏡”よ』
少年は、そこで一旦詩を止めるて、突如傍らに置いてあった長剣を掴む。
そして、五頭の龍が覗き込むその前で、少年は白魚のようなその指に、長剣の漆黒の刃を滑らせる。
「――っ!」
篝火に映った少年の中性的な顔立ちが、苦痛で一瞬歪む。
しかし、すぐに何事も無かったかのように、その指から流れる鮮血を鏡面に垂らす。
そして――、
『“魔鏡”よ。我こそは、“黒龍皇の血統”神刃 クロー。我が名と、我が血の下に、我が生涯の番を示せ!』
この“予見”の儀の最後の詩を、少年は唄い終える。
次の瞬間、五頭と一人の眼前で、突如“魔鏡”が輝き始めた。
それを見ていた五頭の中で最も巨大な龍――“黒龍皇”ベクリアルが、自らの息子である少年――クローに問う。
『……覚悟は出来ているか、クロー?』
それを聞いたクローは、龍の血族の証である黄金色の瞳を父に向け、苦笑しながら言った。
「正直に言うと、まだ出来てないんだ、父さん」
『……? 何故だ、クロー? 確かに、お前は今から一年の間、“予見”に示された将来の嫁を守り続けることになるが……お前には簡単なことだろう?』
黒龍皇は、少しばかり驚いたという風に首を傾げながら、息子にそう尋ねる。
この“予見”の儀とは、成体――つまり十六の齢を迎える龍の血族が、生涯の番となる者を“魔鏡”で占う儀式である。 この儀を受けた龍はその後、“魔鏡”に選ばれた者を災厄から守ることになり、見事一年間その者を守りきったら、正式な番と認められる。
そして黒龍皇は、過大評価を一切せずに、自らの息子にとってこれくらい朝飯前だと確信していた。
しかし、当の本人であるクローは、少し諦めを滲ませた声で言った。
「『お前は何かと、常識の埒外にいる存在だ』ってのは、父さんの口癖だったと思うけど?」
『ムゥ、確かにそうだが……』
そう指摘された黒龍皇は、少々狼狽した様子を見せる。
クローの言った通り、彼は純人と龍の間に生まれた世界でただ一人の“龍人”――常識では考えられない存在なのだ。
その特異性を表すかのように、通常十鈔で消える“魔鏡”の光が、一分を越した今も輝き続けている。彼の番の選定が終わらないのだ。
『……ハハッ。確かに、我はそのことをすっかり失念していた。しかし、クローよ。我とて、龍族で初めて純人を娶った龍だぞ? 特異性なら、我とそんな変わるまい』
「そうかな……?」
『そうだ。お前も我の息子なら、雌の一人や二人くらい守ってみせよ』
「いや……、一人や二人ならいいんだけど……」
黒龍皇は、自らの息子を激励する。が、激励された本人はその言葉を聞き、嫌な予感を覚えた。それは、消えることなく徐々に大きくなっていく。
こういう予感は、よく当たる物だ。黙りこくったクローを、黒龍皇が不審に思ったその時。“魔鏡”を見ていた四頭の龍の内、白亜の鱗と紅蓮の瞳を持つ龍――白龍アパティオンが、二人に声をかけた。
『ベクリアル様、クロー様、選定が終わりました』
『おぉ、そうか!』
『……しかしながら、少々問題がありまして』
「問題?」
『はい』
アパティオンの言葉を聞いた一頭と一人は、一回顔を見合わせた後、同時に“魔鏡”を覗き込み――二人合わせて身体を凍て付かせる。
父と子合わせて四つの金色の瞳が見るのは、全部で五つ(・・)の候補者の名前。
アパティオンは静かに言った。
『はい。クロー様には、明日より一年間、この五人を守っていただき、その後に五人全員を娶るっていただきたいと思います』
「………………なんで」
アパティオンの言葉を聞いたクローは、呆然と地面に膝を付く。そして、これから過酷な一年を過ごすことになった少年は――
「なんでこうなるんだぁぁぁああっ!!!」
――心から、自分の不運を嘆いた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます! 感想やアドバイスがあれば、是非教えて下さい! 次回、“第一話 一年の始まり(仮題)”をお楽しみに