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薄倖な第4話:不幸な新生活


「わ・た・し。まこちゃん、言ってみて」

「わた……し」

眞人は暢気な声に言われ、押され気味に言葉をつむいだ。

「違うよ、お兄ちゃん。もっとはっきり言わなきゃ」

「うぅ……」

事故で性別が反転してしまった彼女は、明日からのために、という名目で幼馴染と妹に少女講座を受けさせられていた。

「……何で、俺がこんなことやらなくちゃならないんだよ? そもそも原因は深雪だろ。それに一人称のことなら深雪だってボクって言ってるだろ?」

「だとしても俺はちょっとおかしいよ。早く直してよね。明後日からは転校生の女の子として、同じ学校に通うんだから」

知らなかったことを聞かされ、眞人は目を丸くする。その顔は二人には可愛く映った。

「なんでだよ? 事故なんだから説すればいいだろ。俺……わたしは女の子を演じる自信なんて無いよ」

‘俺’というと二人に睨まれたため、自分の呼び名を直しながら現状を嘆いた。

「大丈夫。そのために今色々と教えているんでしょ」

「それに本当のことなんて言ったら、まこちゃん、変な噂立てられるかもよ。それでもいいの? 男の子に戻ったときにここにいられなくなっても」

「それは……嫌だな」

「ならここは美原眞人っていう男の子じゃなくて、別人の女の子を演じるの。元に戻ったときに、男のまこちゃんがここにいる。それならいいでしょ?」

「……ああ、わかったよ。やればいいんだろう?」

眞人はしぶしぶながら頷いた。

彼女の了解を聞き、深雪は知己のほうを向く。

「知己ちゃん、録れた?」

「うん、ばっちり」

知己は小型の機械を手に、笑いながら答える。

「なんだよ、どうしたんだ?」

「お兄ちゃん。いや、お姉ちゃん、今の答えは女の子教育を受講する意思も入ってたんだからね。自分で言ったからにはハードにいくよ」

 「よかったよ、まこちゃんの同意を得られて」

「え……っと、知己さん、深雪さん、わたしには嵌められたように思うのですが、気のせいでしょうか?」

顔を青くして、今後の不幸を予測している少女に、二人の少女は同時に言った。

「そういうことになるね、頑張ってね」

眞人の顔はますます青くなる。

「今日は女の子の言葉遣いと、服の着方。そこからはじめようか」

「そうだね、まこちゃん、こっち来て。自分で言ったんだから、責任持ってよ」

週末の金曜日、一人の少女に自由な刻はなかった。




土曜日の朝、美原家の呼び鈴が鳴った。

「は〜い」

無用心にも脈絡無くドアを開けたのは深雪。昨日からこの家に泊まりこみ眞人への教育を知己とともにしていた。

「こんにちは……ってあれ?」

「ありゃ、蛍ちゃん」

訪ねてきたのは波多野蛍。長髪が似合う、女子バレーボール部副キャプテン。眞人と深雪のクラスメイトであった。

近衛家は美原家とは隣同士であり、彼女の両親は現在不在である。そのこともあって、昔から美原兄妹には気を許しているところもあった。

「深雪さん、どうして?」

「ちょっとまこちゃんがね、忙しいみたいだったからボクが来たんだ」

さすがに今の眞人をすぐには見せられないのであろう、当人は出さずにそう弁解した。

「あれ、蛍先輩?」

 深雪の後ろからひょっこりと知己が顔を出す。

「どうしました、私に何か用ですか? それともお兄ちゃんにですか」

「お兄ちゃん? あ、そっか。知己ちゃんって美原くんの」

蛍が掌を打ちながら返答をする。

「そうだよ、気が付かなかったの?」

「うん。部活の話は私のほうから知己ちゃんのトコロに行っているし」

苦いながらも元来話好きの蛍は笑う。

「そうそう、伝えないと。知己ちゃん、バレーの休日練習しばらくないの。知己ちゃんだけ電話番号わからなかったからね、部員名簿見たら、幸い私の家からも近かったし、直接来ちゃった」

「すみません、わざわざ。じゃあ、今日明日も無いんですよね。いつごろくらいまでですか?」

「えっと……確か月末くらいまでだったから、2週間くらいね。軽い自主トレくらいはやってよ? 体が怠けないように」

「先輩、それはわかっております」

口元に手を当て教える先輩に、敬礼をしながら後輩は答えた。

「それと……」

蛍は深雪のほうを向、神妙な面持ちで、尋ねた。

「美原くん、大丈夫なの? 放課後だるそうなのを見たけど」

「……」

動揺は隠せていたが深雪は息が詰まった。蛍に対しては背後にいる知己も同様だ。

「大丈夫だよ、まこちゃんには少し実験に付き合ってもらっただけ。今まで見たいに静止の淵を彷徨わせたりしてないよ」

深雪の言葉を聴き、少しだけ蛍の顔は青くなる。

「それって昔は彼、死にそうになったことあるってこと……?」

「そうですね。でもお兄ちゃんなら瀕死な状況に対して、免疫とかつけてそうですけど」

「そんなわけないでしょ。ちょっと本当に大丈夫なの? 彼と合わせてよ」

状況判断の天才とも称させるほどに仲裁と冷やかしが得意な知己にも、蛍のその発言は想像も付かなかった。

「で、でも先輩、先輩が思ってるほどお兄ちゃんが重症ってわけじゃあ……」

「なら大丈夫でしょ。会わせて」

知己はどうして外出してるなどの言い訳をしなかったのか後悔した。

「ぁ……ぅ」

見事なほどのタイミングの悪さで、疲れきった表情の眞人が蛍から見える位置に出てきた。

「誰……知己ちゃんのお姉さん?」

「あれ……波多野さん……?」

今度は言ってしまった後悔を眞人が味わうこととなった。









 美原家の食事等テーブルには、四人の少女が座っていた。

「どういうことなのか、しっかりと説明してください」

西側に座っていた蛍が切り出す。

「えっとねぇ、新しい機械の事故でまこちゃんが女の子になっちゃった。としか説明できないけど」

 「納得できますか! そんなあ非現実な話」

深雪が答えるも聞き入れられない。

キャッチャーとバッターで行うキャッチボールのように成り立たない。

「本当のことなんだよ、認めたくないけど」

顔立ちなどには面影を残している眞人が口を挟む。

「美原くんに似てはいますけど、親戚か何かでしょう?」

疑念のこもった問いに、眞人も顔を曇らせる。

「じゃあ先輩、お兄ちゃんと何か秘密の共有なんかしてません? してるんだったらそれを言ってもらえば」

知己の提案を蛍は呑むが、

「でも、波多野さんと俺はもともとそんなに親しくないし……」

「そうだ」

困り果てている眞人を前に、蛍は思いついたように言う。

「私の親戚の男の子の名前。あの子の名前を答えてくれたら信じる」

蛍の言葉に眞人はひとつの出来事を思い出した。

二ヶ月ほど前、小旅行中に偶然彼女と逢ったこと。そしてそのとき、彼女が幼い少年を連れていたことを。

「確か……いつき……くん?」

「……正解」

蛍は驚いた顔をした後、もう一段階上の驚愕の表情をした。

「本当に……美原くん。美原眞人くん?」

「そうだよ。はぁ、クラスの誰にも、知られたくなかったんだけど」

眞人は嘆息する。

「大丈夫だよ、まこちゃん。蛍ちゃんは人の秘密を暴露するような人じゃないから。ね、蛍ちゃん」

「ええ」

「でも先輩、よくたった一個の答えで信じましたね。あんなに疑ってたのに」

知己がひとつの疑問を口にする。

 「ああ、あの子は遠くに住んでる子でね、この近くで逢ったのは美原くんだけだったし」

「お兄ちゃんが誰かに言ったとかは?」

「人に言っても意味無いことだし、それに、美原くんなら言わないでしょ、ね?」

「うん……それで波多野さん、俺のこと、誰にも言わないでください」

微笑みながら自分を信じる蛍に嬉しさを感じたが、眞人にとって重要なのは自分の正体についてであった。

「それは安心して。誰にも言わない。そのほうがいいんでしょ、深雪さん?」

「うん、そうしてもらったほうがいいな」

そこまで言うと深雪は蛍に近づき、耳元に口をまた近づける。

「後々、同じ情報が伝わると思うけど、蛍ちゃん気にしないでね」

深雪は小声で言った。

「え? それってどういう……」

「あっ、そうだ!」

蛍が聞き返すのをさえぎるように知己が叫ぶ。

「深雪さん、先輩にも協力してもらいません? お兄ちゃんの教育」

「そうだね。それ、いいかも。どう? 蛍ちゃん」

「げ……」

知己の提案、深雪の同意、眞人の呻きが同時に上がる。

「教育って?」

「まこちゃんが女の子として暮らすための教育」

深雪は笑って答える。

「わ、私は遠慮しておきます。用事もあるので」

「そう、残念」

深雪の知己の二人は、参加者が増えなかったことに多少の不満があるような顔をした。眞人のほうも「何でもいいから助けてくれ」」という気持ちがにじみ出ている表情をしていたが、蛍は気づかないようにした。

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