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薄倖な第3話:不幸の始まり(3)

薄倖な第3話:不幸の始まり(3)

 小さな実験室の大きな轟音が止んだ。

 眞人が顔を覆うようにクロスしていた両腕を解き、目を開いた。

「ケホッ」

 目を開くと同時に再開した呼吸は煙たい現場によってすぐに遮断されてしまう。それほどに煙漂う惨状だった。

「まこちゃ〜ん、大丈夫?」

 外からは状況が見えないかのように間延びする幼馴染の声。

「一応はな。何が起きたんだよ?」

 妙に高くなってしまった声で眞人は問い返す。

「あのねぇ、こっくりさんが爆発自殺したみたい。まこちゃんが気に入らなかったのかな? ……あ、もしかして、こっくりさんの名札、赤くない?」

「あ?」

 喉を押さえながら今まで一つの人形があった場所を探る。

 何とか破片と化した名札を見つけだし、文字のところを見た。

「ああ、確かに赤いな」

「やっぱり?」

 深雪は納得の声を上げる。

「赤い字のこっくりさんはね、女性専用なんだ。青いのは男性用で、黒いのが男女兼用。近くにあるはずだけど、ない?」

 左右を見回す。

「……あった」

 本体とともに半壊している赤字と黒字で書かれた名札があった。

「まぁ、とにかくこっち戻って来てよ。話してる分には今回も大丈夫みたいだけど、仮にも爆発の中心にいたんだよ? ボクは医療知識もバッチリあるからさ」

「今回ばかりはそうさせてもらう。俺もだるい。つーか、身体が重い。喉に違和感もあるし」

 眞人はズボンの裾を引きずりながらドアの方へと向かった。





「とりあえず、ここ座って」

部室へと戻った眞人は、知己の用意してくれたローラーの付いた椅子に腰掛けた。

「悪いな、知己」

好意に甘えていることを素直に感謝して、眞人は笑った。

知己はというと、彼を乗せたいすの特性を生かし、車椅子のように深雪がいるほうへと押して行く。

「まこちゃん。どこかおかしなところとか、ない?」

「さっきも言ったとおりだよ、喉が変な感じがする。上半身にも下半身にも違和感は歩けど、一番自分で感じる」

「うんうん」

自分の顔に出てしまう笑みを殺しながら、深雪はメモを取っている。慣れていないのだろう、抑えようとしても時折笑みはこぼれている。

「深雪……その笑い俺は大丈夫なんだと判断していいのか?」

「え? うん、大丈夫みたいだね。でもとりあえず、寝ていたほうがいいかな。そこ、保健室から盗んできたベッドがあるけど、どうする、寝てる?」

小部屋があった方とは逆の、部屋の一角を指差しながら、深雪は聞いた。

「そうだな。悪い、そうさせてもらうわ」

椅子から降り、ベッドへあがった眞人は突っ伏した。そして、うつ伏。せのまま、寝入ったしまったため、残った二人は布団をかけとてやった。

横たわる彼を見つめる二人の瞳は、妖しく光っていた。







日が傾きだした。

眞人が起きたとき、彼の前には幼馴染と妹の二人の顔が、相変わらずあった。

「目ぇ覚めた? お兄ちゃん」

知己が先ほどよりも顔を近い位置に移動させ、また覗き込んでくる。

深雪は一歩後ろに下がり、知己にその場を譲っているようにも見えた。

「ああ……心配かけたな。もう大丈夫だよ。違和感はまだなんか残るけど、だるさは消えた」

「だったらさ、早速なんだけど、現状を把握してもらって、いいかな」

妹は、兄の無事に安堵の声を上げるより先に、そう言った。

「現状? 現状って何だよ。やっぱり俺ヤバイのか?」

心配になって妹の顔を見つめていると、彼女は左手で布団をはぎ、右手で眞人の利き腕である左手を取った。

「知己……?」

彼の左手を知己は彼の頬のすぐ横に触れさせる。

「え?」

何か糸のようなものに触れる感触があった。

「これって……」

間髪いれずに知己は彼の手を今度は彼の胸部に持ってくる。

「ふぇ?」

弾力あるものに触れる感覚、そして触れられるという今までにない感覚に眞人は襲われた。

 それは髪の毛のようであった。

「えっ……えー!?」

「なんか、そうなっちゃったみたい」

「まこちゃん、可愛いから大丈夫だと思うよ」

洒落にならない二人の少女の励ましとともに、

「なんだよ、これ!?」

新米少女は叫びを上げた。


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