宇宙人と僕と彼女
「宇宙人、信じる?」
唐突に僕に言う僕の隣で寝転んでいる幼馴染。
彼女は生まれつき体が動かない。動くのは上半身で腰から感覚がないと言っていた。そんな僕は彼女と昔からの付き合いで、僕は学校が終わってからいつものように彼女の部屋に入っては、ぐうたらと過ごす毎日を送っていた。
「何を突然」
「信じているか信じてないか聞いているの」
「…信じてないよ。あんなのガセにきまってる」
「そうなのか…」
彼女は少し残念そうにため息を漏らし、彼女の後ろにある小さい窓の向こうに広がっている青い空を眺めた。僕は横目で彼女を見た。彼女は不思議なくらいきれいだった。たぶん道を歩けば十人の中から八人は振り返るだろう。それくらいきれいだった。
「…外行きたいのか?」
「え?」
「行きたいのかって聞いてる」
彼女はぼんやりと外を見てから、僕を見た。
「うん」
十一月二十八日…僕は夜になって彼女の部屋に入った。彼女は不思議そうに僕を見るとどうしたのと聞いてくる。僕はぐっとのどにたまったつばを飲むと口を開き声を漏らした。
「外行くぞ」
短い言葉で十分だった。僕は彼女の元へと歩き、ひざの部分と、肩甲骨のところに手を突っ込む。そしてゆっくりと力強く持ち上げた。意識のない体は実は重い。それは体が動かない体も同じだ。しかし損なのはどうでもよかった。
「え、ちょ、ちょっと!」
彼女は驚いて僕の肩を叩く。
「外行きたいんだろう!」
「だ、だけど! もうちょっとやさしく…ね?」
知るか。と僕は一言言って、外へと向かう。何の出来事かと彼女のお母さんは出てきて僕を見ると同時になにをするの! と怒る。
「おかあさん! ごめん! ちょっと外行きたいの」
「だめに決まっているでしょう! こんな夜中に出てどうするの!」
「お願い。私の最後のお願い」
そういうと彼女のお母さんはだまった。
僕が用意したのは原付き自転車だった。しかし原付き自転車は二人乗りを禁止されている。
今夜だけでも見逃してくれと僕はこれからの道中に願った。
「僕の首に手を回せ後ろには乗せれないから僕のひざの上にいろ」
そういって僕は羽織っていたコートを彼女にかぶせた。
「…うん」
そしてエンジンを動かす。最初は危なげに発信したが後は身に任せるように進んでいった。
新しい日になろうとしているとき、僕たちは光のない野原にいた。周りには何もない野原は付近の住民からは月見里の野原と言われていた。
僕は彼女を抱きかかえ、そしてやわらかい草の上に座らせた。
「何をするの?」
「まあ見てろって」
僕は彼女の隣に座ると空を見上げた。空はきれいな星をちりばめていた。まるで黒い布にダイヤモンドをちりばめたようだった。
「最近の話ではさちょっとしたイベントがあってな」
僕はポケットから携帯を取り出して時間を確認する。
「宇宙人とか、UFOとかじゃないけど、僕はこれなら信じれるんだ」
彼女は僕を見ていたけどすっと空を見た。
すると右側にすうっとダイヤモンドが落ちた。ひとつまたひとつとそれは放射線状に落ちる光の雨だった。
「流星群だよ。どうかな?」
「……」
彼女は何も言わなかった。
僕は彼女の顔を見ると、目には大粒の涙がたまっていた。
「うれしい」
「そうか」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「大好き」
「……」
その言葉だけには何も言えなかった。
流星群はいつまでも流れていた。彼女の涙と同じように流れる。この日はとても幸せな日々だった。
彼女はその一ヵ月後亡くなった。
もう長くない命。僕はそれを知っていた。
『最後のお願いだから』
そのことばで僕はすべてを悟ってしまった。
何もかもがあった部屋。その部屋はこぎれいでベットには彼女が寝ているのが普通だった。その彼女はいない。
その部屋に突っ立っていると彼女のお母さんは僕を呼ぶ。振り返るとお母さんは僕に手紙を渡してくれた。そしてお母さんは部屋から出て行った。僕はまた一人だ。足を進めて僕は彼女が寝ていたベットに座る。そして手紙を読んだ。
『私は、UFOを信じるよ』
その一言だけだった。
その言葉に僕は涙を流すしか。嗚咽を漏らすことしかできなかった。