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狂科学時代  作者: アサト
9/19

秋月詩織の日常Ⅱ

放課後の掃除をする。普段の掃除当番とは関係なくその日は二人での掃除。授業を妨害した罪は予想外に重かった。

「教室を二人では…中々つらいな。」

言葉道理に教室を二人で掃除するのは中々に辛かった。二人ともがやるならやるで徹底的にという事で外が暗くなる程度までは時間がかかった。

ゴミ捨てを終えた詩織が机に居座り、足を組む。今日はいつものゴスロリでは無く黒のドレスを着飾っている。詩織の他の追随を許さない服装センスは狂科学も真っ青だ。

自分の視線を感じてか、詩織は赤らんで足を閉じた。

「後は先生に言いに行くから、詩織は先に帰ってな。」

「え…うん。でも…この頃物騒だし。それに凜子ちゃんだって・・・」

詩織は黙ってうつむいてしまった。

凛子は家に引きこもっている。源葵の死後、凜子は精神を病んだ。

凛子の家は俺や詩織たちとは違い本当の家族が居る。だから、凜子は幸福に対して一種の無価値を持っていると同時に自分の持っていない不幸という部分に惹かれていた。

そういう立場で人あたりも良く近くに居たのが源葵で凜子は特に彼女に懐いていた。

秋人から言わせれば元々精神が安定しない所が多数あったが、それでも彼女はココに居たのだ。

樹は今まで伏せてあった事実を凛子に話した。それは樹が同じ立場に立つであろう決意の表れだった。

それを受け止められず、源葵の死を伝えた翌日凜子は学校に来なくなった。


「なぁ、詩織。この世界ではさ。犠牲ってどこまで許されるんだろうな。」

自分でも呆れざるおえない。自分という存在自体が完全な『人間』を目指し作られた筈なのに。

これから起こる事についての少なからずの犠牲。もう決めた事なのに秋人にとっての心と呼ばれるであろう部分が拒絶している。

心が落ち着かない…のか。

実際この街に着てから葉月秋人は心という物の存在を完全な人間を作る上で無視できない事を確信している。

旧史上のアリストテレス、プラトン有名な哲学者は全て抑えているといっても過言では無い秋人のデータベースのどの知識も明確な心という物を掴んではいないように感じていた。

それは葉月秋人が本来の偉人である彼らとは一線を隔している事。その境界線は『人間』。

だから、秋人にとっての心は本来の人では計れないのかもしれない。

「例えばさ人間は飯を食うだろ。俺だったら詩織の作る弁当かもしれないしそうじゃないかもしれない。でも、その弁当の食材の肉や何かは別の生き物だった物だ。」

「凄い哲学だね。それで?」

「小学生じゃないが、生き物って『生きてる物』だろ?なら、自分はそいつを命があるって認めてるって事だ。それなのに…人は食べる。それだけじゃなくて無責任に捨てたりしてた。」

昔の資本主義の時代は今の比じゃなかった。秋人もデータでしかしらないが、それは惰性で殺し生きていた時代だと考察している。

曰く資本主義は人を殺していた。だから、滅んだ。

そして今の様な小国に分かれ世界は退屈と別れを告げ『狂科学時代』というくだらない玩具を手に入れた訳だ。

詩織は首を傾げ、秋人を仰ぎ見る。目には困惑と疑問の感情が浮かんでいた。

「急にどうしたの?秋君らしくないな。私に相談なんて。」

言われてみて始めて気付いた。思考の死角とも言える場所にその考えはあった。

葉月秋人に組まれたモノは元々その為だった筈なのに相談してしまった事に失笑してしまう。

「そうだな。そういうこともあるのかもしれないな。ごめん。俺が悪かったよ。」

「ううん。秋君違うんだよ。秋君がいつもと違うってだけだよ。」

詩織はスカートを両手でぎゅっと掴み、恥ずかしそうに伏せ目がちに言葉をつづける。

「ただ…秋君を近くに感じたんだよ。なんだか人間みたいだなって。」

「ひどいな。俺は人間じゃないってのか?」

「そういうんじゃなくて。初めて秋君を見た時人形みたいだと思ったの。顔立ちが綺麗で無表情なのがね。」

「でも今は顔が柔らかいよ。こんなの言うと自惚れててるのかもしれないけど秋君楽しそうだよ。」

「自惚れだな。」

間髪入れずに投げ返す。待ってたかのように詩織が笑い自分笑う。

教室に笑い声が響いた。それがなんだか心地良かったのに今の葉月秋人は気付けなかった。


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