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狂科学時代  作者: アサト
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再会

全力で実験体を蹴り飛ばす。屋上の扉にぶつかりゲホゲホと汚物を吐き出し、再生する。

『ここはどこだ?』

真っ白い草原に秋人は居た。草原というよりはただの原っぱといった方が適切なのかもしれない。

周りを確認しても誰一人居ない。

『確か俺は実験体に燃やされたんだっけ。あんなに宣言したのにカッコ悪いな。ということはもしかしてここって死後の世界って奴かな。』

そう思うと感慨深くなったのでもう一回周りを見渡してみる。そして頭の中で無限思考を使おうとしても使えない。

『死んだら、狂科学も無しか…。俺って本当に無様だな。誰も守れず、意思も貫けず死んでいった。これ以上の最悪は無いな。』

草原に寝転がり目をつむる。

『ごめん…。これで終わりかも。』


『馬鹿かお前は死後の世界なんてあるわけが無いだろ?あるとしたら聖者の妄想かおまえ自身の妄想だ。』

目を開けた先には赤毛の男が居た。秋人に父親と呼ばせていたあの男が…。

景色もさっきまでとは違いビルが草のように生えている。そして蟻のように行き交う人々。

それぞれスーツを着てネクタイを縛り、同じような速度で歩いている。

『おい。こっちを向け。折角お前にセカンドチャンスを与えてやろうというのに。』

『ちょっと待て。俺は死んだんじゃないのか?大体お前は誰でここはどこだ?』

『まぁ、いいだろう。ココでの時間は永遠だが、現実では一瞬とも満たないんだ。話をしようか。』

赤毛の男は呆れた口調で語りだした。

『まず、最初の疑問に答えてやろう。返事はどうした。』

『ああ。頼む。』

『結論からいうとお前の未来は死だ。確実にお前はあの場で死んでいる。この場所から逃げた瞬間にお前の首の骨は折られて首と胴体が永久におさらばかもしれないな。そして第二の質問だが、お前は誰だか…。これは答えづらい。お前を作った時にお前にはロックを掛けた。それに関するただの説明役それ以上でも以下でも無い。分かるか?』

これは無限思考を発動した状態だから無限思考が使えない。更には今までブラックボックス扱いしていた思体置場の中身がこのビル群という事。そして俺自身の狂科学『無限思考』の説明役がこの目の前の男だという。それ以上でも以下でもない事実。

『待ってくれ。説明という事は俺はこの無限思考を使いこなしていないという事なのか?』

『いや…。そこのところに関しては説明がしづらいな。』

赤毛の男は頭を掻き数秒悩んでこう続けた。

『葉月秋人は無限思考を完全に使っている。この能力は確かにお前の思っている通り無限の思考の中から未来を推測し、あわよくばその未来さえも変えてしまおうという能力だ。だが、お前は自身について勘違いしている。』

『勘違いだと?』

『その通りだ。お前は他の実験体とは違い自由が与えられている。だからお前がたとえ秋月詩織とイチャラブな生活を送ろうがお前の自由だ。だからお前がどんな生き方をしようとも自由だ。』

『…』

黙るしかない。衝撃を受けたところは自由だと言われたことではなく秋人のこれまでの行動も想定内といわれたも同然だということにだ。

『肝心の話はお前にかけたロックについてだ。結論からいうとお前は機能を封印された状態にある。』

『…だからどうする。俺はもう少しで死ぬんだろう。ならば俺には関係ない。関係ないんだ。』

感情を吐き捨てる。どうせこれは密室の中身。狭い密室-秋人の脳内。

『最後だから言わせて貰うとな、あんたの言うとおり俺は人間になりたかった。確かに俺はお前に拾われなければ死んでいた。でも…それでも』

『俺は樹や詩織と一緒に行きたかった。狂科学とか関係無く毎日馬鹿みたいに笑いたかった。』

いつも感情を風化させるであろう無限思考もココでは使えない。自分の中で起こった問題も自分の中での悠久の時間が全て解決してくれる。それはただの自己完結だが、秋人のノイズをかき消してくれる。

それが今は無い。だから秋人は生まれて初めて感情を爆発させている。


『それだよ、秋人…。』

赤毛の男は不意に呟いた。


『おめでとう秋人。第三の鍵になる『生存意識』と第一の鍵『感情』だ。』

赤毛の男は腕を差し出し中世の騎士のように屈みこむ。掌の中には二つの鍵。遜色もない黄金の鍵。

『説明を第一の鍵『感情』についてだが言うまでもなくお前には不必要な物だ。だからこそお前はそれを理解しなければならない。何故ならお前以外の全員は感情にしたがって生きているのだから。』

大げさに劇のように身体を使って男は表現する。

『そして第三の鍵『生存意識』だが…。』

男はそこで話すのを辞めた。くるりと回り秋人から目を離し後ろを向き指をパチンと鳴らした。

世界は真っ暗になった。さっきまでのビルや人込みも何も無いただの闇。人が常に恐怖を持ち続けた畏怖の対象である闇。

『話すのは終わりだ。お前は五つの箱から好きな箱を選び解錠しろ。中には機能が入っている。』

目の前には五つの箱。四つの金色の箱と一つの黒箱。

『ただし、その黒箱は辞めておけ。そいつは最後の鍵じゃないと開けられないからな。』

『中身についての説明は?』

『無い。というよりはできないといった方が正しい。』

秋人の口から『はぁ?』と言葉が漏れる。

『言っておくが、俺はその中身については全く知らない。つまりno touchだ。』

『意味が分からないぞ。俺を作ったのはお前だろう。』

赤毛の男はあからさまなため息をつき、めんどくさそうに空を見上げた。

『お前を作ったのは俺を含めて五人だ。俺が作ったのは無限思考を使った■■■■へのアクセス方法の理論だけだ。』

『あぁ?なんだって』

『おっとすまない。まだ、この言葉はロックが外れてないらしいな。』

『どういう意味だ?』

頭が割れるように痛い。さっきの言葉の聞き取れない部分を聞いてから加速度的に痛くなる。

いや聞き取ってはいるのだろう。だからさっきのが言葉だと頭の中が理解している。

『今は深く考えるな。現実に戻れば考える時間なんて幾らでもあるだろう。』

男はマントをひるがえし、後ろでに手を振りながら暗闇を歩いていく。

『まぁ、がんばれ。現実の俺にあったらよろしく言っといてくれよ。』

音もたてずに赤毛の男は消えていった。

消えていった男から視線を切り返し、箱に振り返る。何の感慨も無いといえば嘘になるが、自分の中の赤毛の男に会えたのは少し嬉しかった。

『そういえば名前を聞くのを忘れていたな。』

無限思考が無いと取りこぼしがあるから大変だ。

狂科学が無い。この状態が普段の樹や詩織の状態か頭では理解しているつもりだったが、実際に体験すると違うんだな。

『悩んでいても仕方無い。まあ開けてみるか。何が出るやら。』

端の箱から順に秋人は二つ開けた。中に入っていたのは力だった。


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