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狂科学時代  作者: アサト
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狂科学対狂科学Ⅱ

地に伏せた獣が疾走する。予備動作も何も無く、一直線に秋人目掛け疾走する。

秋人は指に嵌めた指輪を復元する。。

復元した技術は『形状記憶金属』。これも彼が世界にもたらした狂科学の一部。

使い方は文字通り形状を金属に記憶させ条件に従い復元させるという物。

しかし、この技術が破格と言われる由縁は復元させる金属に制限が殆ど無いところだろう。

文字道理コレは特定の金属ではなく金属郡を加工させる技術体系を意味したのだ。


秋人にとって取るべき戦略は決まっている。与えられた情報を整理考察し導き出した複数の結論を効率良くつぶす。

注意点は一つ相手に触れられない事。

『なら…』

一瞬の長考。それも秋人の精神世界での事で現実時間にすれば測るのも馬鹿らしい程の時間の長考。

「vwr1.銃」

復元した姿は大銃。秋人でも宙で撃てば身体が吹き飛ばざる負えない程度にはこの銃は大砲である

しかし、この銃で特筆すべきは銃自身の大きさでは無い。特筆すべきはその銃口。直径は約20cmの大筒。

秋人は復元した銃を確かめ走り出す。お互い考える間すらない一瞬での駆け引き。優勢は秋人。無限思考は数千数億の攻守を予想する。

迫りくる実験体の右腕を掴み、空中に投げる。片腕で弾を詰め照準を合わせ引き金を引く、瞬間爆音。自称不死者の頭が吹き飛んだ。

後ろに跳躍し、間合いを取る。案の上、傷口から白い炎を弾けさせ復元した。

『空間を捻じ曲げている訳ではないんだな。』

内心良く思ってはいないが、予想外の自体が起こっていない事に若干安堵している。

『ここまでは大体教授の言った通りで傷を受けたらその箇所が燃え盛り再生する。』

ゼロ距離での射撃。さすがにこの大質量を一瞬で無効化するだけの空間跳躍または歪曲は考えにくい。たとえ狂科学だろうと不可能な事は存在する。

秋人の神経及び全感覚は『無限思考』の監視下にある。

『つまりアレは幻の類では無く。現実に貫いていた。』

超回復の類では頭部の再生は不可能。更には白い炎の説明ができない。

考えられる可能性を手当たり次第潰していく。

結論、予想していたケースの中では最悪のパターンが当てはまった。

「どう分かった?俺の狂科学の『中身』?」

得意げに腕を組み投げかけられる。その顔には笑みが走っていたが、その笑みからは分かるわけが無い『嘲笑』の感情。

他者の上に立つ『優越感』。分かりたくも無い感情が入り混じっている笑みだ。

『愚図が…』頭の中で吐き捨て思考を整理する。

「世界による抑止力による実際に起きた自称に対す世界の修正または運命的抑止力といわれる物の類だろう。」

間髪入れず答える。狂科学と対を成す運命学。恐らく、相手の着けている武装は狂科学の物では無いのだろう。

その証拠に相手の起こした事象には変化が無い。あるのは漠然とした死ななかったという事実と白い炎だけ。

「その白い炎が世界から修正を受けている時の現象なんだろう。俺も初めて見たがそれが力ある『抑止力』だよな。」

『曰く、世界は狂科学を受け入れない。』

これが運命学の第一文。世界で今最も流行っている教団<カルト>の聖典だ。

最もタチが悪いのはこのカルトを立ち上げたのは狂科学者である事だが今はそんな事どうでも良い。

この運命学は誰がどうという話では無く、世界が我々をどう捉えているかというのを題材にしている。

そこで出てくるのが『抑止力』という単語である。

例えば、人間を壁にぶつけてみよう。それも物凄いスピードでだ。

すると、電子の塊である配列の隙間を通って壁をすり抜ける人間が何兆分の1という確率でいる。

それが旧学問の考え方の一部であった。しかし、運命学はコレを可としない。

具体的に云うとそれを世界が許さない。

その現象が現実で見えないのは、世界が『人が壁をすり抜けるという現象』を認めていないから、または認識しないからという考えが運命学である。

「うん。正解かな。これは狂科学の一部である運命学の一部を利用した力らしいね。自分でも良く分からないけど、俺は初めから死んでるから世界は俺を殺せないらしいよ。」

声を出して、実験体は笑い出す。この事実はカレが人では殺せないという事を意味するだけでなく、秋人に現状カレを殺す手段が無い事を意味している。

「どうする?尻尾を巻いて逃げるかい?それとも、命乞いでもしてみる?ほらよく考えてみなよ。ヒャハハハハ」

木霊する笑い声が屋上に響く。それとほぼ同時に実験体の周りに銀色の炎が円を描き、秋人を包む。

「これで逃げられないけどね。」

秋人の中の線が切れた。秋人も笑い出す。

二人の男が笑っている。一人は迫り来るであろう絶対的快楽に、もう一人は前の男が馬鹿らしくて。


「馬鹿馬鹿しい。お前も嬉しそうに語るな驕るな間違えるな。いいかよく聞け『抑止力』は世界の為にしか働かない。もし、働いていたとしたらそれは抑止力じゃない狂科学だ。」

達者なピエロの仮面を被るのは止めだ。コイツを煽てさせる理由なんて無い。もう分かったからコイツを庇う理由なんて無い。

「知ってるか?相対性理論では時間を歪ませるのは空間を歪ませるのと同意義なんだよ。それともう一つ質量とエネルギーが同意なんだ。」

呆れた口調で秋人は語る。ただ単に敵にとっての内臓を臓物も中身をぶちまける。

たとえ中身が腐った紫色の野菜ジュースでも秋人は飲み干せる。その為の器、その為の『無限思考』。

「それは昔から見られた現象の一つだったんだよ。火の色は低温だと赤く高温だと青くなっていく。そして、ある一定の温度を超えると白くなる。そして更に温度を上げると銀に近づく。」

例えを上げるなら、火を起こすと、周囲の空間が熱で歪む。それは日常で起こる現象としては些細な物だが、見方を変えると人間の異常か空間の歪み。人間側からすると空間の歪みであり、世界側から見ると人間の認識の異常。要するに唯の熱での空間の揺らぎ。それを世界が抑止力で修正する。結果、発生する能力は一定時間自分自身の身体の状態を逆行させる能力。

種明かし。相手のジュースの中身を言い当てメチャクチャにする。

その瞬間がたまらなく『気持ち良い』。

「種は簡単だ。お前は超熱量で空間を歪ませ時間を逆行させているんだよ。」

「証拠は?」

実験体は震えて問い返す。

その震えが何を意味しているか、秋人は正確に掴み断言する。

「怯えてるな。俺に。俺の狂科学に。」

「聞いてるのは俺だって言ってるだろーーーー。」

激昂。もう理では抑えきれない所まできているのだろう。実験体にとって中身はそれほどまでに大事で大切な物なのだから。

「何なら試してみるか?お前が俺も燃やす事ができるかについてだ。断言してもいいが、不可能だ。何故なら、俺はお前に捕まらないし、触ってやらない。」

実験体は葉月秋人に飛び掛る。殺すという明確な殺意を持った跳躍。

しかし、秋人はおくすことなく右足を穿つ。衝撃で実験体は吹き飛ぶ。

「ほら、銀の炎で直ぐに直るだろう。この距離でなら空間が歪むのも視認できるしな。」

だが、それも数の問題だ。数とは弾数(だんすう)残数ざんすう。秋人の銃の弾は全部で五発装填できる大砲、比べる実験体は残機ほぼ無制限。

つまり弾が銃身に無くなった時にこの距離は保てなくなる。

「何発装填できるか知らないけど、俺より多いって事はないよな。」

実験体も理解していた。この戦いに『接近戦』を避ける手立てが無い事に。

「その通りだ。銃身には残り三発。」

秋人は思考する。現実に与えられている判断材料の中でコイツに勝つのは不可能だ。

最たる原因が実験体の基本性能つまり身体能力は秋人のそれを軽く凌駕する。最初から覚悟していた事とはいえこの差は思ったよりも重たかった。そもそも戦っている土台が違う。秋人は狂科学で狂化されているとはいえ実体があり、実験体には実体が無く身体は高エネルギー体で構成されている。つまり実験体には制限が無い。

最初の一撃は無限思考でどうにかなったが、次の一撃は最初に秋人が一撃を入れても耐えて触られたらそれで終わりだ。

『あと、2発。』

銃身の弾が減っていく。弾の数は秋人の残りの時間と直結している。

『なら簡単だ。できるだけあがく。』

思考する。内容はこれからの手順ではなく、思い出。この一年で過ごした思い出とほんのちょっとの父親との記憶。

そして最後の一発を撃ち終え、実験体と対峙する。身を構え万全の体制を取ってなお葉月秋人は実験体につかまった。


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