狂科学対狂科学
「早かったな。それも当然か。お前が自ら指定した場所まで来てやったんだからな。」
学校の校舎を駆け、階段を飛ばし辿り着いた屋上で待ち受けるは実験体。
憎い憎い悪役の座を自分から取りに行った愚か者。
「驚いただろう?人質にさらった人間がメモを持っているなんてさ。」
『詩織が殺されていたら、どうした?』『犯されていたら』『嬲られていたら』『切り刻まれていたら』…。
頭の中に浮かぶ最悪の選択肢が事実を知り、承諾した事で消滅する。
危惧していた事はコレで全て無くなった。
後は、コイツを倒して生きてこの街を去る。それで全てが終わり、始まる。
『葉月秋人』が終わる。
胸の中に火が灯る。逃げ出したくなる様な焦燥感。
ああ…。コレが『悲しい』という感情か。
「どうしたの?走馬灯でも見てるの?」
安い挑発をかけてくる実験体を見直す。教授から聞いた実験体と相違ない。
「安心しろ。勝つのは俺で負けるのはお前だ。それにどうした前にあった時より、口が重いじゃないか。何かあったのか。」
明らかに前の校舎で見た時とは様子が違う。
例えるなら、酔っ払いの会社員とそれを送り届ける運転手。要するなら気分が浮ついていない。
恐らく、狂科学の実験体を殺せば頭の中で興奮物質でも作用するように設定されているんだろう。
「すっきりするんだよ。お前らみたいな狂科学の実験体を殺すとさぁ。」
-正解
どうやら俺はこいつもこいつを作った狂科学者も好きになれそうに無いようだ。
それは秋人を作った狂科学者も同じ事だ。
思考の海に浸り、相手の腸を抉って曝け出す行為自体に快楽を得るというプログラムを植えつけた狂科学者と自分自身も例外では無い。
だから、葉月秋人は自身が嫌いでそれ以上に目の前に居る実験体が許せない。現実を見させられるから。
『決して俺は樹を詩織を好きになってはいけない。』
そう。どんな無機質な俺ですら愛情っていうのは伝染していくんだから、そんな俺が愛を伝えるわけにはいかない。
「教えてやる。世界で一番大切なのは『愛情』だ。だから、俺達は居てはいけない。俺達みたいな実験体が人を殺す事で憎しみが生まれる。そして、人が狂科学に手を出して狂いだす。」
認めたくは無い。秋人と目の前に居る実験体は同じ。狂科学者の欲望を満たし、果てには人の死すらもいとわない。
「俺がお前の立場ならお前のように人を認めない実験体になってたかもしれない。だから、お前が許せない。」
湧き出る感情は憎悪。パラレルの自身を見てるようで目の前の現実が許せない。
「御託は良いよ。お前に俺は殺せない。俺にとってはそれだけだから。」
実験体は深く深く沈み構えを取る。それは地に這う獣の様に顔を伏せる。
「始めようか。俺の能力名は『絶対不死者』。文字通り死にもしないし、朽ちもしない。絶対無敵の狂科学。お前は?」
敵はどうにもなく自分の解説を始めだした。本来それを暴くのが俺の狂科学の真骨頂なんだが。
その上こちらにも解説を求めだしている。本来なら聞き届ける理由も無いが、いいだろう。
今日の秋人は気分が悪い。だから、ずたぼろにしてやる。本来隠しているであろう物を暴き殺してやる。
「能力名『無限思考』。文字通り夢見がちなただの厨二病だよ。」
元々秋人の能力は敵に知られようがどうでも良い。
だから高らかに名乗ってやった。それを皮切りに戦闘が始まった。