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相部屋クライシス

作者: 葉月はるか
掲載日:2026/10/20

「部屋が相部屋しかない?」


宿屋のおばさんが申し訳なさそうに言った。


「今日観光のお客さんと冒険者の方たちがすごく多くてねぇ……申し訳ないんだけど、相部屋でもいいかしら」


カルミアでの二日目の夜、昨日と同じ宿でまさか空き部屋がないとは。

俺とそめちゃんは顔を見合わせ、続いてアリッサム、ティアさん、エキナさんを見た。


「俺は構わねーぜ、かーちゃん」

「……部屋がないのでは仕方ないな」

「俺も大丈夫よアオイ!」


ティアさんだけ若干不服そうな顔をしていたが、皆の了解が取れたので、二階の大部屋へ向かう。


「いち、にい、……うんうん人数分ベッドはあるな」

「当たり前だけど広いわね!ちょっとテンションあがっちゃう」

「で、誰がどこに寝るよ?」


アリッサムの一言に、俺たちは静まり返った。


これは争奪戦、戦いだ。

誰の隣がいいとか、真ん中は嫌だとか、窓際がいいとか。

誰しも寝床にこだわりはあるだろう。

俺たちの視線は交錯し、火花を散らした。


「俺は大柄だから、はみ出してもいいようにキングサイズのベッドがいいわ」

「ずりぃぞエキナの兄ちゃん!俺だって寝相悪ぃからでけぇベッドがいいぜ!」

「アリッサムの寝相が悪いのは予想通りだが、寝相が悪いなりに床に落ちてればいいだろう。ここは公平に決めようじゃないか」

「誰が予想通りだティアの野郎!!」


……駄目だ。『異世界三人組』に勝てる気がしない、そう思ってそめちゃんを見る。

そめちゃんは手のひらをぱん、ぱんと叩くと、『はーいそこまで!』と仕切り直した。


「皆、大きいベッドに寝たいし、それぞれ言い分はあるよな?だったら話し合いより、俺たちの世界のとっておきの方法で決めないか?」

「「とっておき…?」」


そめちゃんはグー、チョキを作ってみせる。

なんて事のない、じゃんけんだ。


「……何だそれは」

「ふふ、これはね……『岩』『刃』、それらを包み込む『紙』を表しているんだよ。言わば三つ巴の闘いを表現した、とっておきの拳法さ」

「そめちゃん変なこじつけしないでよ」


この担任は時々大ボラを吹く。授業中に得意げに話すのを何度か聞いたけど、誰もひっかからないのでよくいじけていた。


ルールをアリッサム、ティアさん、エキナさんに説明し終えたところで、いざ尋常に。


「じゃん!」

「けん!」

「ぽーい!!」


……じゃんけん勝負を勝ち抜いたのは、俺だった。


「な、なんか悪いな……」

「この勝負は平等だからね!文句いいっこなしだよ!」

「かーちゃんなら仕方ないか」

「うむ、アオイならまだ許せる」

「そうね、パーティで一番小柄なアオイがこの大きなベッドに一人……ちょっと可愛いわ!」


ーーーというわけで、部屋の中心の大きなベッドに寝転がっているのである。


今日も色々あったな。

明日、依頼主のおばあちゃんに捕まえたカーバンクルを見せてあげよう。

町の外に置いてきたケルベロスも心配だな、一人で心細くないかな。


……などと考えていると、左隣のベッドから呪詛が聞こえてくる。


「………殺す……俺を馬鹿にした奴ら全員呪い殺す……」

「寝言!?怖いよティアさん!」


ぎょっとして左隣を見ていると、後ろからタックルをかまされた。


「うーん……クマちゃん……クマちゃんどこ……」

「アリッサムクマのぬいぐるみと寝てるの!?俺ぬいぐるみじゃねーし!」


俺に抱きつくその腕を引き剥がしていると、窓際から爆音のいびきと素振りのような音が聞こえてきた。


いびきはそめちゃんとして。

シュッ、シュッ、ていう音は何!?


ベッドから起き上がると、横たわったまま殴る、蹴るポーズを繰り返しているエキナさんが見えた。


「うう……父ちゃん……もう特訓、やだ……」

「エキナさん!嫌ならやらなくていいよ!ていうかお願い!やめて!そめちゃんに当たる!」


泣きながら宙を殴っているエキナさんを止めたいが、自分に当たりそうで怖くて止められない。


「だ、誰かー!誰かエキナさんを止めてー!」


するとそめちゃんがすくっと立ち上がり、ぱん、と手を叩いた。


「はい、HR終わりー、気をつけて帰れよー」


「……終わったの?」

「帰るか」

「かーちゃん……ムニャ……」


寝言で返事してるこの人たちは、一体何なんだろう。

どっと疲れてベッドに入りなおす。


翌朝、誰よりも早く起きたのはそめちゃんだった。

アリッサムはクマのぬいぐるみを求めて部屋の隅まで転がり、ティアさんは朝から何やら呪いの言葉を吐いていたし、エキナさんは枕を抱きしめて泣いていた。


「いやー夢の中でも授業してたな!もう職業病だな!」

「な、何だかすごく体が痛いわ……?やっぱり旅で緊張してたのかしら」

「部屋の隅まで転がり続けるとは、どういう神経をしてるんだアリッサム」

「うるせえよ、お前は何朝から『殺す』だの『死ね』だの物騒な言葉ぶつくさってんだよ!辛気臭ぇな」


俺は思った。

皆でわちゃわちゃするのは楽しいが、やっぱり早く一人部屋に帰りたい、と。

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