相部屋クライシス
「部屋が相部屋しかない?」
宿屋のおばさんが申し訳なさそうに言った。
「今日観光のお客さんと冒険者の方たちがすごく多くてねぇ……申し訳ないんだけど、相部屋でもいいかしら」
カルミアでの二日目の夜、昨日と同じ宿でまさか空き部屋がないとは。
俺とそめちゃんは顔を見合わせ、続いてアリッサム、ティアさん、エキナさんを見た。
「俺は構わねーぜ、かーちゃん」
「……部屋がないのでは仕方ないな」
「俺も大丈夫よアオイ!」
ティアさんだけ若干不服そうな顔をしていたが、皆の了解が取れたので、二階の大部屋へ向かう。
「いち、にい、……うんうん人数分ベッドはあるな」
「当たり前だけど広いわね!ちょっとテンションあがっちゃう」
「で、誰がどこに寝るよ?」
アリッサムの一言に、俺たちは静まり返った。
これは争奪戦、戦いだ。
誰の隣がいいとか、真ん中は嫌だとか、窓際がいいとか。
誰しも寝床にこだわりはあるだろう。
俺たちの視線は交錯し、火花を散らした。
「俺は大柄だから、はみ出してもいいようにキングサイズのベッドがいいわ」
「ずりぃぞエキナの兄ちゃん!俺だって寝相悪ぃからでけぇベッドがいいぜ!」
「アリッサムの寝相が悪いのは予想通りだが、寝相が悪いなりに床に落ちてればいいだろう。ここは公平に決めようじゃないか」
「誰が予想通りだティアの野郎!!」
……駄目だ。『異世界三人組』に勝てる気がしない、そう思ってそめちゃんを見る。
そめちゃんは手のひらをぱん、ぱんと叩くと、『はーいそこまで!』と仕切り直した。
「皆、大きいベッドに寝たいし、それぞれ言い分はあるよな?だったら話し合いより、俺たちの世界のとっておきの方法で決めないか?」
「「とっておき…?」」
そめちゃんはグー、チョキを作ってみせる。
なんて事のない、じゃんけんだ。
「……何だそれは」
「ふふ、これはね……『岩』『刃』、それらを包み込む『紙』を表しているんだよ。言わば三つ巴の闘いを表現した、とっておきの拳法さ」
「そめちゃん変なこじつけしないでよ」
この担任は時々大ボラを吹く。授業中に得意げに話すのを何度か聞いたけど、誰もひっかからないのでよくいじけていた。
ルールをアリッサム、ティアさん、エキナさんに説明し終えたところで、いざ尋常に。
「じゃん!」
「けん!」
「ぽーい!!」
……じゃんけん勝負を勝ち抜いたのは、俺だった。
「な、なんか悪いな……」
「この勝負は平等だからね!文句いいっこなしだよ!」
「かーちゃんなら仕方ないか」
「うむ、アオイならまだ許せる」
「そうね、パーティで一番小柄なアオイがこの大きなベッドに一人……ちょっと可愛いわ!」
ーーーというわけで、部屋の中心の大きなベッドに寝転がっているのである。
今日も色々あったな。
明日、依頼主のおばあちゃんに捕まえたカーバンクルを見せてあげよう。
町の外に置いてきたケルベロスも心配だな、一人で心細くないかな。
……などと考えていると、左隣のベッドから呪詛が聞こえてくる。
「………殺す……俺を馬鹿にした奴ら全員呪い殺す……」
「寝言!?怖いよティアさん!」
ぎょっとして左隣を見ていると、後ろからタックルをかまされた。
「うーん……クマちゃん……クマちゃんどこ……」
「アリッサムクマのぬいぐるみと寝てるの!?俺ぬいぐるみじゃねーし!」
俺に抱きつくその腕を引き剥がしていると、窓際から爆音のいびきと素振りのような音が聞こえてきた。
いびきはそめちゃんとして。
シュッ、シュッ、ていう音は何!?
ベッドから起き上がると、横たわったまま殴る、蹴るポーズを繰り返しているエキナさんが見えた。
「うう……父ちゃん……もう特訓、やだ……」
「エキナさん!嫌ならやらなくていいよ!ていうかお願い!やめて!そめちゃんに当たる!」
泣きながら宙を殴っているエキナさんを止めたいが、自分に当たりそうで怖くて止められない。
「だ、誰かー!誰かエキナさんを止めてー!」
するとそめちゃんがすくっと立ち上がり、ぱん、と手を叩いた。
「はい、HR終わりー、気をつけて帰れよー」
「……終わったの?」
「帰るか」
「かーちゃん……ムニャ……」
寝言で返事してるこの人たちは、一体何なんだろう。
どっと疲れてベッドに入りなおす。
翌朝、誰よりも早く起きたのはそめちゃんだった。
アリッサムはクマのぬいぐるみを求めて部屋の隅まで転がり、ティアさんは朝から何やら呪いの言葉を吐いていたし、エキナさんは枕を抱きしめて泣いていた。
「いやー夢の中でも授業してたな!もう職業病だな!」
「な、何だかすごく体が痛いわ……?やっぱり旅で緊張してたのかしら」
「部屋の隅まで転がり続けるとは、どういう神経をしてるんだアリッサム」
「うるせえよ、お前は何朝から『殺す』だの『死ね』だの物騒な言葉ぶつくさってんだよ!辛気臭ぇな」
俺は思った。
皆でわちゃわちゃするのは楽しいが、やっぱり早く一人部屋に帰りたい、と。




