春隣⑦
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
ついに、転入学試験の日を迎えた。
浩一は着慣れたI高校の制服に身を包み、緊張した持ち味でH高校の試験会場へと入った。
しかし、教室を見渡した浩一は思わず息をのんだ。
制服姿の受験生はごく僅かで、周囲を見渡せばカジュアルな私服や、仕事帰りと思われる作業着姿の受験生ばかりで年齢層もバラバラ。これまで経験したことのない、どこか歪で大人びた空気が教室全体に漂っていた。
やがて試験が始まり、問題用紙が配られた。
鉛筆を走らせ解答を進めていくうちに、浩一はあることに気づいた。
目の前にある問題の多くが、I高校での2学期の中間テストや期末テストと驚くほどよく似ているのだ。
一度しっかりと解いたことのある傾向の問題ばかりだったため、ペンは止まることなくスラスラと進む。その手応えは他の科目でも同様だった。
試験をすべて終えた時、浩一の胸には確かな手応えと自信が満ちていた。
(桐通……お前はいつも、こんな感覚でテストを受けてたんか?)
やりきった充実感を胸に試験会場をあとにしようとした、その時だった。
作業着を着た、髪の毛が綺麗な金色に染まった同年代と思われる男性から声をかけられた。
「お兄ちゃん、試験どうやった? 出来たか?」
「うん、結構できたと思う」
「やっぱりな。見るからに頭良さそうな顔しとるもん。……なぁ、なんでこんな学校受けてんの? お兄ちゃんやったら、普通の全日制でもっと上の学校行けたやろ」
「……まあ、ちょっと訳ありでね」
浩一が言葉を濁すと、金髪の青年は「ふーん」と納得したように頷いた。
「そっか。まあ、定時制に来るヤツなんて、みんな何かしら訳ありのヤツばかりやからな」
「そうなんや……」
「見かけがイカツいヤツとか人相悪いヤツも多いけどな、中身は根のええヤツばかりやで。見かけだけで判断したらアカンよ。もし合格して一緒になったら、仲良くしてな」
「うん、わかった。その時はよろしくね」
爽やかに手を振って去っていく青年の背中を見送りながら、浩一はゴクリと唾を飲み込んだ。
(吉田さん……俺は今、一体どんな世界に飛び込もうとしてるんですか? 今まで出会ったこともないような人たちばかりだけど……俺、ここでちゃんとやっていけますか?)
寒空の下、浩一は不安と期待が入り混じる胸を静かに押さえたのだった。
ご覧いただきありがとうございました!
慣れ親しんだI高校の制服を着て挑んだ転入学試験。
桐通たちと高め合った学力のおかげで難なく問題を解き明かす爽快感と、会場の独特な雰囲気に対する戸惑いの対比が印象的な回となりました。
金髪で作業着姿の青年との出会いは、これから始まる定時制での新たな人間関係を予感させます。
見かけやバックグラウンドは違えど、それぞれに懸命に生きる人々の中で、浩一がどのように自分の居場所を築き、たくましく成長していくのか。
新たなストーリーの幕開けを、次回もどうぞお楽しみに!




