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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
2章 レギュラー選抜試験

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06話 約束だよ

気弱な彼女が、勇気を振り絞って投げた訴え。

みんなの注意を引き付けるには十分だった。

沈黙。時間が止まった。


「みんなが喧嘩するの、見たくないよ!

 同じ部活の仲間でしょ!みんなでクリアするんでしょ!

 だからお互いを悪く言わないで!」


あまりにも率直。飾り気がなく、逃げ場のない言葉。

私も目を伏せる。


「今、悪口を言った人、みんな謝って!」


戸惑いながら、みんなの視線が泳ぐ。

けれど小鳥遊さんの沈黙に耐えきれず、誰かが「ごめん」と小さく謝る。

それを合図に、

「言い過ぎた」

「悪かったよ」

さっきまで向け合っていた言葉の棘が、謝罪に形を変えて交差する。

「あの、ごめんなさい、私は、その……」

「ああ。あー……すまねえな」

私と成田さんは、互いの目を逸らしながら、歯切れ悪く、言葉を交わした。


「うん、それでいいの。よくできました」

小鳥遊さんの顔に、ふっと笑みが戻った。

「誰かを責めちゃダメ。約束だよ」

そして1年生たちを見回し、続ける。

「もう1回考えようよ。どうしたら効率よく組めるか。ね?」

その口ぶりは、小さな子に話しかける母親のようだった。


そのとき気づいた。

悲痛な呼びかけだったにも関わらず、彼女の目は赤くない。

まぶたも腫れていない。


……してやられた。

小動物的に見えて、ずっと強かだ。


多少の演技はあれど、彼女が勇気を出してみんなに釘を刺したのは事実。

おかげで場はリセットされた。

感謝しなければ。


みんながパズルの完成形の周りに集まる。

この木片の組み合わせが、今の私たちの共通の敵だ。


「まずは、リーダーを決めようよ」

「それなら三条さんがいいね。

 みんなの話をまとめたり、声をかけたり。慣れてる感じだったし」

「バスケのキャプテンだったんでしょ?じゃあ適任だ」

「待って!」

首を横に振る。


「ごめん、みんな立場は同じだから……」

さっきの「リーダー気取り」という言葉が脳裏をかすめた。

「私が出過ぎるのは良くないよ」

また出しゃばれば、

せっかくまとまりかけた空気を再び壊してしまうかもしれない。


「分かった。じゃあリーダーじゃなくて、意見をまとめる係。それならどう?」

「……うん、分かった」


* * *


話し合いが再開される。

改めて聞くと、1人1人に考えがあることに気付かされる。


「最初に基準を決めたい」

「小さい四角を作ったあと、最後にまとめるのは?」

「それだと合わない板が出てくるのよね」

完成状態のパズルから板を外したり付けたりしながら、話し合いは進む。

「この長いのだけ、先に置けるみたい。切れ目が全部上向きだ」

「ねえ、こっちの短いの同士も先に合わせられるよ!」

切れ込みの向きやパーツの長さが、配置の順番を教えてくれる。

少しだけ攻略法が見えてきた。


なんだか、みんな活き活きしている。

真剣なんだけど、笑顔も見える。声のトーンも上がる。

さっきまでの雰囲気が嘘のよう。


攻略法を考えるときこそ、テンションが上がる。

たぶんゲーマーの性なんだろう。

「ちょっと、羨ましいな」

小鳥遊さんがこぼした。

ゲーム歴の浅い私も、同じ気持ちだった。


挙がった意見をもとに、

パーツの組み立ての順や、パーツの担当割り振りを整理した。


すぐに使うパーツはスタートの段階で上に置きたい、ということで

スタート時点の木片の積み方も変更。


誰がどういう順番で持っていくか、しっかり打ち合わせる。


パズル作成の再挑戦を監督者に申し出て、

スタートの合図と同時にみんなが動き出す。


積まれているパズルのピースを打ち合わせの通り順番に取り、

それぞれ所定の位置に移動し、組み合わせる。

手間取る箇所はあったものの、

混乱はないまま最後のピースが嵌った。


結果は2分48秒。

大幅な時間短縮に、歓声が沸き起こった。


「パーツの順番待ちに時間がかかってる」

「確かに。同時に取れたらいいのにね」

香取さんと鴨川さんの話から、スタートの状態に一工夫加える。


パーツは揃えて重ねずに、

中心の1点だけを重ねて放射状にずらしながら積むことにした。


これなら各自がすぐ掴んで、引き抜ける。

つまり順番待ちのロスが消える。


最後にもう一度、輪になって集まり最終チェック。

誰がどのように動くか、それぞれ不明点がないことを確認した。


そして再度の挑戦を申し出た。


スタート合図の直後、

みんなが同時にピースを掴み、担当の位置に置く。

もう迷いもない。

各自の仕事を全うしつつ、互いに声をかけ励まし合う余裕も生まれた。


最後の長い木片が隙間に収まった。

みんなの目線が監督者に集まる。


「57秒。合格だ」

端末の中で猪ノ瀬先輩が微笑んだ。


今日一番の大きな歓声が上がった。

「みんな、すごいよ!」

「ナイスアイディアだったね!」

夢中で、互いを称えた。

「取りまとめサンキュー、あんたのおかげだよ!」

野田さんが私の肩を叩いた。


* * *


この大きな課題を乗り越えたことで、

私たちの雰囲気は劇的に良くなった。


4つめ、5つめのチェックポイントとも

楽勝とは言えないまでも、自然と連携しながらクリアした。


意見を否定せず受け入れる。

失敗しても誰も責めない。

成功はみんなで喜ぶ。


そういう雰囲気が出来上がっていた。

小鳥遊さんと交わした『約束』が、間違いなく活きている。


ポイント間の移動中、先頭を歩く小鳥遊さんが時折振り返る。

「疲れてない?」「みんなでお水飲もうよ」と全体に呼びかける。

もう2時間以上動き続けているのに、まだみんなが元気を保っていられるのは

彼女の気配りのおかげだ。


私はふくらはぎに少しだけ違和感を覚えた。

そのため小鳥遊さんに頼み、隊列の進行を止めてもらった。


久しぶりに長時間動いたので、疲れたのかも。

小休止の中で、脚を伸ばして回復を図る。


しばらく休んでから、最後のポイントに向けて再出発。


休憩の間も進行中も、

小鳥遊さんは特に1人を気にかけている様子だった。


集団の輪から1人、成田さんが一歩引いている。


さっきは謝ってくれたものの、彼女の表情は曇ったまま。


何か声を掛けたかったけど、

真っ先に彼女と対立した引け目があって、私をためらわせた。


もしかしたら、

成田さんも私と同じように、声をかけるタイミングを失っているのかもしれない。


* * *


15:20。残り時間は40分。

第4、第5ポイントがスムーズに進んだことで、

ペース配分的には悪くない残り時間だ。


とうとう最後のポイントにたどり着いた。


ここでも監督者が待機していた。

さっきの第3ポイントと同じ女性と、

その傍らにもう1人、メガネをかけた男の人が控えている。

「安全管理のため」だそうだ。


女性が携帯端末を私たちに突き出す。

猪ノ瀬先輩と、後ろから覗き込む朧谷先輩が映る。


課題の説明が始まった。

目の前には木の板が貼り合わされた壁が立ちはだかっている。

課題は至ってシンプルで、『壁を登ること』だった。


監督者は「最後だよ、がんばれー!」と応援してくれた。


壁を見上げる。

マンションの1階から2階までの高さより、もう少しありそうだ。

3m以上はあるだろうか。

ジャンプしても手が上に届きそうにない。


アスレチックの説明書きを見るに、本来はロープを使って登るものらしい。

そのロープは今は見えない。

はしごとか、その他の道具もない。

掴んで登るような取っ掛かりもない。


私たちの力のみで、全員がこの壁を乗り越えなければいけない。


……どうやって?

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