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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
1章 入部~1年生 対 2年生

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4/10

03話 楽しみましょう!

「今日何をやるのかなあ」

着替えながら、小鳥遊さんは俯き、肩を震わせている。

「みんなでゲームして遊ぶんでしょ?」

他の1年生が答えた。

「でも、でも!昨日すごく怖かったし」

「大丈夫だよ」

肩を軽く叩いて安心させる。

「エートレやったことないって言ってたけど、平気?」

「家にはあるの。弟たちが遊んでたから、基本の操作は教えてもらったよ」


更衣室に入ってきた小鳥遊さんは、視線を落とし口元を固く結んでいた。

その姿を見て、心配よりも安堵が先にくる。

もう来ないかも、と思っていたから。


* * *


トレーニングを終えて部室に戻ると、朧谷先輩から場所を移動すると告げられた。

猪ノ瀬先輩の姿がない。トレーニングにも、部室にも。


案内されたのはコンピュータ室。扉をノックすると、猫背気味の先輩が顔を出した。

縁が細く四角い眼鏡をかけている。リボンの色から3年生だと分かる。

髪は肩で切り揃えられ、前髪が目にかかっている。

パソコン部の部長だと朧谷先輩が紹介する。

「やあ、月子くん。待ってたよ」


中に通されると、10人ほどの部員がPCに向かって作業を続けていた。

教卓の前に猪ノ瀬先輩。腕を組んで立っている。

「よお」

右手を挙げて挨拶すると、続けて言う。

「今セッティングしてもらってる。感謝しながら待ってろ」


入口付近で固まって待機。パソコン部長が補足してくれた。

「普段は3DCGとかプログラミングとかやってるけど、スペックはそれなりだから、PC版エートレも動くんだよ」

「助かります。うちは4人までしかできないから」

朧谷先輩が軽く頭を下げた。

「先輩、今日は何をするんです?」

1人が眉を寄せて尋ねる。

「みんなでエートレのチーム戦だよ!」

朧谷先輩は両手を胸の前で合わせ、微笑んだ。


* * *


PCの準備が整い、全員が席につく。

モニタの光が顔を照らす。

少し離れたPCの前に、パソコン部員たちが固まっていた。

室内全てのPC画面を閲覧できるらしい。つまり、観戦だ。


「今日はチーム戦だ。試合時間は10分。復帰はナシ。」

猪ノ瀬先輩の声が室内に響く。

ルール説明は簡潔だが、まだ肝心のことを聞いていない。

「あの、チーム分けは?」

1人が訪ねた。

「言うまでもねえ」

先輩たちが視線を交わす。


「私たちは2人」

「お前らは10人。まとめてかかってきな」


ざわめきが広がる。「舐めすぎじゃない?」という声が聞こえる。

確かに先輩たちには去年の大会の実績がある。賞状もある。

でも1年生にも経験者は多い。

ランク戦で鍛えられ、私より上の階級の子もいる。


「不満か?じゃあ……」

猪ノ瀬先輩が片口角を上げた。

「もしお前らが勝ったら、春大会のレギュラーは譲る。

 練習メニューも好きに決めていい」

その言葉に歓声が上がる。前のめりになる子、座り直す子、姿勢を正す子。

椅子の軋む音が重なった。

私の手にも自然と力がこもる。


「も~、すぐそういうこと言うんだから。

 勝ち負けは関係ないよ。さあ、楽しみましょう!」

朧谷先輩が苦笑交じりにまとめた。


* * *


機体選択画面で『アイアン・タロン』を選択。

特殊兵装には高機動誘導ミサイル『ワスプ』を積む。

機動力のある相手にも果敢に追いかけ仕留める。短射程ながら頼れる誘導兵器。

先輩たちの力は分からないが、この兵装ならエース級にも太刀打ちできる。


「じゃあ、スタート!」

朧谷先輩の掛け声と同時に、試合開始。


「ねえ!どっちが空?どっちが海?分かんないよー!」

早々に叫び声が聞こえ、レーダーから青い三角マークが1つ潰えた。

小鳥遊さんには、今度飛び方を教えてあげよう。


残った9機は一斉に加速。

それぞれの方向から、赤い三角に近づく。

1機を目視した。もう1機が見えない。たぶん上空にいる。


「オーキッドからルナーへ。全機狩っちまっていいな?」

「ほどほどにね」

「はっはー!行くぜ!」

猪ノ瀬先輩――オーキッドの声が響く。

声色が高い。跳ねるようだ。


味方機とオーキッド機の機動をレーダーで見る。

そのレーダーが突然、ノイズで覆われた。表示が見えない。

「ロックできない!うわあ!」

「ECMだ!」

気を付けて、と言おうとした。

『ORCHID shot down ROOKIE7』

言葉を発する前に、画面右上にキルログが浮かんだ。

「いつの間に後ろに!あー!」

別の味方から悲鳴。キルログがもう1行追加される。

残りの仲間は7機。


ECMの影響でしばらくレーダーは使えない。ミサイルの誘導性能も落ちる。

使っているのはどっち?定石なら上空のルナー。

でも射程を考えればオーキッドの方。ECMを纏って切り込んできてる。


そのオーキッドが、私に向かっている。目で確認した。

長い円錐形の機首がやや曲線を描く。2つの垂直尾翼。

RX-35『スパイラルファング』。戦場を引っ掻き回すのが得意な機体。


進路を読む。たぶん、後ろを取られる。

機体を横倒し、旋回。加速。

相手の旋回の方がコンパクトだ。速い。

距離が詰まる。振り切れない。被ロックオンの警告が響く。

6時方向。距離はおよそ1000。正確な数字は見えない。

警告音に別の警告が重なった。ミサイル来る。

フレアを射出。機体を真横に倒す。高Gをかけて急旋回。

速度を失う。アフターバーナーで無理やり回復。

ミサイルと角度差をつけて、回避。

それでも敵機を振り切れない。


アフターバーナーを1度オフ。

機首を上げる。背後を見る。相手のピッチアップが見えた。

瞬時に、機体を背面まで回す。機首を上げ急降下。アフターバーナーを再点火。

高Gの警告でコントローラが震える。画面の端が暗くなる。

高G機動は機体に負荷がかかる。これ以上多用はできない。


後方、RX-35が上昇し離れていく。

短く息を吐く。


「ハッハー!やるじゃねえか1年!」

オーキッドが叫ぶ。別の標的に向かっていく。


助かった。回避に精一杯だった。

でもフェイントは通じた。付け入る隙はある。


1機では勝てない。協力しないと。


レーダーを見る。ノイズが消えている。敵味方の位置が戻った。

状況を確認。私が追われている間に、味方が1機減っていた。

『LUNAR shot down ROOKIE9』のログが見える。

残り6機。


「助けて!狙われてる!」

ヘルプ要請。狙っているのはルナーだ。

これ以上数の優位を失うわけにはいかない。

「みんな、こっちへ!助けなきゃ!」

叫んで上昇する。

「こっちって、どっちだよ!?」

返ってきた声は混乱していた。

味方機が旋回した先に、オーキッドが食いついた。

『ORCHID shot down ROOKIE3』

残り5機。


「ミサイル、来てる!」

別の声。上昇を中断し、味方の方向へ機首を振る。

――攻撃兵装しかない。向かっても何もできない。

遠くにフレアの閃光。ミサイルが吸い込まれて消えた。

回避は成功。でも回避した先はオーキッドの進路上だ。

後ろを取られた味方が落ちる。

残り4機。


「みんな、上!ルナーを何とかしないと!」

「何でだよ!オーキッドが先だろ!みんなでかかれ!」

違う。司令塔はルナーの方だ。

ミサイルで威嚇し、オーキッドに仕留めさせている。

それをどう伝えたらいい?


「先輩の後ろを取った!決める!」

味方の1トーン高い声。レーダーを見る。オーキッドの後ろに青い三角。

その後方にもう1つの赤い三角。ルナーの射線上だ。

『LUNAR shot down ROOKIE8』

残り3機。


「みんな!ルナーを狙って!」

「わ、分かった!」

散っていた青い三角がルナー機に向かう。上昇。

直後、再びレーダーにノイズ。ECMだ。

「ごめん、無理ー!」

視界の端で爆発が見えた。

たぶん、進路を変えたところをオーキッドに狙われた。

残り2機。


ルナーを目視で捉えた。

最後の味方が、声を上げながらルナー機へ迫る。

直後、ルナー機が急旋回。

追う先にオーキッド機が見えた。一瞬光った。

直後、ミサイルの曳光が味方に刺さる。爆炎が飛び散る。


――空には私だけが残された。

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