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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
5章 部内戦〜練習試合

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34話 はああ!?

セイバーが回避行動を取っている間に、アフターバーナー全開でダガーたちの空域へ。

方位245。距離は8km弱ってところか。

アフターバーナー全開でも10秒程度飛ばさないと届かない。

思ったより距離がある。


このまま連携も取れず、罠も仕掛けられず各個撃破されるの……

それだけは嫌だ。


セイバーとの距離が離れた今がチャンス。

トップスピードはこちらが上だ。

でも向こうには中距離ミサイル『アーバレスト』がある。

距離があっても、背を向ければ撃たれる。


……いや、構うものか。

まだフレアがある。最後の1つ。使い所は今だ。


弱気になるな。ダガーとの合流を最優先とする。

セイバーに背を向け、フル加速。

ミサイルアラート。早速来た。6時方向からアーバレストが迫る。

フレアの射出。でも回避行動は取らない。このまま最短距離で救助に飛ぶ。


幸い、ミサイルはフレアに吸い寄せられた。


「アーバレストなくなっちゃったよ~」

「危険を顧みず救助に向かう。やるじゃねえかジャベリン、悪くねえ判断だ」

「……どうも」


勝ちを拾うのに、ダガーを失うわけにはいかない。


「間に合うかどうかは別問題だが」

メイスは、また撃つ気だ。4連装ミサイル『スウォーム』を。ミサイルの雨を。ダガーに向けて。


「心配しないで、大丈夫」


隣のダガーが呟いた。

画面に注視してるから表情は見えない。小さな声は震えている。でも、力強さを感じる。


画面の中、キャノピーの向こうでは白煙を引く複数のミサイルと、

無数の光の粒が展開されていた。

タイミング、ぴったりだ。これでダガーもフレア残数0だけど、避けられる。


とうとう、メイスをロック圏内に捉えた。

即座にワスプを射出。

「フン」と、鼻を鳴らす音が聞こえた。

メイスがフレアを射出。回避行動に入る。

つまり攻撃の手を止めた。

セイバーが私たちをロックするにも、まだ数秒の猶予がある。


2機の追求から免れ、隙を生じさせた。今しかない。


「ダガー!」

「うん!」


ダガー機に退避を促す。


「雲に逃げたか」

「追う?」

「いや。何をするかは察しが付く。先にジャベリンを落とすぞ」

「いいよ~」


次の正念場だ。

私も、先輩2人も、今使えるのは近距離用の兵装だけ。

それなら私のワスプが優位に働く。

作中最高の誘導性能を誇る対エース兵装だ。撃てば回避せざるを得ない。


メイスを追う。背後を狙う。

「舐めるなよジャベリン」

ロックを……いや、ハイGターンで振り切られた。

さすが、上手い。


ロックオンの警告音。7時方向にセイバー。

射程内に付かれている。

すぐには撃ってこない。確殺のタイミングを図っているのか。


上昇。ループを描く。

セイバーの進路を確認。真後ろからは付いてこない。私の軌道から少しズレて飛んでいる。

たぶん進路を読まれている。より小さい半径で先回りする気か。


素早く視線を動かし、メイスの位置も確認。

上昇中。こちらもループの終わりを狙う意図か。


だからこそ効く技がある。


ループの頂点、上昇仕切ったところで機体を傾ける。背面から45度のロールと、ピッチアップ。急旋回と急降下。

高Gの負荷が画面端の暗転やコントローラの振動という形で伝わる。

アフターバーナーを焚いて、一気に加速。


「わわ!すごい!」

「フェイントか。小賢しい真似を」


レーダーロックのアラートが途切れた。

2機を上空に残し、離脱に成功。

こんなフェイントは何度も通用しないし、いつまで速度が持つかも分からない。

でも、少しだけ時間を稼いだ。


ここで雲の中から、退避したダガーが戻ってきた。


「その見え見えのデコイで、誰を撃つつもりだ」


ダガーの機首はメイスの方へ。私を追って下降するメイスの、その背後を狙いに向かっている。


「どうする~?」

「ダガーのヴァイパーなら脅威にならない。プランに変更なしだ。ジャベリンを片付ける」

「了解~!」


背後を確認。

セイバーは5時方向から。メイスが7時方向から。

それぞれ迫る。

もうすぐロックオン圏内に入る。2対1。私はフレアもない。撃たれたら終わる。

でも引き付けなければ。

『アラートと同時に退避』と心に決め、2機の動向を注視。


ダガーがメイスの後方に付いた。距離は少し離れている。ヴァイパーの射程外。


「言った通りだ。デコイを使いこなすには、まだ練度が」


セット完了だ。


ダガーが撃つヴァイパーには当たらない。そういう絶対の自信があるだろう。

実際、対人戦ではただ撃つだけでは当たらない。

自分の位置や相手との角度とか、進行方向やスピードとか、見極める必要があるから。

だから、メイスの自信も決して過剰なものではない。


でも。ダガーが放つのはヴァイパーではない。


ロックオン距離で悟られないよう、今の今までヴァイパーを選択していた。

たった今、装備を特殊兵装に切り替えた。


「は?」


ヴァイパーとは速度がまるで違う。

メイスからしたら、ミサイルアラートが鳴った瞬間だっただろう。

懐に忍び込ませた短剣は、見事に突き刺さった。


「はああ!?」


カメラを操作し後方を確認。

爆発と、もぎ取られ飛散する主翼。

黒煙を吹き上げ落ちていく機体。

まだ白く残るミサイルの航跡と、

その後ろに悠々と飛ぶ機体。キャノピーの横から一本角のような給油口が伸びる。


「まじかよ……」

「わわ!落ちちゃった!」


力ないメイスの声と、驚きを隠せないセイバーの声。モニタの向こうから聞こえる。


メイスを撃ち抜いたのは、ダガーが隠し持った高速飛翔ミサイル『シルフィード』。

飛翔速度はヴァイパーの2倍以上と言われている。

誘導性能こそ他のミサイルに劣るものの、

近距離から放たれれば見てからの回避は不可能と言っていい。

いかにメイスといえど、例外ではない。


「いえい!」

試合中にも関わらず、私とダガーは思わずグータッチを交わしていた。

この罠を、この展開を。これだけをずっと狙っていた。


デコイを装備していると思わせること。デコイを使ったと欺瞞すること。

そう思わせて、回避不能な間合いからシルフィードを刺すこと。

ここまでのセットアップは大変だったけど。

リソースのほとんどは使い切ってしまったけど。

大成功だ。


胸の奥から喜びの感情が込み上げるのを、自然と頬が緩むのを必死で抑える。

勝負はまだ終わってないから。


「ふ〜ん。ってことは」


残っているのは最大の難関。

つまり、『この最強のエースをどう落とすか』だ。


「今、ECMもホログラも持ってないんだね」


ここからのプランはない。結局思いつかなかったから。

既に兵装も割れている。

でも単純な機体性能なら、旋回戦は私たちの方が有利。


ダガーにはこのままセイバーの背後を取ってもらう。

ロック可能になり、シルフィードさえ刺されば勝機はある。


私も進路を反転。セイバーに向き直る。

でも真正面では戦わない。ロックオンまでの時間差で不利になるから。あくまでも圧力だけ。


「えいっ!」


おもむろに、セイバーが急旋回。進路を90度変更。

さすがにシルフィードを警戒したか。

とにかく後ろを取るチャンス。


「後ろを取るよ!クルビットに気をつけて!」

「が、がんばる!」


ネット上に存在する対撃墜女王の考察動画、クルビットへの対策動画は履修済みだ。

ダガーにはセイバーの動きに集中してもらう。

私たちがセイバーの背後を取った状況で、相手に変な動きがあれば教えてもらう。

これなら、来ると分かっている失速機動にも対応できる。

私は狙うことに集中する。


ロックオン完了までのあと数フレームだけ、セイバーを捕捉し続ければ。


「あ、動くよ!」


対応できると思ったんだけど。


スライドするように、セイバーが視界の横へ消えた。

斜めへの機首上げや、機体のロールは見えた。

急に消えるわけじゃないから、後ろに回り込んだとハッキリ分かる。


仕掛けてくる予測はしていたが、予想とは違う動きで迷いが生じた。

その動きを咄嗟にカメラで追うのではなく、回避行動を取るべきだった。


たぶん、バレルロールの一種。極端に半径の小さい機動で、背後に回られた。

その動きに反応できなかったことも事実で。フレアの残数も0。


「ああ、またか」と思ったとき、私たちにセイバーからのミサイルが突き刺さった。

私もダガーも、仲良く落ちる他なかった。

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