34話 はああ!?
セイバーが回避行動を取っている間に、アフターバーナー全開でダガーたちの空域へ。
方位245。距離は8km弱ってところか。
アフターバーナー全開でも10秒程度飛ばさないと届かない。
思ったより距離がある。
このまま連携も取れず、罠も仕掛けられず各個撃破されるの……
それだけは嫌だ。
セイバーとの距離が離れた今がチャンス。
トップスピードはこちらが上だ。
でも向こうには中距離ミサイル『アーバレスト』がある。
距離があっても、背を向ければ撃たれる。
……いや、構うものか。
まだフレアがある。最後の1つ。使い所は今だ。
弱気になるな。ダガーとの合流を最優先とする。
セイバーに背を向け、フル加速。
ミサイルアラート。早速来た。6時方向からアーバレストが迫る。
フレアの射出。でも回避行動は取らない。このまま最短距離で救助に飛ぶ。
幸い、ミサイルはフレアに吸い寄せられた。
「アーバレストなくなっちゃったよ~」
「危険を顧みず救助に向かう。やるじゃねえかジャベリン、悪くねえ判断だ」
「……どうも」
勝ちを拾うのに、ダガーを失うわけにはいかない。
「間に合うかどうかは別問題だが」
メイスは、また撃つ気だ。4連装ミサイル『スウォーム』を。ミサイルの雨を。ダガーに向けて。
「心配しないで、大丈夫」
隣のダガーが呟いた。
画面に注視してるから表情は見えない。小さな声は震えている。でも、力強さを感じる。
画面の中、キャノピーの向こうでは白煙を引く複数のミサイルと、
無数の光の粒が展開されていた。
タイミング、ぴったりだ。これでダガーもフレア残数0だけど、避けられる。
とうとう、メイスをロック圏内に捉えた。
即座にワスプを射出。
「フン」と、鼻を鳴らす音が聞こえた。
メイスがフレアを射出。回避行動に入る。
つまり攻撃の手を止めた。
セイバーが私たちをロックするにも、まだ数秒の猶予がある。
2機の追求から免れ、隙を生じさせた。今しかない。
「ダガー!」
「うん!」
ダガー機に退避を促す。
「雲に逃げたか」
「追う?」
「いや。何をするかは察しが付く。先にジャベリンを落とすぞ」
「いいよ~」
次の正念場だ。
私も、先輩2人も、今使えるのは近距離用の兵装だけ。
それなら私のワスプが優位に働く。
作中最高の誘導性能を誇る対エース兵装だ。撃てば回避せざるを得ない。
メイスを追う。背後を狙う。
「舐めるなよジャベリン」
ロックを……いや、ハイGターンで振り切られた。
さすが、上手い。
ロックオンの警告音。7時方向にセイバー。
射程内に付かれている。
すぐには撃ってこない。確殺のタイミングを図っているのか。
上昇。ループを描く。
セイバーの進路を確認。真後ろからは付いてこない。私の軌道から少しズレて飛んでいる。
たぶん進路を読まれている。より小さい半径で先回りする気か。
素早く視線を動かし、メイスの位置も確認。
上昇中。こちらもループの終わりを狙う意図か。
だからこそ効く技がある。
ループの頂点、上昇仕切ったところで機体を傾ける。背面から45度のロールと、ピッチアップ。急旋回と急降下。
高Gの負荷が画面端の暗転やコントローラの振動という形で伝わる。
アフターバーナーを焚いて、一気に加速。
「わわ!すごい!」
「フェイントか。小賢しい真似を」
レーダーロックのアラートが途切れた。
2機を上空に残し、離脱に成功。
こんなフェイントは何度も通用しないし、いつまで速度が持つかも分からない。
でも、少しだけ時間を稼いだ。
ここで雲の中から、退避したダガーが戻ってきた。
「その見え見えのデコイで、誰を撃つつもりだ」
ダガーの機首はメイスの方へ。私を追って下降するメイスの、その背後を狙いに向かっている。
「どうする~?」
「ダガーのヴァイパーなら脅威にならない。プランに変更なしだ。ジャベリンを片付ける」
「了解~!」
背後を確認。
セイバーは5時方向から。メイスが7時方向から。
それぞれ迫る。
もうすぐロックオン圏内に入る。2対1。私はフレアもない。撃たれたら終わる。
でも引き付けなければ。
『アラートと同時に退避』と心に決め、2機の動向を注視。
ダガーがメイスの後方に付いた。距離は少し離れている。ヴァイパーの射程外。
「言った通りだ。デコイを使いこなすには、まだ練度が」
セット完了だ。
ダガーが撃つヴァイパーには当たらない。そういう絶対の自信があるだろう。
実際、対人戦ではただ撃つだけでは当たらない。
自分の位置や相手との角度とか、進行方向やスピードとか、見極める必要があるから。
だから、メイスの自信も決して過剰なものではない。
でも。ダガーが放つのはヴァイパーではない。
ロックオン距離で悟られないよう、今の今までヴァイパーを選択していた。
たった今、装備を特殊兵装に切り替えた。
「は?」
ヴァイパーとは速度がまるで違う。
メイスからしたら、ミサイルアラートが鳴った瞬間だっただろう。
懐に忍び込ませた短剣は、見事に突き刺さった。
「はああ!?」
カメラを操作し後方を確認。
爆発と、もぎ取られ飛散する主翼。
黒煙を吹き上げ落ちていく機体。
まだ白く残るミサイルの航跡と、
その後ろに悠々と飛ぶ機体。キャノピーの横から一本角のような給油口が伸びる。
「まじかよ……」
「わわ!落ちちゃった!」
力ないメイスの声と、驚きを隠せないセイバーの声。モニタの向こうから聞こえる。
メイスを撃ち抜いたのは、ダガーが隠し持った高速飛翔ミサイル『シルフィード』。
飛翔速度はヴァイパーの2倍以上と言われている。
誘導性能こそ他のミサイルに劣るものの、
近距離から放たれれば見てからの回避は不可能と言っていい。
いかにメイスといえど、例外ではない。
「いえい!」
試合中にも関わらず、私とダガーは思わずグータッチを交わしていた。
この罠を、この展開を。これだけをずっと狙っていた。
デコイを装備していると思わせること。デコイを使ったと欺瞞すること。
そう思わせて、回避不能な間合いからシルフィードを刺すこと。
ここまでのセットアップは大変だったけど。
リソースのほとんどは使い切ってしまったけど。
大成功だ。
胸の奥から喜びの感情が込み上げるのを、自然と頬が緩むのを必死で抑える。
勝負はまだ終わってないから。
「ふ〜ん。ってことは」
残っているのは最大の難関。
つまり、『この最強のエースをどう落とすか』だ。
「今、ECMもホログラも持ってないんだね」
ここからのプランはない。結局思いつかなかったから。
既に兵装も割れている。
でも単純な機体性能なら、旋回戦は私たちの方が有利。
ダガーにはこのままセイバーの背後を取ってもらう。
ロック可能になり、シルフィードさえ刺されば勝機はある。
私も進路を反転。セイバーに向き直る。
でも真正面では戦わない。ロックオンまでの時間差で不利になるから。あくまでも圧力だけ。
「えいっ!」
おもむろに、セイバーが急旋回。進路を90度変更。
さすがにシルフィードを警戒したか。
とにかく後ろを取るチャンス。
「後ろを取るよ!クルビットに気をつけて!」
「が、がんばる!」
ネット上に存在する対撃墜女王の考察動画、クルビットへの対策動画は履修済みだ。
ダガーにはセイバーの動きに集中してもらう。
私たちがセイバーの背後を取った状況で、相手に変な動きがあれば教えてもらう。
これなら、来ると分かっている失速機動にも対応できる。
私は狙うことに集中する。
ロックオン完了までのあと数フレームだけ、セイバーを捕捉し続ければ。
「あ、動くよ!」
対応できると思ったんだけど。
スライドするように、セイバーが視界の横へ消えた。
斜めへの機首上げや、機体のロールは見えた。
急に消えるわけじゃないから、後ろに回り込んだとハッキリ分かる。
仕掛けてくる予測はしていたが、予想とは違う動きで迷いが生じた。
その動きを咄嗟にカメラで追うのではなく、回避行動を取るべきだった。
たぶん、バレルロールの一種。極端に半径の小さい機動で、背後に回られた。
その動きに反応できなかったことも事実で。フレアの残数も0。
「ああ、またか」と思ったとき、私たちにセイバーからのミサイルが突き刺さった。
私もダガーも、仲良く落ちる他なかった。




