33話 壁
アイアン・タロンとストームエッジの2機編成。
私もダガーも特殊兵装を選択し、いざ空へ。
私たちにとっての壁が待ち受けている。
それは、外敵――つまりライバル校のエースたちから私たちを守ってくれる防壁であり、
同時に、私たちが乗り越えなければいけない障壁でもある。
「勝ち負けは関係ないよ!楽しみましょう!」
いつかと同じ言葉。
声のトーン高く、セイバーが告げる。
「さあ、来いよ」
メイスは対照的に、低く落ち着いた声で言い放つ。
以前はセイバーが上空で戦場を俯瞰し、メイスがECMを使いつつ戦場を荒らし回った。
シンプルで強力な役割分担。
同様の戦い方で来られると、力で劣る私たちは順当に不利だ。
勝ちを拾うなら仕掛けないといけない。
罠を。
どう仕掛けるか、このときのためにダガーと何度も打ち合わせた。
あとは実践だ。
HUDを見る。
レーダーに機影を捉えた。1機だけ。たぶん、メイス。
見えないだけで近くにセイバーもいる。
既にロックされ、警告音が鳴っている。
直後にミサイルアラート。中距離ミサイル『アーバレスト』の飛来。2発。
これはセイバーから私たちに対しての問いだ。
「ミサイルが来たよ。どうするの?」と。
「どう動いても、落としちゃうけどね〜」と。
回避行動を開始。機体を傾け、機首を引き上げる。
距離はある。角度を取る猶予もある。フレアは不要だ。
ダガーも回避行動に入っている。避けるだけなら問題ない。
でも、それだけではこの問に対して正解になるまい。
大事なのは、回避のその先。
必要なのは、先を読み考える力だ。
メイスは急速接近中。
アーバレスト射出の影響で、レーダーにセイバーの機影も捉えた。
セイバーはアーバレストの間合いを保ちながら方角を変えるように動いている。
意図は読める。
メイスが近距離で暴れながら、中距離でセイバーが追い立てる。2人の定番の手。
私たちの兵装では、中・遠距離戦に付き合うことはできない。
だからメイスの後ろを取りに行く。
もう10秒もすればメイスとの近距離戦が始まるだろう。
スロットルを開放。ピッチアップ。上方へループを描く。
これなら、上から回り込める。
ダガーがメイスを警戒するように旋回を始める。
メイスもそれを受けて進路を微調整。
そのメイスの5時方向を狙い、加速。
ミサイルアラート。
再度来た。アーバレスト。
3機の思惑が絡み合う空域の外から、セイバーが狙ってきた。
進路を変えて回避に専念。まだ角度は取れる。ミサイルを振り切る。
ダガーの様子を見る。フレアは消費したものの回避には成功。
それでいい。ダガーはメイスに狙われている。
フレアなしで無理な動作をしたら、優位な位置を取られる。
ここでメイスが方向転換した。機首がこちらに向き、上昇を開始。
狙いを変えた。私に。
鼓動が跳ねるのを感じた。筋肉が強張るよう。
喉が乾き、思わず唾を飲み込む。
大丈夫。私が狙われるパターンも想定済み。大丈夫。自分に言い聞かせる。
ついこの前、セレスティアルの2機が見せてくれた。
相手が撃墜女王とその近衛兵であっても。
積極的に組み合おうとしなければ時間を稼げる。
ECMは脅威だけど、相手は近距離で優位になる特殊兵装は持っていない。
だから、私が引き付け隙を作る。その隙を狙ってダガーが罠を仕掛ける。
ピンチだけど、同時にチャンスでもある。
でも、そのECMがまだ来ない。
何故……いや、明白だ。使えないんだ。装備をしていないから。
恐らく向こうにも伝わった。私たちがECMを使わない理由が。
「どうしたタガー。ジャベリンが狙われてるぞ。
使ってみろよ、ECM」
平坦なトーン、それでも心をかき乱すような、メイスの声。
「メイスは使わないんですか?ECM」
辛うじて問い返す。
思考で手一杯、いや頭が一杯だけど、精一杯の強がり。
後方にメイスが張り付いた。
「あたしがいつもECMを装備していると思ったか?」
ロックオンの警告音が、ミサイルアラートに変わった。
メイスから発せられたミサイルの数が多い。
ヴァイパーじゃない。
4発。一気に背筋が凍りつく。
「スウォームだ!避けられるか!」
即座にフレアを射出。急旋回。
絡みあうように白煙を吹き上げ迫るミサイルのうち、
2つは機動が逸れフレアに吸い込まれる。
空気を、機体を震わすと錯覚させるほどの爆発音。
伴う激しい光を後方に感じる。
まだ回避は終わっていない。残り2発、迫る。
S字を描くように機首を振り、方向転換。なんとか角度差を……。
別方向から3度目のアーバレストを確認。
次のフレア射出まで、まだ時間がかかる。
迫る計3発のミサイルは自力で回避しなければならない。
機体をロールさせつつフルスロットル。45度、左旋回と同時に下方へ。高度を下げる。
間延び気味のアラートを聞きながら、ミサイルと各機の位置をHUDで確認。
ダガーがメイスの7時に位置取り、攻撃の妨害中。
メイスはそれを警戒し、私から進路を逸らす。
セイバーは攻撃位置を変えるため旋回している。距離は近づいてきている。
近距離戦に持ち込むか。その前にメイスに打撃を与えたい。
回避行動を終えたら、即、ダガーを援護。それでいこう。
すぐ後方で爆発。少し削られた。大丈夫、まだかすり傷だ。
メイス機に向かおうとしたとき、
セイバー機も進路を変更した。
旋回して円を描いていた、その内側へ切り込み、加速。
レーダーから姿を消したが、目視で確認した。
ステルス持ちはこれが厄介だ。
でも意図は読んだ。
ダガーへの援護を妨害する気だ。
問題は、ただの牽制では済まないところ。
セイバーに背後を晒すことはできない。
高度を回復させ、目でセイバーを追う。
後ろを取られないよう、進路変更。ダガーからは離れてしまう。
「ああ、バレちゃった~」
モニタの奥から、セイバーの肉声が聞こえる。
1対1に分断された。不利な展開。
レーダーを見る。ダガーの5時方向にメイスの機影。
兵装をワスプに変更。ロックした瞬間にセイバーに叩き込んで牽制する。
そしてなんとか合流を。
「互いにECMはナシ。気が合うじゃねえか」
ダガーは優位な位置を取られないよう、操作に必死だ。お喋りしている余裕がない。
メイスの声には答えない。
「ダガー。教えておいてやる」
メイスは構わず続けた。
「ホログラフィック・デコイの真髄は、敵を別角度から狙い撃つことにある。
問題は『誰が撃つか』だ」
何の話だ。いや、考えなくていい。HUDの情報に集中。
「頼みのジャベリンはセイバーと交戦中だ。そんな暇はない。
そして、お前にあたしは落とせない」
ダガーがメイスの追求を振り切ろうと、急旋回。
メイスは悠々とその後ろをついていく。
「ECMを持ち込むべきだったな」
声のトーン、雰囲気で察する。
やる気だ。
「お前は本体か?デコイか?当たれば分かる」
「ダガー!来るよ!」
「うん!大丈夫!」
ダガーのフレア射出と、メイスのスウォーム射出はほとんど同時だった。
先読みでフレアを置いたか。良い判断だ。
あまりよそ見はできない。こちらのロックオンの警報は鳴り止まない。
既に狙われている。向こうの方が先に撃てる。
とはいえ、こちらは高性能な誘導ミサイルを持っている。
撃ちっ放し力は私の方が上だ。
レーダーロック。やっと、捉えた!
「FOX3!」
ワスプを射出。
ほぼ同時に、セイバーからのアーバレストが迫る。
双方フレアを射出し、回避行動に入る。この隙に少しでもダガーへ近づく。
ダガーはスウォームの回避に成功し、メイスに回り込もうと必死だ。
でも操作は相手のほうが上。それに。
「フレアを射出した。お前はデコイじゃない」
今メイスが追っているのは本体だとバレている。
罠を仕掛ける暇もなく。状況は悪化していく。




