32話 頼んだぞ
アクス機の形態変化を確認。
ウェポンベイから兵装が剥き出しになっている。
ステルス性能と引き換えに攻撃性能を引き上げる形態。
「モード・ビーストだ!」
アクスが叫んだ。
ミサイル再射出までの時間が極端に減るモードだ。
ヴァイパーを大量に撃ってくるはず。
ECMの再使用など眼中にない。今すぐここで終わらせる。
そういう意図。いや、覚悟と言っていい。
全弾を撃ち尽くしてでもお前を落とす、と。
その形態が物語っている。
私もダガーも、もうフレアはない。
飽和攻撃を自力で回避しなければならない。
頼りになるのは、経験や勘。そして祈祷力。
つまり、運。
「奪い取ってみなよ!」
強気に返す。強がり、虚勢と言ってもいい。
とにかく気持ちは負けない。
「ダガー!来るよ!」
少しでも攻撃の妨害をする。
アクスの後ろを狙い旋回を開始する。
待っていたとばかりに、上空からレイピアが迫る。
アラート。ヴァイパーを撃たれた。
セオリーなら回避が優先だ。
でも。リスクの取りどころだ。
被弾をしてでも、勝ちに行く。
アクスのECMが使用可能になれば、圧倒的不利な時間が来る。
クールタイム終了前に、速攻をかける。
だから撃つべき手は、ワスプ。
「FOX3!」
レイピアもそれを読んでた。
トリガーを引く前にフレアを既に置いていた。
互いに急旋回。
私は近接信管による爆風で、少し削られた。
レイピアは無傷で上空に退避。
再度降下する意図だろう。
距離が開いたことで隙となった。
この隙を、アクスの妨害に充てる。
ダガー機は既にヴァイパーの集中砲火を受けている。
ミサイルの航跡が、ダガー機が引く雲が、糸を引くように空中に残り
その激しさを物語っている。
それでもダガーは落ちない。
「負けない!絶対に!」
ダガーは叫びながら。急旋回でミサイルとの角度差を生みながら。
そして降下して少しでも速度を稼ぎながら、
断続的にアクスから放たれるヴァイパーを辛うじて回避している。
メイスによる特訓、「死んでも生き残れ」の教えはここでも活きている。
さすがに無傷では済まない。ダガーの機体損傷率は80%を超えた。
「なんで……落ちねえ!」
「諦めない!まだ!飛べる!」
ダガーの気持ちは死んでいない。
今、助ける。
ウェポンベイ全開の今なら、アクスを捉えることは容易だ。
ヴァイパーの射出。角度差があり、外れる。
それでいい。攻撃の手を一瞬止めさせた。
「今!」
「うん!」
降下中だったダガー機が旋回を開始。
機体を45度傾け、アフターバーナーを焚く。
機首を持ち上げ斜めに上昇。
ダガーが回避から攻勢に転じる。
「FOX2!」
ダガーからアクスへ、ヴァイパー射出。
一瞬の間。アクス機はフレアの射出と、急旋回。
主翼が空を裂き雲を引く。
その回避先を狙う。アフターバーナーを全開。アクスに接近。
上空からレイピアが迫る。構わない。このまま行く。
アクスの7時方向。取った。
ミサイルアラート。私も撃たれている。でも。
「ワスプ!FOX3!」
最後のワスプを射出。
同時にハイGターンで回避行動。高度を下げ速度を稼ぐ。
レイピアからのヴァイパーを撒く。
ワスプ残弾0。それでいい。
アクスもフレアを使い果たしている。
この距離、この速度、この角度で。
追尾性能に優れるワスプから逃れる術はない。
だから、アクス機はもう見ない。
仮に打ち損じても、ダガーが教えてくれる。
だから任せる。
追ってくるレイピアを目視。方向転換。機首を振り照準を合わせる。
ヘッドオン。近距離の撃ち合い。双方、ヴァイパーの射出。
射出直後、加速度の負荷を目一杯機体にかける。
レイピアからのフレア射出を視界の端に捉えた。
今は回避に専念。さらに高度を下げてでも全力で離脱を図る。
それでも削られた。機体損傷率は70%を超えた。
一方、こちらの攻撃は無傷で回避されたが。
レイピアの方は上空へ退避。
接近するダガーを警戒したか。
構わない。
ダガーと合流。2機、挟み込むようにレイピアを追う。
ダガー機のECMクールタイムも直に終わる。
そして2対1。
どちらが有利か。もう、言うまでもない。
レイピアの機体を私のヴァイパーが貫いたのは、そこから1分ほどもみ合った後だった。
* * *
勝利を確認した瞬間に、疲れがどっと出た。
力が抜けすぎて、椅子から崩れ落ちるかと思った。
横に座っていたひばりが、咄嗟に支えてくれた。そのまま力なくグータッチを交わす。
「みんな、すごかったよ〜!」
ニコニコ顔で、月子が拍手をしている。
「なかなか見どころのある試合だった」
蘭花が腕を組みながら、やはり鋭い目つきで私たちに視線を送る。
「今すぐにでも振り返りをしたいところだが、最後にまとめて行う。
お前らは交代だ。鴨川、佐倉、席につけ」
「風咲は、しっかり休んでね〜」
交代のために立ち上がろうとして、気付いた。
また息切れを起こしていた。
連戦かつ想像以上の激戦だったから。
観戦用の丸椅子に腰を下ろしたところで、目の前に成田が立った。
こちらを見下ろしている。
「息切れを起こすほど私たちは強かった。そう思っていいんだな」
発言意図が掴めず、咄嗟に言葉が出なかった。
黙ったままでいると、成田は勢いよく部屋の外へ駆け出して、どこかへ行ってしまった。
「ちょっと!待ってよ!」
市原が追おうとするのを。
「あいつなら心配いらねえ。ほっときな」
蘭花は落ち着いた声で止めた。
実際、数分で成田は戻ってきた。
手には自販機で購入したであろうスポーツドリンク。
「ほらよ」
私に投げてよこした。
傍らにいたひばりの小さな肩がビクッと震えた。
私のことを団扇で仰いでくれていた手が止まった。
「奢りだ。糖分と休息を取りな」
息切れモードだと、うまく言葉が出てこない。
「あ、ありがとう」
それだけ、絞り出した。
「お前もだ」
ひばりにも何かを手渡しているのが見えた。
成田は少し黙ってから。
「悪かったな。お前は、弱くない」
そんな言葉を口にしていた。
らしくないな、と思ったけど。認めざるを得ないのだろう。ひばりの成長を。
「ううん、私は……」
「否定するなよ。私が馬鹿みたいじゃねえか」
ひばりが言葉に詰まっていると、成田は不意に微笑んで、ひばりの肩を軽く叩いた。
「風咲を頼んだぞ」
それだけ言って成田も丸椅子に腰掛け、先輩2人に対する鴨川佐倉ペアの奮闘を、静かに見守っていた。
成田の様子を心配そうに見ていた市原も、何も言わずにその隣に並んで座った。
2人の心中は特に複雑だろうけど。
私は次に向けて休息に専念すると決めた。
しばらくしたら、また私たちの出番が来る。
次の相手は、月子と蘭花の2人。名実ともに大ボスだ。
先輩たちとの組手形式の対戦は何度もやったけど。
試合として戦うのは、1年生対2年生ペア、あの10対2の対決以来。
あれからまだ1ヶ月くらいしか経ってないのに。
なんだか、ずっと前の出来事のようにすら思える。
それだけいろいろあった。
その分、私たちは成長した。
あの頃とはもう違う。見せつけてやる。




