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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
5章 部内戦〜練習試合

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31話 替われよ

目の前のモニタに映るのは青空と白い雲。

モニタの裏には、対戦相手の2人――成田と市原が対面に向かっている。

互いの顔は見えないけど。

コントローラを操作する音だけが、僅かに聞こえる。


2人の機体は、モニタの奥、青空の向こう。

まだレーダーにも映らない。


機体編成は分かっている。

成田――アクスはAX-35『ライトニングアロー』。ステルス性能とECMを備えつつ、火力集中用の特殊形態を持つ機体。

一方の市原――レイピアが乗るのはEX-2k『サーペント』。セレスティアルのメンバーも使っていた、遠距離ミサイル持ち。


アクスがECMを使って場を封じつつ近距離から敵を押さえ、レイピアが遠距離攻撃または上空からの急降下攻撃で仕留める、と読み取れる。


『遠近の組み合わせ』という意味では、先程の鴨川・佐倉ペアと同様。

でも、そんなに単純ではないはずだ。


1ヶ月前。入部当初。

プライベートアカウントでのゲーム内ランクにおいて、

1年生の中ではレイピアが1位、アクスは2位。

当時私は3位だった。

端的に言えば、彼女たちはゲームが上手い。

単純な個の力の総和なら、相手の方が上だ。


だからこそ、私もダガーも緊張が拭えない。

唾を飲む音すら響くような、静かな立ち上がり。出方を伺う。


前方を警戒しつつ、高度を上げて位置エネルギーを得る。

ダガーの機体が変わったことで上昇はスムーズだ。


でも、問題はここから。


「スパイク!」

来た。ロックされた。

相手の姿は見えない。

長距離ミサイル『ワイバーン』だ。

次いでミサイルアラート。

「撃ってきたよ!」

私とダガーに1発ずつ。遠方から光点が迫る。


でも距離がある。今のダガーなら落ち着いて回避できる。

これだけなら脅威ではない。


懸念材料があるとしたら、ミサイルが上方向から来たこと。

つまり、サーペントの持つ高出力のエンジンを活かして、一気に高所を取ったことを意味する。

エネルギーの上で優位に立たれている。


加えて、まだ視界の外。相手の位置が分からない。

距離の上でも不利。とはいえ、そこは折り込み済みだ。

私たちは相手の懐に潜り込む必要がある。それは最初から決めていた。

僅かに残るミサイルの航跡を辿り、距離を詰める。


「スパイク、また!」

ロックされた。ダガーも。

再度ワイバーンが来た。また上から。さっきと方角が違う。

位置を変えて撃ってきた。やはり戦い慣れている。


「ダガー!ブレイク!」

「うん!」


最大戦速で旋回。ダガーも別方向へ旋回。

そのとき。レーダーにノイズが走った。

あっという間にノイズに塗れる。

ミサイルアラートだけが変わらず響く。


「ジャベリン!これ!」

「大丈夫!そのまま、回って!」


ECM。アクスの仕業だ。早速、目を潰しに来た。


ミサイルの機動は見えている。

ダガーにそのまま回避を促す。


回避には成功。したのに、アラートが止まない。

周囲を警戒。白煙を吹き上げる光点が迫るのが見えた。


ワイバーン第3波。


「10時からワイバーン!フレア!」

慌ててフレアを射出し、急旋回。

さっきとはまた別方向から飛んできた。


おかげでどの方角に移動したか、およそ検討はついた。

でも回避に次ぐ回避でエネルギーを損失している。


そこに、第4波を告げるアラートが響く。

容赦がない。4度目のワイバーンが迫る。


またフレアを撒き、ハイGターンで角度を取る。

でも、近くでミサイルが爆ぜた。近接信管だ。削られた。

その上、速度がもう持たない。

たぶんダガーも状況は一緒だ。


つまり、来るなら今。

急ぎ周囲を見回す。


「タリー」


アクスが小さく、低い声で短く言うのが聞こえた。

目視したことを意味する言葉。

先に見つけられた。


ECMの影響でレーダーが使えない。

今撃たれるのは死と同義だ。


もったいつけてる場合じゃない。


「今!」

「うん!」


レーダーのノイズが、ダガー機を中心としてクリアになっていく。

ダガーのストームエッジがECMを使った。

レーダーの視界確保。

同時に、ダガーが『ホログラフィック・デコイ』を装備していないことも相手に伝わった。


アクスを捕捉。ダガーの7時方向。

既に撃たれている。


「高度下げて!逃げて!」


2機とも失速間近だ。一刻も早く運動エネルギーを得ないと。

だから位置エネルギーを捨てる。

先に高度を稼いでおいて良かった。


ダガー機はフレアを射出し、指示通り降下。

私は速度が安定したところで、機首を上げアクスに向ける。

ダガーへの追撃を阻止せねば。


アフターバーナーを全開。

接近し、アクス機をロック……いや、時間がかかる。

モデルはステルス機の機体だ。ゲーム中のステルス性能も侮れない。

ゲーム内では「ロックしづらい」「レーダーからたまに消える」程度の位置づけだけど。

この数フレーム分が、コンマ数秒がもどかしい。


「させないよ」


小さく、でも間違いなく聞こえた。レイピアの声。

レーダーにも捉えた。上空からレイピア機が迫る。

ミサイルアラート。


3発目のフレアを射出。

急ぎ進路変更。機体を降下。また高度を捨てて退避。


でもアクス機へのヴァイパー射出は間に合った。ギリギリ。

視界の端に、向こうのフレアも見えた。

アクスは無傷で退避。

レイピアは上空に戻っていく。


間一髪、命を繋いだ。


「危なかったよー」

「まだ。油断できないよ」


あっという間にフレアを削られた。2人とも残数0だ。

そして私たちは2機とも、速度の回復と逃走のために高度を下げた。


状況は圧倒的に不利。


一方でレイピアの持つワイバーンも残弾0のはず。

アクスのフレアも1つ吐かせた。

この状況になるまで、向こうも消耗している。

相手の空対空ミサイルは、短距離用のヴァイパーのみ。


ここから望みを繋げるなら。


ECMは向こうが先に使った。

つまり先に向こうの効果が切れる。

レーダー上で、私たちだけが優位になる時間帯が来る。


攻撃のチャンスは、そこだ。


「あと5秒くらい!」

ゲームの仕様で、ECMはECCMとしても機能する。

同時に作用している間は互いのレーダーはクリア。

でも、切れ目は狙える。タイミングが命だ。

このために、ダガーには効果時間を体験と知識で覚えてもらった。


「付いてきて!」


時間だ。

ダガーに声をかけ、機首を上げる。スロットル全開。上昇を開始。

相手のECMは効果切れ。ダガーのECMだけが有効。

つまり相手のレーダーは使えない。ロックオンもできない。

状況を覆すのは今しかない。


アクス機の4時方向を取った。

ダガーには周囲を警戒してもらう。とくに上。

彼女たちの腕なら、目という自前のレーダーを頼りに機銃で狙ってくることもあり得る。


事実、アクス機が回避行動を開始した。

目視でこちらを確認している。

でも私たちの状況優位は変わらない。

叩くなら今だ。攻撃開始。


「FOX3!」


必殺の高性能誘導ミサイル『ワスプ』を射出。1発。

即座にアクスがフレアを放った。

HUDには『MISS』の赤文字が表示される。

さすが、いい反応だ。


「上!」


ダガーが叫んだ。アクスの追跡を中断。

視線を上に。

キャノピーの向こう、レイピア機の急降下を確認。

機銃での奇襲と見た。


でも、当然ながらミサイルの方が射程が長い。

機首をレイピア機に向け、ワスプ射出。

回避を強いる。撃墜やダメージには至らずとも、レイピアからもフレア残数を1つ奪った。


少し状況は持ち直したが、ここでダガーのECMの効果も切れた。

お互いがレーダーで丸見え。

そして互いに手の内は割れた。

ここからは泥仕合の始まりだ。


HUDを読む。アクス機の旋回。背後を狙っている。


「弱いやつは、いらない」

アクスの声。

「替われよ!」

狙いはダガーだ。

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