30話 ホログラフィック・デコイ
相手の機体編成を確認。
鴨川は直線最速のRF-31『バラクーダ』。
佐倉は、可変翼で高速巡航と機動性を切り替えるAF-14『グリフィン・クロウ』。
鴨川が高速で突っ込んでかき乱し、佐倉が格闘戦で波状攻撃を仕掛ける編成、と見た。
「コールサインはバリスタだ!よろしくぅ!突っ走るぜー!」
「ナックルだー!よろしくー!」
早速、何か飛来。
長距離ミサイル『ワイバーン』だ。
撃ったのはバリスタの方か。
「来たよ!ブレイク!」
「うん!」
2発。ミサイルが迫る。どちらも私狙い。
ハイGターン。負荷をかけての急旋回。回避に成功。
旋回しつつ敵を探す。見えない。レーダーの外。まだ敵の間合い。
と思ったら。
レーダーに反応。
遠くの空に小さく、機影。
どんどん近づいてくる。
「スパイク!」
ロックされている。
なら、こちらも迎撃体制。ロックオン。狙いを。
……もう相手は空の彼方に消えていた。
「どうだ!マッハ4だぜ!」
熱の壁を超えて。中の人は黒焦げだ。現実なら。
ヴァイパーも撃たずに。魅せプレイのつもりか。
バラクーダは、他の追随を許さない加速性能とトップスピードを持つ。
反面、他の追随を許さないほど曲がりづらい。
スピードに乗ったほうがまだ旋回性能がある、とても尖った機体。
トップスピードのあの機体には、ヴァイパーですら追いつけない。
今の私たちには、6時方向からの攻撃は不可能だ。
「ねー!待ってよー!」
当然、追いつける僚機も存在しない。
ナックルの乗るグリフィン・クロウはまだ見えない。
またミサイルアラート。
バリスタが戻って来る。
ワイバーン。2発。
機体を横に傾ける。ミサイルの進路から角度を取るように機首を上げ、旋回。フルスロットルで加速。
回避……した先に、轟音。
マッハ4の機体が駆け抜けていく。機銃をばら撒きながら。
不覚。少し食らった。
今のが機銃で良かった。
単発の攻撃は大したことないけど。
この速さで駆け回られると狙えない。
反面、こちらは削られてしまった。
シンプルなスピード狂。
厄介だぞ、これは。
「へっへー!言ったろ!今日は、かわいいイルカちゃんは狙わないぜ!」
それは、TX-04ブルーコメットのことか。
「でもバリスタ。今日はイルカちゃんじゃないみたいだよ」
「なんだー?機体を変えたかー?ま、カンケーないけどなー!」
「待ってよー!一緒に行こうよー!」
今度は2機で来る。
並んで、正面。
ミサイルアラートが鳴らない。ワイバーンの残弾はまだあるはず。
長距離砲を温存する方針か。
なら先手を打つ。
ヒュドラの射程圏内に入る。2機をロック。2発射出。
射出後に機体を横に倒してピッチアップ。60度くらいの角度を取る。
ナックルがフレアをまいて、2機とも回避に成功。
直後、バリスタが加速。
近づいてくる。真っ直ぐ、私に。
空気を切り裂く音が迫る。今度はロックされてる。ミサイルアラート。
急旋回。間近でヴァイパーが爆発。近接信管だ。また少し削られた。
轟音は過ぎ去っていくが、まだ警告音が止まない。
「逃がさないよー!」
ナックルの機体。3時方向。ヴァイパーを撃たれた。
「危ない!」
ダガー機からのフレア射出に救われた。
「助かったよ!」
ナックル機はそのまま私の5時方向に位置取る。
可変翼が開いた。格闘戦に以降する気だ。
「ダガー!」
でも格闘戦なら2対1。ダガーとの連携で叩ける。
バリスタはまだ遠くの方を飛んでる。今がチャンス。
ナックルの後ろに回り込んでもらう。
「うん!FOX2!」
ダガーからのミサイルを、ナックルは急旋回で難なく回避。
開いた翼の先に白い筋を引いた。
なるほど、よく曲がる。格闘戦は向こうに分がある。
それでも数はこちらが優位。
でも。
「いいぞー!そのまま押さえとけー!」
猛スピードの機体が戻ってきた。
バリスタ機からのミサイルアラート。
回避のため進路を変更した私に、ナックル機が向き直る。
ミサイル。撃たれた。
急ぎ、フレアの射出。高度を下げて少しでも速度を稼ぐ。
バリスタは過ぎ去っていくが、ナックルはぴったり付いてくる。
この2人。
さっきの言葉通りにダガーをスルーして、私だけを狙うつもりか。
ダガーを脅威でないと見なしたか。
その思惑は功を奏している。状況は良くない。
6時方向に付かれている。
小回りの性能は、可変翼を開いたナックル機の方が上だ。
ここは頼る。
「お願い!」
「了解!FOX2!」
ナックルの後方7時方向から、ダガー機からヴァイパーを射出。
ナックルは即座に回避行動に入る。
敵ながらいい反応。おかげで振り切れた。ダガーにも感謝。
でも、すぐにまたアラート。ロックされている。
バリスタだ。この距離、ワイバーンが来る。
忙しいな、この戦いは。
ペースを乱されっぱなしだ。
手を打つなら、ナックルが離れた今だ。
「ダガー!」
「うん!」
ダガーへ合図を送る。ダガーの機影が私のすぐ横に並んだ。
被ロックのアラートが消えた。ロックの対称がダガーに写ったことを意味する。
「お前じゃねえよ!邪魔だ!仕方ない、このまま落ちな!」
「ダガーを?しょーがないなー」
ワイバーンが迫るのと、ナックルからのミサイル射出を確認。
ナックルが放ったのは、ヴァイパーより高速な飛翔速度を誇るシルフィード。
近距離で撃たれると避けられない。恐ろしいものを隠し持っていた。
ダガーは回避を試みるも、直撃。
2つのミサイルがそれぞれ爆ぜた。
「可哀想だけど、間に入ったお前が悪いんだぜ、ヒヨコちゃん!」
「打ち合わせと違うよー。でも、やったぜー!」
「あとはジャベリンだけ!」
1機撃墜で、敵の2人は勢いに乗っている。
これでいい。
ここまでは計画通り。淡々と。ナックルの背後を狙う。
「待って!ダガーが!まだ!」
すぐに慌てた様子でナックルが叫ぶ。
「は!?直撃しただろ!」
無理もない。レーダーからダガー機は消えていない。
ミサイルの直撃を受けてなお、ピンピンしている。
経験者の2人ならすぐにトリックに気づくだろうが。
この一瞬の油断を突く。
ロックオン。ヴァイパー射出。
「あ!ずるっ!」
それがナックルの断末魔となったが。
戦場にずるいも何もあるか。
まず1機。撃墜。
「ナイスキル、ジャベリン!」
「ありがとう!もう一回いくよ!」
高速で飛び回るバリスタを落とす。
無理に落とさなくてもスコア勝ってるけど。
きっちり勝負を付けたい。
「にゃろー!ナックルの仇だ!」
ワイバーンの射出を確認。でもアラートがない。
狙いはダガーだ。かかった。
「ダガー!そのまま突っ込んで!」
「了解だよー!」
ダガー機をバリスタの進行方向に置く。ヘッドオン。
あえなくワイバーンがダガー機に刺さるが。
「やった!今度こそ!」
バリスタは撃墜を確信している。それでいい。
私も位置取りは完了している。
高速飛翔するバリスタ本体へ。
「ヒュドラ!FOX3!」
ワイバーンの爆風が隠れ蓑になっている。
相手の視点なら、突然ミサイルが飛んでくるように見える。
マッハ4の全速力だ。当然、避けられない。
そのトップスピードが仇となる。
直撃。オレンジ色の爆風が広がり、バラクーダから主翼をもぎ取った。
バリスタ、撃墜。
「ナイスキルだよ!」
「ダガーのおかげだよ!」
隣に座るダガーとハイタッチを交わす。
「うまくいったね!」
* * *
「なんだよ今の!弾当たったろ!チートか!?」
「そうだそうだー!」
試合直後に早速の物言いが入る。
鴨川も佐倉も立ち上がって抗議しているが、当然チートなどしていない。
「あんたたち2人とも、まんまとデコイにやられたのよ」
私たちの代わりに、モニタの前に座っている香取が口を挟んだ。
「ホログラフィック・デコイ。光学迷彩で自身を隠し、電子の幻影を飛ばしてレーダーやHUDを騙す兵装よ」
「2人とも、ひばりに騙されちゃったね」
動画撮影班の2人からの解説を聞いて、鴨川と佐倉の両名は口をポカーンとさせたあと。悔しさのあまり頭を抱えて座り込んだ。
「このために、ダガー機を変えたのね」
「あははー!一本角のヒヨコちゃんだー!」
「うん!そうだよ!」
ひばりの機体の尾翼には、両の羽根の先に短剣を構えて、少し悪い顔をしているヒヨコのマークが描かれている。
少し前までは、これはTX-04『ブルーコメット』に描かれていた。
今日は、大きな三角の尾翼にそのマークが描かれている。
広く突き出したデルタ翼と、コクピットの横のカナード翼。
そしてコクピットの前から一本伸びた給油口。一本角と称されることも多い。
「EX-88『ストームエッジ』。ひばりの新しい翼だよ」
この翼なら、ひばりの力を、ひばりの思いを、もっともっと引き出せる。
「強くなったのは認めるよ」
そう言ってきたのは。
「その付け焼き刃が、通じると思うか?私たちに」
成田と市原のペア。次の相手だ。
知識も経験値も、今のペアとは段違いと思っていい。
それでも。
「やってみなきゃ、わからないでしょ」
ここを突破しなきゃ、どっちにしても大会には出られない。
「やるよ、ひばり」
「うん、任せて!」




