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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
5章 部内戦〜練習試合

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29話 部内戦をしよっか

成田が爆弾を投じたことで場の空気が凍りつく。

全員の視線が成田に集まったまま、3秒くらい、沈黙。


この沈黙を鴨川のおちゃらけた声が破る。

「なんだお前。自己紹介おつ〜」

「うるせえよ黙ってろ」

でも成田の口調は落ち着いて、表情は真剣そのものだ。


「おーなんだ、やんのか〜?」

「落ち着けお前ら。成田。詳しく話してみろ」


蘭花の鋭い目線が成田に向くが、成田も怯む様子を見せない。


「必要なのはチームで勝てるヤツ。それは分かります。

 実際、ひばりは上手になりました。よく動いてチームを助けました。

 2回戦の3ラウンド目、捨て身のスモークで風咲を助けたところなんか、MVPものです。

 それは分かってます」


でも。と、成田は続ける。


「私なら、同じサポートした上で敵を落とせる」


静かに。それでも力強く。


「私と風咲がバディを組んだって、チームを勝たせることができる」


自分が上位互換であると。つまり、自分を夏の大会に出せ、と。

レギュラーを替われ、という分かりやすい、かつ彼女にとっては切実な主張だった。


「待ってよ。じゃあ私とのコンビは解消ってこと?」

市原が立ち上がりながら問い詰める。細い眼鏡に光が反射した。

「い、いや、そうじゃねえけど」

「大雑把なあんたに繊細なフォローなんかできないでしょ。私が風咲の補助に回った方が有意義だと思うけど」

「分かった分かった。怒るなよ。じゃあ2人で出ようじゃねえか。な?それでいいだろ」

「……それならいいよ」


全く良くないのだが、市原は納得してる。

この2人、ゲーム内のランクが近いことは知ってたけど、いつからこんなに仲良くなってたんだろう。


と、そこへ。


「ちょっと待ったー!私たちを忘れてもらっちゃ困るぜー!」

「そうだそうだー!負けねえぞー!」


腕をまくって二の腕をパンパンと叩いている鴨川と、佐倉は座ったまま腕を振り回している。

成田はその様子を一瞥だけして蘭花に向き直った。


「レギュラーの座を奪い取る。そのために私たちは鍛えました」


そして。


「お前はどうなんだ、ひばり」

その目はひばりにも向けられた。


「わ、私……」

ひばりは固まった様子で震えていたが、それでも真っ直ぐ成田を見返して。

「私、負けない!」

と。力強く、ハッキリと宣言した。


私はそのとき、成田の口元が緩んだのを見逃さなかった。だから。

「いいよ。かかって来なよ。奪い取ってみなよ、できるものなら!」

あえて挑発的に、みんなに向けて強い言葉を放った。


「あー、お前らの言いたいことはよく分かった。分かったから落ち着け」

「でも、レギュラーって変えるんですか?」

一連の流れを、横から慌てながら見ていた野田からの、素朴な疑問。


「この前はお前らの投票と、あたしらの見立てをもとに選んだ。

 だがそれは、あくまでも春の大会の話だ。

 夏の出場メンバーをどうするかは、まだ決めてねえ」


おおー、と、大騒ぎしていた4人が感嘆の声を漏らす。

私も、うかうかしていられない。

いや。

その方が面白い。


「その選抜方法だが……」

「じゃあ、部内戦をしよっか!」

ずっとニコニコしながら様子を見ていた月子が、両手を胸の前でポンッと合わせた。


「風咲とひばり。成田と市原。鴨川と佐倉。香取と野田。

 2人1組のチーム戦で戦うの。どう?」

「うーん……まあ、いいだろう」

蘭花は悩みながらも同意した。彼女のことだ、何か別のプランを用意していたのかもしれないが、月子の思いつきに吹き飛ばされたのだろう。

蘭花も、月子の案の方が有意義だと判断したのかもしれない。


そこへ、ホワイトボードの横から小さく香取の手が挙がった。


「私はパス。あんたたちの反射神経には着いていけないわ」

「私も〜。最近、裏でみんな動きを見てるほうが楽しいから」

野田も辞退。

みんなの活躍を動画に残してあげる、と付け加えた。


「じゃあ、お前ら3チームで」

「4チームだね!」


蘭花が話し始めたところへ、被せるように、月子が割って入った。


「いや、数が合わないだろ」

当然のツッコミに、月子はやはりニコニコしながら。

「私たちもやるよ〜!」

参加を宣言した。

「なんでだよ!」

「だって楽しそうだし」


それを聞いて、しばらく腕を組んで考えていた蘭花だったが。

「わかった。この4ペアで総当り戦だ。それで決める」

ここでも月子の提案を受け入れた。


「今更言うまでもないと思うが、必要なのは個の力じゃあない。

 評価するのは、『2人でいかに連携するか』。その1点だ」


そしてニヤリとしながら続けた。


「ありえねえとは思うが。その連携であたしらに勝てたら。

いや……あたしと月子、どっちか片方でも落とせたら。

そいつは即、レギュラー入りだな!」


ざわめき。歓声。興奮。

みんな、やる気だ。


「狙うなら蘭花さんだよな」

「へえ。何か言ったか?」

まずい。口元が引きつってる。誰だ今、余計なこと言った子は。


そんな一瞬の緊張をものともせず、月子が立ち上がって目を輝かせている。

「ワクワクしてきたよ~!いつやる?明日?今日?」

「気が早すぎだ、バカ」


蘭花はしばらく考えたあと。

「1週間やる。次の土曜だ」

日時を指定した。

「それまでに仕上げてきな!」


* * *


その夜。ひばりと通話をしながら2人で特訓を開始。なんだけど。


「今日は怖かったー。成田さんがあんなこと言うんだもん」

「ああ。あれは多分……」


自然公園での課題をクリアする前だったら、

成田のことをただの嫌なやつだと思っていただろう。


あの課題を通して。

成田は、負けん気が強くて、情熱家で、本当は仲間思いで。

でもちょっとだけ不器用だってこと、みんなも知ってる。


もちろんレギュラーが欲しいのは本心だろうけど。


それ以上に、負けて沈んでいた私たちに発破をかけたかったのかもしれない。

「私が悪役になってやる」とか、陰で示し合わせて。

おかげで重苦しい空気は吹き飛んで、次の戦いの準備にみんなの気持ちが向いた。


「それは、分かってるけど」


おかげで、あのひばりが「負けないよ!」って言い切った。

なぜだか私もとても嬉しいし、誇らしい。


「私はね。この1ヶ月、一生懸命頑張ってきたつもりだよ」

「うん!ひばりはすごいよ!」

「でも試合じゃ役に立たなかったから」

「だから、そんなことないよ!」


ただの慰めじゃない。

成田が言及したように、クロウラー戦でのスモークは心強かったし。

危険な囮を成功させたのは言うまでもない。

セレスティアル戦でも、その献身に何度も救われた。


それに何より。

蘭花のミッションを、最後まで忠実に実行した。


「あのとき最後まで諦めなかったのは、ひばりだけだったよ」


試合は私が終わらせてしまったけど。


チームの絶対的支柱が倒れてもなお、最後まで味方を鼓舞し続ける。

それって、分かっててもなかなかできない。

もはや才能と言ってもいい。


「うん、ありがとう……でもね」


ひばりは自分の心の強さを、もっと誇ったらいいのに。


「私がもっと役に立ってたら、風咲が無理しなくて済んだのに、って」


……ああ、そうか。


「ありがとう、気遣ってくれて」


私のことを心配してくれていたのか。


ひばりはそういう子だ。

だからこそ、この前の大会ではメンバーに選ばれたんだ。


「ただ一生懸命頑張るだけじゃダメなの。もっと、みんなのために頑張りたい」


その彼女が、ここに来てさらにチームの役に立つことを渇望している。


「強くなりたいの!」


この願いを私も全力で叶えてあげなきゃ。

一緒に強くなろうって、約束したものね。


* * *


「なあなあお前ら。どんな特訓してるんだよ」

「言うわけねえだろ、バーカ」


次の日。

鴨川が成田に絡んでいる。口は悪いのに、この子たちもなんだか仲が良さそう。

それなら私も、みんなの夜の練習に参加させてもらえば良かった。

……いやいや。それじゃ本末転倒だ。

私は第一線で飛び続けなきゃいけないんだから。


「お、風咲ー。お前にも親切心で教えといてやるよ」

今度は私にも絡んできた。


「お前らの戦い方は、もう私には通用しないぜ!」

「バカ、なんでわざわざ言うんだよ!」

「その方が正々堂々としててかっこいいじゃんよ!」


鴨川から出てきたのは、意外な言葉。

戦い方?通用しない?どういうことだ。


「私たちはみんな、お前がアタッカーでひばりがデコイだって知ってる」

私の様子を察して、成田が教えてくれた。


「罠と分かって食いつくやつなんて、ここにはいないぜ」


納得した。

これは思った以上にやりづらい相手かもしれない。

敵は先輩たちだけじゃない。

甘くみていたら、間違いなく痛い目にあう。


いや、部内戦だけの話じゃない。

春大会での私たちの試合を見ていた他の高校も同じだ。

どのチームも気づいているはずだ。

あのブルーコメットに食いつくな、と。

スモークに気をつけろ、と。


それさえ注意すれば……あの練習機は無視してもいい、と。


ひばりの囮作戦は、もはやこの先、誰も引っかからない。

戦い方を変えなければ。役割を変えなければ。この先通用しない。


それに。

昨日の夜、ひばりとの練習で実感した。


何よりも、ひばり自身が飛びたがっている。

もっと高く。もっと速く。

そして、もっと強く。


ひばりには新しい翼が必要だ。


* * *


「くそ!先輩たち強すぎだろ!」

「はっはー!成田、市原、なかなか強くなったじゃないか」


土曜日。


「さすが、強い。まだまだです」

「ううん、やっぱり2人とも実力あるよ!楽しかった!」


狭い部室は、いつも以上の熱気に包まれていた。

窓も扉も全開にして、風を通している。


他の部活の人たちが、何をしてるんだろうと興味の目を向けては通り過ぎていく。


今日の対戦ルールは、2対2で復帰なし。制限時間は5分。待ったナシの1ラウンド勝負。

連携で不覚を取れば、なし崩し的に敗北してしまう実にシビアなルールだ。


「じゃあ次は、風咲・ひばりペアと、鴨川・佐倉ペアね」

「へっへー、負けないよー!」

「私たちの恐ろしさ、思い知れ!」


さながら小悪党のような台詞を吐きながらも、彼女たちの目はやる気に満ちている。

こちらも応じなければ、失礼というもの。


「やるよ、ひばり!」

「うん!」


特訓の成果を見せてあげよう。私とひばりの、新たな連携を。

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