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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
5章 部内戦〜練習試合

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28話 鍛え直すぞ

2人で話したいから、と、部室棟の屋上に続く階段へ蘭花を誘い出した。

封鎖された屋上への扉の前には、ほとんど誰も来ない。

2人で話すには持って来いだ。


蘭花も「話したいことがある。ちょうどいい」と言っていたが。

「すまなかったな」

開口一番の彼女の言葉は、謝罪だった。


「あれだけチームの力を説いておきながら。

 また個の力に縋ろうとしていた」


想定外の言葉に咄嗟に応えることができず、私は黙ったままだった。


「お前と月子がいれば全国へ行ける。

 また聖フィオーレと戦える。去年の雪辱を晴らせる。

 そう思っちまった」


月子の名前と同列に、私の名があった。

蘭花がそんなに私を買ってくれているなんて。


「無理をさせて悪かった」


立て続けに想定外の言葉が続いて、尚更言葉が出なくなった。

何を言ったらいいのか。頭の中をぐちゃぐちゃのワードが駆け巡る。


「我ながら情けねえ。仕切り直しだ」


また私のせいでチームを敗北に追いやってしまったのに。

「私はもう、ここにいるべきではない」って言いに来たのに。

「辞めます」って、たった4文字を伝えにきたはずなのに。


「それでも、チームにはお前の力が必要だ」


言葉は喉のところまで出かかって、やっぱり、言い出せなかった。


「頼むぞ」


蘭花は私の肩を軽く叩いて、階段を降り始めた。


蘭花を呼び出して起きながら、私はまだ何も言ってない。

口だけが開いて、それでも何も言葉が出てこない。

蘭花の短い言葉から感じる想いに、心が揺れた。


『見たいんだ。本気のあいつが、どこまで飛べるのか』って、前に蘭花は話してくれた。


チームを勝たせるためにどんな厳しいことも言う。

月子を高く飛ばすためになんだってする。

そのために、必死で戦略を練る。


その蘭花が私なんかに「頼むぞ」なんて言うから。

頭も心も、全部ぐちゃぐちゃだ。


「ああ、そうだ」


階段を2段降りたところで蘭花が止まり、携帯端末を操作した。

直後に私の端末からピロンと通知音が鳴る。


「お前がどんな理由で飛ぼうが。勝つ意志があるなら、文句はない」


振り返った蘭花に促され、届いたメッセージを見る。

URLだ。

開いてみると、eスポーツ専門の国内向けニュースサイト。

その中の、地方の大会の記事。この前の、土曜日の試合の記事だ。


私たちの……というか、私のことも書かれてる。


「記事になってたな。あたしらの戦いと。あいつらの優勝と。

 それに、お前の活躍」


1回戦の8機撃墜や、2回戦のブザービート。そして3回戦の試合放棄。

『期待の新星』という文字列が、私にはもったいなく、居心地が悪い。


「強い1年がいるなら、メディアはほっとかないだろうな」


ハッとした。何を言いたいのか、察した。


蘭花は、さり気なく私にヒントをくれている。

あの子のこと。


試合に負けたばかりなのに。

チームに関係ない、私の個人の目標なのに。

やり方はぶっきらぼうで、不器用なのに。


その優しさが染み渡るようで、自然と胸が熱くなった。

気づいたら蘭花の背に頭を下げていた。


『先輩、ありがとうございます』

蘭花に倣って声には出さず、心の中でだけ呟いた。


このまま終われない。

私の体調不良のせいで大会を終わらせてしまったけれど。

ずるいとか、卑怯とか思われようと。


あの子との約束だけは、絶対に譲れないんだ。


そう決めて階段を降りると。

「ねえ!」

踊り場に、ひばりが待っていた。


「私、強くなるから!もっと上手になるから!だから!」

震えながら、叫ぶように、顔を真っ赤にしながら、続けた。


「辞めないで!」

「辞めないよ」

私にはまだ、やることがあるからね。

ひばりの手をとって、可能な限りの笑顔を浮かべて、答えた。

「一緒に、強くなろう!」

バディだからね。私たちは。


* * *


今日の部活は土曜日の試合の振り返りがメイン。

ホワイトボードの前にみんなで座り、先生も横に控えている。

話題はやはり、3回戦のセレスティアルに集まる。


「以上、セレスティアルの試合から分かった、彼女たちの主な戦術です」

香取と野田からの敵チームの分析が報告される。

どういう戦いが行われていたのか、何を狙って敵は動いていたのか。

こうして外から俯瞰して見ると、すごく分かりやすい。

同じ1年生なのに、こうして発表すると頭が良さそうに見える。羨ましい。


「肝心のあの光の正体に触れられてないが」

蘭花の指摘ももっともだ。

「それに関しては、なっちゃんから」

呼ばれて、成田がホワイトボードの前に出る。


スピカの操るナイトリーパーが放った、あの光の攻撃。

撃墜女王すら容易く葬った、恐るべき兵装について。


「サジタリウス。ナイトリーパー専用の装備です。

 衛星軌道からレーザーを放ちターゲットを焼き払う。

 前作の、いわゆるトンデモ兵器枠です」


ホワイトボードに簡易的に絵が書かれる。


「今のエートレでプレイアブルになったのは3月。つい最近です。

 待望の前作ボスの追加コンテンツ。みんな期待したのですが」

「聞いたことあるよ~。機体性能が微妙すぎて使いづらいって」

月子が口を挟む。試合のときにも「ピーキーで扱いづらい」と言っていた。


「でも、あんなに強いなら環境になってても良くない?」

「たしかに。なんで?」

鴨川、佐倉から疑問が続く。


「だって」

成田はいたってシンプルに回答した。

「対地兵器だぜ、あれ」


成田がホワイトボードに図を描きながら、説明を続ける。


「やってみれば分かる。

 下向きに照準が出るから、セミアクティブレーダー方式で目標をしばらく捉え続けるんだ」


実演を見たかったが、この部室のエートレにはDLC機体は入っていないという。

仕方なく、サジタリウスについての解説動画がモニタに映し出された。


成田の言う通り。

照準が下向き。体感で3秒程度はターゲットを照準に捉え続ける必要がある。

機体のカスタムで多少改善されるとはいえ。


「ドッグファイト中にこんな兵装、使えないだろ」


『激しく動き回るターゲットに当てられない』という仮説は正しかった。

また、『1ラウンド中に使用できるのは3発だけ』という仮説も正しかったことを、解説動画から学んだ。


「本来対空戦で使えない兵装が、スピカの戦術にピッタリとハマった、ってわけだ」

「すごいね。機体の配信開始から2ヶ月で、あそこまで仕上げてきたんだ」

「お前も落とされるくらいだからな」

「うるさいな~」


サジタリウスの直撃を受けた月子本人は、口を突き出し、蘭花に文句を言っている。

あのときの光景が脳裏を掠めて、少しだけ胸が苦しくなる。


そんな私の様子を察してか、月子が声をかける。

「風咲は大丈夫なの?」

「え、ええ……」


言えない。

月子の撃墜にショックを受けて、フリーズしてたなんて。


私自身も驚いていた。

『この人がいれば何があっても大丈夫』って、いつの間にか思い込んでしまった。

これも反省点だ。


「お医者さんは、ただの疲労だって」

医務室では糖分を取ってしっかり休むよう、勧められただけ。

大事を取って日曜日はほとんど1日寝ていたし、今は何も問題ない。


「でも変なんですよ。最後の方、急に会場の声が聞こえて。

 お客さんの歓声とか。実況の人の声とか」

「急に、って……」


何故か蘭花の眉間にシワが寄り、怪訝な顔をしている。

月子とひばりも、顔を見合わせている。


「耳のところは密閉されてないんだから。聞こえるだろ。普通に」

「うちのヘッドセットはPTAからの贈与品で、

 ノイキャンがあるような高級品じゃないからね~」

「よかった!聞こえてて普通なんですね!

 みんな、周りの音が聞こえないくらい集中してるのかって……」


そう、なの?


「なるほど。分かったよ」


それまで話を聞いているだけだった先生が、おもむろに口を開いた。


「いわゆるゾーンだ。アスリート気質の三条くんらしい特性だね」

「ぞーん?」

「ディフェンスですか?」


私含めて、みんながピンと来ていないことを察して、先生が改めて説明を始めた。


「簡単に言えば、とても集中している状態だよ。

 これは勉強でも、運動でも、仕事でも見られるんだ。

 極限の集中状態で高いパフォーマンスを発揮し、結果を出しやすくする」


何だか、すごそう。私自身は説明されても実感が沸かない。


「だから三条くんは、試合に関係ない周囲の音をノイズとしてシャットダウンしていた」

「じゃあ、それが聞こえたってことは?」

「『集中力が切れた』。ごくシンプルに言えば、そういうことだね」


思い返せば、そうかもしれない。

集中が切れて、外からの音が聞こえるようになって、余計な思考が増えた気がする。


「でも必殺技みたい。集中してパワーアップ!」

「覚醒したヒーローだ!それならどんな敵がいても大丈夫!」

「それは……むしろ逆だね」

はしゃぐ1年生数人とは対照的に、先生は冷静に返した。


「それだけの集中状態があって初めて、敵のエースと対等に戦える。

 そしてその集中も無限ではない。それに、見る限り体力の消耗も激しい。

 極めて不安定な状態だ」


クロウラー戦も、セレスティアル戦も、2ラウンド終了時点で息切れを起こしていた。

あれが集中力切れの予兆とも言える。


「といっても、『集中するな』なんて無理な話だろ」

「そうだね。インターバルでしっかり休むことだね。

 あと糖分補給を忘れないこと」

「連戦や長期戦に注意、だね~」


普段の部活では、1戦1戦の合間に振り返りの時間もあるし、連戦になることもなかった。

大会で初めて露呈した、自分の弱点。


まだまだ、道のりは長い。


「とにかく。次は夏の県大会。ここが本番だ。

 間違いなく、セレスティアルと再戦することになる」


蘭花が総括に入る。


「勝たなきゃ、全国に行けねえ。鍛え直すぞ!」


全員が気合を込めた返事で答えたあと、成田が「ちょっといいですか?」と手を挙げた。


「やっぱり、弱いやつは試合に出ない方がいいんじゃないですか?」

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