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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
4章 春季大会

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幕間04 風咲④ また一緒に

夕飯も食べずに、部屋の中で震えながら彼女を待った。


私の空がなくなってしまう。

私がせっかく見つけた居場所が潰されてしまう。

そんな気がして。堪らなく怖かった。


あの子が来る時間だ。

急いでゲーム機を起動して、ヘッドセットを装着した。


「那由多!あのね!」

「……やあ、ぼくだよ」

何だか、いつもより元気がないように感じた。


「今日はどうする?」


夜間ステージのフリーフライトをしよう。

それは、話したいことがあるときや、戦う気力が沸かないときの、

私たちの合言葉だった。


早速、私はまくし立てた。


怪我。バスケを続ける意思がない。学校の欠席数。期日までの未回答。

そういった理由でスポーツ推薦が立ち消えたこと。

家庭教師を付けようとしてること。

高校のこと。


一方的に、溢れる言葉をそのままぶつけるように、雪崩のように那由多に投げかけた。


「推薦がなくても、普通に受験したらいいんじゃない?」

「そうだけど……ずっとバスケだけで生きてきたのに。

 勉強なんて、もう分かんないよ……」

「そっかー」


那由多の反応は、淡々としていた。

いつもはもっと寄り添ってくれるのに。

「そんな家庭教師なんか引っぱたいてやろうよ!」って、いつもなら言いそうなのに。

やっぱり少し、様子が違うなって思った。


「どうして、学校を休んでいるんだっけ?」

そんな那由多が、急に核心を突いてくる。

「そういえば聞いてなかったよ。今更だけど」

これまで聞かれなかったし。わざわざ言うことでもなかったし。

触れたくもなかった。

でも那由多に隠すようなことでもないから、端的に話す。

あれから時間も立って、気持ちは少し落ち着いてるし。


「夏の全国大会で、怪我をしちゃったの」

「全国!大会!?バスケの!?出たの!?すっごい人じゃん!」

いつもの素のリアクションが返ってきて、少し安心した。


「怪我をしたあと、病院に運ばれて。

 お昼過ぎになって、みんながお見舞いに来てくれたの」

「ええー!いい友達じゃん!」

「固定のために巻かれた包帯に、みんながメッセージを書いてくれて」

「うんうん!いいなー。セイシュンだなー」

「でもね……」


思い出して、少しだけ身震いした。


「『お前のせいで負けた』って。誰かがそう書いてたの……」

目の奥が熱くなって、言葉が詰まった。


「ええー!ひどい!誰!そんなこと書いたの!許せないよ!」


でも、那由多が怒ってくれたおかげで、心が軽くなった気がした。


思えば、この話を他人にするのは初めてだった。

メッセージに気づいて半狂乱状態の私を取り押さえに来た看護師さんにも。

お医者さんにも、家族にも話さなかったのに。


顔も知らないオンラインのゲーム友達にこんなこと言うなんて。

なんだか不思議。


感情が落ち着いて冷静になった私は、またなるべく淡々と続けた。


お見舞いに来てくれたのは、一緒に試合に出ていた4人と、3年生の部員で特に仲が良い……と私は思っていた3人。

合計7人。

その中の誰かが、あのメッセージを書いた。


一体、誰が。

犯人探しをしたいんじゃない。

みんなを疑いたくない。

「みんなのことを信じたいのに」

裏腹に、疑念はどんどん膨らんでいた。


「裏切られるのが、怖くて……」

足が、身体が、心が、学校に行くことを拒んだ。


いろいろあったけど。

ここまで私に着いてきてくれたみんなのことを、仲間だって信じてた。

だからそんなこと書くわけがない。


もしかしたら、あれは何かの見間違いだったのかもしれない。

包帯はすぐに替えられてしまったから、確認のしようもない。


でも一方で、『書くわけない』と思ってしまうのは、虫が良すぎると思う。

書かれても仕方ない、とも思う。


「ひっどい話だよね!頑張ってた風咲にそんな……これだから女子はさあ!」

私たちも女子だけどね。

「いいの。私は、どうしようもないキャプテンだったから」


そんなことを書かれてしまう原因は、いくらでも思い当たるから。


「みんなの都合も聞かず、遅くまで練習に付き合わせて。

 不満の声を無視してハードな練習を増やしたり。

 普段も『やる気がないなら帰れ』とか、すぐ怒鳴ったり」


私が部長になってからすぐに、同級生だけで5人くらいは辞めた。

3年生になってからも少しずつ。

着いていけないって、1、2年生も何人か。

4月と7月を比較すると、部員の数は半分になっていた。


嫌われていたことは、何より数字が物語っている。


「ブラック部活、なんだってさ」


陰で悪く言われてたことも、もちろん知ってる。


「全部、全国大会に行くため。みんなで強くならなきゃって頑張ってたつもりだよ。

 どんなに嫌われたって。それがみんなのためだって。

 なのに一番息巻いてた私がコレだもん」


音声通話だから那由多には見えないけれど、膝を擦りながら続けた。


「恨まれて当然だよ」

「そっか……」


那由多はしばらく黙っていたけど。

「ねえ!」

いつもの元気な声で、勢いよく呼びかけた。


「この空の上には、何があると思う?」

また突然、那由多は何の脈絡もないことを言う。彼女はそんなことが度々ある。


「何って。それは……宇宙でしょ」


いくら勉強が苦手といっても、私でもさすがにそれくらいは分かる。


「現実ならね。でもこれはゲームだよ!

 もしかしたら、見たことないステージがあるかも!」


そんなわけない。くだらない。と思いながらも。


「行ってみようよ!」


誘いに乗った。


那由多のAF-22と、私のAF-15。

2機で機首を星空に向け、フルスロットル。

少しだけ。ほんの少しだけ。ワクワクした。

見たことのない何かに出会えることを、そんなわけないと理性で否定しながらも、

ほんの少しだけ期待していた。

たったこれだけの方法で、まだ見ぬ知らない世界に飛び立てるのなら。

重力なんか振り切って、宇宙の彼方まで飛んで行ってしまえ。


って思ったけど。


実際は、

『高度12,000mで強制的に失速してしまい、それ以上進むことができない』という、

文字にすると面白くもなんともない結果に終わった。


それでも何度も挑んで。何度も失速して。落ちて。

楽しかった。

たったそれだけのことで、お腹が痛くなるくらい、私たちは笑いあえた。


この瞬間だけは現実の重力を忘れることができた。

怪我のことも。受験のことも。何もかも。


「こんなに笑ったの、久しぶり」


ポツリと、那由多が呟いた。


「風咲と会えて、良かった」

何を言っているんだろう。

それは、私の方だというのに。


「ぼく学校で浮いてるし。最近はゲームの中でも避けられてたから。

君が何度も戦ってくれて。フレンドになってくれて。嬉しかったんだ」


那由多がそんなこと思ってたなんて、知らなかった。

ストレートな言葉に。さらっと、自身の境遇を添えて。


「恩人だよ」


それも私が言うべき言葉だ。

その言葉を彼女が言うなんて。

私は戸惑って、何も答えられなかった。


那由多も何も言わなかった。

沈黙。長い時間、機体のエンジン音と風を切る音だけが響いた。


「明日ね。ゲームのアカウント、お母さんに消されちゃうんだ」

唐突に、那由多が告げた。

「ゲーム機も捨てられちゃうの。もう受験だから。ゲームばっかりしてないで勉強しろって」


突然のお別れ。

でも、今日の雰囲気から何となく察していた。


なんで、どうして、という感情よりも、

いよいよか、と思った。


那由多の言葉を、思ったよりも冷静に受け止めていた。


「そう、なんだ」


本当は分かってた。

今のままじゃいけない。前に進まなきゃいけない。

容赦なく押し寄せる現実の中で、生きなきゃいけない、って。


那由多だって同い年の女の子だ。

つまり、世間でいうところの受験生だ。

本当はゲームで遊んでる場合じゃない。


ゲームの中のエースも、お母さんには勝てない。

いや……お母さんは倒すべき敵じゃないから。

私のお母さんも、那由多のお母さんも、

私たちのことを本気で心配してくれてることくらい。


分かってる。


今日那由多と話す前は、ご飯を食べる気も起きないくらい震えていたのに。

今は何となく、受け入れられている。


「最後に『友達にさよならしたい』って。許可してもらったんだ」

「そっか……」


せっかく仲良くなれたのに。

心の準備はできても、寂しいものは寂しい。


那由多は続けた。


「ぼくは、高校に入ったらeスポーツ部に入るんだ。

 そこでエートレを続けるよ。大会に出て、大活躍するんだ。

 勝って勝って、勝ちまくって!いっぱい注目されて!ぼくは!」


那由多は興奮気味に、少し早口になった。

言葉を区切り、大きく息を吸って。


「プロになるんだ!」

ハッキリと言い切った。


プロ、と言われてもピンと来なかったけど。

そういえば5年前にプロリーグができたんだっけ。

プロって、そのプロのこと?


「プロ……なれるの?」

「なるんだよ!だって」


プロ野球選手とかプロサッカー選手みたいな、大きな夢。

この場合はプロゲーマーっていうんだっけ。


「ぼくの可能性は無限大だからね!」

那由多は絶対の自信を持って、やっぱり言い切った。

姿は見えないのに、眩しかった。


小学校の頃は、そんな大きな夢を語るクラスメートが確かに存在した。

中学になってからは、夢を語る子はどこにもいなくなってた。

私だって例外じゃない。

怪我をする前でも「プロのバスケ選手になりたい」なんて、少しも考えたことがなかった。


いつも目の前の試合に必死だったから。


だから、余計に眩しい。


「応援するね」

力なく答える私に向けて。

「そうだ!風咲もeスポーツ部に入ろうよ!」

那由多は『名案を思いついた』とでも言いたげに、

1トーン高く一層元気な声で、叫ぶように言い放った。


「高校で!大会で大活躍してさ!そしたら、また会えるよ!」


そんな、いつ叶うか分からない途方もない話だけど。

「無理だ」という気持ちを、「その手があったか」という気持ちが、ギリギリ上回った。


「また会えるのかな」

「絶対会えるよ!風咲は強いから、きっとすぐ試合に出られるよ!」


期せずして舞い降りた、僅かな希望。

永遠の別れじゃない。また会えるんだ。


「2人で大会を盛り上げようよ!」


その希望を、信じてみることにした。


「じゃあ」


それはつまり、新しい目標ができたということ。


「勉強、頑張らなきゃだ」

「よかった!ぼくも一生懸命頑張る!だから!絶対!」

「うん、絶対に」


まだまだ小さいけど、新しい目標に進む力が。今日このとき、確かに湧いたんだ。


「また一緒に、飛ぼうね!」


その後も結局、教室には行けなかったけど。

卒業式すら行くことはなかったけど。


保健室登校や、家庭教師や、使える手段を駆使して。

私は潮見野高校競技ゲーム部の門戸を叩くことになる。


この約束が、いつ叶うのか分からないけど。

私は飛び続ける。会いたい人がいるから。

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