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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
4章 春季大会

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27話 光が貫いた

セイバーの指揮に従い、数千mずつ刻み、速度を回復させながら段階的に上昇する。

これなら1ラウンド目のような失速は避けられる。

やがて雲を眼下に、高度は8000mに達した頃。


「ワイバーン!来ます!」

「ECMを使う!構わず突っ込むぞ!」


メイス機のECMは、長距離ミサイルを容易く無効化する。

大事なのはミサイルが正面から来たこと。

だからもう下は気にしなくて良い。


2ラウンド目にスピカが放った謎の光も、今はまだ来ない。

このラウンドでその兵装を選択してないのか、範囲外なのか、ECM影響下だからか。

まだ仮説の検証も何もないけど。とにかく今は進む。


「敵ECM反応!丸見えになる、気をつけろ!」

「ロックされてます!ワイバーンまた来ます!」

「アーバレストも来たよ~!」

遠距離ミサイルの第二波。

今度は中距離用のアーバレストも飛んでくる。

「ダガー!」

「はい!スモーク、展開!」

ダガーが前に出てスモークを展開。

一時スモークに紛れ、ロックを断ち切る。


「スモーク、ナイスだよ~!」

「ECMの撃ち合いは、先に使ったあたしらが不利だ。

 お前のスモークが生命線だ!頼むぞ!」

「了解です!」


正面に敵機。

シルエットが判別できる距離まで迫る。

EX-2kサーペント、EF-3kミストナイトの2機。

「ヒュドラ、撃ちます!」

今度は私の番。

マルチロックミサイルで正面の2機を捕捉。

回避してもらう。


敵はフレアを展開し散開。

それを追って格闘戦にもつれ込む。

メイスと私で、それぞれ背後を取りに回る。


「動き回れ!食らいつけ!それならあの光は来ねえ!」

「了解です!ダガー、付いてきて!」

「うん!」

ダガーにも一緒に動いてもらう。

さっきの仮説が本当なら、激しく動き回るドッグファイト中に光で撃たれることはない。


「スピカ来るよ!上!」


レーダーに2機。

スピカの操るナイトリーパーと、EX-88ストームエッジ。

上空からの強襲。

光じゃない。本人が直接動いた。

これは、実質的に謎の光を封じたということ?


「任せて!ワスプ!いっけ~!」

セイバーがストームエッジの方に狙いを絞る。

カウンター気味に高性能誘導ミサイル『ワスプ』を叩き込む。

急降下のスピードに乗った敵機は回避が間に合わず、爆散。


「ナイスキルだ、セイバー!」

「さすがです!グッドキル!」

「ナイスキル、です!」

厄介な敵のECM使いを落とした。この一手は大きい。


一方、スピカの狙いはダガー機。

敵機からヴァイパー射出。

「ダガー!ブレイク!」

フレア射出と急旋回を促す。


私も敵機との交戦から外れ、ダガーの援護に回る。

私のバディに、指一本、触れさせるものか。

高Gの負荷を機体にかけ、急旋回。

落ちてくるスピカに対しヴァイパーで牽制。


高高度の影響か、いつもより操作が重たい気がする。

少しだけ浮遊感。脳が揺れるよう。


ミサイルは避けられた。でもダガーは無事。

スピカは上空に戻る。


ここまでは一進一退。

でも4対3で数的優位。

敵ストームエッジは、リスポーンからこの高度への上昇まで時間がかかるはず。

ECM使いを封じている。畳み掛けるなら今しかない。


「スピカを追うよ!逃さないよ~!」

「下は抑える!頼むぞ!」

「12,000!注意して下さい!」


普段のように勢いのまま上昇するのは危険だ。

天井に引っかかる。

ここで失速すれば、当然スピカは狙い撃つ。


狡猾なセレスティアルのことだ。

『上空に追わせて限界高度で敵を失速させる』、

そんな戦術も用意してるだろう。


「そうだ!危なかったよ~!」

セイバーは限界高度寸前で方向転換。

しれっと高度ギリギリで逃げるスピカに機首を向ける。

「ワスプ!FOX3!」

でも、フレアで退避。

退避しつつセイバーに向けてミサイル射出。また距離を取る。

さすが敵リーダーだ。一筋縄ではいかない。

「なんか機体が重いよ〜。なんで向こうは平気なの、ズルくない!?」

セイバーがミサイルを回避しながら愚痴をこぼす。

そういう性能の機体なのかも。


「ジャベリン!セイバーに加勢しろ!」

「でも!」


確かにスピカは落としたい。

とはいえ、ダガーから目を離すわけにはいかない。


「私なら、大丈夫だから!」

「もう一度ECMを使う!ダガーのことは任せろ!」


ためらう私を、

メイスもダガーも、後押ししてくれた。


「今しかねえ!行け!スピカを落とせ!」

「行って!かっこいいとこ、見せて!」


今ここで敵のエースを落とす。

それはスコア以上に価値がある。


「了解!」


敵の支柱をへし折る。つまり、私たちの勝ちを決定づける。


とはいえ、相手は撃墜女王セイバーと渡り合う強敵だ。

ここは1つ罠を仕掛けたい。

相手の庭である高高度。そのトラップであろう限界高度12,000m。

逆手に取らない手はない。


「スピカめがけて上昇します!限界高度ギリギリで失速したフリをします!」

「合図しろ!そこでECMをぶちかます!」

「了解!スピカを叩いちゃうよ〜!」


限界高度を目指して、上昇を開始。スロットル全開。

何だか、手が震える。機体の振動でコントローラが震えてるんだ。


目指すはスピカのナイトリーパー。その先に、青黒い空が広がる。


歓声が聞こえる。


互いの死力を尽くした攻防に、会場も盛り上がっている。

試合を盛り上げる実況の人も、興奮気味に叫んでいる。


みんな、私たちのことをこんなに応援してくれたんだ。

県内の小さな大会なのに。なんだか、ありがたい。


これが県大会とか全国大会だったら、きっと、もっとすごいんだろうな。


でも。


今まで歓声なんて聞こえてたっけ。

何で今になって?


ダメ、集中しなきゃ。


なんだか息苦しい。

そうか、空の上の方だからだ。空気が薄いんだ。


目の前が真っ黒だ。

宇宙を目指してたんだし、当然か。

それにしては、星の1つも見えないな。


今、高度いくつ?

HUD、見えない。真っ暗だ。


手元で、コトンって音がした。

ちょっとだけ手が軽くなった。


「ジャベリン!どうしたの!」

「どうした!応答しろ!」

「ねえ!しっかりして!」


いつの間にか、ストールを告げるアラートが鳴り響いていた。

私、どうしてたんだろう。


「1機落とした!1機そっち行ったぞ!」

「スピカを牽制したよ!救援に行くよ〜!」


さっきまで真っ黒だと思ってた視界が、真っ白になった。

雲に突っ込んだ。

そこでハッと我に返った。


しまった、スピカはどこだ。

限界高度で失速のフリをして、かかったところをセイバーが叩くって。


そういう話だったじゃないか。


高度は?

7000mまで落ちてる。

急いで戻らなきゃ。

機首を……加速を……。


コントローラ!ない!


慌てて机の上を手探りで探す。

良かった。すぐ見つかった。


「ジャベリン!逃げて!」

「あっちはセイバーに任せろ!昇るぞ、スピカをフリーにさせるな!」


敵機が迫るのが見えた。


「任せて〜!」

その上空から、急降下するセイバーの角ばった機体を確認。

光の加減か、機影も二重に見えたけど。

何だかとても安心した。


あっという間に、迫るサーペントを撃墜。

やっぱりすごいな、この人は。


「お姉さんが助けに来たよ~!」


あとはスピカだけ。


「さ、行くよ!」


その背に付いていこうと、

機首の引き上げと加速をしようとした。


スティック……ボタン……どこだ。


VRヘッドセットをしてるから、コントローラ上のボタンの位置が分からない。

スティックは親指に引っかかって分かった。

ボタンが、うまく押せない。


「ノイズ!ECMです!」

「ストームエッジが戻りやがった!まだ数は有利だ!仕切り直すぞ!」


コントローラの操作に手間取っていると。

セイバー機の遥か先。真っ黒い空間の中で、何かがキラッてした。


そして。

空が、光った。


「え」


セイバーの機体を、光が貫いた。


目の前で。

今の今まで雄々しく飛んでいたファントム・ホークが、炎に包まれた。

「うそ!」

黒煙を上げる機体。飛び散る破片が、撃ち抜かれたことを物語る。

主翼がもがれ、力なく落ちた。オレンジ色の光。爆散。

煙だけが僅かに残って、それもすぐ、風に散らされた。


空にぽっかりと、大穴ができたような。

さっきまで当然のように飛んでいたものは、突然消え去った。


何が何だか、分からない。声にもならない。


だって、さっきまで元気に飛んでたじゃないか。

今も飛んでなきゃ、おかしいじゃないか。

先輩の機影がないなんて、そんなのバグに決まってる。

だって。

どんなピンチも笑顔で切り抜けてきた、最強の撃墜女王なんだから。


ただ、目の奥が熱い。

ただただ、息苦しい。

視界が滲んで、二重になる。

手が。指が。動かない。

脳が揺れてるみたい。フラフラする。冷や汗が吹き出る。


激しい息遣いが間近で響く。


ヘッドセットの外側から、実況の男の人の叫ぶ声と、

どよめきのような、大歓声のような、大勢の人の声がする。


「諦めないで!」

誰かの声が、耳元のスピーカから届いた。

「スモーク、使うから!」

それから目の前が青い色に覆われた。

「セイバーが戻るまで持ちこたえよ!スコア、勝ってるし!

 数だって!まだ!まだ戦えるよ!私だって!」


聞こえる。意味も分かる。

でも、なんだかとても遠く聞こえる。


「ねえ!ジャベリン!ねえ!」

すぐ横でカタッと音が鳴った。

暖かい小さなものが肩に触れた。

身体が揺れる。


私は気づいてしまった。充分だ。


「応答してよ!ねえ!」

「小鳥遊くん!ダメだ!揺すらないで!」


絶対無敵、完全無欠の撃墜女王が、撃墜された。

私の心を折るには、それで充分だった、と。


「風咲!風咲!しっかりして!」

一際、悲痛な叫び。スピーカの外から。

でも間近から。耳のすぐ横から聞こえた。


直後に大きなブザー音が鳴り響き、画面が暗転した。


どうしたんだろう。

何か、トラブルかな。


「潮見野高校、試合放棄により。勝者、高浜学院!」

そんな高らかな声と、会場からのどよめきが、耳に飛び込んできた。


「え……なに……?」

「僕が試合を止めた。

 言ったはずだよ。健康を害する場合、直ちに試合を停止する」

「待ってくれ!あたしらはまだ戦える!」

「三条くんを見て、同じことが言えるかい」


誰かがヘッドセットを外してくれた。光が眩しい。

みんなのシルエットが見えた。眩しくて、表情まで見えないけど。

今は見えなくて良かった。


さっきからずっと誰かの呼吸が荒いな、って思ってた。

浅く速い息遣いが聞こえるな、って思ってた。

なんということはない。


私のだ、それは。


「……畜生!」

蘭花が机に拳を打ち付けるのが、とてもスローに見えた。


「興醒めね。コンディションくらい、管理なさい」

遠くから、そんな声が聞こえた。


ああ。またやってしまった。

みんな怒ってるだろうな。


『お前のせいで負けた』


分かってるよ、そんなこと。

私はいつもそうだから。


『1人のエースにおんぶに抱っこ。そんなもの、チームじゃない』

頭の中に別の声が響いた。

昔、中学時代。バスケ部の顧問が言ってたっけ。


そんなこと今言われても。


困るよ。


* * *


セレスティアルが春季大会の優勝を勝ち取ったことを、

翌日、地域の新聞の小さな記事で知った。

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