26話 飛ぶよ!宇宙まで!
「くそ!あの光は何だよ!」
「蘭花、落ち着いて!勝ち筋を探さなきゃ!」
「正体も分からねえのにか!」
インターバル、次のラウンドに向けて作戦を話し合わなきゃいけないのに。
さすがの先輩たちも、焦りの色が隠せない。
「どうやって……」
私も妙案なんか思いつかない。
みんな、黙ってしまった。
山本先生も腕を組んだまま、何も言わない。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「違うよ!ひばりはよくやってるよ!」
ひばりもさっきから、俯いたままだ。
当たり障りのない慰めしか言えない自分が、もどかしい。
「ねえ、風咲は大丈夫なの?また息切れしてるよ」
「……大丈夫です」
2ラウンド目の終盤からずっと、ドキドキが止まらない。
今もまだ震えているような気がするけど。
何とかしなきゃ。
焦りばかり募って、頭の中はぐるぐるしたままだ。
言葉にならない。
沈黙が重たい。
「高高度でやるしかねえ」
蘭花が腕を組んだまま、ポツリと、沈黙を破った。
「でも、相手の得意フィールドだよ?」
「1ラウンド目は取った。2ラウンド目よりはマシだ」
月子がしばらく目を閉じてから、頷いた。
「そうだね。分かった」
私たちに視線を送る。
「一気に昇ると失速しちゃう。段階的に昇ろう」
「私……でも……」
今にも泣き出しそうな声で、ひばりが呟いた。
「大丈夫、大丈夫だから!」
安心させるような、自信が持てるような、何か良いことを言いたかったのに。
何も出てこない。
そのひばりに向けて。
「……何でお前を選手に選んだか、分かるか?」
蘭花は、慰めるでもなく、ただ真っ直ぐに彼女を見て静かに言った。
「高ランク帯の市原や成田ではなく、お前をだ。ひばり」
ひばりは何も言わず、首を横に振るだけ。
「自然公園での試験。言い争いバラバラになったチームを、お前が1つにまとめた」
「でも、そんなの……」
「壁登りで成田がリタイアしようとしたとき、真っ先にお前が止めた。
あとで聞いたが、風咲のリタイアもお前が止めたそうだな」
ひばりの反論も構わず、蘭花は続けた。
「傍から見れば目立った活躍じゃあないかもしれない。
だが、お前の声が、お前の行動が、チームを機能させた。
だから1年どもは全員、お前に投票した」
インターバルの残り時間が半分を切った。
「お前がチームを信じて、チームのために動いた。
だからチームは、お前を信じた。だからお前たちは、困難を乗り越えた」
具体的な戦略の1つでも話し合い、煮詰めるべきかもしれないけど。
「お前には、その力がある」
蘭花の言葉が、この瞬間は一番価値があるように感じた。
ひばりの震えが止まった。
何だか、私の焦りも収まっていくようだった。
「ひばり。そんなお前にミッションだ」
ひばりは目を赤くしながらも、蘭花から目を逸らさず言葉を受け止めている。
「最後の最後まで諦めるな。
次のラウンド、たとえ何があってもだ」
ひばりは黙って、それでも力強く、頷いた。
「うんうん。お姉さんに任せなさいって!どーんと!」
月子が笑顔で胸を叩く。
この人がこう言うなら、本当にどんな困難でも乗り越えられそうな気がするから、不思議だ。
一方の私は。
「さっきは守れなくてごめん。でも今度こそ、私が守るよ」
こんなことしか言えないけど。
まだ冷え気味なひばりの手を取って、目を見て、正面から伝える。
「バディだから。だから、安心して飛んで」
「うん、ありがとう!迷惑ばかりかけちゃうけど……頑張るよ!」
インターバルの時間は、残り僅か。
今話せるのは、こんなところだろう。
空に戻って、あとは全力を出すしかない。
不安だらけだけど。
そのとき。
「未知のものに対しては、仮説を立ててごらん」
これまで黙って様子を伺っていた先生が、口を開いた。
「どういうことだ、おっさん」
一斉に、先生に目を向ける。
「なぜ、小鳥遊くんが狙われたんだろう」
「それは……リスキルだろ。1人だけ離れてたんだから」
「そうだね。でも、最初は違った。君たちと一緒にいた」
……確かに、そうだ。みんなで考える。
少しだけ沈黙。
会場の人から「そろそろ席について」と促された。
「なぜ落とされたのは3回なのか。なぜ敵は降りてきたのか」
先生はコーチ席に戻りながら。
「考えてごらん」
進行の人に再度着席を促され、各自の席に戻ってVRヘッドセットを被る。
目の前にゲーム画面が映り、兵装の選択中にも話は続く。
最初に空が光ったときは……。
「敵2機と交戦中でした」
「もしかして。私たちがドッグファイト中だったから?」
月子が1つの説を提唱する。
「激しく動き回って狙えなかった、とかですか?」
「うん。あと、味方にも当たっちゃう性質なのかも?」
「かもな。それと、恐らく弾数は3発だ」
それも納得。あの兵装が尽きたから、わざわざ降りてきたんだ。
「やつらを3機落とせば、チャラってわけだ!」
それを聞いただけで。
まだ具体的には何も解決してないのに。
「希望が湧いてきましたね」
声に出していた。
兵装選択の残り時間が迫る中で、セイバーの最後の指示が飛ぶ。
「私はワスプを持つよ。ビシッとやっちゃうよ〜!
ジャベリンはヒュドラね。ババーンって撒いて牽制しよう!」
「了解です!」
やっぱり何を言ってるかよく分からないけど。雰囲気だけ伝わった。
「メイスとダガーはいつもの!」
「飯屋みたいに言うんじゃねえよ。了解だ」
「了解です!」
次のラウンド。きっと、ドローはない。このラウンドで決まる。いや、決める。
空と宇宙が混じり合う場所で落とし合う。
みんなの覚悟が決まった。
だから。
相手の強さはここまで嫌というほど思い知らされたのに。
「飛ぶよ!宇宙まで!」
びっくりするほど、心が軽い。
「宇宙には行かねえよ」
それでも、今なら宇宙でもどこへでも行ける。そんな気持ちだ。
「そっか!ゲームだから宇宙じゃないかもね。別の世界があるのかも!」
「そういうことじゃねえし、ジャベリンに笑われてるぞ」
つい吹き出してしまったのは、心が軽くなったのもあるけど、
少し懐かしくなったから。
「前に、友達が同じようなこと言ってたんです」
「こいつと同じようなことを……お前も苦労したんだな」
「ちょっと!どういうことよ!」
運命の第3ラウンドがスタート。戦いの開幕を、無機質なブザーが告げた。
上空を目指す中で、ふと思い出したことがあった。
「高度12,000mに気をつけて下さい。強制的に失速します」
その数字が何の役に立つか分からないけど。
「まじか」
「なんで知ってるの?」
「ええ、昔ちょっと……」
伝えておこう。




