25話 なんで!?
2ラウンド目。
高高度で被撃墜された際の合流の難しさと、相手のフィールドで戦わない方針とで、今度は高高度を拒否。
高度3000mを4機編成の基本、フィンガーフォーで飛ぶ。
これならどこから敵が来ても対処できる。
正面から来た。ワイバーンが2発。
「ブレイク!」
しばらくして遠くの空に機影が2。
やはりサーペントとミストナイトの2機編成。
「またあいつらか。スピカとプレアデスは上か?」
「多分ね~」
2機は下から侵攻。残り2機は上から侵攻。
こうやって上下からの挟み撃ちを狙っていたのか。
でも、今なら4対2だ。
上空の2機がどんなにエネルギー優位だろうと、
高度3000mまで降りてくるには時間がかかる。
エネルギーもロスがある。
つまり、チャンス。
「行くよ!ダガー!」
「う、うん!」
ヒュドラを選択し、接近中の前方の2機へ射出。
これで散らす。
回避を強制したあと、ドッグファイトに突入。
ダガーはいつでもスモークで割り込めるよう、少し離れたところで飛ぶ。
敵の2機はどちらも、積極的な攻撃をしてこない。
切り込みの部隊にしては大人しい。
位置取りはうまい。
何度も後ろを取られそうになった。
でも、撃つべきタイミングで撃たないような。
攻撃よりも回避に専念しているような。
さっきのラウンド、深追いからの被撃墜を警戒しているのか。
下の2機が目まぐるしく動く一方、上空にいるだろう2機は静かなまま。
ストームエッジが装備中と思われるECMすら、沈黙を守っている。
なんだか、不気味だ。
とはいえ3対2だ。数的優位。ここでスコアを稼ぐ。
そのとき空が光った。雷だろうか。
ゲーム内で、たまにそういう演出がある。
雷に打たれるとHUDが乱れて厄介だ。
でも。
「え、え!?」
ダガーの動揺の声。
後方のダガー機の反応が消えた。
「ご、ごめんなさい!」
咄嗟に振り返る。
「落ちました!」
ダガー機が炎に包まれながら、その機体がバラバラに分解し落ちていく。
なんで?
「何が起きた!」
「ごめんなさい……分かりません!」
交戦中の2機から、ダガーへの攻撃はなかった。
上空からも近寄ってくる気配なんてなかった。
ECMも、レーダーに他の機影もない。
「大丈夫!ここなら上昇の負荷がないから」
「落ち着いて戻ってこい」
「スコア、取り返しましょう!」
目の前の2機を落としてスコアを取り戻せばいい。
上空の2機は気になるが、まだレーダーに映らない。
「周辺、機影なし、です。戻ります!」
何があったのか分からないけど。このまま合流して仕切り直し。
また、空が光った。
「ええ!なんで!?」
戦闘空域から遥か離れた場所で、ダガー機がまた撃墜された。
咄嗟にキルログを確認。
スピカが撃墜したことが記されている。
「アラートもなかったのに!どうして!」
動きだってなかった。
なのに2連続の撃墜。
ダガーはますます動揺している。
「スピカの野郎!何しやがった!?」
「分からないけど……ジャベリン!迎えに行って!」
「油断するな。渓谷を盾に使え!」
指示に従い方向転換。
高度を下げて渓谷へ入る。
岩壁が横に流れる。
キャンペーンモードにも同様のステージがあった。圧迫感。
少し、息苦しい。
やっぱり地上とか低空は苦手かもしれない。
上に退避したい。そう思って空に視線を送る。
そのとき空が光った。
いや……雲間から光が一筋、走った。
雷じゃない!
「なんで!どうして!」
ダガーが3度、落とされた。
ヘッドセットから悲鳴のような声が届く。
「落ち着いて!大丈夫!今行くから!」
必死でなだめるが、私自身も動揺している。
今の光。雷でなければ、何だ。
ログではやはり、スピカが撃墜したことになっている。
ナイトリーパーの特殊兵装?
でも、あんなの見たことがない。
ダガーの被撃墜によるスコアは、同じ相手に連続して落とされたことで100、90、75と割合が掛けられている。
でも関係ない。スコアは大きくリードされてる。
私はバディのはずなのに……。同じ敵に3度も撃墜を許すなんて……。
ギリッと、奥歯が鳴った。
「なんで……私ばっかり!」
「泣くな!くそ、リスキルかよ!?」
「でも、スピカは動いてないよ?」
何よりもダガーのメンタルが心配。
「スモークを使って!こっちに来て!」
セイバーとメイスの2機は、まださっきの2機と戦っている。
撃墜には至っていない。
先輩たちにしては時間がかかっているような。
ダガーを連れて、急いで合流しなきゃ。
遠くにスモークが見えて、ダガーを目視。
そこで……レーダーがノイズに塗れた。
総毛立つ。筋肉が強張る。
「高度を下げて!渓谷へ!」
ダガーに向けて叫び、機体を反転させようとしたとき。
ミサイルアラートが鳴り響いた。
咄嗟にフレアを射出。
機体を90度近く傾けて急旋回。
渓谷に入り損ねた。
そんな私たちの目の前には。
機首が鋭く、主翼が全方向に突き出した独特なシルエット。
さらにもう1機、デルタ翼の機体。コクピット付近から伸びた一本角が嫌でも目に付く。
ナイトリーパーとストームエッジの2機編成。
スピカたちがこの高度まで降りてきてる。
「スピカです!」
「なんだと!」
「メイス、ECMを!」
「ダメだ!遠い!」
メイスのECMの効果範囲の外に出てしまっているらしい。
思わず息を呑む。
「助けに行くよ、メイス!」
「耐えろ!頼むぞジャベリン!」
サーペントたちが消極的に戦ってたのは、もしかして、このため?
いつの間にか距離を離されていた?
レーダーが潰れて確認できない。
でも、あり得る。
今はそんなことより、生き延びないと。
どうする。どう逃げる。
周囲を素早く見回す。使えそうなのは、やはり渓谷。
何が何でも下へ。
いや。でも。読まれてたら?
逃げ道を失う。
いや。でも。このまま戦うのは危険。
ぐるぐるする思考をミサイルアラートが遮った。
「スモーク!」
「う、うん!」
敵のECM影響下だ。逃げの一手しかない。
スモークに籠ってミサイルを回避。
「高度を下げて!渓谷に逃げる!」
「り、了解!」
スモークが有効なうちに、渓谷を通って少しでも先輩たちに接近を。
でも。
「アラート!また!」
再度のミサイルアラート。
渓谷に急ぐあまりスモークの範囲から出てしまった。
フレアを撒きつつ上昇。
渓谷の先に見えた。スピカの機体。
ルートを読まれている。
そのスピカが機首を上げ加速。迫る。後方からストームエッジも来た。
敵ECMの効果でヴァイパーは使えない。
ダガーのスモークを盾に機銃で戦うしかない。
機体をロールさせ横に倒す。ピッチアップで旋回。
スピカ機の背後を狙う。スピカ機も急旋回。目の前からスっと消える。
速い。鋭い。
初めて交戦する機体だが、翼の形状から察するに格闘戦もいけるタイプだ。
僚機のストームエッジも撃ってきた。方向転換し回避。
レーダーが使えない以上、目で2機を追う。
動きが激しく、目まぐるしい。捉えきれない。
相当まずいことだけ、被ロックのアラートで分かる。
視界が歪むような錯覚。
喉がカラカラになるのを感じる。
ミサイルアラート。撃たれた。
「スモークだよ!こっち!」
ダガー機の放ったスモークが見えた。方向展開しフル加速。急いで逃げ込む。
ミサイルが空を切る音が間近に聞こえた。
呼吸が浅くなる。
「スモーク、残弾0です!」
回避に手一杯でジリ貧だ。
もうフレアも使い果たした。
この煙が晴れたら……。
冷や汗が額を伝う。
時折、煙の外から機銃の音が響く。
すぐ間近のスモークを揺らしながら、光の筋が通り抜けた。
一部が機体を掠め、甲高い音を鳴らした。
動悸が激しい。息苦しい。
「くそ!間に合え!」
セイバーたちは救援に来てくれている。
でもそれは、取れたはずのスコアを手放したことを意味している。
これ以上、スコアを離されるわけにはいかない。
どうしたら……。
煙の中で、私の思考は完全に止まってしまった。
何もできずにいた。
どれくらい固まってしまったかわからないけど。
「レーダー、見えるよ!」
メイスのECMが敵ECMと干渉し出す頃には、
スピカたちは上空に帰還していた。
程なくして終了のブザーが鳴ったとき、安堵するかのように大きく息を吐いていた。
助かった。
ラウンドを取られた悔しさよりも、真っ先に思ったことがそれだ。
今は震えが止まらない。
ダガーの3度の被撃墜に対し、こちらのスコアは僅かな削り点のみ。
スコア差は絶望的。セレスティアルの圧勝だった。




