表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
4章 春季大会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

23話 ブザービート

目の前には最強の味方、撃墜女王の操るファントム・ホーク。

私を守るように。鋭角的なシルエットが、今は優雅にすら見える。


その先には、敵影が2。


「セミアクティブ!バーゲスト来ます!」

ミサイルアラート。

私めがけて、白煙を上げながら光弾が飛ぶ。

即座に機体のロールとピッチアップ。アフターバーナーを焚き大きく逃げる。


「今!無防備です!」

「任せて!アーバレスト!」

当てるまで対象を捉え続けるセミアクティブ式のミサイル。

誘導性能は厄介な反面、相手を正面に捉え続けることに気が取られ、

急襲には弱い。


私を狙うブレイズ・レイブンに、セイバーから中距離ミサイル『アーバレスト』のプレゼント。

回避を余儀なくされ、バーゲストの狙いを諦めざるを得ないはずだが。


「ダメ、吸われた~!」

敵リーダーのリザード機がフレアを射出。

アーバレストは光の粒に吸われ爆散。

私への狙いは継続されたまま。

「回避に専念します!」


何とかミサイルを振り切ったが、変わらず狙われている。

距離は離れたまま。

ここからではヴァイパーが届かない。

敵を叩けない。

ミサイルアラート。まただ。

バーゲスト、もう1発来た。


セイバーがカバーに入るが、またリザードのフレアで阻止。

今度は同時に、リザード機はセイバーに接近を開始した。

リーダー機同士の戦いか。

間近でお目にかかりたいけど、回避に手一杯でそれどころじゃない。


「ジャベリンはAX-16に近付いて!」

「ええ!?」

「近い方が、相手の動きが大きく見えて当てづらいの!

 リザードは私が抑えるから!」

「了解です!」


思い切って角度を変えて、敵機に突っ込むように進路をとる。

アフターバーナーを全開。斜めにループを描くように前へ。


ヴァイパーの距離まで接近。こちらの方が早く射出。

放ったミサイルはフレアに吸わたものの、

回避を強いることでバーゲストを実質的に無効化。


逃げるAX-16の後を追うが。

「そのままリザードの背後を突いて!」

セイバーからは、追わずに隊長機を狙えという指示。

今追ってる相手を仕留めるべきでは。戸惑っていると。

「リザードと決着、つけたくない?」

「でも!」

「その方が面白いじゃない!」


……呆れた。


残り数十秒のこの状況で。

「それって……」

スコアも負けてるのに。

面白いかどうかで、戦術を決めるのか。

まったく、この人は。

「最っ高じゃないですか!」

「でしょ!落とすなら今!急いで!」


ヴァイパーをAX-16に向け放ち、再度の回避を強いたあと、

進路を変更。セイバーともみ合うリザードの機体へ向ける。


「1機やったぞ!あと1……くそ、逃げるな!」

メイスからは撃墜の報告。

ダガーの撃墜によって開いた分は取り戻したか。


残り35秒。

スコアはまだ相手リード。


AX-16も進路を変えた。たぶん、狙いに気づかれた。

構わない。

ここで決めなきゃ。


リザード機、AX-18の背後。

2機のエンジンノイズを視野に捉えた。

ヴァイパー射出。フレアで即座に回避される。

でも多分、相手もフレアを使い切ったはず。


もう一押し。

あと20秒。


背後からAX-16が迫る。

ロックオンされてる。アラートが鳴り続けてる。

構わずリザードを追う。前方の敵機に合わせてハイGの急旋回。

「FOX2!」

セイバーが私とすれ違い、叫んだ。

後ろのAX-16に向けてミサイル発射。

フレアの射出と急旋回が視界の端で見えた。


残り10秒。


「FOX2!」

再度、セイバーのコール。

ミサイルの航跡。正面。炎に包まれるAX-16。


残り3秒。


その爆炎の中から、リザード機が飛び出してきた。

機首をこちらに向けて。ヘッドオン。向かい合う。


HUDを読み解くまでもない。即座に感じ取る。

『お前だけは落とす』と。目の前の相手は告げている。


私も同じだ。


機首を左へ振る。

リザードも反応した。相手も同じ方向に機首を動かした。

進行方向に併せて、リザードが偏差的に射撃。

相手の主翼から白煙を吹き上げ、ヴァイパーが迫る。


ミサイルアラートの鳴り響く感覚が、やけに間延びして聞こえる。


さすがリザード。よく見てる。

だから。


フェイントに引っかかる。


瞬時に機体を右に傾け機首を引き上げ、フルスロットル。

同時に。

「FOX3!」

ワスプ射出。

敵のヴァイパーは遠くへ消えていく。

ワスプは、まだリザードを捉えている。


でも。


直後、試合終了を知らせるブザーが響いた。


呆然とした。

口を開けたまま、しばらく固まった。

負け?届かなかった?


最後に放ったワスプは、その後すぐにリザードの機体を撃ち抜いた。

それを示す『DESTROYED』の文字は、ブザーが鳴ったあとに表示された。


どうなるんだ、これ。

スコアを確認。

ブザーがなる前、セイバーがAX-16を撃墜したときも、スコアは僅かに負けてた。

今のリザード撃墜分のスコア追加で、スコアは私たちが勝ってる。


これって、どういう判定になるんだろう。

飛び出しそうな心臓を抑え込む。


とても長い時間に感じるくらい、

浅い呼吸で画面を見つめていると――


突如、勝利を告げるファンファーレが鳴った。

WINNERの文字列が目の前に踊っている。


安堵とともに、体から一気に力が抜けた。

そのせいで椅子から崩れ落ちるかと思った。


「やった~!」

「でかした!よくやったジャベリン!」

「みんな!ナイスキルです!」


ああ、これ。ブザービートってやつだ。

一度やってみたかったんだ。

バスケを離れた今になって、ささやかな夢が叶った。


* * *


VRヘッドセットを外し、大きく息を吸って、吐く。

落ち着かない。身体が震えてるような感覚。


会場からの声援の大音量に気がついた。

劇的な勝利だ。沸くのも無理はない。


勝利のガッツポーズの1つでも取りたかったけど。

やり切った疲労感の方が勝って、それどころじゃない。


「すっごい怖かったよー……私、何もできなかった。もっと頑張らなきゃ……」

ううん、ひばりは頑張ったよ。おかげで助かったし。ありがとうね。


「次は整列だね、行こ」

うん、行こう行こう。


「……風咲?どうしたの?」

何が?


「疲れたよね。大丈夫?お水飲む?」

「あ……え?」


声が出ていなかったことに、今ようやく気づいた。


「……あ……ううん!な、何でもないよ!」


言葉がちょっとだけ遅れて出てきた。

やっぱり疲れたのかな。


差し出されるままに水に口をつけた。

甘い。

お砂糖、入ってたっけ。

確認しようとしたけど、ボトルのラベルは剥がされてるから分からないや。


* * *


「完敗です。最後の最後で空に引きずり出されました」

互いの礼のあと、渚さんは月子に手を差し出した。


「ううん、凄かったよ〜!

 海面で機銃がガガガーって当たってたら、私たち負けてたよ〜」

その手を月子が握り返す。


「ええ、まだまだ課題ですね。だから最初は使わなかった。

 でも次は負けませんよ」

「うん!楽しかった!またやろう!」

月子が握手した手をブンブンと上下に振った。


「ジャベリン」

渚さんは、私にも握手を求めてきた。

「やはり脅威だった。もっと早く潰しておくべきでした」

「いや~。そんな……」

手を握る。

その渚さんの表情から爽やかな笑顔が消え、私の顔を覗き込んだ。

視界がグラッとした。渚さんの顔が一瞬だけ、二重に見えた。

「……顔色が悪いですね。

 あれだけの大活躍ですから。さすがにお疲れでしょう」


そうかもしれない。

渚さんが強かったから、余計に。

現実の空じゃないのに。空を飛ぶって、ちゃんと疲れる。

こんなことは初めてだ。


渚さんは表情を切り替えて、ほほ笑みを浮かべながら続けた。

「しっかり休んでコンディションを整えて下さい。なにせ……」


そしてまた、真剣な眼差しで私を見据えた。


「次の相手は、正真正銘の強豪ですから」


次の3回戦の相手は、会場で真っ先に喧嘩を売ってきた高嶺さん。

自信満々に丁寧に挑戦状を叩きつけてきた相手。対決の瞬間が迫っている。


「夏の県大会で、また戦いましょう!」

渚さんは最後まで爽やかに去っていった。

新設のチームながら恐ろしいまでの連携能力だった。

夏に会うときは、もっと強くなっているだろう。

今回はギリギリの勝負を制したけど。もっと強くならないと。

でも今は、少しだけ休みたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ