21話 這う者のプライド
3ラウンド目に向けてのインターバル。
優位にいるのは私たちだけど。準備や打ち合わせはしっかりやらないと。
でも。
VRヘッドセットを外したら、
先生も、みんなも、私を見ていた。
なんで?
「風咲……息切れしてるよ。大丈夫~?」
「どうしたの?酔っちゃった?」
「……え?」
言われてから、呼吸が荒くなっていることに気づいた。
さっき、集中してて息を止めていたからかな。
「三条くん、大丈夫かい?3D酔いか、スタミナ切れか、あるいは……」
「……あ、や、やだなあ」
一度呼吸を整えて、水を一口飲んだ。
「中学の頃は、32分ずっとコートを走り回ってたんですよ。
スタミナなんて切れるわけ、ないじゃないですか!」
あの頃は周りから散々『フィジカルお化け』と言われてたんだ。
これくらいで疲れるわけがない。
「分かった。でも、君たちの健康に害が出るようなら。
どんな状況だろうと、僕は試合を止める。いいね」
先生はおかしなことを言う。
ゲームで健康を害するなんて、あるわけないじゃない。
「まあいい。引き分けで逃げ切るつもりはねえ。勝つぞ!」
* * *
運命の3ラウンド目がスタート。
私たちが勝てば決着。
クロウラーが勝てば最終ラウンドに突入することになる。
取得ラウンド状況で考えれば私たちが有利。
相手は地形利用の待ち戦法は使えないはず。
どう出る。遠くの空に注意を払う。
「レーダー照射!」
「ええ!?どこ!?」
突然の警告音。
レーダーに見えないのに、いつの間にか狙われている。
目の前の空に機影は見えない。
「真下だ!」
戸惑いの中、メイスが叫んだ。
直後にミサイルアラート。
「全機、ブレイク!」
同時にセイバーが叫ぶ。
咄嗟にフレアを射出し急旋回。
「え、え!?」
「ダガー!こっち!」
ダガー機の反応が遅れた。
直撃は免れたものの。
「ご、ごめんなさい!被弾しました……」
近接信管の爆発でダガーが追ったダメージ分、相手のスコアに加算された。
身を翻し降下する敵機体に、V字に開いた2枚の尾翼を確認。
リザードのAX-18『サンダースピア』だ。
「大丈夫!取り返すよ〜!」
「かすり傷だ、気にせず警戒を続けろ!」
「ドンマイだよ!切り替えてこ!」
ひばりへ三者三様に励ましの言葉を送る。
レーダーの反応も、上空に姿も見えなかった。
一体、どうやって。
リザード機が戻った先を目で追う。
あるのは海面。4本の筋。
その先に4機の機影。
「シースキミング!海面スレスレを飛んで来やがった!」
「な、何ですか!それー!」
「海面スレスレだと、レーダーが反応しないことがあるの!
詳しいことは、あとで先生に聞いて!」
この強襲で早々にフレアを1つ消費した。
スコアもリードされた。
私たちの方がエネルギー優位なはずなのに。
ゲーム上は優位を取られている。
「最後の最後まで、這う者のプライドを捨てねえってか!
いいねえ、上等だ!」
海面を追う。上から狙う。
ロックオンしても、ミサイルが海へと吸い込まれていく。
「ダメです!当たらない!」
虚しく水柱が上がる。
レーダーが不安定。ロックオンし直そうとしても失敗。
相手はステルス機でもないのに、時折レーダー上からスッと消えてしまう。
これではミサイルが使えない。
反面、クロウラーは隙あらば下から突き上げてくる。
上空にいる私たちには、相手のレーダーが有効。当然ロックもされる。
ここは危険だ。一方的にやられる。
「このままじゃ逃げ切られる!
突っ込むぞ!あいつらのフィールドに!」
「ここに来て低空戦を強いられるなんてね~。
やっぱり大会は楽しいねえ!行くよメイス!」
先輩たちに倣って、私もダガーも高度を下げる。
まるで海の中にダイブするかのようだ。
水飛沫に視界が遮られる。
キャノピーについた水滴が真横に流れていく。
空気を切り裂く音がいつもと違う。振動を伴う重低音が響く。
「う、海がー!怖いー!」
ダガーからの悲鳴。私自身、心臓を締め付けられるような感覚。
喉の奥が乾いていく。
コントローラの振動が、より緊張を張り詰めさせる。
少しでも操作をミスしたら……。
「大丈夫!高度計に注意して!」
半ば私自身に言い聞かせつつ、自分が本当に水平を保っているかも確認する。
飛沫に遮られ、視界は最悪。
レーダーが使い物にならないため
味方の位置も敵の位置も人の目で探さないといけない。
海の波や飛沫だけが脅威ではない。
敵機の機銃の音が、四方から響き渡る。
機体のすぐ横を光の粒が通り抜けた。
「ロックできねえのは向こうも同じだ!踏ん張れ!」
メイスはそう言うものの。
「み、ミサイルアラートです!」
「ダガー危ない!高度を下げて!」
少し浮き上がったダガー機が直ちにロックされた。
敵からの2発のミサイルを、白波の向こうで確認した。
「スモーク!使って!」
「り、了解です!」
スモークの射出は確認したが、悠長に目視ができない。
回避には成功。でも、スモーク残数は削られた。
スモークの位置からダガー機を確認。
後ろに位置取り、敵機を警戒する。
でもこのまま混戦が続けば、いずれダガーの位置を見失ってしまう。
奪われているのは目だけじゃない。
高さもだ。
恐怖に駆られて機体を浮きあげれば、即座に狙われる。
「高度15くらい~!維持して!」
「高度!?高度計!?どれー!?」
「ダガー!画面真ん中の右だよ!」
「落ち着け!ECMを使う!」
ECMの影響下に入った。
これなら機体が浮いたところでロックは防げるが、
それも猶予は数十秒程度。
それに低空の旋回戦では、小型機の多いクロウラー隊の方が小回りが利いて有利だ。
防御の手段が着々と削られ、
機銃の削り点でスコアが少しずつ離され、
私たちはまだ敵に有効打を与えられていない。
セイバーですら、まだ敵機撃墜に至っていない。
「すごいね~!こんな戦い、去年はなかったよ!」
当のセイバー本人は関心している。
「危ねえ!横から出てきやがった!」
メイスも、状況を把握できないでいる。
「怖いよぉ……」
ダガーは海面に接触しないよう高さを維持して飛ぶので精一杯だ。
いつの間にか私の機体損傷率も50%を超えている。
双方撃墜がないものの、削りダメージでスコアが離されていく。
HUDを読むことも。
周囲を見渡して情報を得ることも。
高度からのアタックも。
私の強みは今、全て封じられている。
なんだか息が苦しい。頭が重たい。熱が籠もってるようだ。
残り3分。それでも何か。何か手を打たなきゃ。
今思いつくのは、これしかない。
「提案があります!」




