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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
4章 春季大会

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21話 這う者のプライド

3ラウンド目に向けてのインターバル。

優位にいるのは私たちだけど。準備や打ち合わせはしっかりやらないと。


でも。

VRヘッドセットを外したら、

先生も、みんなも、私を見ていた。

なんで?


「風咲……息切れしてるよ。大丈夫~?」

「どうしたの?酔っちゃった?」

「……え?」

言われてから、呼吸が荒くなっていることに気づいた。

さっき、集中してて息を止めていたからかな。


「三条くん、大丈夫かい?3D酔いか、スタミナ切れか、あるいは……」

「……あ、や、やだなあ」

一度呼吸を整えて、水を一口飲んだ。


「中学の頃は、32分ずっとコートを走り回ってたんですよ。

 スタミナなんて切れるわけ、ないじゃないですか!」


あの頃は周りから散々『フィジカルお化け』と言われてたんだ。

これくらいで疲れるわけがない。


「分かった。でも、君たちの健康に害が出るようなら。

 どんな状況だろうと、僕は試合を止める。いいね」


先生はおかしなことを言う。

ゲームで健康を害するなんて、あるわけないじゃない。


「まあいい。引き分けで逃げ切るつもりはねえ。勝つぞ!」


* * *


運命の3ラウンド目がスタート。

私たちが勝てば決着。

クロウラーが勝てば最終ラウンドに突入することになる。


取得ラウンド状況で考えれば私たちが有利。

相手は地形利用の待ち戦法は使えないはず。

どう出る。遠くの空に注意を払う。


「レーダー照射!」

「ええ!?どこ!?」

突然の警告音。

レーダーに見えないのに、いつの間にか狙われている。

目の前の空に機影は見えない。


「真下だ!」

戸惑いの中、メイスが叫んだ。

直後にミサイルアラート。

「全機、ブレイク!」

同時にセイバーが叫ぶ。

咄嗟にフレアを射出し急旋回。


「え、え!?」

「ダガー!こっち!」

ダガー機の反応が遅れた。

直撃は免れたものの。

「ご、ごめんなさい!被弾しました……」

近接信管の爆発でダガーが追ったダメージ分、相手のスコアに加算された。


身を翻し降下する敵機体に、V字に開いた2枚の尾翼を確認。

リザードのAX-18『サンダースピア』だ。


「大丈夫!取り返すよ〜!」

「かすり傷だ、気にせず警戒を続けろ!」

「ドンマイだよ!切り替えてこ!」

ひばりへ三者三様に励ましの言葉を送る。

レーダーの反応も、上空に姿も見えなかった。

一体、どうやって。


リザード機が戻った先を目で追う。

あるのは海面。4本の筋。

その先に4機の機影。


「シースキミング!海面スレスレを飛んで来やがった!」

「な、何ですか!それー!」

「海面スレスレだと、レーダーが反応しないことがあるの!

 詳しいことは、あとで先生に聞いて!」


この強襲で早々にフレアを1つ消費した。

スコアもリードされた。

私たちの方がエネルギー優位なはずなのに。

ゲーム上は優位を取られている。


「最後の最後まで、這う者のプライドを捨てねえってか!

 いいねえ、上等だ!」


海面を追う。上から狙う。

ロックオンしても、ミサイルが海へと吸い込まれていく。

「ダメです!当たらない!」

虚しく水柱が上がる。


レーダーが不安定。ロックオンし直そうとしても失敗。

相手はステルス機でもないのに、時折レーダー上からスッと消えてしまう。

これではミサイルが使えない。


反面、クロウラーは隙あらば下から突き上げてくる。

上空にいる私たちには、相手のレーダーが有効。当然ロックもされる。


ここは危険だ。一方的にやられる。


「このままじゃ逃げ切られる!

 突っ込むぞ!あいつらのフィールドに!」

「ここに来て低空戦を強いられるなんてね~。

 やっぱり大会は楽しいねえ!行くよメイス!」


先輩たちに倣って、私もダガーも高度を下げる。

まるで海の中にダイブするかのようだ。

水飛沫に視界が遮られる。

キャノピーについた水滴が真横に流れていく。

空気を切り裂く音がいつもと違う。振動を伴う重低音が響く。


「う、海がー!怖いー!」

ダガーからの悲鳴。私自身、心臓を締め付けられるような感覚。

喉の奥が乾いていく。

コントローラの振動が、より緊張を張り詰めさせる。

少しでも操作をミスしたら……。

「大丈夫!高度計に注意して!」

半ば私自身に言い聞かせつつ、自分が本当に水平を保っているかも確認する。


飛沫に遮られ、視界は最悪。

レーダーが使い物にならないため

味方の位置も敵の位置も人の目で探さないといけない。


海の波や飛沫だけが脅威ではない。

敵機の機銃の音が、四方から響き渡る。

機体のすぐ横を光の粒が通り抜けた。


「ロックできねえのは向こうも同じだ!踏ん張れ!」

メイスはそう言うものの。

「み、ミサイルアラートです!」

「ダガー危ない!高度を下げて!」

少し浮き上がったダガー機が直ちにロックされた。

敵からの2発のミサイルを、白波の向こうで確認した。


「スモーク!使って!」

「り、了解です!」

スモークの射出は確認したが、悠長に目視ができない。

回避には成功。でも、スモーク残数は削られた。


スモークの位置からダガー機を確認。

後ろに位置取り、敵機を警戒する。

でもこのまま混戦が続けば、いずれダガーの位置を見失ってしまう。


奪われているのは目だけじゃない。

高さもだ。


恐怖に駆られて機体を浮きあげれば、即座に狙われる。


「高度15くらい~!維持して!」

「高度!?高度計!?どれー!?」

「ダガー!画面真ん中の右だよ!」

「落ち着け!ECMを使う!」


ECMの影響下に入った。

これなら機体が浮いたところでロックは防げるが、

それも猶予は数十秒程度。


それに低空の旋回戦では、小型機の多いクロウラー隊の方が小回りが利いて有利だ。


防御の手段が着々と削られ、

機銃の削り点でスコアが少しずつ離され、

私たちはまだ敵に有効打を与えられていない。

セイバーですら、まだ敵機撃墜に至っていない。


「すごいね~!こんな戦い、去年はなかったよ!」

当のセイバー本人は関心している。

「危ねえ!横から出てきやがった!」

メイスも、状況を把握できないでいる。

「怖いよぉ……」

ダガーは海面に接触しないよう高さを維持して飛ぶので精一杯だ。


いつの間にか私の機体損傷率も50%を超えている。

双方撃墜がないものの、削りダメージでスコアが離されていく。


HUDを読むことも。

周囲を見渡して情報を得ることも。

高度からのアタックも。

私の強みは今、全て封じられている。


なんだか息が苦しい。頭が重たい。熱が籠もってるようだ。


残り3分。それでも何か。何か手を打たなきゃ。

今思いつくのは、これしかない。


「提案があります!」

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