20話 釣る
公式戦での、チーム内で初めての被撃墜。
それも、撃たれたのではなく、接触による墜落。
つまり自滅。
「う、上に退避します!」
「ダメ!1機で空にいたら狙い撃ちされるよ!」
「今行く!待ってろ!」
そのせいで、ダガーが孤立状態にある。
何をやってるんだ、私は。
「ジャベリン、仕切り直すぞ。早く来い」
メンバー同士の通信が飛ぶ中で、私は呆然と、何も答えられなかった。
「どうした、返事しろ!」
私のミスのせいで、みんなが一気にピンチに……。
『お前のせいで負けた』って、脳裏を掠めた。
奥歯を噛み締める音が鳴った。
「スコアは取り戻したから、気にしないで!」
「そういうこった、早く合流しろ」
「どんまい、だよ!」
スコアを……取り戻した?
確かに画面左上に映るスコア表示は、100-100の同点で並んでいた。
……いつの間に?
「支え合うのがチームだからね~。お姉さんに任せなさい!」
しれっとビハインドを取り戻している。
やっぱり、すごいな。この人は。
「す、すみません!ジャベリン、今行きます!」
さっき「脅威のニューフェイス」なんて言われて。
18の撃墜スコアのうち8を私が記録した、なんて言われて。
少し浮かれていたのかもしれない。
「いちいち凹んでる時間はねえぞ!
どうやって勝つか、だけを考えろ!」
気を引き締めるには、いい薬だ。
* * *
残り時間は『低空を逃げ惑うクロウラー』と『攻めあぐねる私たち』の構図になり、
1ラウンド目は有効打なく、ドローで終了。
2分のインターバルにて、対策を練る。
「みんな。いいリカバーだったよ」
山本先生が言ってくれたのは、試合内容そのものよりも、
私のミスをみんなで取り戻そうとした一連の流れについて。
それは嬉しいけど、
勝つための具体的な攻略法は、まだ見つかっていない。
「どうしましょう……ミサイルが障害物でブロックされちゃう」
「怖かったよー。あっちは建物の隙間を縫って攻撃してくるんだよー」
「新設のチームと言ってたが、しっかり地形を研究してやがる」
蘭花は困った様子のまま、先生に尋ねた。
「おっさん、何か策はないか」
「そうだね……僕は一緒に飛ぶ人間ではないから。
戦場での指揮権は常に、1番機の朧谷くんが持つべきだ。ただ……」
先生はそう前置きしてから。
「相手が嫌がることをする。古来よりゲーマーの鉄則だね」
とだけ言い残した。
「あのね。思ったんだけど」
月子はいつものニコニコ顔で、両手を胸の前で合わせた。
「相手の得意フィールドで戦う必要はないよ」
その言葉に蘭花は納得したようで、腕を組みながら考えを示した。
「いくら奴らが低空を飛ぼうと。
付き合わなければ向こうはスコアが取れない。
どこかで攻撃に転じるはずだ。そこを」
腕組みを外し、拳を他方の手に打ち付けた。
「ダガーで釣る」
「うん、それでいってみよう!」
月子は胸の前で両手を叩き、パンっと乾いた音を鳴らした。
「ひばり。ギリギリまで高度を下げてね」
「攻撃が来たら全力で逃げろ。スモークもフレアも躊躇うな」
「は、はい!頑張ります!」
「風咲は上から敵の位置を把握しろ」
次のラウンドは、私は主に目の役割を担う。
ひばりがピンチのときにはいつでも助けられるよう
特殊兵装を高性能誘導ミサイル『ワスプ』に変えておく。
「私と蘭花はプレッシャーをかけるよ」
「リザードたちが顔を出したら、全力で叩くぞ」
方針は決まった。
1ラウンド目の借りを返してやる。
* * *
「最初は、みんな散開して」
「固まればヒュドラの餌食だ」
散開した状態で、相手が潜り込むであろう港湾都市を回り込むように飛ぶ。
その中で、相手の先制攻撃。ヒュドラの曳光が見えた。
ロックの先は、セイバーとメイス。
2人は難なく回避する一方。
「アーバレスト!いっくよ~!」
セイバーが射程の長いアーバレストで反撃。
回避されたけど、リザード機は低空のビル群へ潜り込もうとする。
そこへセイバーがもう1発アーバレストを放った。
今度は。
「かすったよ~!」
スコアには、半端な値の「25」が加算された。
近接信管でミサイルが爆発し、相手に手傷を負わせたことを意味する。
「これでスコア優位だ!連中は攻撃に転じる必要が出てきた」
「あとは根比べだね〜。行くよメイス!」
「了解だ。構わず撃ちまくってやるぜ」
建物の、橋梁の、クレーンの合間を、リザード機とクロウラーの各機が縫うように進む。
セイバーとメイスの2機は、地形の影響を受けない高度を保ち、攻撃をしかけながらリザード機を追う。
その横っ腹を、あるいは背後を突こうと、クロウラー隊がさらに回り込む。
私は上空で、その様子を伺う。
「次の角、RF-29来ます!」
先輩たちに状況を送りながら。
「AX-16、メイス機の後方に移動中!」
クロウラー隊の意図を読み取る。
クロウラー4機は、港湾都市に複雑な軌跡を描きながらも、
規則に則って動いているように見えた。
全体が、1つの巨大な意志で動いてるみたい。
HUDを見てても、狙いが明確。
『このときはこう対処する』って、綿密に打ち合わせがあり、
今なおリアルタイムで連携を取っているに違いない。
下に集中している私は、急に襲われたら多分対処できない。
でも、クロウラー隊にはその意図は見えない。
見えるのは、『自分の領域に飛び込んだ獲物だけを確実に狙う』という鋼鉄の意志。
新しいチームだって言ってたのに。
1年生もいるのに。
どれだけ特訓すれば、この連携が手に入るんだろう。
倒すべき敵なのに、少し感動してしまった。
でも気持ちはすぐに切り替える。
あえて言い換えよう。
読みやすい。
「ダガー、降下して!先輩たちの9時方向!
横を狙うTX-04を釣るよ!」
「りょ、了解!」
「食らいついたら、セイバーが行く。ダガー、堪えろよ!」
ここからは私たちの連携を見せる番だ。
クレーン地帯の隙間を通って進む敵機の進路に、ダガーを案内する。
まず後方の上空から狙ってもらう。
「ロックしました。ダガー、FOX2です!」
当たらないのは想定内。
『お前を狙っているぞ』という意図が伝わればいい。
敵機は、慣れた動作で障害物でミサイルをカット。
その後ダガーには、あえて前に出てもらう。
敵がピッチアップ。加速。
ダガーを狙った。
食いついた。
「ロック、されました!」
「今行くよ~」
セイバーが上昇し、大きなループを描いた。
地形から顔を出した敵のブルーコメットを狙いに行く。
相手は危険を察し、スモークを散布。
でも上空の私からなら、スモークの広がり方から、敵がどこに移動したか見える。
「ターゲット右旋回!」
「おっけ~!多分、ここ!」
セイバーがスモークの上から機銃を掃射。
激しいマズルフラッシュと、スモークに吸い込まれる光の列。
そして青いスモークの中で弾けるオレンジの炎が、
私の位置からも確認できた。
「落とした~!」
「ナイスキル!」
「さすが、グッドキル!」
「怖かったー!ナイスキル、です!」
セイバーはそのまま移動しメイスと合流。
そのとき、ダガー機に向けてもう1機。
スモークを揺らして飛び出そうとしている機影がいた。
「ロックされてる!うそ、ミサイルアラート!どこ!?」
「ダガー!下だよ!ブレイク!」
ダガーから、即座にフレア射出。
同時にスモークが展開された。
双方のスモークが重なって二重に視界不良だけど、
一瞬見えた。RF-29が迫ってきている。
機体をロールし背面にしつつ機首を挙げ、フルスロットルで降下。
「ワスプ!FOX3!」
退避するダガー機と入れ替わるように、上から敵機へワスプを叩き込んだ。
相手の機銃が少し掠めて甲高い音が聞こえたけど、スモークの中に敵機の爆発が見えた。
2ラウンド目の8分が終了。
いつの間にか息を止めていたことに気づいて、大きく呼吸をした。
最初の削りの25と、今の2機撃墜で200が私たちに加算。
機銃を受けてのダメージ分33が相手に加算。
スコア、225-33。
これで1勝1分。
次の第3ラウンドは、ドローだったとしても私たちの勝利が決まる。
クロウラー隊は、必死に攻撃を仕掛けてくるはずだ。
どう来る?
何であろうと、受けて立つ。




