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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
4章 春季大会

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18話 秘策

スポットライトの明かりに目が慣れ最初に思ったことは、

想像より客席が近い、ということ。


ステージが明るい分だけ客席が暗いけど、最前列の人の表情なんかは辛うじて見えそう。

このあとVRヘッドセットを被るので、客席の様子が見えなくなるのは救いだ。


黒い布を被せた長机の上に、モニタとゲーム機、コントローラ、

そして『潮見野高校』と書かれたプレートが置かれている。

作りは簡素なのに、学校の名前があるだけで『看板を背負った代表者』という感じがする。


椅子も、いつものパイプ椅子と違う。

黒を基調とし、赤いラインが入った肘掛け椅子。

身体にフィットするような座り心地だ。


持ち込んだ機材のセットや動作確認が終わったところで、

私たちも相手もステージ中央に整列し、互いに礼をする。

こういう礼儀作法には、部活らしさを感じる。


先生が以前早口でまくし立てた部活の歴史を思い出した。


バスケならこのあとティップオフに移行する。

ここでは、私たちは自席に戻ってVRヘッドセットを被り、コントローラを握る。


「試合が始まったら、僕はインターバルまで口出しができない」

席に戻ると、山本先生がそう告げた。

「とはいえ、今更口出しも不要だろう。

 暴れておいで。アーモリー」


先生の応援を背に受け、目の前には機体選択の画面。


「戦法は変わらん」

蘭花……いや、メイスからのボイスチャットが入る。

続いてセイバーの声も耳元のスピーカーから届いた。

「確認するよ〜。主に私が切り込むから、メイスはその護衛。

 ジャベリンは索敵と槍の役割だよ。ババーンと攻撃しちゃって!

 ダガーはその護衛と、囮役だよ」

「戦況は刻一刻と変化する。迷ったら鉄則に戻れ」

「『僚機を見捨てるな』ですね。ジャベリン了解!」

「だ、ダガー了解です!」

「へっ、分かってきたじゃねえか」

声のトーンで、メイスの声が少し嬉しそうなのが分かる。

通信の具合は良好。


「それと、ジャベリン。試合開始前のデモで数秒だけ相手の機体が映る。

 見えたものを報告しろ」

「了解です!」


少しでも早く相手の機体を察し、戦略に役立てる。

これも勝利には必要なことだ。


* * *


試合開始前、双方の機体が編隊飛行で飛ぶデモシーンが表示される。

ここで搭乗する機体が分かるのだが。

相手チーム……シルエットが全部同じだ。


「えっと……AF-22、ファントムホーク4機です」

「はあ?なんだよそれ!AX-35と見間違えてねえか?」

「いえ、ライトニングアローはいませんでした」

「役割分担どうなってんだよ……」


戸惑いのまま第1ラウンドの開始。

残り時間のカウントダウンが始まった。


「私と一緒の機体だね~」

「強い機体だって、ジャベリンから聞きました」

「強機体で固める……これが秘策?」

「分からねえ。相手はECMがないとはいえ、ステルスは厄介だ。油断するな」


「ファントムホーク使いの私から言うとね。

 アーバレストにも気をつけて~」


AF22には中距離ミサイル『アーバレスト』がある。

射程はヒュドラ以上。先に捕捉され視界外から撃たれてもおかしくない。


それなのに、しばらく進んでも被ロックの警告音は鳴らない。


やがて視界の端に黒い点を4つ確認。


「12時方向、真正面です。急速接近中」

「お前の目は便利だな」

「ステルスと遠距離先攻の優位を捨てるとは考えにくいです。

 引き続き、アーバレストに警戒を」


相手の動向に注意を払うが、やはり警告音はまだ鳴らない。


「まあ、撃ち合いに乗る必要はないよ。散開して~。

 ジャベリン、ダガーをよろしくね」

「了解!ダガー、方位045に。上昇するよ」

「了解だよ!」


正面からの敵を左右から挟み込む想定で動く。

その想定だったが。

敵4機とも、進路はセイバー機へ。


「メイス、これ!」

「去年の聖フィオーレの!」

私とダガーがほぼ同時に叫んだ。

セイバー機だけを4機で狙う意図が見て取れる。


メイスが悔しさを隠さず語った先日の内容を思い出す。


「おいおい、秘策ってこれかよ」

今日のメイスには、悔しさも、慌てた様子もない。

むしろ、呆れたような言い方だ。


「セイバーから各機。打ち合わせ通り動くよ。

 私は逃げ回るから、後ろをよろしくね」


レッドパイソンの4機からセイバー機へ、それぞれ空対空ミサイル『ヴァイパー』が放たれる。

空には複数の航跡が描かれたが、

セイバー機はフレアの1つも射出することなく、それらを悠々と回避している。


時折、ヴァイパーとは別の光の筋が走る。

それが無誘導兵器のパルスレーザーであることはすぐ分かった。

でも、それもセイバーに当たることはなく、空の彼方へ飛んでいくのみ。


4機が敵1機を狙うのは、ただの過剰火力。

エレメント同士のカバーができず、隙だらけ。

だから。


「ジャベリン。挨拶代わりだ。ヒュドラをぶちかませ」

マルチロック兵装のヒュドラで敵の4機を捕捉。


ステルス性能の高さでロックしづらい機体も、

攻撃中のステルス性能は著しく低下する。

撃ちまくってる今なら、狙い放題。

ヒュドラが噛みつくのも、容易だ。


「ジャベリン、FOX3!」

射出。

各ミサイルの航跡が、それぞれ獲物を追い立てる。

フレアの射出もあったが、間に合わない。

立て続けに『DESTROYED』の文字がHUDに表示された。


* * *


1ラウンド目のスコアは圧勝。

VRヘッドセットを外した途端、客席からの歓声と実況の興奮した声が耳に飛び込んできた。

その音の波に圧倒されつつ、置かれている水を飲む。

一度深く息を吸い、吐く。


ラウンド間、2分のインターバル。

次のラウンドへの打ち合わせを行う。


「2ラウンド目の動きが読めたな」


メイスの読み通り、今度は4機のAF-22が、セイバー機以外を狙い始めた。

聖フィオーレ学院の2ラウンド目の作戦と同じだ。


とはいえ、後ろに張り付かれることになるので

さっきより緊張感は上だ。


「心配ねえと思うが、万が一お前らが落とされるのも癪だ。

 ジャベリン、ダガー、あたしに近づけ」


指示通り、2人でメイス機に寄る。

固まるのも危険な気はしたが。


「この方がセイバーが戦いやすい。

 行くぜ、ECM起動!」


メイスが敵のレーダーを潰した。


「これであいつらはロックオンができない。

 パルスレーザーにだけ気をつけろ。射線を合わせるな」


しばらくは青い光の筋だけを避け続ければいい。

そもそも無誘導兵器なんて、そう簡単には当てられないと思うけど。


「セイバーから各機。やっちゃっていいの?」

「打ち合わせ通りだ。遠慮するな、ぶった斬れ!」


「了解!いっくよ~!」


すぐさま1機の反応が消えた。

後ろを見たら、1機炎に包まれ落ちていった。

「ワスプ!いっけ~!」

さらに爆発音が2つ、後方から聞こえる。


「すごい……」

「ナイスキルだ、女王様」

「その呼び方辞めてよ~!」

そんなやり取りをしながら、セイバーの放ったミサイルが残る1機を粉砕した。


復帰したレッドパイソンの4機は、さすがに警戒している。

さっきの戦法は取らない。

2機にずつ分かれ、私たちの方にも向かってきた。


相手は腐ってもステルス機。

真正面からロックオンを仕掛けるのは不利だ。


加えて、パルスレーザーが飛んでくる。

弾幕を張り牽制するという意味では有効だ。


「こちらダガーです。ジャベリン、スモークいる?」

「うん、やっちゃって!」


これで視界を奪う。


その上で、ひばりだけをスモークの外に出す。

わかりやすい撒き餌だが、2機とも食いついた。


「やらせないよ!」


すかさずスモークから飛び出し、それぞれをヴァイパーで狙い撃つ。

相手はフレアと急旋回を試みるも、間に合わず。撃墜。


「あー、怖かった!ナイスキルだよ、ジャベリン!」

「ありがとう!ダガーもナイス囮!」

「それって褒められてるのかなあ」

ダガーが苦笑混じりに答えた。私はとても助かっている。


とにかく、こちらは片付いた。

先輩たちの方へ合流を図る。


「メイスからセイバーへ」

「なに~?」

「クルビットを使え」

意外な指示が飛んでいた。

その技は対策されている。メイスはそう言っていたじゃないか。


「え、いいの?でも」

「確かめたいことがある。安心しろ、落とさせやしねえ」


メイスの依頼通り、セイバーは敵を後ろに付かせた。

そして機体を上方向に向けた。


でも、セイバー機とほぼ同時に相手もピッチアップ。

機首を上に向け、上昇を開始した。


「させねえよ!」

すかさず、メイス機RX-35が上空から落ちてきた。

放たれたヴァイパーが、敵リーダー機を貫いた。


* * *


試合が終わり、ステージ中央に整列。

レッドパイソンの4人は、奥歯を噛み締めながら俯いている。

「こうやって戦えば勝てるって、アシストAIが言ってたのに」

ウルフカットの子が、力なく呟いた。


「お前らにも、自分たちの戦法があったはずだ」

呆れ気味に、蘭花が続けた。

「鵜呑みにして自分たちの戦いを捨てた。それが敗因だ」


双方、礼。


そのあと、ウルフカットの子が右手を差し出した。

「県大会、覚えておけよ」

「へっ。いつでも相手になってやるよ」

蘭花が硬く握手を交わした。

客席からは健闘を称える拍手が沸き起こっていた。


1回戦は無事勝利を収めた。

控室に戻りながら、山本先生が感想を聞いてきた。

「やはり、クルビットには反応される」

蘭花の第一声が、それだった。

「安心して。使わないよ~」

月子は変わらずニコニコ顔で答えた。


「先輩たちを破った戦術のコピー。早速使われましたね」

「ドキドキしちゃいました!」

「対策しておいて正解だったな」

「都希乃たちだったから、あの戦い方ができたの。

 真似しようとしても、無駄だよ~」


だが問題はそこじゃない、と蘭花が続けた。

「1回戦レベルの相手でも、チーム内で連携をしている」


言われてみれば。

結果はどうあれ、あの動きはチーム内での連携があってのものだ。


「猪ノ瀬くんの言う通り。大会のレベルは、年々上がっているね」

先生がそう締めくくった。


「2人は、デビュー戦どうだった~?」

「めっっっちゃ緊張しましたよー!」

「でも、勝てて良かったです」

「へっ、それだけか」


なぜか蘭花がニヤニヤしている気がする。

でも急に真顔に戻って、意外なことを言い出した。


「気をつけな風咲。お前、他校からマークされるぞ」

「え?」

「ま、お前なら心配ねえか。中学の頃はもっと注目されてただろうしな」

蘭花は多くは語らず。


その真意は気になったけど、このときはあまり深く考えなかった。

今の試合に『黄色い無限のマークはいなかった』ことの方が、

私にとっては重要だったから。

次回19話を1/9(金)更新予定です。

以降、毎週金曜19時更新予定といたします。


ペースは遅いですが完結まで駆け抜けたく。

毎週金曜の夜には、覗いていただけますと幸いでございます。

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