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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
4章 春季大会

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17話 挑まれる側

県庁所在地のある駅から乗り換えて1駅。そこから歩いて約10分。

港湾都市にそびえ立つ大きなイベント施設の1室で、今日の春季大会が行われる。


時刻は07:30。

でも、出場校の生徒や顧問と思われる集団が、既に会場前のあちこちに見受けられた。


「おはよう2人とも。緊張してる?」

「さすがに、少し」

「め、めっちゃ緊張してます!」


施設ロビーにて。

これから試合かと思うと、緊張とワクワクが入り混じり、なんとも心地よい高揚感に襲われる。


一方で、横に立つひばりは見るからに肩が震えている。

「一緒に深呼吸しよ!」

と、2人でリズムを合わせて呼吸を整えようとしたけど、ひばりの動きはぎこちない。


「気負うな。あたしたちが付いてる。いつも通りやればいい」

そんなひばりの肩に、蘭花がそっと手を添えた。


「が、がんばります!」

ひばりは両手を胸の前で握った。

緊張は完全に解けないけど、少しは落ち着いた様子だった。

内心「先輩かっこいいなあ」と思いつつ、蘭花に少しだけ嫉妬した。


「今日は、県内だけの小さな大会だ。気を張らずに挑みなさい」

先生も、ひばりに微笑みかけた。


「控室が与えられている。君たち4人は先に向かい、アップを始めてくれ」

「私たちもあとで行くよー」

「はいこれ。先輩たちと、あんたたちのヘッドセットとコントローラ」

野田、香取から機材を受け取り、会場マップを頼りに控え室に向かう。


控え室として割り当てられた部屋には、

既に他校の生徒たちがそれぞれのブースでアップを始めていた。

ゲーム機と小型のモニタを持ち込んで実機環境を整え練習する者。

機材を持ち込まず、手の動きだけでイメージトレーニングする者。


部屋の奥の壁に取り付けられたモニタには、

今はトーナメント表が表示されている。32校の名前が並んでいる。

試合が始まれば、ここで観戦ができるようになっている。


「お会いできて光栄ですわ。女王様」


私たちに割り当てられたブースに荷物を置こうとしたところ、

他校の子が月子に話しかけた。

ウェーブのかかった栗色の髪が肩まで伸びている。

紺のセーラー服をきっちりと着こなしているものの、

星の入ったアイメイクが目を引き付ける。


部活とはいえ、ある意味ショーでもあるから、

「ばっちりお化粧してくる子も多い」という話は聞いていた。


目元にアクセントがあるだけでも、非日常感を漂わせている。


「高丘学院3年、リーダーの高嶺(たかみね)です。

 チーム名はセレスティアル。コールサインは『スピカ』。

 以後、お見知り置きを」

両手を前に揃え、高嶺さんは深々と頭を下げた。


「あ、これはどうもどうも」

つられて月子も同じように頭を下げる。

蘭花が月子の少し後方につき、腕を組みながらその様子を見下ろしている。

睨みつけるような鋭い目線が今は頼もしい。


「……先輩方が見当たりませんわね」

その高嶺さんが、周りを見回しながら訝しんだ。

「もう引退してる。だから1年を連れてきた」

「あらあら、まあまあ!1年生を!」

高嶺さんが私とひばりに目線を向ける。

反射的に、ひばりを庇うように身体を前に出した。


「女王の部隊に選ばれた1年生!さぞお強いんでしょうね」

柔らかい物腰の中に、何故だか棘を感じる。

「ええ、鍛えられてますから」

咄嗟に気の利いたことが言えず、そう切り返すのがやっとだった。


「去年の県大会で煮え湯を飲まされましたからね。

 先輩方にもご挨拶したかったのですが……」

高嶺さんは両手を挙げ首を横に振り、オーバーな身振りで残念がった。

月子に視線を戻す。

「あなた達とは、3回戦で当たりますの。

 去年の大会の雪辱を晴らせるのを、楽しみにしておりますわ」

「1,2回戦はもう勝ったつもりか。余裕だな」

蘭花の皮肉にも高嶺さんは動じず、ニヤリと口角上げた。


「遥か高みは、我らの領域。何人たりとも、私の上を飛ばさせませんわ」


また深々と頭を下げて、高嶺さんは去っていった。


物腰柔らかに見せて、自信に満ちた口調。

そして「煮え湯を飲まされる」「雪辱」という言葉選び。

間違いない。これは挑戦状だ。

もっと分かりやすく言うなら、高嶺さんは喧嘩を売りに来たんだ。


「今のやつ……覚えてるか月子?」

「ううん。去年は試合に出てなかったのかも」

「世代も変わってるしな」


忘れてたけど、先輩たちはここでは有名人だ。

全国大会3位の実績。つまり県大会では優勝をしている。

それに撃墜女王スカイ・クイーンの異名は伊達じゃない。


私たちは挑まれる側なんだ。


よくよく周りを見渡すと、何人かと露骨に目が合った。

あからさまに、私たちは注目されている。


そう思うと、急に私も緊張してきた……。


* * *


開会式を経てしばらく後。

私たちの試合が近づき、ステージ裏の待機場所への移動を促された。


「久々の公式戦だね。目一杯楽しんじゃおう!」

月子の目が輝いているようにも見える。声のトーンもいつもより高い。

この人は何でも楽しさに変えてしまう。素直に感心してしまう。



「ステージには選手4人と僕しか入れない。君たちは応援していてくれ」

先生が残るメンバーにそう伝えると。

「初戦の相手は杉戸国際高校。あまり聞かないわね」と、香取

「調べてみたけど、あまり資料がなかったよー。役に立てなくてごめんね」と、野田。


「そんなことないよ、ありがとう!」

「頑張ってくるね!」

私もひばりも2人に感謝を示し、立ち上がる。


「行って来い、勝てよ!」「落ち着いてね」

「風咲、ひばり、頑張って!」「頼んだよー!」

成田、市原、佐倉、鴨川のそれぞれの声援に見送られ、

私たちは控室を後にした。


少しずつ、『これから戦場に赴くんだ』という実感が伴う。

まだまだ不安は大きいけど、少しだけ高揚感の方が勝る。


* * *


舞台の裏では既に対戦相手の4人が待機していた。


「へえ、女王様ってのは、あんたかい?」

相手の1人が、ニヤニヤした顔で蘭花に話しかけてきた。

ウルフカットの女性。耳元にピアスも見える。


「何だ、お前ら」

蘭花は私たち3人の前に立ち、相手を睨みつけている。

大会の出場メンバーということは、おそらく彼女たちは3年生だろう。


それでも物怖じしない蘭花の堂々たる態度に、とても助けられる。


「おお、怖~」

「へへ、お手柔らかに頼みますよ。女王様」

他のメンバーもヘラヘラと、私たちを小馬鹿にしてくるような雰囲気を隠さない。


蘭花は「女王はこいつだ」と月子を示したりしなかった。

当の本人はニコニコしているだけだったけど。


ひばりは、やはり肩が震えている。

私の背に隠れるよう立たせ、

後ろに回した手で、ひばりのひんやりとした手をぎゅっと握った。


「なんせ、うちには秘策がありますんでね!」

「悪いけど、今日は勝たせてもらいますぜ」

相変わらずニヤつきながら話してくる相手に。


「ええ!秘策!どんなのですか!聞きたい〜!」


場の空気をまったく気にすることなく、月子が明るい声を上げた。

張り詰めていた緊張の糸が3段階くらい緩んだ気がする。


相手が戸惑っているところに。

「きっと、みんなで一生懸命考えたんですよね!

 私たちがすぐ破っちゃうのに、なんだか微笑ましいですね!」

両手を胸の前に合わせ、いつものニコニコした笑顔のまま。

追い打ちをかけるような言葉が飛び出してきた。


対戦相手の表情がさらに凍りついたのが、

ステージ裏の暗がりでもハッキリ見て取れた。


「あー!あー!なんでもない!気にしないでくれ!

 おい、お前は喋るな!この天然煽り女が」

「ええ、でも……」

『この蘭花にしてこの月子あり』みたいな、連携の取れた負けん気の応酬だと思ったけど。

蘭花が本気で戸惑っている。


そんなやり取りが可笑しくなってしまい、私の緊張はどこかに押しやられていた。

ひばりも震えているけど、それは緊張とか怖さではなく、

笑いを押し殺しているためだとすぐに分かった。

時折こらえきれないのか、私の背に顔を埋めていた。


「いや~、ごめんごめん、遅くなったよ」

やがて山本先生と、相手チームの監督役の人がその場に合流した。

そのあとすぐに。


「潮見野高校アーモリーと、

 杉戸国際高校レッドパイソンの対戦です」


アナウンスの声に促され、私たちは一斉にステージに入場した。

スポットライトが、目に眩しい。


いよいよ始まる。

新しい私のデビュー戦。

連休が終わってしまいました。

18話を1/6(火)更新。

19話を1/9(金)更新。

以降、毎週金曜更新といたします。


毎週金曜の夜には、ぜひ覗いていただけますと幸いでございます。

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