幕間03 風咲③ 同い年の女の子
「ええ!すごい、女の子なの!?」
それはこちらの台詞だ。
あんな鬼神の動き、ベテランの男性ゲーマーだって思うじゃない。
だから「通話しよ」って言われて、内心ドキドキしてた。
「え、いくつ?ええー!一緒一緒!同い年じゃん!すごいすごい!」
蓋を開けてみれば、なんてことはない。
相手は同い年の女の子だった。
「知らない人と通話するのなんて初めてだから。
緊張してたんだ!」
双方、どんな怖い人が出てくるのかとドキドキしていたということで
そこもまたお揃いで、妙に可笑しくなってしまった。
「ぼく、那由多だよ!」
「風咲だよ」
私のプレイヤー名はkazakiとなっている。そのままである。
相手のプレイヤー名もnayutaなので、そんなところもまた同じだった。
9月。
とっくに夏休みが終わって。とっくに学校は始まっていて。
きっとみんな、学校では体育祭の準備とかやっている頃。
でも私は休んだまま。
だから、久しぶりに同年代の友達と話せて、楽しかった。
* * *
2人だけの対戦モードで戦い方を教えてもらったり。
野良の大規模戦闘で、2人で連携して大暴れしたり。
誰かと一緒に飛ぶことがこんなに楽しいなんて、知らなかった。
私の居場所は、家の自室と、リハビリのために通う病院だけ。
だから余計に那由多と飛ぶ空が輝いて見えた。
ここは現実の空じゃない。そんなことは分かりきってる。
でも関係ない。
那由多がそこにいる。それだけで、私の心は救われた。
「今日学校でね!」
「帰り道にいた犬がね!めっちゃふわふわだったよ!」
「あの先生、ムカつくんだよ!」
「聞いてよ!クラスの子たちがさあ!」
那由多は、その日にあった面白かったことはもちろん、
『嫌だったこと』といったネガティブなことも、あっけらかんと言う。
女子同士の愚痴の言い合いが苦手だった私も、
彼女の面白おかしく語る『嫌なやつ』トークは楽しみだったりする。
だから私も。
「お母さんと喧嘩しちゃった。学校に行きなさいって」
「先生からも、電話があったんだって」
「今日は病院で……疲れちゃった」
心に抱えていたどうしようもない感情を、
彼女の前では少しずつ吐露することができた。
「また他のプレイヤーに暴言を吐かれちゃった…」
「そうなの!そんなやつ、無視無視!風咲に嫉妬してるだけだよ!」
「私のせいで……負けたって……」
どうしても気持ちが沈んで、ゲームどころではない日も一度や二度ではない。
そんなときはゲーム内の夜のステージを2人で飛びながら、
現実の空がうっすらと明るくなるまで、とりとめのない話を繰り返した。
* * *
ある日のリハビリの帰り道。
まだ16時なのに、影が長い。
日陰は冷える。風も冷たくなってきた。
いつの間にか道行く人たちも、上に一枚羽織るようになった。
家に着いたら、スーツ姿の男の人がちょうど玄関から出てきたところだった。
私がその人の様子を目で追っていると。
「あんたの家庭教師を頼もうと思ってね」
玄関に立っていた母がため息混じりに、そう告げた。
「スポーツ推薦は全部取り消しなんだから。勉強しないと」
那由多と一緒に過ごす輝かしい時間は、
同時に、現実の世界でも2ヶ月もの時間を進めていた。
「高校どこに行くか、あんた決めたの?」
気がつけば、現実というものが私を追い詰めていた。




