15話 槍
「風咲、索敵だ」
「了解。2時方向、4機固まってます」
「風咲はヒュドラを撃って。散ったところを追うよ~。
ひばりは風咲に付いて」
「りょ、了解です!」
会議で色々な案が出たものの決定打にならず、TACネームは決まらないまま。
「とりあえず飛んで考えよう」という蘭花の一言で、野良の4機編成との対戦を始めた。
「ロックオン、ヒュドラ撃ちます!」
「特殊兵装はFOX3だね~。ヴァイパーならFOX2」
「厳密には違うって、おっさんが言ってたぞ」
「いいの!ゲーム内ではそうなんだから!
そんなこと言ったら『全部フレアで回避するのはおかしい』って、先生頭抱えちゃうよ」
「き、きつねさん?」
4機をまとめてロックし、ヒュドラ射出。
目論見通り、敵機が散開。
私たちは2機ずつに分かれて追う。
「風咲は高度を取っておけ。ひばりは風咲から離れるな。
お前の目標は生き残ることだ。死んでも生き残れ!」
「そんな無茶な!」
相変わらず蘭花はスパルタだ。
「蘭花との練習を思い出してね」
「が、頑張ります!」
「行くよ!離されないでね!」
相手はミサイルの回避に専念している。
先に撃った私たちが流れをコントロールし、優位な位置取りに成功。
でも、仕切り直した2機が向かってきている。
動きの遅れたひばりに、敵が狙いを付けた。
初心者のひばりが対戦で活躍できるほど、
このゲームは甘くない。
人間のプレイヤーは、キャンペーンモードの敵エースよりも遥かに手強い。
ひばりも逃げようとしたが、1機が背後を取った。
大きな三角の尾翼と、突き出したデルタ翼。
コクピットの横に小さなカナード翼。
流線型のフォルムに、鼻先から一本だけ伸びた給油口が見える。
EX-88『ストームエッジ』だ。
「ロックされてるよー!音がー!」
「落ち着いて!ミサイル来るよ!」
でも助けに入るのは、まだ。
試合前の打ち合わせでは「すぐには助けるな」という指示を受けている。
蘭花との練習成果のチェック、
戦いの中で生存率を上げる練習も兼ねている。
EX-88から、ミサイルが白煙を上げるのを確認した。
直後、ひばり機から複数の光の粒が舞う。フレアの射出。
同時にひばり機が急旋回。ミサイルから角度を取るように動いている。
間違いなくブレイク機動だ。
「練習の成果、出てる!」
敵ミサイルはフレアに吸い込まれ、回避に成功。
もうそろそろいいだろう。
上空から急降下。
高度を速度へ。
ひばりを狙う不届き者を、上から狙い撃つ。
「FOX2!」
速度を乗せてミサイルを放つ。
回避の間もない。直撃。
大きな主翼はもぎ取られ、
グレーの機体がオレンジの炎に包まれ、
EX-88が回転しながら落ちていく。
「お~!グッドキル!」
「やるな!ナイスキルだ!」
月子と蘭花がほぼ同時に叫んだ。
直後に再度上昇し高度を取る。
もう1機の敵の姿も確認した。
青いカラーだ。
機首の下に大きなエア・インテーク。
コンパクトで引き締まったシルエット。
AX-16『ブレイズ・レイブン』だ。
その機体は急遽背を向け、離脱を図る。
大きな1基のエンジンノズルにアフターバーナーを焚いた。
2対1の状況で、不利を察して即離脱。
素早い判断だ。
でもスコアは頂く。
再び高度を速度に変換し、
一気に仕留めようと後ろからロック。
AX-16はロックを振り切ろうと急旋回。
「もう1機来たよ!」
ひばりが注意を促す。
急速接近中の機体が1。
背中の大きな三角翼。シルエットが遠くに見えた。
さっきのEX-88だ。
「さっき落ちたのに!」
「試合は8分間の落とし合いだ。
撃墜されても、数秒で戦線に復帰する」
戸惑うひばりに、蘭花が補足している。
勝利条件は敵を全滅させることではない。
8分経過時点でスコアの高いチームの勝利だ。
「まあでも難しいことは考えず、全部落としちゃえばいいよ~」
相変わらずの緩い口調で、月子は月子で無茶なことを言う。
これが女王たる者の余裕か。
「2機、風咲の方に!」
逃げ回っていたAX-16が踵を返し、2機で私を狙いに来た。
さっきの仕返しか。
「わ、私はどうしたらいいの!?」
「スモーク、お願い!」
今ひばりが使っているのはTX-04『ブルーコメット』。
イルカのような丸みを帯びたシルエットが特徴。
主翼はキャノピーのやや後ろから流れるように伸びている。
胴体の左右に小さめのエア・インテーク。
現実世界では曲芸飛行で使われる機体がモチーフだ。
あまり速度も出ず決して強い機体ではないが、
操作のしやすさには定評がある。
そして特殊兵装のスモークは、
視界を阻害しレーダーから身を隠し、ロックオンをも無効化する。
敵は左右から私を挟み込もうとしている。
距離およそ2000。
ヒュドラの射程内だ。
長距離兵装の範囲内なのは、向こうも同じ。
被ロックの警告音が鳴っている。
ひばりが撒いたスモークに退避。
ロックを断ち切る。
すぐに10時方向のEX-88に向けてヒュドラ射出。
当たらないだろうが回避を強いる。
それで充分だ。
続いて2時方向に機首を向ける。
AX-16に対しヒュドラで先制。
ここまでの機体操作や状況判断能力を踏まえると、
この青い機体の方が手強い。先に叩く。
敵の回避行動を見越し、上昇し高度を得る。
スモークから飛び出た私に、機首を向けようとしている。
甘い。私の方が優位だ。
すぐさま翻し、スロットル全開で急降下。
すれ違いざまにヴァイパーを叩き込む。
AX-16の青い機体が炎に包まれた。
もう1機、EX-88の位置も把握している。
急降下からの、旋回、機首を引き起こし上昇。
EX-88の5時方向、斜め下からヴァイパーを突き上げる。
グレーの機体を再び、蒼空に散らした。
「すごい!えーっと……」
「ナイスキル!」
「な、ナイスキルだよ!」
月子と蘭花の声に少し遅れて、ひばりの跳ねるような声がした。
* * *
VRヘッドセットを外して、大きく息を吐いた。
酔い止めを飲んだので、今日はフラつきが抑えられている。
「リプレイ流しますか?」
「うん、お願い~」
それぞれの視点の画面をみんなで見ながら、試合の振り返り。
「ここ、すごいね」
私が続けざまに2機を撃墜したシーンに注目が集まった。
「この鋭い機動は、私には真似できないなあ」
「悔しいが私もだ」
市原、成田がそれぞれ感想をこぼす。
「突き刺す感じが良いね」
「これは惚れるわー」
佐倉、鴨川も続く。
そんなに言われると、ちょっと気恥ずかしい。
1年生たちが楽しげに話しているのを尻目に、
腕を組んで鋭い目線で画面を見つめていた蘭花が一言、告げた。
「お前は槍だな」
* * *
「セイバーから各機へ。今日の夕飯はハンバーグが食べたい。応答して」
「なんだよそれ。オーキッド、じゃなかった、メイス了解」
「えっと、だ、ダガー了解!得意ですよハンバーグ!」
「ジャベリン、了解」
それが、私の新しい名だ。
「今度、食べさせてね!」




