12話 バディでしょ
まだ頭がぐわんぐわんする。
あのVRヘッドセットには、慣れる気がしない。
「いっぱい追いかけられて、もうクッタクタだよ……」
蘭花にさんざん追い回され、最後はVR酔いに打ちのめされ、
ひばりはボロボロだ。
でも、後半は逃げ回れるようになっていた。
今日だけですごい進歩だ。
私とひばりの2人、ふらつく足取りで廊下を歩く。
他の1年生は
「片付けは任せてください!」と部室に残り
私たちは半ば追い出される形で帰路についた。
時刻は18時を回っていた。
星空の下、僅かにオレンジ色。夕暮れの名残が見える。
「きゃんぺーんもーど……って、なに?」
今日与えられた新たなミッション。
キャンペーンモードは、ストーリーを進めていく1人用のモード。
「実は……私もやったことがない」
私はAces' Trailを『対戦するゲーム』だと思っていたから、
トレーニングのあとは、すぐに対戦を始めていた。
ストーリーのことには興味がなかった。
「私がクリアできなかったら、三条さん……ううん、風咲さんは……」
「『さん』はいらないよ。呼び捨てでいいよ」
互いを名前で呼ぶという決め事を、ひばりなりに守ろうとしている。
でも、そこまで来たら『さん付け』ではなく、もっとフランクに呼んでほしい。
「ええー……ハードル高いよお」
「バディでしょ、私たちは」
1週間以内のキャンペーンモードクリア。
達成できない場合、ひばりはレギュラーの座を降ろされる。
バディの連帯責任として、私も。
「ごめんね、迷惑かけて」
「迷惑なんて言っちゃダメだよ。せっかく選ばれたんだから。
一緒に頑張ろうよ!」
ひばりの顔は俯き気味。
初心者がいきなり選手に選ばれて、自信がないのは傍から見ても明らか。
「どうして私なのかなあ……。
成田さんや市原さんの方が上手なのに」
自然公園での試験では『他者を助けた』が1つの基準だった。
それでも上手な子を入れる方が自然だと、誰もが思うだろう。
けれど1つだけ、思い当たることがある。
「中学の頃、言われたことがあるよ」
俯き歩くひばりに向けて、少しだけ中学時代の部活のことを話す。
「バスケのスタメンは5人。
でも、そのときの顧問はこう言ってた。
『4人はうまい子を選ぶ。1人は声が大きい、元気な子を選ぶ』って」
そのときは実際に、「なんでこの子を選んだの」って不満が挙がっていた。
でも、結果的に私たちは地区優勝を収めた。
「試合中、コートの中から味方を支える子が必要なんだって」
どんなピンチのときでも諦めない気持ち。
折れない心で、間近で味方を勇気付け続ける存在。
精神論に過ぎないかもしれないけど。
最後の最後のせめぎ合いでは、
根性とか、応援とか、気持ちとか、
そういうのが馬鹿にできないって、経験から私は知っている。
「たぶん、そういうことなんじゃないかな」
いざというときに自然と他者のために動ける子。
蘭花の言う『チームで勝てるヤツ』って、きっとそういう要素を含んでいる。
「ありがとう。今日、帰ったら頑張ってみるね!」
練習で疲れた顔に笑顔を浮かべて、ひばりは両手を胸の前で握った。
私も、この子の助けにならなければ。
* * *
帰宅後、私もキャンペーンモードを始めた。
ひばりのクリアを支えるために内容を把握しておきたい。
映画のような映像美が目を引いた。
辺境の基地で新人パイロットとして戦っているのが、主人公こと私。
でも、物語はジャーナリストの目を通して進行していく。
突然の国籍不明機の襲来。
そして突然の開戦に巻き込まれる主人公。
その後、各地の戦場でミッションを請け負いながら、
エースとして頭角を現していく。
戦闘の没入感もさることながら、
物語の語り部が良い雰囲気を出してくれている。
戦争の裏で誰かが糸を引いていることが示唆され、
展開にも引き込まれてしまう。
ゲーム内の敵機の動きは、対人戦よりも遥かに単調だ。
読みやすく、驚異的な機動もなく、回避行動もあまり取られない。
いい的だ。気持ちよく戦える。
一方で、対地攻撃は慣れない。
地面が近づくと正直ちょっと怖い。
ゲームの仕様で、地面や障害物には接触したら即アウトとなる。
空を飛ぶ気持ちのいいゲームなのに、そこには閉塞感のようなものを感じる。
とはいえ対戦では空対空の戦いしかしないのだから、
これに関しては、わざわざ慣れる必要もないだろう。
「懐かしいな」
父がコーヒーを飲みながら、リビングのTVに映るその様子を眺めていた。
家族に見られるの、ちょっと恥ずかしい。
「風咲がゲームにハマるなんて、昔は考えられなかったなあ。
お父さんが遊んでいると、お母さんと一緒になってブーブー言ってたのに」
「これも部活の一環だよ」
つい、ぶっきらぼうに返してしまった。
「本当にeスポーツ部に入ったんだなあ」
言い方に何か含みがあるように感じられて、その呟きには答えなかった。




