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第4話:フレーダーマウス

「えーと、酒場の店員さんに聞いた話だとこの辺の家じゃないかな・・・」


一方、カノンとアンナ、ロベルトの3人は丘の上の家を目指していた。外れの丘の方に来てもまだ一般市民の家は多い。


「うーん・・・あれ?おーい!」


と、アンナが突然声をあげた。


「ん?どうしたの?」


カノンがアンナの視線の先を見ると、一軒の家の玄関の前に、ジャンが立って待っていた。


アンナは声をあげたままジャンの方へと駆け寄って行った。それにカノンとロベルトも続く。


「ちょっと、こんなところでなにしてるの?というか、ひとりだけ昼ごはんとかズルすぎると思うんだけど!」


「いや、お前らのやり方がぬるかっただけさ。情報ってのは人が集まる場所で手に入る。あの時間どきなら。食堂やレストランが一番なんだよ。」


「あ、えーと・・・ということは、ジャンさんは情報を?」


カノンが訊くとジャンは頷いた。


「あぁ。ここが、”こうもり博士”の家だ。」


そう言ってジャンは後ろの家を指さす。家の屋根からはブリキか鉄だろうか、継ぎはぎの目立つガタガタとした煙突が突き出ている。煙突からは煙がぼうぼうと吐き出されている。


「多分、中に居るんだろうぜ。」


「ジャンさん、意外とやりますねぇ。」


「うるせ。ただの仕事のためだよ。円滑に進んだ方が良いだろ?」


ジャンが立ち背にしている扉の横にはドアベルのような物があった。


「押して、みます?」


カノンがそういうと、ジャンは扉の前から退き、カノンやアンナの後ろに回った。


「押してみようよ!中に居るんだったら、きっとそれで出て来るよ!」


アンナが言う。その言葉にカノンは頷くと、恐る恐るドアベルのボタンを押す。


”チリリリリリーン!!”


押した瞬間、甲高いベルの音が鳴った。ジャンはその音が鬱陶しかったのか、おもわず耳を塞いだ。


ベルの音が鳴って少々経ってから、家の中から声がした。


「しばしお待ちを!わたくしこれでも忙しい身で!」


「うーん、男の人の声だね。」


「やっぱり、ここが”こうもり博士”の家なんでしょうか。」


しばらくすると、扉がいきなり”ドカーン!”と音を立てて開いた。一同が驚き前を見ると、そこには礼服姿のカイゼル髭を伸ばした男の姿があった。


「ようこそ!我が研究室へ!」


「・・・当たり、だな。」


ジャンが小さくそう呟いた。




「あの、あなたが・・・」


「シッ。みなまで言わずとも良いですぞ。あなたがたはこうおっしゃりたいんでしょう?”あなたがかの有名なこうもり博士その本人なのか?”と!」


「有名・・・悪い意味で、みたいだけどな。」


ジャンがイラッとした様子で返した。


「有名なことに変わりはありません!なにしろわたくしこそが、あなたがたの仰るこうもり博士なのですよ!2世ですがね!」


「2世?」


アンナが首を傾げる。


「まあまあお嬢さん方。詳しい話は我が研究室の中でしましょうや。紅茶は残念ながら切らしておりまして。わたくしが遠くから買い付けているモリフクロウのフンの豆からできたコーヒーでも楽しみながら、わたくしの開発に目を驚かせると良いでしょう!さささ、中へ中へ!」


といって、こうもり博士は家の中へと入って行った。


「・・・ねえ、カノン。」


アンナが不安そうな顔でカノンの制服のすそを引っ張る。


「どうしたの?」


「フンからできたコーヒー、ホントに飲まなきゃダメ・・・?」


「い、嫌なら残しておけばいいんじゃないかな・・・?」




家の中に入ると、まず初めに機械用オイルの匂いが鼻を突いた。その次にプシュープシュー、ガタンガタンと音を立ててなにかしらの為に動く機械の音が耳を襲う。


「お、落ち着かない場所ですね・・・」


ロベルトが半ば困惑したような顔でそう言った。アンナは目まぐるしく動く機械に興味が津々になったのだろうか、機械に負けじと目まぐるしく機会を見て回る。ジャンはというと、こうもり博士の言葉遣いに嫌気がさしたのか、こうもり博士の方を睨みつけている。それらをどうしようかと頭を回してみるも、解決策が見つからないのが、カノンの様子である。


「あいにくダイニングテーブルのような物は我が研究室にはありませんでな。設計図を書くテーブルとスツールになりますが、おくつろぎくださいな。」


「は、はあ。」


カノンは促されるままスツールに腰かけた。アンナは「すごーい!なにこれ!」や、「え、ここってこうなってるの!?」などと言いながら機械をつついている。それをロベルトが「やめたほうがいいですよ!」と言いながら止めている。ジャンはカノンの後ろで不機嫌そうに立っている。


カノンの目の前に一杯のコーヒー・・・しかも、なんだかドロッとしたような、コールタールみたいなコーヒーが置かれた。


「改めまして、わたくしがこうもり博士と呼ばれる天才発明家ですぞ!気軽に博士と呼んで下され!」


「ちッ・・・本名は?」


ジャンが舌打ちしながら訊ねた。


「本名ですか!いやはや、あまり最近訊かれることが無かったもので、名乗り損ねましたな!わたくし、名を”ヨハン・フレーダーマウス・2世”と申します!どうぞ何卒よしなに。」


「フレーダーマウス・・・あまり聞かない名字だが。」


「そうでしょうねえ。なにせこの名字は我が血筋のみ使われることが許されている神聖な名字!世界のどこを探しても、他に同じ名字の者はみつかりませんでしょうねぇ!」


「と、ところで、その。2世、っていうのは?」


カノンがコーヒーの水面を覗き込みながら訊ねた。


「簡単なことです。わたくしの父の名が”ヨハン・フレーダーマウス”というだけ。その父の名を継いだから、わたくしは2世を名乗っているということのみ。まあ、いわゆる世襲という奴ですな!」


「・・・なるほど。で?そのフレーダーマウス2世の発表会に、なんで俺たちの演奏が必要になるんだ?」


「おや、そういえばあなたがたたち・・・職業や用事を訊いていなかった!!これはとんだうっかりでしたねぇ!演奏というと・・・わたくしが依頼した、皇楽聖律団の方々、ということで間違いないですかね?」


「ああ、その通りだ。」


ジャンは淡泊に返す。


「いやいや、遠路はるばる・・・と言うほどでもありませんな!しかしここまでよく来てくださったものです!実は、この町随一の発明家として知られるこのわたくしの研究の成果が、ようやく実ったのですよ!それを語るには、そこへ至るまでの道のりを話さなければなるまい!」


「・・・あほくせぇ。」


ジャンがポツリと、そう呟いて続ける。


「そんな歴史の授業・・・しかも、イチ個人の極めてどうでもいい話は聞く暇なんてねぇよ。発表会は今日なんだろ?さっさと演奏の準備をさせろ。」


「そうですか!それでは準備の方をよろしくお願いします!曲はなんでもよろしいので、発表会によく似合う豪華な演奏を頼みますよ!」


「・・・カノン。」


「え、あ、はい!」


ジャンがカノンに話しかけた。それはそれは面倒くさそうに。


「俺とロベルト、あとアンナも演奏の準備に入る。お前はリーダーとして、この男のバカ話に付き合っておくんだな。もっとも、リーダーとして指揮を振るうなら、それも無視して演奏の準備に入ればいいだけの話だがな。」


そう言ってジャンはその場を離れた。ロベルトに声を掛けて、家の外へ出る。ロベルトは機械に興奮するアンナを半ば引っ張りながら、「行きますよー!」と声を掛ける。




「いやはや、プロの方というのは辣腕でいらっしゃる!お嬢さん方・・・カノンさんと申しますか?カノンさんも演奏の準備に?」


「あ、えーと、プロっていっても私たちまだ新入りで・・・あ、あと私はヨハンさんのお話をバカ話だなんて思ってないですから!」


「ほうほう!では、わたくしの話に付き合ってくださるという事ですね!いいでしょういいでしょう!このこうもりめが舌をフル回転させて語りましょうとも!」


「え?あぁ、はい・・・」


カノンは半ば面倒なことになったなぁ、と思いつつ、ヨハンの話に付き合うこととなった。

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