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第2話:制服と馬車馬

「ここが第8部屋・・・」

カノン達が寮棟で第8部屋と書かれたプレートが付いてあるドアの前についた。

「みてみて!ちゃんと女子部屋男子部屋と分かれてあるよ!」

アンナがワクワクした様子でそう言う。

それをみて、また煙たげにジャンが答える。

「そりゃあそうだろ。女と同室ってなりゃ、何を疑われるかわかったもんじゃないからな。」

「もう!そうやって水さすんだから!ジャンってホントに年長者?いくつなの?」

「20。」

「うげ。3つも上だ・・・」

「うげってなんだよ・・・」

「あ、あの・・・ちなみにぼくは12歳、です。」

ロベルトがジャンの陰に隠れるようにして言う。

「へー、若いというか・・・・・・幼い?よく12歳で皇楽聖律団に入れたね。よっぽどのエリート?」

「そ、そういうわけじゃ・・・」

「あ、あの、とにかく、制服とか!あの、見てみませんか?」

場の異様な空気を良しと思わなかったカノンがそう提案する。

「お、そうだね、忘れるところだったよ、たははー!」

「全く・・・能天気なヤツ。」

「じゃあ、ぼくらは男子部屋で着替えるので、色々終わったら、またこの部屋前で集合しましょう。」

ロベルトが場を取りまとめるように言った。

「賛成!さ、カノン!行こ行こ~!」

アンナがカノンの肩を押しながら女子部屋へと入って行った。

その後ろ姿を見ていたジャンが、ポツリとこぼす。

「・・・”あんなの”がリーダーで、本当にいいんだか。」


「おおー!みてみてカノン!二段ベッドだよ!あ、アタシ下がいいな!寝相悪いからさ!上だと転げ落ちちゃうかも!」

部屋に入るなり、アンナはテンション高めにそう言った。

「あ、じゃあ私は上で・・・あっ。」

ベッドを見てみる。その布団の上には綺麗にたたまれた青い制服が置かれていた。

「この制服が・・・」

「おー。どうやら第8楽団ウチの色は青色みたいだねぇ。アタシの故郷の色!・・・は、もうちょっと水色っぽいか。ふーむ・・・」

「・・・あ、アンナさん!」

「ん?なに?」

「とにかく着てみましょう!姿見も丁度ありますし!」

「お、そうだねえ!・・・あ、あとさ!アンナ”さん”はやめてよ。アタシたち、面接会場からの仲なんだからさ。気楽にアンナって呼んで!」

と、アンナはサムズアップする。

「え、あ、わ、わかった!あ、アンナ!・・・あんまり人を呼び捨てにすること無いから、新鮮かも。」

「もう!そんなことどうだっていいからさ、はやく着てみよ!ほらほら~!」

アンナに促されるまま、カノンは制服を広げて着てみることにした。


青い制服に袖を通す。前の10個あるボタンをとめる。サイズもぴったりだ。

「お、おぉ・・・」

制服を身にまとった自分の姿を改めて姿見で見てみる。

「これが、夢を叶えた私・・・!」

「ねーねーカノン!アタシの方はどう?」

アンナはカノンに自分の制服を着ているのを見せる。・・・少しだけ、裾をあげているようだ。

「この短時間に裾上げなんてしたの?」

「へへ、アタシ手先は器用でさ。長ったらしいのってあんま気に入らないんだよね。だから、ちょっとだけ改造。大丈夫大丈夫!バレなきゃ大丈夫!」

「わ、私と並ぶことになるから、いずれは違和感とかでバレる気がするけどなぁ・・・」

カノンは少々訝しんだ。そんなカノンに、アンナは話し続ける。

「ねぇカノン。カノンはなんで皇楽聖律団を目指したの?」

「あぁ、えっとね・・・昔、私がまだほんのちいさかった頃、お父さんが私を連れて街まで聖律団の演奏パレードを見せに行ってくれたの。それでね、私はそのパレードが、とても煌びやかで、人生で見た中で一番の光景だったんだ。それで、私は心を突き動かされて・・・いずれは、私が誰かの心を突き動かす存在になりたいな、って。」

「へー!とってもアツい話じゃん。アタシとは大違い!」

「じゃ、じゃあ、アンナはどうしてここを・・・?」

カノンが訊ねると、アンナは少し遠い目をして話し始めた。

「アタシはね、北の方のモノフォニア連邦の田舎村で生まれ育ったんだけどさ。地元の音楽学校・・・といっても、ものすごく小さいんだけど。そこを一浪して卒業したの。でもさ、その先の将来が全く見えなくて。でも、明るく生きていたいなぁ、とは思ってたんだよ。それで、オクターヴ皇国には皇楽聖律団ってのがあるって知って、自分の可能性を高めるためにここに入団したんだ。モノフォニア連邦ってね、いわゆる独裁国家なんだけど、私の住んでた田舎村は、どうやら自治体としても見られてなかったくらい辺鄙なところでさ。あんまり圧政に苦しんでた、ってわけじゃないんだけどさ。でも、国自体は、暗くて活気のない、そんな寂しい国。だから、アタシの父さん母さんは”心だけは温かくしろ”って、小さい頃から言ってきたっけ。とにかく、暗くて沈んでるのなんて、アタシ大嫌いなの。・・・別に、ジャンのことをとやかく言ってるわけじゃないんだよ?」

「へぇ。アンナにも色々あったんだね。」

「うん。きっと、この皇楽聖律団に入ってくる理由は三者三葉、人それぞれあるんだろうね。だから、ジャンのあのちょっと暗いところにも理由はあるんだって思ってる。」

「また今度、聞いてみてもいいかもしれないね。」

「うん、そうだね。・・・さ、向こうも準備が整ったでしょ!そろそろ行こ!」

「うん。」

アンナが言うのに返事をしてから、カノンとアンナは部屋をあとにした。


部屋を出ると、そこには同じく青い制服を身にまとったジャンとロベルトの姿があった。

「おまたせ~。そっちの部屋はどんなだった?」

「別に。普通。」

アンナの問いにジャンが素気なく答える。

「この後はどうしたらいいのかな・・・」

「うーん・・・自由時間って言ってたけど、アタシ特にやること無いしなぁ・・・」

「あ、あの、なんだったら、リストさんに訊いてみます・・・?」

と、ロベルトが提案した。

「うん。そうしよっか。」

その提案を、カノンが受け止める。

そうして制服を身にまとった一行は、リストを探し本部内をウロウロとしていた。


リストを見つけられたのは、探し始めてからおよそ1時間くらい経った頃だろうか、同僚らしき女性と談笑しているところに出会った。

「あ、あの、リストさん・・・」

「お。」

カノンがリストに声を掛けると、リストは制服を身にまとったメンバー全員を見て、なんだか感慨深そうにしていた。

「みんな、サマになってるじゃないか。これでやっと立派な皇楽聖律団の一員・・・と、言いたいところだけど。みんなにはまだ渡してなかったものがあったんだよね、そういえば。」

「渡してなかったもの・・・?」

「うん、ほら、外は魔物が出るでしょ?その時の護身用の短剣とバックラー。今丁度一式持ってるから渡しとくね、はい。」

と言って、リストは傍らにあった小包を1個ずつ、各メンバーに渡した。包みの中には、鉄でできているであろう短剣と、軽い鉄でできたバックラーが入っていた。

「あ、ありがとうございます。・・・えっと、なんだかお話ししているところに割り込んでしまって申し訳ないです・・・」

リストとカノンたちがそうやってやりとりしている間にも、リストの同僚らしき女性はにっこりと笑いながら立っていた。

「ん?あぁ、別に構わないよ。紹介しとこうか。彼女は”テクラ・ディエヴィツィア”。僕と同じく楽隊の指揮を取っているんだ。」

リストの紹介のあとに、テクラは挨拶する。

「こんにちは、みなさん。みなさんのことは、リストから聞いてますよ。みなさん成績優秀で試験を合格したとか。」

「そ、それほどでも・・・」

「謙遜なさらずに。そうですねえ・・・いつか第8楽隊と、私の指揮する第66番隊が一緒に仕事をする時がくるといいですね。」

「第66番隊、ですか・・・。」

「そう。私のところの4人も可愛いのですよ。・・・少し、変わり者のところがあるのですけど。」

「へぇ・・・そうなんですね・・・」

「あっ!」

カノンとテクラが話していると、何かを思い出したかのようにリストが声をあげた。

「ど、どうしたんです?」

「そうそう、忘れてた忘れてた、危ない危ない。仕事で思い出したよ。これはまぁ明日でも良かったんだけどね?皇楽聖律団は仕事で色んな所を巡るわけだけど、とても徒歩じゃ無理でしょ?だから、各楽隊には専用の馬車が与えられるんだ。折角だから、その馬車を見に行こうか。」

「え?良いんですか??」

アンナが言う。

「まぁ、さっき言ったみたいに、遅かれ早かれこうなるだろうから、全然いいよ。それじゃあテクラ、”例の件”は前向きに考えておいてくれると嬉しいな。」

「はい。わかりました。それではみなさん、行ってらっしゃい。」

テクラがカノン達に手を振って、去って行った。

「例の件・・・?」

ジャンが訝しげに言った。

「あぁ、気にしないで。少なくとも、今の君たちは関係のない話だから。」

「余計に含みを入れやがって・・・うさんくせぇ。」

「まぁまぁ。ささ、馬車を見に行くよ。ついておいで。」

リストがスタスタと歩き始める。リストの一言を疑問に思ったジャン以外は素直について行ったが、ジャンはどうしても溜飲が下がらない思いを抱えつつ、渋々ついて行った。


リストについて行くこと10分弱。一行は本部の敷地の裏の奥まった所についた。どうやら、ここが馬車の待機所らしい。

「みてみて、いっぱい馬車がある!何頭くらい馬が居るんだろう・・・」

「これだけいると管理も大変でね・・・さて!」

リストがある一頭の馬の馬房の前で立ち止まった。

「この子が、君たち第8楽隊の馬車を担当する馬だよ。血統書付きの由緒正しい血筋でね。えーっと・・・名前は・・・アンフェルズ。オッフェンバック氏の牧場で育てられたから、言うなれば、”アンフェルズ・オッフェンバック”かな。」

アンフェルズと呼ばれた馬はむしゃむしゃと飼い葉を食べている。

「アンフェルズ・・・これからよろしくね。」

「良い名前じゃん、アンフェルズ・オッフェンバック!」

「ふーん、オッフェンバック、ね。」

ジャンが何か知っているかのような言い方をする。

「どしたの?ジャン。」

と、アンナが訊ねると、ジャンは話し始めた。

「俺の実家の近所にあるんだよ、オッフェンバックさんの農場。まさか、こんなところでその名前を聞くなんて思わなかったんでな。」

「へぇ、縁があるんだね!」

「縁ってほどのものでもないかもしれないが・・・」

「ふふん。アンフェルズくんを可愛がれるのは今の内だよ。」

リストは何か意味ありげに言う。

「どういうことですか?」

カノンが訊く。

「このアンフェルズくん、実は馬車馬のテストを5回目でようやくパスできたんだな。」

「5回目・・・って、どういうことです?」

「フツーの馬車馬だったら、1回でそんなテストパスしちゃうんだ。でもアンフェルズくんはちょっとそれに手間取った。」

「つまり・・・?」

「気性難、ってところだろ。」

と、ジャンが割り込んで答えた。

「ジャン君鋭いね。正解正解。アンフェルズくんはオスなんだけどね、それが余計に災いしてね。」

「へぇ・・・馬車馬にも色々あるんですね・・・」

「と、そんなわけで、馬車馬との顔合わせも終わったし、今日のやる事は終わりかなぁ。各自、明日の初仕事に向けて準備しておいてくれ。それじゃ、僕は行くよ。」

と言って、リストはまたスタスタと歩き去って行った。

「気性難のアンフェルズくん・・・まぁ、きっと大丈夫。大丈夫・・・だよね?」

カノンがそう言うと、他の3人が”う~ん”と言ったような顔で返す。

「な、なんだか不安になってきた・・・」


そうして、一行の皇楽聖律団としての初日が幕を閉じた。


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