カルテ 03 最後の晩餐…?
今回は、短めです。
嵐の前の静けさ、、、かも
それぞれが焚き火の準備や調理に取りかかる中、レオンはふと立ち上がった。
「俺、ちょっと食材探してくる。」
「食材?まさか、また……?」
ミーナが眉をひそめる。
「ふふっ、メインディッシュの花を添えたいだけさ」
レオンは軽く笑いながら、森の奥へと歩いていく。
木陰を歩きながら、ふと目をとめた。
「……お?」
苔むした倒木の根元に、ひっそりと白く丸いキノコが顔を出していた。
陽光を受けて淡く光るその姿は、どこか幻想的ですらある。
「こいつは……白ミカズチ茸だな!久しぶりに見た。塩焼きにすると絶品なんだよ」
レオンの顔がぱっと明るくなる。
戻ってきた彼の手には、丁寧に摘まれたキノコがいくつか。
「うまそうだ……これ。見ろよ、この形!」
キノコの味を想像して興奮気味のレオンに、近くで水を汲んでいたミーナが顔をしかめる。
「またキノコ?やめておきなさいよ。前もそれで一日中うずくまってたじゃない」
「あれは……ちょっと種類を間違えただけさ。今回は大丈夫、ちゃんと特徴も覚えてるし、自信ある」
レオンが胸を張って言うと、すぐ横でユルクとガルドがそろってうなずいた。
「レオン……やめといた方がいいと思うよ。前も危なかったし」
「前は地獄だったからな……一晩中レオンのうめき声聞かされるこっちの身にもなってくれ」
「おいおい、みんなして俺を疑いすぎだろ!」
レオンは抗議の声を上げながらも、焚き火のそばで手早く調理を始める。串に刺して、塩をふり、じっくり炙る。
じゅわっと音を立てて脂がにじみ、香ばしい匂いが辺りに広がる。
「……っく、いい匂い……」
ミーナが横目でチラリと見るが、頑なに手は伸ばさない。
「……本当に食べないのか?今度は当たりだと思うけどなあ」
「“思う”って言った時点で信用ゼロよ。私は肉だけで充分!」
軽口を交わしつつ、レオンはひとくち。熱々に焼き上がった茸にかじりつく。
──その瞬間。
舌に触れた感触は、まるで絹のように滑らか。
歯を立てると、じんわりと旨味が滲み出す。
ほんのりと甘く、だが芯には濃厚な旨味とほろ苦さが絡まり合い、“普通では味わえない極上の旨味”が口の中いっぱいに広がった。
「──うん、うまい……!やっぱりこれは当たりだ!」
眉をひそめ、喉を鳴らす。
「それに……ふわっと広がる香りに、一瞬で引きずり込まれる……まるで森そのものを凝縮したような風味。いや、それ以上だ。これはもう……罪だな……」
まぶたを閉じ、静かに吐息を漏らすレオン。
その表情は、まるで悟りを開いた修行僧にも似て、あるいは快楽に落ちた悪魔にも似ていた。
ミーナが訝しげに眉を上げる。
「ねえ、レオン……大丈夫?見せられない顔してるけど……」
「……俺はいま、神に近づいた気がする」
ユルクが狼狽える。「え!?毒!? ぽっ、ポーション、すぐ飲まないと……!」
「毒じゃない……いや、毒だ。美味すぎて理性が吹き飛ぶ。これは……禁断のキノコだ……」
涎を垂らし、ぽつりと漏らすその声に、誰もが微妙な距離を取り始めた。
だが、レオンは構わずもう一本のキノコを手に取り、恍惚とした笑みを浮かべながら焼き続ける。
( だめだ……この人 )
彼が満足げにキノコを頬張る間、3人は少し離れた場所で、相変わらずなリーダーに呆れつつも、どこか和やかな空気に包まれていた。
「……また当たっても、看病しないからね」
レオンは聞こえているのかいないのか、小さく笑いながら、串をくるりと回した。
彼の脳裏にはただ一つ、「明日もまたあの場所に生えていてくれますように」という、キノコへの祈りだけが渦巻いていた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
山菜は、怖いですね。