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8 安易なケモ耳はもっと流行るべき

 ままごとをするにも指針が必要だ。

 料理をする、お買い物をする、人形を赤ちゃんに見立てて子育てをする。

 いろいろあると思うけど、サンドキャッスルの場合は冒険だ。


 冒険以外のこともできるけど、基本的にはモンスターを倒してハッピーエンドになるように設計されている。

 倒すための手段は暴力。

 なーんて、少々暴力的な表現だけど剣で斬りつけ、盾で防ぎ、呪術で弱らせ、魔法でダメージを与えるのが基本的な勝ち方だ。

 ちなみにプレイヤーが負けるとモンスターのごはんになるらしい。


 このサンドキャッスルの世界は現代日本のように害獣を殺すのでさえ許可がいるような平和な世界じゃない。

 犯罪者にしても、日本だと基本的には自力救済すら禁止されているけどそれは警察や司法が発達しているからだ。

 この辺は普通のRPGでイメージするものとそこまで変わらない。


 とはいえ物騒な解決法以外ももちろんある。

 モンスターは状況が悪くなると逃げ出すし、HP(体力)がゼロになったからって死んだ訳じゃない。

 その後逃がすことだってできる。

 ただ、害獣扱い兼稼ぐ手段らしいから絞めてお金に変えることも普通だ。


「今回はとあるクエストから始まります。アカリとアカネがお店をやってるので、そこに依頼が舞い込む形ですね。依頼主はカササギ。天の川からやってきた使者です」


 七夕らしく舞台は天の川。

 ただし空ではなくて単なる地名。


「ちなみに依頼を断ったら?」


「茜先輩、ドラゴンは好きですか?」


「ごめんなさい」


 作って来たキャラではドラゴン相手に戦っても蹂躙されるだけ。

 今のは進行を邪魔した(あかり)が悪い。


 TRPGというのはGM(ゲームマスター)PL(プレイヤー)に分かれて遊ぶ。

 今回で言えば天文部の二人、星那ちゃんと冨波さんがGM。

 月と私、金子さんと立花さんがプレイヤーだ。

 GMがシナリオ、物語の枠組みを用意し、プレイヤーがその骨格に沿って行動することでストーリーを作りあげていく。

 今みたいにいきなりGMを無視する行動をとると怒られるのは当たり前。

 まあ謝るまでが込みの内輪遊びみたいなものだ。


「それじゃあ、自分のキャラクターを紹介していってください。元気が有り余ってる月先輩からどうぞ」


 今回はキャラクター作成を標準からさらに分かりやすくしている。

 具体的にはアイテムから重さの概念を消した。

 キャラクターシートに武器や荷物の重さを書く欄があるけれど、今日は空欄のままだ。

 他にも、松明(たいまつ)やロープのような探検に必要な道具は全てなし。

 もし必要になったら宣言すれば手持ちのバッグから出てくるらしい。

 その代わり、初期費用が45コインから30コインまで減らされてしまった。


「冒険者アカリ。レベル1、はみんな一緒か。スタイルは魔砲士だよ」


 さっそく月が自分で作ったキャラを紹介していく。

 ちなみに全員名前はそのまま使っている。


「GMと相談して魔法も剣も使えるようにしたの」


「魔法剣士って器用貧乏になるか万能になるかだから扱いが難しいんですよね。とりあえずレベル1ということで最低限しか保証できないですし多分弱いと思います」


「そういえばテストプレイなのにこんなことして大丈夫なの? 言い出しっぺとしては責任感じなくもないこともない」


 無いんだ。

 いや、星那ちゃん(GM)からの許可が出た時点で大丈夫には違いない。


「やりたいことやらずして何がTRPGか。ぶっちゃけ素の冒険者で難易度調整するなら一人でもできるので安心してください。それに今日見て欲しいのはギミックの方がメインなので」


「りょーかい。えっと、じゃあ紹介の続きいくね。種族はエルフ。緑色のローブでフードを深く被っているから分かりづらいけどエルフだよ。高身長のナイスバディで武器は木刀。データ上はロングソードね。鞘から抜く代わりに魔力を通さないと威力が保証されない感じにしたい」


「昨日聞いた通りですよね。武器として使用するのにマイナーアクションの手順を踏むなら問題なしです」


「アカネとお店をやっているだんだけど、裏の顔があってね。冒険者向けの依頼を斡旋してるの。今回依頼人のカササギとは普段からもちょこっと交流はあったけど依頼をもらったのは今日が初めて。当然アカリは天の川には行ったことないよ」


「アカリはカササギに会ったことあることにしたんだ」


「私も今知りましたがOKです。アカネの方はどうしますか? あんまりべったり関わってなければ知り合いでも良いですよ」


「うーん。アカネはいいや」


「分かりました。そのまま茜先輩お願いします」


「はーい」


 隣で(あかり)(現実の姿)が何やらカバンからごそごそ。

 何かするつもりらしいけど待たなくて良いらしいのでそのまま続ける。


「月に安易なケモ耳はもっと流行るべきって言われたからアカネは兎の獣人だよ。ステータスデータはエルフだけどね」


 獣人はエルフのデータを使えばいいとルールブックの最後の方に書いてあった。

 でもライオン等は鬼のデータでも良いらしい。

 サンドキャッスルに明確にステータスが定義されているのは人間、ドワーフ、鬼、エルフの四種族だけだけど、他の種族を出すことに制約はない。

 ステータスをその四種族のどれかにすればあとは好みの種族で遊ぶことができる。


「スタイルは呪術師。攻撃力は期待できないから援護系の技でサポート中心になるよ」


 (あかり)が二つのウサ耳カチューシャを取り出してこちらをキラキラした目で見ている。

 立ち耳と垂れ耳、両方とも可愛いと思うけどイメージ的にはやっぱり立ち耳かな。

 そう思って立ち耳のカチューシャを指さす。

 垂れ耳の方はしまって後に回り込んできた。


「容姿は……どうしよ。不思議の国のアリスの兎イメージでベストに蝶ネクタイしてる感じ」


 頭にカチューシャが乗せられた。

 動かさないように意識して口を動かす。


「さっきGMが言った通りアカリとお店をやっていて、冒険者としてはコンビも組んでる。こっちの世界でも恋人同士だよ」


 最期に(あかり)に手鏡でどんな感じか見せてもらう。

 うん。

 なんで私だけ?


「え、先輩今日それで行く感じですか?」


「そうだよ」


「邪魔になったら外すよ」


 星那ちゃんの質問に(あかり)が返すのでそれに反論。

 まぁでも外さないんだろうなぁ。

 これをつけて屋外に出たり普段の教室でやれって言われたら拒否するけどこれを付けて遊ぶ分には嫌な感情はない。


「ウサギ獣人は語尾にぴょんを付ける決まりだぴょん」


「そんな訳ないでしょ」


「いやいや、本当ですぴょん」


 月と星那ちゃんに期待の目で見つめられる。

 もうウサ耳(これ)外しちゃおうかな。

 なんて思いが頭を(よぎ)るのは一瞬だけ。

 結局私がとれる行動は一つしかない。


「……ぴょん」


「ありがとう」


 手を繋ぎながらお礼を言われた。

 こんなことで喜んでもらえるなら言った甲斐はあったけどやっぱり語尾の方は少し恥ずかしい。

 ぴょんの方はこれきりだ。


「じゃあ次お願い」


 その恥ずかしさを紛らわすように視線を隣の人物から正面に座っている後輩に移す。

 顔赤くなってないといいな。


「はい。私から行きます。クルミは楯術家なドワーフの女の子です。防御の要、なんですよね」


 立花さんがクルミを紹介。

 サンドキャッスルのドワーフは筋力にマイナス補正があるのでむしろ小人のような扱いだ。


「頼りにしてるよ」


「頑張ります」


「ユウカの方は鬼のサムライです。で良いんですよね」


 金子さんのキャラはさっき選んだカードで戦闘スタイルが変わった。

 変わったと言ってもカードに書いた技が追加されただけで、後は名前が和風になっただけだ。


「で、アカリとアカネは恋人な訳だけど、クルミとユウカはどうする?」


 立花さんにも金子さんにもこれで恋人のロールプレイをしたら良いと提案している。

 私達が恋人だということを口実とすれば良い。

 二人はお互いを想い合っているんだから切欠さえあれば依頼は達成。


 話がややこしくなったのは幼馴染が二人ともが依頼人であること。

 ただそのおかげで両想いであることが分かったんだから良かったことの方が多い。

 依頼主が依頼したことすら知られないようにすることが難しいだけで、依頼の内容自体は易しいどころか既に叶っている。

 なんなら今日駄目だったら長引かせるのもあれだしもうバラしちゃおうという割と気楽な気持ちで挑んでいる。



 さぁ、どっちでも良いから恋人になろうって声をかけよう。

 そうすればゲームの中とはいえ恋人同士。

 最初の入り口だ。


「あのっ。えっと、どうする? ゆーちゃん」


「ど、どうしよっか」


 タイミングを計っているのか二人とも不自然にお互いを見たり見なかったり。

 もじもじしながらも、何か言わないとと焦ってる。

 結果は分かっているんだから気長に待とう。


「……」


「……」


(焦れったいなぁ)


(そこだ、グイグイいけっ!)


(無茶言っちゃ駄目ですよ。お二人と一緒にしたら可哀想です)


 星那ちゃん、どういう意味かな。

 ちょくちょく私達が悪い見本のように扱われているような気がする。

 自覚はあるんだけどね。


「や、やっぱり幼馴染です」


「はい。クルミとユウカは幼馴染です」


 そっかぁ。

 普通はできないものなんだ。

 私の普通は全然普通じゃなかったようだ。


「いまさらくーちゃんと幼馴染じゃなくなるなんて考えられないもん」


 金子さんの発言に立花さんがダメージを受ける。

 幼馴染であることと恋人であることは矛盾しないって教えてあげたいけどこの状況だと難しいな。


「そうだよね。私達は背中を預け合うバディであって月先輩達のような関係じゃありません」


 今度は立花さんの発言で金子さんにダメージ。

 もういいや。このままいこ。

 なんとかなるでしょ。


***************************

***************************

***************************


ある日、天の川に脅迫状が届いた。



タナバタハアシキフウシュウ。コトシデオワラセル



????

「これ、どうしよう」


カササギ

「七夕は織姫様と彦星様が年に一度だけ会える大切な日。中止する訳にはいかないよ」


????

「でも、カササギちゃんが危険な目に合うんじゃ。天の川に橋を架けるのはカササギちゃんなんだよ」


カササギ

「私のことより織姫様と彦星様が心配だよ」


????

「カササギちゃん……」


カササギ

「冒険者に連絡しよう。彼女たちならきっとなんとかしてくれる」


????

「分かった。でも、カササギちゃんも気をつけてね」


カササギ

「心配してくれてありがとう。アルビレオちゃん」


アルビレオ

「うん。絶対成功させようね」


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