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6 金子悠夏の相談

「その、先輩達について言いづらい噂があるんですけど」


 既視感(デジャヴ)を感じる。

 昨日もそんな感じの出だしだった。


「多分本当だから気にしないで。どんな噂?」


 昨日は固まってしまった(あかり)も今日は心構えができていて聞き返す余裕がある。

 私も覚悟はできた。


「じゃあやっぱり、生徒会長は愛人を連れ込んでいるっていう噂なn」


「待ってそれ違う! 凄く不本意!!!!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「何処情報!! 絶対に許さなイタッ……」


 我を失った(あかり)の頭を叩いて言葉を止める。

 まだ不満気だった月のほっぺを両手でむにむに。

 隣の席で良かった。

 簡単に月を止められる。


「落ち着いた?」


「まだちょっと」


 気まずそうだけど手に力を込めて強制的に目を合わせる。

 相談者をほったらかしにしているけど、月の方が優先順位は上だ。


「噂なんて不定形なものに多分合ってるって言ったのは誰?」


「……私です」


「何が嫌だった?」


「私は茜一筋なのに、愛人って言った」


 あー。

 そこか。

 愛人は本命が別にいる時に使う言葉。

 不誠実な関係を指す場合が圧倒的に多い。


「星那ちゃん」


 (あかり)から視線を外さずに後輩に語りかける。


「ヒャい」


「二年生でも同じ噂ある?」


「撲滅しました! 今はお二人がいかに仲睦まじいかがメインです」


 いつもみたいにバカップルと言ってくれてもよかったけど、こっちの表現も好み。

 星那ちゃん、言葉選べたんだね。

 二年生は大丈夫そうだ。


「じゃあ一年生に対策必要だね」


 いくら私だって愛人よりは恋人が良い。

 私が見てないところで(あかり)に暴走されても困る。


――コツン


 おでこを合わせる。

 だいぶ落ち着いたみたいだ。


「一年生の間で流行ってる噂は後で何か対策するとして、今はお悩み相談。できそう?」


「……うん」


 おでこを離して相談主に向き直る。

 放置して悪かったけど、不躾な噂を鵜呑みにした金子さんにも原因はある。


「ごめんね。愛人って言うのは根も葉もない噂だから」


「分かりました。こちらこそすみません。今度から否定しておきます」


「お二人を直接見たら事実無根なのはすぐ分かるんで大丈夫ですよ」


「……うぅ。取り乱しました。噂は噂、私達には関係無いよね。気にしないようにするよ」



「え? 絶対に許さないんだよね?」


 噂を根絶させるなら初動は早い方が良いと思うんだけど。



「「「……」」」



 まるで私が何か変なことを言ったみたいな雰囲気が漂う。

 直近の会話を反芻してみたけど、特におかしな言葉はなかった。


(あかり)、私何言ったの?」


 皆が絶句した原因は確定で私。

 ただ、理由が分からない。


「あー。うん。茜はまっすぐだって話」


「月先輩、今後カッとなったとしても不用意な発言やめてくださいね」


「分かった。気をつける」


 なんというか……。

 呆れられてない?

 諦められてない?


 私としては女子高生から外れるような行動は避けたいんだよ。

 理由が分からなかったら改善できないじゃない。


「そんな茜も好きだよ。そのままでいて」


「ありがと。でも(あかり)は私に甘いから不安」



 閑話休題。



「改めて、金子悠夏です」


 生徒会側からは私と(あかり)と星那ちゃん。

 今日の相談者が昨日の立花胡桃さんの想い人だという事は共有済み。

 とはいえ私達はそれを知ってることを知られてはいけない。

 守秘義務を果たせるかどうか不安があるけどやるしかない。


「あの……みなさんって、この人自分のこと好きなんだなっていうの分かったりしますか?」


 陸上部らしい健康的な肌に、ショートカットが似合うスポーツ少女。

 背は私と同じくらいだった。


「あー。ある。男も女も。女子高だからって油断できない」


「そういうのすぐ分かりますよね。私は男子だけだったので中学までですが」


「私は鈍い方だと思う」


 月と星那ちゃんが凄く面倒くさそうな声で肯定。

 私はまたまた力になれそうにない。


 というかこれ大丈夫な流れ?

 立花さんと相対(あいたい)する相談の気配がする。


「やっぱり、分かるもんなんですね」


「まぁ、ね」


 (あかり)がこっちに意味ありげな視線を向けてくる。


 はいはい。

 私にとって月はただの友達ですよ。

 それとも私が月の気持ちに気付かなかったことの方かな。

 両方か。


「アタシ、幼馴染がいるんです」


 知ってる。

 なんて、言えない。

 ある程度パターンを絞って対策を立ててきたけど、これ立花さんの好意がバレてて迷惑がられているパターンじゃない?

 大丈夫?

 一番大変なパターン引いた?


 一番ハッピーエンドを迎えられそうな両片思い以外はどうすれば良いか結論はまだ出てない。


「はい。幼馴染なんです。隣のクラスの立花胡桃って名前の娘で、アタシはくーちゃんって呼んでいます」


「ふむ。幼馴染」


「そうですけど、どうかしました?」


「ううん。こっちの話。悠夏ちゃんに関係ないこともないけどとりあえず続けて」


 ここにきて別人の名が呼ばれるよりはマシとはいえ、立花さんの気持ちはバッチリバレていた。

 そういうの分かるもんなんだ。


 (あかり)の気持ちに全く気がついてなかったのは女の子同士でそんなはずないという先入観の所為にしていたけど、金子さんは女の子相手でも気付いている。

 私が鈍いのが確定したっぽい。

 ちょっとへこむ。


 あと、星那ちゃんが幼馴染という単語に反応したのは既定路線。

 幼馴染関係の人を生徒会で探していることを伝える伏線だ。

 立花さんにも言ったように、私達で人となりを知る機会が欲しい。


「アタシ、くーちゃんのことが好きなんですけど、あんまり手応えがなくて……」


 ん?


「きっと、アタシの想いが迷惑なのかなって」


「待って。さっきの好きが伝わるって話、立花さんの気持ちに応えられないから困るって話じゃなくて金子さんの気持ちが伝わってしまっているのかってこと?」


「あ、はい。そうです。勘違いさせてしまってすみません。アタシがくーちゃんを好きなだけで、きっとくーちゃんは……」



 オペレーション:両片思い(星那ちゃん命名)発動



 良かった。

 顔に出せないけどなんとかなる。

 あと鈍いの私だけじゃなかった。

 なんか一気に親近感が沸いた。

 きっとこの娘は可愛い。


「それに、アタシじゃ会長さんみたいに上手くできないですし」


「上手くって? 何を気にしてるの?」


「会長さん達はすごいですよね。部の先輩も、直接会長さんにあった人は会長さんのことを誇らしそうに言うんです」


「リク部はまぁ、昔ちょっといろいろあってね」


 生徒会長だから顔が広いのか、顔が広いから生徒会長になったのか。

 私はクラスメイトの部活も碌に知らないから尊敬する。


「先輩達が受け入れられているのって、やっぱり先輩達がすごいからですよね?」


「ん? どういうこと?」


 訳が分からず聞き返す。

 立花さんのことを悟られないように意識割いてたから話聞き飛ばしちゃったかな。


「えぇっと。ちょっと言葉にしづらいんですけど、先輩達とアタシ達が同じことをしても、同じ評価を得られる訳がありませんよね」


「つまり特別と扱われるか異端と扱われるかが心配ってこと?」


「あっそうです! その通りです。言葉にするとそんな感じになるんですね」


「私が生徒会長やってる理由の半分を占めるからね。そういう心配は私もあったよ」


 確かに周りの目は気になる。

 私はくっつかない方が白い目で見られそうだったけど、そういえば(あかり)が基準だ。


「でも、それなら開き直るか高みに至るかの二択だよ。私は後者の方がおすすめ」


 ……。

 …………。


 まぁ月ならそう言うだろうなぁ。

 そう即答できるだけのものを積み重ねてきた。

 むしろ生徒会長になった理由の半分が私なら随分丸くなった。


「必要なら生徒会の活動参加してみる? 悠夏ちゃんの理論だと生徒会長なら迫害じゃなくて羨望の対象になれるんだよね」


「え? え!?」


「あ、そんなカッチリした仕事じゃないよ。どっちかというと生徒会プラス天文部で遊ぼうって企画があってね」


「何言ってるんですか、ちゃんと仕事ですよ」


「って(てい)で遊ぶの」


(あかり)、生徒会長なら建前は大事にして」


「はいはい。まぁ星那からちょうど幼馴染見繕って、って言われてるの。書記の星那は天文部だから割と癒ちゃ……癒着しててね」


「いやちゃんと言い直してください。私は単に生徒会と天文部両方の架け橋になる義務があるんです。たった今茜先輩に建前が大切って言われたばかりですよ」


 立花さんを誘った遊びに金子さんも誘うことは決定事項。

 にしても幼馴染を見繕うって、なんか言い方もっとなんとかならなかったの?


「あーっと?」


「いや、実は生徒会で今幼馴染探してるんだよ。別に急ぎじゃないから後回しにされ続けてた案件があってね。とはいえ七夕ものの予習だからそろそろ焦りだす必要があるの。せっかくだから悠夏ちゃんと、えっと、胡桃ちゃん? に頼んでも良いかなって。私も二人のことは詳しく知りたいし」


「……天文部って事は夜ですよね。アタシもくーちゃんも門限があって」


「悠夏ちゃんにはできない理由を探す癖があるね。一個一個消しても良いけど逆効果かな」


「……」


 心当たりがあるようで、金子さんは(うつむ)いて押し黙ってしまった。

 金子さんと立花さんに頼みたいのは日中でも、なんなら家に居ながらでも協力してもらえるような内容だからここで門限自体は関係ない。


 でも。


 もう二人は高校生。

 それも生徒会の要請という立派な理由もある。

 門限を一日崩すくらい、できて当然と金子さんを言外に責める。


 いじめ過ぎないようにね。

 なんて、それこそ一年生の頃の(あかり)を思い出す。

 でも今はきっと大丈夫。


「ホントは自分でも分かってるんです。アタシはくーちゃんと違って強くない」


「ねぇ悠夏ちゃん。『強くなりたい』と『強くない』は両立するよ」


 (あかり)の言葉で金子さんが顔をあげる。

 当然のことだけど、忘れがちなこと。

 前に向かって進むということは、今はまだ後方にいるということ。


「悠夏ちゃんはもう行動を起こした。ここに来てくれた。私はその行動を勇気って呼ぶの」


 (あかり)は弱いままでいることが嫌いだ。

 別に積極的に排斥することを望みはしないけど、自分から関わることなんてしない。

 助けたりなんてしない。


「認めてあげて。悠夏ちゃんが示した勇気は、悠夏ちゃん自身が思っているよりずっと尊いものなんだよ」


「ありがとう……ございます」


「あ、ちなみに活動夜じゃないよ。休日の午後いっぱい使うと思うけど、普段のリク部より早く帰れるかも」


「え。……じゃあ今の会話って」


「多少困難があっても、悠夏ちゃんが立ち向かえるようにおまじない」


 強くなりたいって想いは月じゃなくても肯定したい。

 せっかくここに来てくれたんだからできるだけ多くのものを持ち帰って欲しい。


「それじゃあ近々リク部の部長から生徒会への参加要請を聞くことになるから、それの返事を考えておいて」


「はい。分かりました。くーちゃんをなんとか説得してみます」






「よし、なんとか不自然じゃない範囲で二人同時に誘えたね」


「両片思いの幼馴染ですよ。ちょっとテンション上がります」


「一年生なら愛人の方の噂消すのにも協力して貰えそうだね」


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