1 伊東茜の日常
今日は4話まで投稿します。
7日まで毎日投稿予定です。
七夕の話なんで七夕までに完結したい(現在15/16話執筆中)。
本当は書ききってから投稿したかったけど七月になってしまった……。
「好きです。付き合ってください」
親友から告白された。
ずっと友達だと思っていた。
そりゃあ、一緒に買い物したり遊びに行ったり、今思えばデートみたいなこといっぱいしてきた。
「一応聞くけど、それは恋愛的な意味でだよね」
「そうだよ」
「私達、女の子同士だよね。実は男だとか、実は私のことを男だと勘違いしてるとかないよね」
「うん。私は女の子として、女の子の茜が好き」
よくそういうようなこと言ってたけど、あれはてっきり創作上の話だと思っていた。
月はそういう、女の子同士の恋愛ものが好きだと公言していたから。
「意外、ではないかな」
「そうだね。私結構アピールしてた」
「うん。じゃあ、付き合おっか。私達」
高校三年生の四月。
伊東茜は西澤月に告白されて恋人同士になった。
とはいえ学校生活にそれほどの変化はなかった。
朝一緒に登校して、ホームルームが始まる前に私の髪を弄るようになったのが最大の違い。
「なんか、髪型弄りって最初は楽しいけど途中で飽きが来ない?」
気が向いた時に弄りやすいように少し長めに伸ばしている。
ちなみに、弄るのは専ら月だ。
私自身が弄ることなんてほとんどない。
あれ、やっぱりこの程度なら付き合う前もやっていた。
いやいや、別に毎日じゃなかったし。
「まだ三日目だよ」
「飽きるのに十分な時間だと思うなぁ」
三日坊主という言葉もある。
ショートにするくらいならいいけど坊主はちょっと嫌だ、なんて関係ないことを思う。
「これは茜と付き合ってるってアピールも兼ねてるからね」
「必要ある? 付き合い始めた時、まだ付き合ってなかったの、って驚かれたの忘れた?」
関係を隠すつもりがなかった私達は、いつもよりべったりな月に疑問を持ったクラスメイトの質問に正直に付き合い始めたと応えた。
もっと、女の子同士なんて変みたいなこと言われると思ってたけど、女子高だしあると思ってた、と返ってきたのは驚き。
私は聞いたことないけど、そういう話はよくあるんだろうか。
「じゃあ、単に茜に触れていたいだけ」
「あんまり奇抜な髪にしないでよ。生徒会長さん」
「善処するよ」
「しない奴じゃん」
この浮かれポンチ……私の髪を好き勝手しているのがこの学校の生徒のトップ。
去年までは副会長で、他に対立候補もいなかったから順当に会長になった。
生徒会の地位については色々生徒会の手伝いとかしていた私にも声がかかったけど丁重に辞退した。
人付き合いはそこまで得意じゃない。
三年生になってから新しいコミュニティ(半分以上知り合いだとしても)なんて絶対に嫌だ。
「はい。ツインテール。ちょっとツンツン気味になにか言ってみて」
「馬鹿じゃないの?」
「次はデレ成分配合」
「早く鏡見せてよ。ちゃんと可愛くできてる?」
ちょっとデレ成分多すぎかな。
いや、これちゃんとできてる?
イチかゼロじゃないと分かんないや。
「はいはい。こんな感じー。どうどう?」
「ま、あんたにしては上出来じゃない」
「完璧。次クーデレ」
「クーデレってなあに?」
「クール+デレ。冷静に好意を伝える感じでお願い」
「それ普段の私とどう違うの?」
「もっと直接的にデレて」
「……」
え、これやらなきゃダメ?
いつの間にかクラスの注目の的になってる。
最近こういう演技みたいなのにハマってはいるけど、大勢の前でやるのは……。
まぁいっか。
「いつもありがとう。言ってなかったけど、私この時間かなり気に入ってるんだよ」
左右の髪を持ちながら月に笑いかける。
こんな感じかな。
クール成分が足りない?
「っ。可愛い」
「そんなに?」
だとしても半分以上月のおかげだしこれ遠回りな自画自賛では?
いやまぁ、可愛いと言われて悪い気はしない。
「ありがと。月のおかげだけどね」
「いやいや、素材が良いんだよ。可愛いし美人さんで完璧」
ちょっと言わせちゃった。
分かっててノってくれる恋人に感謝する。
「月も可愛いよ」
褒められてばかりは申し訳ない。
そもそも月だって容姿は整っているんだからそんな必要以上に褒めなくても、と思わなくもない。
華奢な体つきで顔は若干童顔っぽい。
身長は平均より小さいけど普通の範囲内。
私は身長も平均的だから数字上は私の方が高いけど身長差を感じたことはない。
目もクリクリしていて可愛いし、セミショートの髪は綺麗にまとまっている。
可愛らしい制服も相まってとっても魅力的だ。
「あれ、月ってひょっとしてかなりの美少女?」
「待って、……待って!? 今までどんな認識だったの!?」
「いや、あんまり容姿を気にしたことなかったからそういう風に見たことなかった。そりゃ普通に可愛いとは思ってたけど」
私の場合は女の子として最低限の身だしなみは整えてるけどそれだけ。
でも髪は月のお願い聞いてこの長さにしているし、シャンプーとコンディショナーも月からプレゼントされたものを使っている。
……私、月がいなかったらちゃんと女子高生やれてたのかな。
「私はちゃんと茜の見た目も大好きだよ。決め手ではないけど重要じゃん」
そりゃそうだ。
例えば、私は月が可愛くなかったら声をかけていただろうか。
ちょっと自信がない。
つまりはその逆も普通にあり得るということ。
友達付き合いがあるという時点で一定ラインより上にいると思って良いのかな。
いや、過去の惰性かもしれない。
自分磨き、しないとなぁ。
月の隣にいても恥ずかしくないようにしないと。
「あっ」
そういえば一個勝ってる部分あった。
月の胸元を見る。
お世辞にも豊かとは言いづらい。
「ん? 何かな?」
口では言わないけど、私の視線は雄弁に語っていたらしい。
何考えているか一瞬で悟られてしまった。
まぁ分かるよね。
「茜はいいよね。普通に育ってくれて」
「そうだね。もう成長も止まってくれたし良い感じの体型になれたと思ってる。大きくなり過ぎても困るし」
「これが持つ者の余裕。正直妬ましい」
こればっかりはどうしようもない。
分けてあげることはできないし、そもそも分けてあげるほどない。
「茜が巨乳フェチじゃなくて良かった」
「いや、男にしろ女にしろ身体で選ぶような人に月を渡せないんだけど」
切欠を外見に影響されることは多々あるけど、決め手にはなり得ない。
少なくとも私は嫌だ。
「大丈夫。私は茜の所有物だから」
「そこまで言ってない」
「えー」
何故不満そうなのか。
知り合って一年以上経ってもまだまだ知らないことはいっぱいある。
ふと思う。
月と私はこれから相手のいろんなことを知っていく。
関係が変われば見えるものが変わる。
求めるものが変わる。
きっと知りたくない一面を知ることになる。
きっと知られたくない一面を知ることになる。
「なんか難しいこと考えてる?」
「んー。彼女ムーブしてる月ってこんななんだなぁって」
「幻滅した?」
「全然。月は月だし、私は私。というか二人の間に齟齬があっても乗り越えられると思ったから恋人になったんだよ」
「うん。茜の将来設計ちょっとガチじゃない?」
「月は冗談で済ませる気なの?」
それならそれで良いかな。
大学、就職と自然消滅するならもう一度友達という関係に落ち着かせよう。
「うーん。まだそこまで考えてないかな。高校生活最後の一年、茜と恋人として過ごせたらって思って告白した」
「じゃあ、めいっぱい楽しまないとね」
「手始めに、今日の生徒会手伝ってほしいなぁ」
「また?」
「だって、そうしないと一緒に帰れないじゃん」
おかしい。
私一応外部の人間。
去年度の繁忙期とか毎日のように入り浸っていた事実には目を瞑る。
「なんなら生徒会室で本読んでるだけで良いから。私今日部活会議あるから帰ってきた時にお帰りなさいって言って言ってほしい」
「そのくらいなら……」
「あと、後輩のフォローもお願い」
「えー」
「大丈夫。茜が去年やってた奴だよ」
確かに去年やったけど、そもそもそれが変。
というか一年前のことなんて印象的なものしか覚えてないよ。
「なし崩し的に仕事増える奴じゃん」
「大丈夫。去年の失敗を生かして今年は後輩をビシバシ鍛えていくよ」
自分でやった方が早くても手を出してはいけない。
私が出しゃばると来期以降に支障が大きい。
だから、私の役目は後輩のチェックになる。
でも心配。
つい入れ込み過ぎちゃったりしないだろうか。
「だから、仕事は後輩に任せて空いた時間はデートしよう」
聞き耳を立てていたクラスメイトによって教室がどっと沸く。
月って結構強かだからどうしても通したい意志がある時はこういう断りづらい雰囲気に持って行く。
「こんな回りくどいことしなくても断らないよ」
「茜、大好き!!」
再び黄色い歓声。
有名人にでもなった気分。
月は有名人で私はその恋人だからあながち間違いでもないのが複雑なところ。
「はいはい。ありがと」