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「今日見に行ったところは、ここからは通えないの?」

「通えなくはないですけど、ちょっと遠いですね。実家からは近いんですけど」

「言ってたみたいに、ここから通いやすいところは考えなかった?」

「……リハビリの仕事って、土日が休みではない職場も多いんです。でも土日休みがあるほうが、高田さんには会いやすいから……」

 自分で言ってはっとする。私は無意識に高田さんに会いやすい休みの職場を選んでいた。だから選択肢が狭まってしまっていたのは間違いない。


「それは僕に休みを合わせるために、職場を選んだってこと?」

 高田さんが目を丸くする。

「……そうみたいです。勿論自分の興味がある職場の中で、ではありますよ」

 そうは言ったけど、休みが合わなくなることで高田さんとの関係がどうなるのか、不安だった。

 さっきまで視線をさまよわせていた高田さんが、嬉しそうに笑っている。

「自覚はなかったみたいだけど、無意識には僕の存在を認めてくれてたみたいだね」

「そうですね。会う時間が減ることが、不安でした」

 ほっとしたように高田さんが息を吐く。


「それだったら一緒に暮らしたらいいんじゃない? 薫の選択肢も増えるんでしょう?」

「でも……」

「でも、じゃなくて。考えてくれない?」

 少し強めの言葉に、続けようとした言葉が止まる。でも。

「高田さんと付き合うってことになるんだったら、私の不安はなくなります。だって、いつでも高田さんのそばにいていいんですよね? それなら、土日休みに拘らなくてもいいってことになりますよね?」

 私の言葉に、高田さんが困惑した表情になる。

「それどういうこと?」

「本当は、いいなと思った職場があったんです。でも、土日が不定休だったので除外してたんですけど。そこを受けてみようと思います。でも実家が近いので、実家から通うと思います」

 私の言葉に、高田さんは頭を抱えて大きなため息をついた。


「どこから通うかは、今はもういいよ。でも一つだけ言わせてもらってもいい?」

 そこで区切った後も、ああ、とか、今言うつもりなかったのに、とか、高田さんのつぶやきが続く。

「何ですか?」

 高田さんが、観念したように口を開く。

「……サンキュウの取りやすい職場にして」

 一瞬何を言われたのか理解できなかった。

「サンキュウ、って、子どもを産む、産休のことですか?」

「そう。今すぐではないけど、将来的に僕と結婚して?」

 そう言い終わった後、高田さんはため息をつく。


「きちんとしたプロポーズはまたするから、返事はその時にして」

 情けなさそうな顔をした高田さんに、つい笑いが漏れる。

「やっぱり振り回されてるんだよね」

 高田さんはベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 ふと一つのことが頭をよぎって、高田さんを上からのぞき込んで質問する。

「私が子どもができないって可能性もありますけど、それでも?」

 実はこの3年間、いくら鈍感だと言われても精神的に不安定だったためか、女の子の日が来ることが少なかった。仕事を辞めてからも、女の子の日が来たのは一回だけ。

 本当は婦人科に通って定期的に女の子の日を起こさないといけないことはわかっていたけど、内診も嫌だったし、定期的に通うのも億劫だった。それが妊娠するのに影響するだろうことは、理解している。

 ……それに、高田さんは保父さんになるくらいだから、子どもが好きなんだろうし。


「そうだね。子どもを授かれるかどうかは、分からないことだからね。薫との子どもが欲しいっていう希望はあるけど、もし子どもができないとしても、薫と一緒に年を取っていきたいと僕は思うよ?」

「そう言って結婚して結局別れたカップルを知ってるんです」

 私の返事に、高田さんは、仕方がないなというような顔をして、手を伸ばして私の頬をなでる。

「そう言って結婚して別れたカップルも知ってるけど、年を取ってからも別れずにいるカップルも知ってるよ。」

 それでも私の不安は晴れない。私の表情を見て、高田さんが起き上がって続ける。

「子供がいても別れるカップルもいる。可能性なんて考えるだけ無駄じゃない? 別れる可能性がゼロじゃなきゃ、結婚はしたくない?」

 確かに。子どもがいても別れるカップルはいる。可能性についてはゼロにできないことはわかる。私は首を横に振った。


「結婚はタイミングだと思うけど、その関係を継続させるためには、お互いに努力がいるんだと思うよ。思いやりとかも必要だと思うしね。その関係を薫と作りたいと思ってる」

 ようやく高田さんの言葉に、素直に頷くことができる。

「正式なプロポーズはまた今度するから」

 私の頷きに、慌てたように高田さんは続ける。

「今すぐは私も考えられないです。まだ、高田さんへの気持ちを自覚したばっかりだから」

「だからそのタイミングが来たら、改めてプロポーズさせて」

 高田さんが、私の髪をやさしく梳いた。

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