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「……いつから私は、高田さんにとっての恋愛対象になったんですか?」

 私の言葉に高田さんが少し狼狽したのが分かる。

「誰でも対象になりそうなら、良かったんですか?」

 高田さんは7月に会ったその日に、恋愛対象だったと言っていた。聞いた時もすごく気になったけど、聞くタイミングを失っていた。考えてもそういう対象になったきっかけが、よくわからない。

「それは違う。……3年前に会って、その後会えなくなってから」

 観念したように高田さんが答える。


「ごめんなさい。どうして恋愛対象になったのかが分かりません」

 それは、正直な気持ちだった。

「会えなくなったら、気になり始めたから。掲示板もなくなったから、ケイちゃんとのつながりがなくなってたし」

 私は首を傾げる。

「連絡先知ってましたよね?」

 もちろん、そのタイミングでも高田さんからの連絡を歓迎できたかは別だ。パワハラが始まったころだったし、彼氏がいたころだったから。

「次に会えた時に自分の気持ちを確認しようと思ってたら、ケイちゃんに会えなくて3年経った」

「……連絡先、知ってましたよね?」

 

 もう一度高田さんを見る。

 高田さんは項垂れると、首を振った。

「会えもせず気持ちも読めないのに、ずいぶん年下の女の子に、突然連絡する勇気はないよ」

「高田さん、結構強引じゃないですか」

 少なくとも、今までの出来事で、高田さんが消極的だと思ったことはなかった。

「40も近くなると、ずるくなるんです」

 ズルい。確かに、そうかもしれない。


「その間も、付き合ってた人とかいたんじゃないですか?」

 高田さんは無言だ。無言は肯定ってことかな。

「別に私を好きだったんなら、ずっと私以外のことを考えないでほしいとか、乙女思考はありません。3年の間に結婚とかの話も出たんじゃないんですか? ってことです」

 私の高田さんに対して持っていた疑問は、高田さんがこの年まで独身だということだ。


「今はケイちゃんだけだから。ケイちゃん僕のことに興味が出た?」

 全然答えになってない。私は首を振った。

「高田さんの独身の理由が分からないからです。素朴な疑問です」

 高田さんがため息をつく。

「この3年間だけじゃなくて、ずっと、タイミングが合わなかったから。僕が結婚したいと思う時は相手が興味がなくて、僕に興味がない時に相手が結婚をあせってたり。結婚ってタイミングだって言うけど、ほんとにそうだなと思った。あと決断が遅くて、チャンスを逃してしまってたのもあるかな」

 高田さんは私をチラリとみる。

「3年前に飲みに行かなかったのも、そのせいだよね」


「だから7月に会ったとき、しつこく打ち上げに誘ったんですか?」

「この機会を逃したら、チャンスはないかもしれないから」

「じゃあ、そばに座ってたのも?」

「話をするなら、近くにいないとね。陽子さんが邪魔しに来ちゃったけど」

「陽子さんは知ってたんですか?」

「打ち上げで僕が飲まずに誰かを送ろうとすることが、違和感だらけだからじゃない?」

「もしかして、送るって言ったのも?」

 返事はないものの高田さんは気まずそうな表情をする。


「……そうだよ。ケイちゃんが島に住んでたのは、口実になってラッキーだった」

「私、高田さんの思うとおりに動いてました?」

 その時の自分の行動を振りかえる。誰かの意図で動いているつもりはなかったけど。

「そうだね。随分警戒が緩いなとは思った」

「……高田さんを警戒はしてなかった気がします」

 それは、事実だった。


「それは、年齢とかで対象外だったからってこと?」

「違います。私が素でいられたから、たぶん、警戒しなかったんです」

「よく分からないんだけど?」

「あんなことがあって、私は人と話すことにすごく気を張るようになりました。一言でも余計なことがあれば、上司に揚げ足取られますから。気がついたら、仲の良かった同僚達にまで気を張ってしゃべってたんです」

「それは気が休まる時がないね」


「こっちに来てから人と話すことも少なかったんで、公演を見に行った時が久しぶりにまともに人と話した時でした。それで高田さんと話してる最中、素で話してる感覚がすごく久しぶりで、自分が気を張ってないことに気付いてはいたんです。それでこの人は警戒しなくて大丈夫、と本能的に感じたんだと思います」

「そんなんで、警戒緩めすぎるもの?」

「私だって、気を張らずに誰かに寄りかかりたいことはありますよ」

「そうか、あんなことがあった後だったから尚更だったかもね」

 そう言った後、高田さんははっとしたような表情をする。

「もしかしたら、僕がその相手じゃなかった可能性もあるの?」

「それは分かりません。それこそ仮定の話だし、タイミングの問題じゃないですか?」

 高田さんは、ほっとしたような、何かを言いたげなような、どちらともつかないため息をついた。

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