出立の朝と、二人旅
両手があくように、邪魔にならないように、荷物は最小限。
両肩にかける布製のバックパックに、着替えや食料、それからぎゅうぎゅうに押し込んでへしゃん、となっているあざらしのジョゼちゃんを詰め込んで、お金は盗まれないように、体中の至る所に仕込んだ。
旅装束は、野営をしたときに目立たないように紺色のワンピース。ショートパンツと、靴下とロングブーツ。
太腿には聖銃のホルター、聖銃を入れてある。
聖弾は腰に巻いてある革製の物入れに入れてあり、こちらにもお金やら必要なものやらを色々と入れてある。
ヴァールハイトは剣以外は何もいらないと言っていた。
戦う時の邪魔になるから、荷物は持ちたくないとかなんとか。
「着替えはどうするの? 同じ服のままで何日も過ごすの?」
「……あんたたち貴族とは違って、旅をする傭兵は早々着替えたりはしねぇし、宿に着いたときに適当に洗濯して、干して、着たりはするが、その程度だ」
「それは理解できるわよ。だから、私も着替えは最小限、一着だけよ。洗い替え用にね。……でも、一着だけだと、洗濯しているときに着る服が無いじゃない」
「服を洗濯してるときに、服なんか着ねぇよ。裸に決まってるだろ」
「一着だけ、お洋服を持っていきましょう、せめて下着だけでも……!」
「要らねぇよ。心配しなくて良い。あんたが困らないように、シーツを巻くぐらいはしてやるよ」
「そういう問題じゃないのよ……」
そんな一悶着あって、ヴァールハイトの着替えも一着、私のバックパックに入れることになった。
その一つだけのバックパックを、ヴァールハイトは背負ってくれた。
もし魔骸が現れて戦闘になったら、私に預けるけれど、何もない時は持ってくれるのだという。
結構紳士。そして、優しい。
私が感心していると「これでも一応元騎士だからな。あんたに荷物を持たせて俺は手ぶらってわけにはいかねぇだろ」と、苦笑まじりに言っていた。
ヴァールハイトに剣を新しく買おうかと提案したけれど、それは断られた。
使い慣れたものの方が良いのだという。
ヴァールハイトが骸竜を倒した時の剣は、マグマに落とされた時に失くしてしまったみたいだ。
だから、今使っている剣は、傭兵を始めたときに買った、安物の剣なのだという。
それでも手入れをし続けて使用していて、ヴァールハイトの手入れの仕方がとても良いらしく、そのへんで適当に買った剣よりもずっと良いものだと、セルヴァンが言っていた。
私とヴァールハイトは、ロングラードのお屋敷の入り口で、使用人の皆に見送られた。
「エルフィ様、お気をつけて。ヴァールハイト、しっかりエルフィ様を守るのだぞ」
「あぁ、爺さん、心得た」
「爺さんと言うな、若造め」
セルヴァンがヴァールハイトを叱っている。
けれど、ヴァールハイトがロングラードのお屋敷に来てから数日、二人は剣士として通じるものがあったのか、仲良くなったみたいだ。
私の知らないところで、二人でお酒を飲んだり、手合わせをしたりしていたみたいだ。
セルヴァンの叱り方にも、何処か、愛情のようなものが感じられる。
「エルフィ様、お気をつけて。何かあったら、ヴァールハイト様を頼るのですよ。エルフィ様は、意地っ張りなところがあるから……」
「そうですよ、エルフィ様。強い女もそれはそれで良いですが、ときに、甘えたり、弱さを見せるのも肝心です」
ルイーズとマルグリットが、私の両手を握って、熱心に言った。
「そうだぞ、エルフィ。疲れたとか、足が痛いとか、ちゃんと言え。気をつけるつもりではいるが、俺とあんたじゃ、体力も、身体能力も、何もかもが違うだろ。歩けなくなったら、抱き上げて運んでやるから安心しろ」
「……大丈夫です」
私たちの会話が聞こえたらしく、ヴァールハイトが小さな子供に諭すように言うので、私は眉を寄せて首を振った。
どうにも、ジョゼちゃんを抱きしめて眠っていることが知られてからというもの、ヴァールハイトは私のことを幼い少女だと思うようになった節がある。
そんなことはないのに。
私はしっかりしている方だと思う。それに、聖銃を扱うために、体だって鍛えている。
だから、私に気遣いは不要だ。
「それじゃ、行ってきます。皆、私が留守の間、ロングラードを頼みましたよ」
私が挨拶をすると、皆、力強く頷いて「エルフィ様、行ってらっしゃいませ」と、深々と頭を下げてくれた。
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