定着しちゃった謎マナー
色々変だなと思うものでも、定着してしまうものはあるのです。
今回はそんなお話
部長に就任してからというもの、取引先の結婚式やお葬式に出席することも仕事の一つになった。
うちの会社は基本的に、「あったこともない社長が行くより、現場の担当者である営業が行った方がいいだろ? 一応、上司もついて行けばいい」というスタンスになっている。
ご祝儀や香典といったお金は出してもらえるし、電報を送付という形で社長も義理を通すと言う形にしている。
「でも、中田部長。俺不思議に思うんですけど、こういうときのお金って『偶数は2以外だめ』って言いますよね。でも、厳密なこと言うと1万も3万も偶数だと思うんですよね」
「なぜか上1桁だけを見るんだよな……。多分、元は『あんまり出せなくてごめんなさい』って言うものの理由付けじゃないかな? で、それがなんかよくわからないうちに定着したってとこだろ」
嘘マナーであっても定着してしまえば、それは正しいマナーとなる。 例えば、エスカレーターの片側を開けるっていうやつだ。
メーカーとしては公式に「真ん中に乗ってください。片側に重量がよると故障の原因になります」って言っている。
にも関わらず、未だに片側を開けるというのが横行している。しかも、地域によって右側を開けたり、左側を開けたりと面倒くさい。
一回間違えた方向にたってたら、舌打ちされた。人によっては体当たりされたり、突き飛ばされたりされたりすることもある。
ただし、逆にそうやって片側を開けるっていう行為のおかげで助かったことも何度かある。だからあんまり否定はしないが、こういう形で正しい知識を持っている人からしたら、「間違っている事」が「定着」してしまうこともよくある。
「そういえばなんで『御』を消して、『行』を『様』に直すんですか?」
「あぁ……、個人的に感じてる謎マナーを指摘してくるのね……」
個人的にはこの風習はなくなってほしいと思っている。
まだ、「行」を「様」に直すのは理解できる。
だけど、最初から自分に返ってくるって分かっているものに対して、わざわざ敬語をつけている意味が分からない。そして、一手間かけさせるっていうのがあんまりよくないなぁ……と思う。
「まぁもう定着しちゃったものだから、今更いろいろ言っても遅いよな」
「……なんか納得はできないけど、仕方ないんですよね」
言われ始めたときは「おかしいだろ」と言われているものでも、時がたつと「当たり前のもの」として定着していく事も多い。
そして「相手にマナー違反をしている」と思われるのも怖く、「嘘」とは思っていても実践する。結果としてマナーとして定着するということが多いのではないだろうか。
いわゆる「空気を読む」というものが良い悪いはともかくとして、そういった「空気」を作っているのと俺は考えている。
「逆に言うなら、岸部君が変なマナーを作るって言うのも面白いぞ。SNS見てたら『服を着るのは福を切るにつながるのでマナー違反です。全裸でいましょう』とかって言うのもあったなぁ。面白いこと考えるやつもいるもんだ」
「……こじつけじゃないですか」
「いやいや、奇数偶数だってこじつけだし。お賽銭の『ご縁がありますように』で『5円』って言うのもあるし。マナーなんて半分こじつけだよ」
それが行う側と行われる側。その双方で不快にならなければそれがマナーを守る事であると思う。
あまり難しく考えすぎず、相手がどう思うかを考えて行動すれば良いのではないか。
それが本来のマナーというものだろう。
なお、注意点としては「だから守らなくていい」とは一言も言いません。
もはや定着したものは「正規のマナー」になります。