僕と君は結ばれない
ミミズだってオケラだってアメンボだって恋をしていいんだから、ギャルゲーオタクだってアイドルオタクだって幽霊だって恋をしていいですよね?
小さい頃から何をやっても人並み以下にしかできなかったし、なんなら容姿も人並み以下だった。テストを受ければ赤点ギリギリ。運動をすればすぐに息切れする。裁縫などの手先を使うような作業も、紙を真っ直ぐに切ることすらできない。そんな凡人以下の僕は、日本人の平均寿命を大きく下回って死んでしまった。若干18歳、高校卒業したかったけど・・きっと神様がこんな奴は生きてても意味ないから殺してしまおうと思って動いたんだろう。でもきっと、生きてることに意味がない奴は死んでしまうことにも意味がない・・。信号無視してきた車に轢かれてあっさり死んでしまった、筈なんだけど。こうして僕は思考している。しかも自分が通っていた高校の、自分がいた教室でふわふわと漂いながら。僕が座っていた席に花瓶が置いてあって花が活けられている。そして、全てが人並み以下だった僕が唯一誇れるのは友達が多かったこと。教室内3分の1くらいの男子が涙を流してくれている。
ちょっと寂しいけどすぐに教室は日常を取り戻し授業が始まる。その中で僕は一人の女子を眺めていた。僕と違って何をしても完璧にやることができるクラスメートの清野愛。成績は常に学年トップ、運動も球技からマット運動までなんでもござれだし絵を描いたり作文を書いたりすればコンクールで表彰されちゃう。それでルックスもずば抜けたクール系美少女だから毎日告白されてるんじゃないかってくらい男子に呼び出されていた。僕はそれを遠くから眺めてるだけだったけど、僕も彼女が好きだった。僕の感情は恋とか愛とかよりも尊敬とか憧れとかそういう気持ちだったと思うけど。そんなことを考えながら彼女を見ていたら、板書をしているノートに不思議な言葉が書かれているのを見つけた。隅っこに『何故ここにいるの、山田君』と書かれている。とても綺麗な字だということはいったん置いといて、山田というのは僕の苗字だ。何故彼女はこんなことをノートに書いているんだろう?授業に山田なんて人名出てきてないから、当然黒板にも山田なんて書かれていない。完璧な人ってわけがわからないなと思いつつなんとなく手を振ってみる、生きてる時にできなかったことをしてみた。そうしたら、また彼女はノートの隅に文字を書きだした。今度は、何故私に向かって手を振るの山田君?だった。驚いたことに彼女にだけ僕の姿が見えているらしい。完璧な女の子というのはどうやら幽霊まで見えてしまうらしい。さすがにちょっと大変そうだなと思うけど、そのおかげで僕の存在を認識してもらえたんだから今だけその特殊能力を我慢して使ってほしい。何故ここにいると聞かれて、答えたい気持ちは凄くあるんだけど、生前一回も話しかけることできなかったし。とりあえず普通に話しかけてみる
「僕もよくわからない。自分が車に轢かれて死んだときのことをはっきり覚えているんだけど気が付いたらここにいたんだ」
そう言ってみるとまたノートの隅に文字を書きだした。『ずいぶんと不思議な出来事ね。何か心残りでもあったのかしら?』
声まで聞こえてくれているらしい。とても嬉しい!死んでても感情が残ってたことに感謝しよう。神様と仏陀様と・・・・色々沢山の神様ありがとう。家の近くにある神社にいる神様もありがとう。こういう所で知識力の低さがバレるなあ・・・・・、ああ、いけない。今はせっかく清野さんが質問してくれたんだから答えないと。でも、心残りかあ。何だろう?わからないことはわからないと正直に伝えてみよう
「うん、心残りがあるんだと思うんだけどそれが何なのかがわからないんだ」
そう伝えると直ぐに彼女はノートに文字を書きだした(ちゃんと授業聞けてるんだろうか?邪魔してないかな)
『もし心残りがあるとしたら、教室にいたんだしここにあるのかもしれないわね。それと、授業はちゃんと聞けてるから大丈夫よ』
・・・!読心術まで使えるらしい。でも成るほど。教室に心残りかあ、確かにそれだと僕が教室にいたことの説明がつく。でも、何だろうなあ。腕を組んで悩んでみても声に出して悩んでみても全く思い当たることがない。強いて挙げるとすれば、生きてる時に清野さんと話せなかった事なんだけど、それは今叶ったからたぶん違う。
「せっかく気にしてくれてるのに申し訳ないけど、全く思い当たることがないんだ。心残りがあるような恵まれた人生歩まなかったからかな」
そう伝えると清野さんがため息をついた。何だろうなにか変なこと言ったかな?そう思ってると清野さんがまた文字を書きだした。
『恵まれた人生を歩んでない?あんなに涙を流しているクラスメイトがいるのに?私が急に死んでもきっと誰も泣いてくれないわ!』
珍しく最後がエクスフラメンション・マークだ・・怒らせちゃったのかな?それにしても誰も泣いてくれないだなんてそんな馬鹿な。清野さんが死んでしまったら絶対悲しむ。何とかしてそれを伝えたい。
「誰も泣かないなんてそんなことないよ。清野さんは美人でなんでも優秀で、皆の憧れの的になってるのに。」
そう伝えると、清野さんが凄く複雑そうな顔をしてそれと同時に授業終了のチャイムが鳴った。まだまだ皆は授業を受けるけど、僕はどうすればいいんだろう・・。そう考えてるとまた、清野さんがノートに文字を書きだした
『でも、誰も私に話しかけない。誰かと仲良くなった記憶がないもの、大して仲良くない人が死んでも泣かないでしょう?』
仲良くなった記憶がない・・か、言われてみれば僕の記憶の中に清野さんが誰かと話しているシーンが一つも浮かんでこない。ずっと席に座って本を読んでるか次の授業の予習復習らしきことをしているかだ(今も次の授業の教科書やノートを直ぐに机の上に出している)たまに席を外すことはあったけど、まあそれはあれでアレだろうから触れないでおこう。僕がどう返事をすればいいか迷ってると次の授業のチャイムが鳴ってもまた文字を書きだした
「貴方は、私が欲しくてたまらないものを持っているのに恵まれてない人生だったっていうのね、なんてひどい人なのかしら」
こんなことを書かれてしまったら、取るべき行動は一つ。僕は精一杯の感情を込めて頭を下げた
「ごめんなさい。恵まれない人生は、自分を蔑み過ぎました」
確かに、意識したことはなかったけど自分が死んで家族以外に泣いてくれる人がいるというのはとても幸せなことなのかもしれない。そして、一つ思いついたことを聞いてみる。
「ねえ、友達作ってみない?」
すぐに返事が返ってきた
『今まで友達が出来たことないから作り方なんてわからないわ』
??今まで友達が出来たことがないって今言った??幼少期から今までずっと一人でいたってこと?才色兼備な人って孤独なんだなあ・・。
『好きで孤独だったわけじゃないわよ』
・・・読心術怖い!でも僕も、友達作ってみないとは言ってみたけど、どうやって作るかを改めて考えると難しいな。ちょうど、今日の授業終了のチャイムがなったので
「友達の作り方、明日まで考えててもいいかな?」
と提案してみた。
『それは構わないけれど、貴方は家に帰ったりしないの?』
出来ることなら家に帰ってみたい気持ちはあるんだけど
「一回試してみたんだけど、僕はどうやらこの教室から出られないみたいなんだ。たぶんここの地縛霊ってやつになったんだと思う」
そういうと、清野さんがちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした!ように見えた。
『ごめんなさい、嫌なことを言ったわ。でも、それだと随分暇でしょう。普段電車の中で読んでる本を置いていくから、もしできるなら、読んでいいわよ。』
気遣ってくれたみたいだ・・。僕は読んでから2度うなずいて読んだことを示した。彼女にも伝わったようでノートを鞄にしまい教室を出て行った。
本が読めるかは試してなかったな・・。せっかく置いてってくれたんだから読みたいけど、触れることはできなかった。まあ、僕が何かに触れたら僕はこの世界に物質として認識されてる?から他の人に見えてしまうんじゃないだろうか・・。残念ではあるけれど、気を使ってくれたことがとても嬉しくて死んでるはずなのに何だか心の中が温度を得たような気がする。この気持ちを抱えていれば時間なんてあっという間に過ぎてゆくだろう。肝心なのは明日の朝までに何かしらの友達作りの方法を考えておかなきゃいけないことだ。
けれど、改めて考えてみると友達ってどうやって作っていたんだろう。僕は自分から積極的に話しかけるタイプではないから、今の清野さんと近い感じではあると思うんだけど・・人間性というかパラメータというか、そういうのが余りにも違いすぎるからなあ。僕はたぶん話しかけやすいしからかいやすいみたいなタイプなんだろう。だけど、清野さんをからかう勇者は存在しないだろうなあ。下心のある男子かチャラい男子くらいしか話しかけてるの見たことないしそういう男子たちも尽く撃沈してたしなあ、もう遠巻きに見てるしかできない感じになってる。人間性・・・人間性か。まずはここからなのかなあ・・。明日清野さんが登校してきたら相談してみようかな。
翌日、死んだように眠った気になって(死んでるけど)時間を過ごしていたらクラスメートたちが教室に入ってきた。当たり前だけど、もう皆僕の事なんか忘れたような顔で周りの友人たちと楽しそうに喋っている。それでいいしそうなって当然だと思ってるから悲しくも何ともない。彼らにとっては僕が死んだことなんて卒業してから5年か10年したくらいに酒の席でそういえば山田って居たよね、ああいたいた事故で死んだ奴だろみたいな感じで話す程度のことでしかないだろう。そんなことを考えてたら清野さんが登校してきた、誰とも話さず自分の席に着く。すぐに鞄の中から一時間目の授業で使うノートと教科書を出して待機している、と思ったけどノートに何か書きだした。ちょっと申し訳なさを抱きつつ上から見てみたら『おはよう山田君、今日もここにいるのかしら?』と書かれていたので、びっくりさせないように一番席から遠い廊下側の列の近くで下りて歩いて・・るのかな?とりあえず足を動かして窓側の清野さんの席まで移動してみた。
「おはよう清野さん。僕は今日もここにいるよ」
そう声をかけてみたらいつもと変わらない表情で周りに分からない程度に会釈してもらえた。このやり取り、生きてる時にしたかったなあ・・。まあもう死んでしまったものはどうしようもないんだけど。
特に僕から話かけるようなことはないから、いきなり本題に入ってしまったほうがいいのかな?
「昨日話してた友達作りの方法なんだけどさ、いくつか考えてみたんだ。けど、授業の邪魔はやっぱりしたくないし今日は昼休みがあるからその時間に話すのでもいいかな?」
そう聞くと軽く首を上下させてくれたので、僕はその場でふわっと浮いて時間を潰すことにしよう。僕の席は教卓の真ん前だったから周りの人たちが何をしていたか全然わからない。あまりわかりたくもないけれど。こうして教室を上から見下ろすというのは不思議な気分だ・・。何というか神様にでもなれた気分。場所の問題は勿論あるけど、どちらかというと度胸がなくて授業中に寝たり誰かと話したりってことはできなかった。こうして観ると意外とみんな誰かと喋ったり寝てたりスマホいじったりしてる(ばれたら即没収)
そんな中で清野さんは背筋を伸ばして黒板に書かれたことをノートに写していくし教師の話の中でテストに出そうな匂わせをしたら赤ペンでその単語を書いたり既にシャーペンで書いた単語に線を引いていたりする。清野さんの周りだけ世界が違う感じがする。高校生にしては真面目過ぎるというか、たぶん世間一般での高校生のイメージって後ろにいる連中が想像されると思う。何でだろう、清野さんの方が正常なのに彼女の周りだけが異質な空気になってる気がする。
そんなことを気にしてたら午前中の授業が終わった。いつも一緒に食べてるグループを皆形成してお弁当を広げてゆく。生前見てたままに清野さんは一人でお弁当を食べようとしている。そして今日は、僕と会話をしてくれるためだろうノートも一緒に広げてくれている。
「気を使ってくれるのはありがたいんだけど・・清野さんが変わり者扱いされないかな?昼休みにノート広げてると」
「大丈夫よ、私に興味を持つ人がいないから」
いや、興味がないんじゃなくて声をかけづらいだけだと思うんだけどな・・・。なにせ清野さんは完璧超人だから。
「それで、友達になる方法なんだけどね」
早速本題に入ってみた。生きていようと死んでいようと時間は有限じゃないから。ただ、思いついてるのが今の清野さんをスケールダウンさせる物になってしまうけどいいかな?とりあえず言ってみるかな・・。
「テストで100点取るの止めてみない?」
そう問いかけると左手でおにぎり食べながら右手でノートに文字を書きだした、器用だなあ。僕は一度に二つのことが同時進行できない典型的なタイプだからこういうこと出来る人が心の底から羨ましい。
「100点以外を取ったことがないから取り方が分からないわ」
・・・・
????
!!!!
100点以外取ったことがない!?僕、常に赤点ギリギリでテストを乗り越えてきてたんだけど・・・。住む世界が違う人だなあ・・。てか、学校のテストで100点取る人なんて都市伝説だと思ってた。凄い人はどこまでも凄いから凄い人なんだなあ、我ながら酷い語彙力だ。
「100点じゃないと両親に怒られるから」
厳しい!そんな家に僕が生まれてたら勘当されてたんじゃないだろうか?
「そうなんだね、じゃあ100点以外を取るのは辞めておいたほうがいいね。じゃあ、授業で差されたときに間違えてみるとか」
そう聞くとちょっと不思議そうな顔をしたような気がしたけどすぐにノートに返事が返ってきた
「それなら問題ないと思うけど、何故私は貶められようとしているのかしら?」
ああ、なるほど。さっき不思議な顔をしたように見えたのはこれか。確かに100点以外取れとかわざと間違えろとか言われたら、貶めようとしてると思われても仕方ないよね。
「貶めようとしてるわけではないんだ。ただ、清野さんは学校生活が余りにも完璧すぎて付け入る隙がないというか近寄りがたくなってしまってる気がするんだ。清野さんはアイドルとか好き?」
「テレビでよく見るわ。格好いいし可愛いなとも思うけど何故ここでアイドルが出てくるのかしら?」
「日本人がアイドルを好きになるときって、まだ未完成な子達の成長を見守りたいとか、この子を人気アイドルにするために俺が出来ることはなんだ!?みたいに不完全な物を愛する気持ちから発生するらしくて、だから清野さんも隙をつくれば他の人が話しかけやすくなるんじゃないかなと思ったんだけど」
「そうなのね、だから私に応援したい部分があればそれをきっかけに話してくれるんじゃないかということね」
「そうそう!だから、勉学は仕方ないにしても・・・運動も凄く出来るけど・・・文章や絵画でも何回・・も・・・・」
「?どうしたの急に黙って」
「ごめん、僕は役立たずだ」
「急にどうしたの?」
そう、清野さんは完璧な女性なのだ。ナマケモノ以下の存在である僕がこうして会話しているのが奇跡のような存在。それが清野愛というクラスメート。そんな僕から見た彼女は計り知れない存在で、そもそも苦手なものを見つけるというのが砂漠で砂金を探すようなもので、そんなところに気が向けられない僕は本当にどうしようもない。
「全然役立たずなんかじゃないわ」
「・・・え?」
「山田君は私の為に悩んでくれたわ、私が思いつかなかったようなことも思いついてくれた。それを役立たずなんて思わないで」
「・・・ありがとう、そんな風に言ってくれて」
「・・・・・・」
どうしたんだろう?急に黙り込んじゃったんだけど・・またなんか変なこと言っちゃったかな僕
「あの、ね、山田君」
「うん、何?」
「私と友達になってくれないかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ワタシトトモダチニナッテクレナイカシラ?今、そう言われた?
「やっぱり嫌?」
「嫌なわけない!!」
しまった、思わず大きい声が出てしまった。慌てて口を押えたけど、そもそも僕の声は清野さんにしか聞こえてないから心配する必要なかった・・テンパってるなあ。
「でも、僕なんかでいいの?」
「ええ、一番話した相手だし」
なるほど、確かに僕以上に清野さんと話した人はいないだろうけど・・人?まあ、幽霊も人か。友達作りの一人目としては最適なのかもしれない。
「わかった、じゃあ僕らは今から友達だね!」
「・・・・・・・・」
「あれ、どうしたの?」
「友達出来たの初めてだから、なんて言っていいかわからなくて」
そういえばそうだった。それに、友達だねって言われても返事に困るのは僕もそうだったと思うから配慮が足りなかったな・・。
「山田君?」
悩んでたのが顔に出てしまったかな?失敗した気分を吹き飛ばす為に精いっぱいの笑顔で声を出した
「これからよろしく!清野さん!」
「・・。ええ、こちらこそよろしく」
話してるうちに昼休みも午後の授業も終わっていたので、この一言を最後に清野さんは帰り支度を始める。僕はここから出られないから、それをぼんやりと眺めるしかできないけど・・。支度を終えた彼女は一度背を向けたけど、教室内をキョロキョロと見渡して鞄の中にしまったノートをまた取り出して何かを書いて僕に見せる
「また明日ね、山田君」
僕が血の通った人間だったら、今の僕の顔は耳まで真っ赤になっているだろう。嬉しい気持ちを必死に押し殺してニヤケないようにして挨拶を返す
「うん、また明日」
後ろ姿に手を振りながら清野さんが教室を出て行くのを見送った。友達作りに協力するつもりでいたから、まさか自分が友達になるとは思わなかったなあ・・。まあでも、大事なのは最初の一歩だと思うから、
これからどんどん友達が増えて行けばいいよね。その為にはどうすればいいかまた考えなきゃな。他にやることのない死んだ人間の僕には悩む時間はたっぷりあるし、また一日かけて考えて明日相談できるようにしておこう。
僕が清野さんと友達になって約1か月、順調に友達を増やしていってクラスメートともすっかり打ち解けて授業の合間の時間には誰かしらと笑い合う光景が・・・・・・全く観られない!僕が想像していた以上に清野さんは口下手コミュ障だった。話を聞くと、どうやら幼稚園に通ってた頃から車で送り迎えされてたし、家庭教師に勉学を教わる毎日だったらしい
「それなんていうギャルゲーキャラ?」
僕が思わず呟いてしまったツッコミだったが、これにも
「ギャルゲーって何かしら?」と返ってきた(まあ、これは予想してた返事だけど)
ただ、意外な事にギャルゲーの解説をしていたらとても興味深そうに聞いてくれた
「学校生活の中で意中の相手に相応しい自分になる為に自分磨きをするのね」
「デートで手作りお弁当・・憧れだわ」
「告白がそんなロマンチックな場所だなんて・・幸せだろうなあ女の子」
等々、こちらがビックリするくらい食いつきが良くて、女の子なのに珍しいなあと思っていたら更に予想の斜め上の発言が聞こえてきた。
「ねえ、山田君。私にお勧めのギャルゲーを教えてくれないかしら?」
「・・・へ?」
「自分の学校生活を改善するためのいい教材になる気がするの」
「うん・・いや、え~・・・」
「何か変な事言ったかしら私?」
「あ~・・、僕がやってるのって、ゲーム内の男の子を自分の分身として操って成長させて意中の女の子と彼氏彼女の関係になるって物なんだけど?」
「それは理解したわ」
「因みになんだけど、乙女ゲームって知ってる?」
「乙女ゲーム?」
まあ、これを知らないのも予想どおりなので説明を開始するけど上手く説明できてる気がしない。乙女ゲームというのは単純にギャルゲーの男女を入れ替えたものと言えばいいだろうか?プレイヤーは女の子を操って男の子を彼氏にするために頑張る、みたいなゲームでいいと思うんだけど・・。一応、自分の中にある知識は絞り出したうえで
「僕自身はプレイしたことがないから、ちょっとお薦めできるゲームはないけれど・・タイトルはいくつか知ってるよ」
そう、偏見かもしれないけど僕は男性だから、男のキャラを堕とすために頑張るように作られたゲームに関心を抱けない。なので、それを正直に伝えてみたら
「やっぱり、ギャルゲーがやってみたいわ」
と返ってきた。自分が好きな物をお勧めできる嬉しさがある反面、乙女ゲーの魅力を伝えられなかった申し訳なさもある。読心術の使える清野さんにどこまで隠せるかわからないけど、申し訳ない気持ちを全力で押し殺して何度もプレイするほど嵌ったタイトルをいくつか教える。3年間かけて自分磨きをして女子から告白されるくらいのいい男になるゲーム、急に転校が決まりそれまでの一ヶ月間を大事に過ごすゲーム、幼少期から転校を繰り返し、仲良くなった女の子が日本全国に12人いる主人公の元に『あなたに会いたい』とだけ書かれた差出人も宛先も不明な手紙が届いた事で久しぶりに会いに行くゲーム等・・。
「どれも面白そうね。プレイする時に気を付けることってあるかしら?」
「数回失敗するまでは攻略サイトを観ないこと!」
「珍しく断言したけれど・・?」
「恋愛シミュレーションゲームはゲームじゃない!」
「ゲームって入ってるけど・・」
「違う!!ゲームの中で貴方が動かしてるキャラは貴方のifの人生だ!最初から攻略法を読んでしまったら感情移入が出来るわけないだろ!それでギャルゲーを楽しんでいると言えるか!否!何度もプレイして、失敗して、挫けそうになった時に初めて救いの手を伸ばす権利が与えられるのだ。そして、苦労したからこそ得られる感動があることを教えられるのだ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・!!!!!、ごめん!僕滅茶苦茶熱く語って鬱陶しいオタクになってたね、気持ち悪かったでしょ、ごめんなさい」
「大丈夫よ。ちょっと驚いたけど鬱陶しいなんて思ってないわ。それに、オタクじゃない人っているのかしら?」
「?」
「オタク、という言葉は何か夢中になれるものを持ってる人が言われる言葉だと思ってるのだけど、それを持っていない人なんているのかしら?アイドルが好きなのもオタクだしバンドが好きなのもオタクだし、何かが好きならイコールでそれに対してのオタクなんじゃないかしら?ただ、世間体の良い物を好きになっているか、周りに理解されにくい物が好きかの違いだけじゃないかしら?」
「皆何かのオタクだってこと?」
「そういうこと。私だって、これがきっかけでギャルゲーが大好きになったら立派なギャルゲーオタクよ」
「清野さんがギャルゲーオタク・・。想像つかないな」
「あら?自信がないかしら?」
「自分に自信はないかな・・。でも僕は、僕が好きな物を信じてるよ」
「なるほど、じゃあ手に入れてやってみたら報告するわね」
「うん、楽しみにしてるよ」
どうせ嵌ったりしないだろうけど・・
そんな会話をしてから2週間ほど経ち、立派なギャルゲーオタク美少女が誕生しました・・どうしてこうなった?急に転校することが決まりそれまでの31日を今までとは違う過ごし方をするゲームをやったらしい。数日あればクリアできるし好感度上げも難しい物ではないから初心者の為のギャルゲーとしてお勧めしたら、シナリオと声優さんのお芝居の素晴らしさに号泣したらしい。数年前の自分を見ているようだ。
「そんなに気に入ってくれたんだ」
「ええ、学園のアイドル的存在って言われてる子は春夏秋冬全てクリアしたわ」
「いいよね、ちゃんと制服違うし周りの背景違うし」
「冬で吐く息が白くなってるのとコート着てるCGがあるのは感動したわ」
「細かいとこ見てるね!」
その後、それぞれの季節限定キャラをクリアしてから最も有名なギャルゲーに手を出したらしい。出てくるキャラが多くてどの女の子と仲良くなるか決められなくて困ってると聞いた時は思わず「男子中学生か」と突っ込んでしまったけど、こんな楽しそうにしてる清野さんを見るのは初めてだから嬉しい。
「でも、やっぱり意外だな」
「何がかしら?」
「女の子がギャルゲーに嵌ることが」
「女子って意外と可愛い女の子スキよ?」
「女子の友達はいなかったんだ、大抵の女子はオタクってわかるとキモい認定して遠ざけるから」
「だからギャルゲーを好きになったの?」
「ん~、ちょっと違うかな・・。最初から僕は同世代の女子には気持ち悪がられていたと思う。で、そんな時期にたまたまやりだしたゲームが恋愛シミュレーションゲームだったんだ。あの子たちは無視をしないから。話しかければ話してくれるし、僕がただ歩いてるだけで進行方向にいる女子がGでも見るような目をして逃げたりしない」
「凄い学校生活を送ってたのね」
「まあ、中学まではね。高校に入ってからは楽しんでたよ」
「でも、根っから楽しんでたわけじゃないでしょ?」
「・・・え?」
「私も似たようなことをしていた時期があったからわかるのよ、自然すぎる笑顔は」
「優秀な美人も苦労してるんだね」
そう、僕は高校に入ってから一度も楽しくて笑ったことがない。じぶんの好きな物が他人に受け入れられないことを学習してから、如何にしてそれを隠すかの術を考えるようになってた。アニメや漫画が好きなことを隠す為にバラエティを観た話で笑い合い、人気の女優が出てるドラマの考察で盛り上がりながら楽しんでいる自分を演出していた。
「でも、今はとても楽しそうよ」
「そりゃあ、まあ。好きなことを話しているからね」
高校に入ってから自分の趣味を語るだけでも想像できなかったのに、まさかその相手が清野さんになるとはお釈迦様でも閻魔様でも観ることのできない未来だっただろう。
「ところで、あのゲームのお薦め女の子ってどの子かしら?」
「うーん・・やっぱ幼馴染じゃない?学園のアイドルって共通点あるし」
「もう一声」
「え~・・じゃあ、自分の美貌に自信があってちょっと高飛車な子」
「あら?ちょっと意外なチョイスね」
「ああいう女の子がいざ自分に好意を向けてくるようになると凄いキュンと来るんだよ。僕はあのゲームのせいでツンデレ好きになったからね」
「そうなの?じゃあ、ちょっと狙ってみようかしら」
「ぜひぜひ」
あれから一週間ほど経って、清野さんが自分の席に着いたと同時にノートを開いて何か書き始めたので観に行ってみた。そこに書かれていたのは
「攻略サイトを見させてください」という文字。彼女から自分が見えてるのはわかっていたけど我慢できずに吹き出してしまった。
「笑い事じゃないわ」
「ごめんごめん。やっぱり幼馴染の女の子は攻略できなかった?」
「何回やっても、EDで違う女の子が木の下に立っているのよ・・」
あ~・・懐かしい悩みだ。なんせ、あのゲームが出て以降何本の恋愛シミュレーションゲームが出たか知らないけど、ラスボスなんて表現されるヒロインは唯一無二だと思うなあ・・。
「多分、観たら絶望するよ(*^^*)」
「満面の笑みで言わないでくれるかしら」
「経験者は語るんだよ」
「私は諦めない!」
こんな会話をしていたら、あっという間に時間は経ってしまいHRのチャイムが鳴りクラス担任が教室に入ってくる。ここからは僕は必要なくなるからいつもの様にふわふわと教室内を漂って時間を過ごす。しばらく清野さんと会話する生活を続けていたけど、相変わらず僕以外のクラスメート(僕は元だけど)が話しかけてくることがない。友達作りに協力する筈だったのに、これじゃあ、ただクラスメートにギャルゲーを薦めて自分の趣味を共有してるだけじゃないか。この状況はよろしくないぞ・・・、昼休みになったら今日はその辺のことを話しあわなければ!
けれど、この決意は無駄に終わってしまった。清野さんは昼休みが始まって15分ほどしたら他のクラスの男子に呼び出されて行ってしまったのだ。僕が生きてる頃にもよくあったことで、ルックスが飛びぬけていいので校舎裏とかの人があまり来ないとこに呼び出されて告白されているらしい。まあ、清野さんが誰かとそういう話をすることはないので、振られた男子の噂が聞こえてくるだけなんだけど。噂になったメンツを思い出して学年トップクラスのイケメンや運動部のエースとかも振られてたなあ等と考えていたら清野さんが帰ってきた。・・・・?何か怒ってる気がするんだけどと思っていたら早速ノートを広げて何か書き始めた。
「山田君の辛さが理解できたわ」
「辛さ?え・・?告白されてきたんじゃないの?」
「ええ、されてきたわ」
「じゃあ、その・・なんでちょっと怒ってるの?」
「上手く隠してたつもりなんだけど、顔に出てたかしら?」
「あ~・・、これだけ至近距離で何度も話させてくれてればね、ちょっとくらいは表情読めるようにはなるよ」
「ちょっと恥ずかしいわね」
「まあ、他の人には気づかれてないんじゃないかな?それで、何に怒ってたのかって聞いてもいい?」
「そうね、間接的には山田君にも関係ある気がするし・・。告白してきた人に私の何を見て好きになったの?って聞いてみたの」
「ふんふん」
「休み時間に本を読んだり予習復習してる姿を見ていいなって思ったそうなのよ」
「わかるなあ、それ」
「だから、私が家で恋愛シミュレーションゲームをやってると言っても好きでいられるのかしら?って聞いてみたの」
「言っちゃうんだ、それ」
「今の私はそれで出来てると思ったから。けど、私の発言を聞いた男子は一瞬キョトンとした後に大笑いし始めたの」
「よくある光景だね」
「その後、『あんなの気持ち悪いオタクがやるものじゃん、清野さんがやるものじゃないでしょ?』って言われたわ」
「で、なんて返したの?」
「貴方は私を自分の観たいようにしか観ていないわ、そんな人はお断りよって言ってさっさと帰って来たわ」
なるほど・・。まあ、清野さんが恋愛シミュレーションゲームやってるなんて誰も想像しないよなあ。告白してきた男子の気持ちも分からなくはないけど。
「笑った人の気持ちもわかるって考えてる?」
「・・あ~、ほんとに隠し事できないなあ。そりゃ思うよ、この手のゲームをやる人間は不細工で異性にモテるスキルを一切持っていない社会不適合者だっていうのが世の中の考え方だしなあ」
「自分の好きな物を馬鹿にされて悔しくないの?」
「え?」
「私は私の好きな物を馬鹿にされたらすごく悔しいし腹が立つわ。だから、恋愛シミュレーションゲームを馬鹿にするような人と仲良くなることはあり得ない」
真っすぐに僕を見ながらそんな格好いい言葉を言ってくれた直後にチャイムが鳴って教科担当の教師が入ってきたので、僕はまた教室の天井で漂う時間を過ごす。僕自身、自分が馬鹿にされるのは当たり前だと思ってたから清野さんの言ったことは凄く驚いた。けど、きっとこれから先は今まで経験したことない学校生活を送ることになるんだろうなあ・・。
清野さんが告白を断ってから数日経って、清野さんを取り巻く空気が変わったのを感じている。振られた相手が恋愛シミュレーションゲームに嵌っているということを言いふらして回ったんだろう。清野さんレベルの完璧美少女ならオタクな趣味がバレても、もしかしたら好意的に見られるかと思ったんだけど甘い幻想だった。前までなら清野さんが教室に入れば羨望のまなざしで皆が見ていたんだけど、今は差別的な目を向けられて周りが遠ざけているのがよくわかる。上から見てるし何より自分が通ってきた道だ。
「おはよう、山田君」
「おはよう、清野さん」
「どうかした?」
「あ~・・。教室がなんか変な空気になっちゃったなって」
「そうね。私が恋愛シミュレーションゲームやるのってそんなに変だったかしら?」
「変だと思うよ、薦めた張本人が言うのもなんだけど」
「私は凄く楽しんでやっているのだけど」
「清野さんは皆の憧れだったからね、そんな人が気持ち悪いオタクがやるようなゲームをやってることがわかって見る目が180度変わってしまった感じかなあ」
「私自身は何も変わってないのにね」
そう、清野さんは何も変わっていない。キモオタがやるようなゲームをやったからって容姿が劇的に変わったりしないし、成績が落ちたりすることもなく、学園のアイドル的存在で学年トップの成績を取ってた頃と何も変わってない筈なのに、周りは見方を変えてしまった。
「気にすることないわ」
「え?」
「自分が薦めたものの所為で、とか思ってるんでしょう」
「・・・。本当に隠し事ができない」
「私自身は、こういうゲームをやってる人に嫌悪感も差別的な感情も持っていないのだけど、そういう感情を向けられるのってこんなに怖いことなのね。みんな魂が入れ替わってしまったんじゃないかって思えるほど悪意に満ちた視線を感じるの」
「清野さんならバレても嫌悪感とか抱かれないかなと思ってたんだけど」
「仕方ないわね、好きな物を好きと言って嫌われるならそれは世界の方が間違っているのだから」
「・・・清野さん恰好いい」
「私は、私が好きな物を好きと言ってくれる人と一緒にいられればそれでいいの」
元々、誰かと親しく会話してる子ではなかったけど、これで完全に孤立してしまったかもしれない、しかも今の孤立は悪い意味で。こうなってしまったら、もう周りの見方が何かをきっかけに変わっていくのを願うしかない。それまで僕にできることは彼女の趣味が合う友人でい続けることなんだろうけど、他人から悪意や害意を向けられてる中で平常心でいるのは簡単な事じゃない。教室で普通に座って授業を受けてるだけでも『アイツキモチワルイ』『キモオタガ』などとクラス全員が心の中で思ってるような錯覚に陥ってしまうんだ。僕は生来の適当精神で何とか1ヵ月くらいの登校拒否で立ち直ったけど、清野さんはどうなってしまうだろうか・・。
清野さんは変わらず学校に通い続けている。あと少しで卒業だし我慢していれば勝手に終わってくれるだろうけど、それは何があってもXデーまでは続くということでもあるのかもしれない。取り巻く空気も何も変わっていないから。元々近寄りがたい存在だったことが功を奏して、ノートや教科書を破られたり机に落書きされるような嫌がらせはない、ただただ汚物を見るような目を向けられるだけだ。かなりしんどい学校生活になってるはずなのに休むことなく登校し続けてるのは尊敬するしかない。今まで羨望の眼差しや憧れの気持ちを抱かれながら生きてきたであろう清野さんにはこの空気感はかなりキツイと思うんだけど。
「おはよう、山田君」
「おはよう清野さん・・?なんか嬉しそうだけど、いいことあった?」
「遂に攻略したわ」
「お!?ラスボスから告白してもらえた?」
「やっとね・・、長かったわ。初めてゲームで泣いたわ」
「わかる!わかるよ!!苦労が報われたのがわかったあの瞬間が最高なんだよね」
「ローアングルから上がって行って、髪の毛の色が確認できた瞬間にうれし涙がポロポロと」
「そっか、おめでとう」
「ありがとう。目標は達成したし、次のゲームに取り掛かろうかしら」
「もう決めてるの?」
「ええ、王道ばかりやってきたからちょっと切ないシナリオって言ってたやつをやろうかなって」
「・・あれか!また進捗情報聞かせてね」
「勿論。」
いつも通りの会話をしてHRが始まる。こんな会話ができるのも後少しなのかなと少し寂しく感じてしまう。ここにいる僕以外のクラスメートは進学や就職やをしたり、自分の夢を叶えるための準備を始めるような人もいるだろう。そうなったら、僕はどうなるんだろう?今更な悩みだけれど、来年には今の2年生の中からこの教室を使う子達が選別されてくるわけで、そうなると僕は誰も知り合いがいなくなってしまうし、そもそも僕はいつまでここにいるんだろう。もう死んじゃってるからか、退屈みたいな時間の流れの悩み事が全くない。意識して何時までボーっとしてようと思って気づいたらその時間になっていたなんてことが毎日できるのはいいんだけど。
放課後になって、気になったことを聞いてみた。
「あの、さ」
「何かしら?」
「僕って清野さん達が卒業したらどうなるんだろう?」
「わからないわ」
「(´・ω・`)・・・・・・・・」
「冷たい言い方になってたらごめんなさい。けど、この状況も説明できないし」
「まあ、そりゃそうだよね」
言われてみれば、この状況の謎が未だに解けていない。何か心残りがあるんじゃないかと言って貰えて、それだ!とは思ったけれど、僕がまだここにいるってことは心残りが未だに残ってるんだろうか?わからない・・。まあ、このまま地縛霊としてずっとい続けるかもしれないし、そしたら学園7不思議的な扱いしてもらえるようになるかも!?
「そう、か。卒業したらまた私は一人になるのね」
「え?」
「進学先でギャルゲーやってる人が見つかるとは限らないし」
「確かにそうだけど」
「山田君が私に憑いた幽霊だったら卒業しても話せたかもしれないのに」
「え~と・・・・。幽霊が付きまとうことに嫌悪感とか恐怖感とかはないの?」
「え?だって山田君だし何も出来なさそうよ?」
「否定しづらいけど、さ」
実際、僕自身がこのクラスの誰かを恨んでるとか、増してや清野さんに恨み言があるとかそういうのが全くないからとり憑いたとしてもやることなくて困ってただろうなあとは思う。
「でも、卒業しても清野さんは一人にはならないよ」
「何故」
「だって、ギャルゲーやるたびに僕の事思い出してくれそうだし」
「・・それは、そうかもしれない。このゲームのどこがいいとこか教えてくれそうだな、とか」
「その時、僕はいるんだよ」
「あ・・」
「もう、僕は清野さんと繫がってるんだよ。まあ、会話は出来なくなるけどね」
「クサい台詞ね」
「ギャルゲーに育てられてるからね」
「ありがとう。ちょっとだけ卒業後の自分が笑顔になってる未来が見えたわ」
「それは良かった、ずっと笑顔でいられることを願っているよ」
「そろそろ私は帰るわ、また明日ね」
「うん。また明日」
憧れてた女の子とこうして話せる期間はあと数日しかない。最後に話すことになるゲームがあれになるのか・・運命のいたずらというかなんというか・・。明日、話聞けるかな?楽しみだなあ・・。
翌日、教室で漂っているといつもの時間に清野さんが登校してきて席に座ったけど、今日はノートを直ぐに取り出すような雰囲気ではないので、放課後まで待つことにしようかな。
「山田君、いる?」
「いるよ、どうだった?」
「普通にクリアできたわよ?確かにいいシナリオだったとは思うけど泣けるほどではなかったような気がするのだけど」
「普通にクリアすると普通にいいゲームなんだ」
「どういうこと?」
「あのゲーム、オプションで選択肢の正解・不正解が確認できるようになるから最後を間違えてみて」
「それって、ただバッドエンドになるだけじゃないのかしら?確か、選択肢1つ間違えるだけで友情エンドになるゲームとかあったわよ」
「まあ、ある意味ではバッドエンドかもしれないけど、僕の知識の中では恋愛シミュレーションゲーム史上ベスト3に入ってる神エンドだよ」
「・・わかった、やってみるわ」
「いいの?明日卒業式だよね。しかも答辞読むんじゃなかったっけ」
「そっちは今更バタバタしてもどうにもならないわ。原稿は完成してるし噛まないように読めばいいだけよ」
「それが一番緊張するとこだと思うけどね・・、僕は卒業式には参加できないからここから応援してるよ」
「最善を尽くすわ」
それで、僕と清野さんの最後の会話が終わった。時計を見て、「そろそろ帰らないと」と言って教室を出ていく彼女の背中を見送る。僕が今後どうなるかは相変わらず分からないままだけど、未だに教室の外に出られないのだから明日の卒業式には出られないことは決定事項だろう。色々思うことはあるけど、自分の学校生活に思いを馳せるのは明日にしようかな・・一応僕にとっても卒業の日だし。
いつもの様に寝た気になって長時間を過ごし、気が付いたら卒業式が始まる時間になっていた。まあ、ここでやらない以上は僕は参加できないし更に無為な時を過ごすしかないだろうけど。
それにしても、死んでからの数か月は随分と濃い時間だったなあ・・。自分のような底辺オタクがまさか学校一の美女と親しく会話するようになるとは思わなかった、しかも何故かギャルゲーの話で。清野さんが幽霊見えるタイプの人で良かったよ。そうじゃなきゃ教室の天井辺りをふよふよと漂ってるしかやることなかっただろうし。
そういえば、清野さんは今頃答辞を読んでるんだろうか?見たかったし聞きたかったなあ。そんなことを考えていたらいきなり教室のドアが大きな音を立てて開き、息を切らしている清野さんが現れた。・・これ夢?僕以外のクラスメートは昨日で高校生活の全課程を修了して、ここに来ることはもうないはずなのに。頬っぺたをつねってみても残念ながら痛くない、やっぱり夢かと思ったけど
「夢じゃないわよ、山田君」
「清野さん・・・何でここに?卒業式は?」
「もう終わったわ、だから私がここにいるの」
「それはそうだろうけど・・、卒業式が終わったら、3年間を過ごした仲間たちと思い出話とか最後にみんなで集まってワイワイみたいなのあるんじゃないの?」
「それをしに来たの」
「え?」
「私にあのゲームの感想を伝えさせずに卒業させるつもり?」
「…プッ(^^♪」
「笑うとこじゃないわ、短い期間だったけど私の人生観を変える出会いをさせてくれた相手と卒業後の語らいをせずに誰としろというのかしら?」
「そっか・・。じゃあ早速話そうか」
「泣いたわ!」
「ですよね!」
「まさかあそこで回想シーンでしか出てこなかった幼馴染が出てくるなんて思わなかったわ」
「最後の選択肢を間違えないと出てこないんだよ」
「主人公、絶対まだ亡くなった女の子の事好きよね」
「そうじゃなきゃもう一人の幼馴染と付き合ってる!」
「三角関係をああいう風に描く発想が凄い」
「亡くなったヒロイン最強説」
などなど一頻り感想を言い合った後で
「あのゲームが山田君と話す最後のゲームになるかもしれないのは偶然だったのかしら?」
「それは・・偶然だよ、男女入れ替わってるし」
「そう・・よね」
あのゲーム、最後の選択肢を間違えると交通事故で亡くなった幼馴染が出てきて幼少期によく遊んでた公園で話して、仲良くなった女の子との関係は終わってしまうけど恋に対して前向きになって終わるっていう、本当はバッドエンドなんだろうけど凄く好みのタイプのキャラだったので正直僕にはハッピーエンドだった。
「あのエンディングを見た時に、凄くこの状況に似てると思ったの。それで・・なんの根拠もないんだけどここにきて山田君とこのゲームの感想をどうしても話さないといけないような気がして」
「それでここまできてくれたんだ」
「高校生活が終わったからって私に話しかけてくる人もいないでしょうし」
「いや、たぶん告白とかしようとしてた男子が大勢いたと思うけど」
「いたとしても全部断ったわ」
「そうなの!?」
「驚くところかしら?」
「いや、確かに今まで聞いた噂では全部断ってきてたけども」
「実際断ってたわ」
「学校一のイケメンも野球部のエースも?」
「学校一のイケメンも野球部のエースも」
「女子は皆付き合いたいって言ってたけど・・」
「でも、私は付き合いたいと思わなかったわ。」
「そうなの?」
「全然話したこともないのに好きとか付き合ってとか言われても嬉しいとか思えないわ、寧ろ怖い」
「相手の人となりが分からないのに付き合えないってこと?」
「そう。けれど、誰も私に話しかけてこないから学校中探しても私に理解できる人はいなかったわ」
「断ってるって噂聞いてた時は信じられないって思ってたけど、理由聞くと納得だなあ」
「だから、貴方が現れた時は衝撃だったわ」
「見つかるとは思ってなかったんだよ」
「私も、まさかクラスメートの幽霊を見るとは思わなかったわ」
「でも、見えてても無視すればよかったんじゃない?」
「カンが働いたのよね」
「カン?」
「面白い学校生活が送れるかもって」
「そりゃ、幽霊と会話しながら学校生活を過ごした経験がある人は清野さんくらいだろうねえ」
「まさか、ギャルゲーを教わるとは思わなかったけど」
「後悔してる?」
「いいえ、とても楽しかったわ。それに・・」
「それに?」
「気になる人が興味を持ってるゲームならぜひやってみたいって思ったの」
「気に・・!?ああ、まあ、僕は変わり者だからねえ」
「そうじゃないわ!私は貴方に好意を寄せているの」
「いや・・あの・・ええ!?」
「迷惑・・だったかしら?」
「そんな!とんでもないよ、そうじゃなくて・・」
「そうじゃなくて?」
「寧ろ、僕が清野さんを好き・・だったです」
「過去形じゃなくていいんじゃないかしら?」
「死んじゃったからね」
「何か関係あるかしら?」
「清野さんに僕の姿が見えてるってわかった時ビックリしたけど凄い嬉しかったし、好きな女の子と会話が出来るってワクワクしたんだ。けど、どんなに仲良くなっても一緒にゲームの話をしながら帰ったりお薦めのお店に案内したりとか、そういうことは出来ないんだなって絶望も同時にした。死んじゃったから」
「そう・・ね。普通の高校生がやるようなことは一つもできないわ」
「生きてる女の子と幽霊だからね」
「でも、繋がってるんでしょ!?」
「え?」
「私たちは繋がってるんでしょ!ギャルゲーで!私がギャルゲーをやる時、貴方が私の心にいるんでしょ!?」
「清野さん・・?どうしたの?」
「貴方がそう言ってくれたのよ、僕たちは繫がっているんだって。人と人との繋がりに生きてるか死んでるかなんて関係ないわ、その人と繫がっていたいかどうかよ!そうじゃない?」
「・・・・ありがとう。最後にそんな言葉が聞けてとても嬉しい。」
「最後・・?」
「うん、ようやくわかった。僕のやらなきゃいけないことと、僕のやりたいこと。誰かに愛されたかった、誰かに必要とされたかった」
「何を言ってるの・・?だって山田君は皆とあんなに仲良さそうにしてたじゃない」
「からかいの対象として、だよ。そして僕はその現実を受け入れて皆が望む自分を演じてただけなんだ・・。僕は、誰かと話してる時に楽しかったことは一度もなかったんだ」
「山田君は家族に愛されてなかったの」
「僕以外が優秀な家だからね、例え仲がよかったとしても自分自身が異物感を感じてしまったらどうしようもないでしょ?」
「そっか、なんで山田君に惹かれるのかやっとわかった。私は無表情で孤独を見せないようにしてたけど、貴方は笑顔で孤独を隠していたのね。」
「似たもの同士だったのか・・。お互いこんなに違うのに」
「だから二人ともギャルゲーオタクになったのよ」
「なるほど、なるべくしてなったわけだ」
「そうね、18年生きてきて初めて自分の本当の姿になれた気がするわ」
「そこまで言う?」
「ええ、私は成るべくしてオタクになったと思う、だから・・そうさせてくれた山田君と別れたくないわ」
「僕も好きだよ。だけど、たぶん・・恐らく・・、僕が清野さんをオタクにすることが幽霊になってやらなきゃいけないことだったんだ。だから・・僕と君は結ばれない」
「私たち、随分悲惨な運命を持っていたのね。じゃあ、私が道を間違えたら叱りにきて、あのゲームの幼馴染の女の子みたいに」
「わかった、約束するよ。でも、二度と会わないことを祈ってるよ・・・。じゃあね」
そう言って、僕は彼女の前から消えていった。楽しかったけど、死んでからの方が生きてた頃より楽しかったというのは、中々に悲しい人生だったんだなあ。全てにおいて平均以下に創造された僕という人間にくれた贈り物だったんだろう。お陰で僕は何も思い残すことなく成仏できる。と、言いたいとこなんだけど流石に平均以下のスペックを抱えて18年生きてきたことへの贈り物が死んでからの幾何日かじゃ割に合わないよ神様。
だけど、こんな形でも清野さんと仲良くさせてくれてありがとう。
読んでくださりありがとうございました、作者のそら豆と申します。僕は現在アイドルオタクですがその前に10年くらいギャルゲーオタクをやってた時期がありました。なので、それを絡めた小説が書けたことにとても満足しています。